阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第32号
石井町の鳥類

鳥類班

  増谷正幸・大久保良二・大村龍一・

  笠井好博・北岡祥治・郡和治・

  四宮研太郎・曽良寛武・新居正利・

  西岡桂子・八巻吉子・吉田和人

1.はじめに
 日本野鳥の会・徳島県支部は、鳥類班として総合学術調査に参加し、石井町の野生鳥類(野鳥)の生息状況を解明することを目的として調査を行った。
 一般に野生鳥類は、種類によって生息環境が異なる。いろいろな自然環境に適応して幅広く分布する種類がある反面、特定の自然環境にしか生息出来ない種類もある。生態系の上位に位置する種類も多い。そのため、生息する鳥類の種類・個体数などを調べることによって、その地域の他の生息動物も含めた自然環境全体の現状の概略を知ることが出来る。
 石井町は、北部を四国一の大河吉野川が流れる。平野部の割合が高く、江川・飯尾川・渡内川・宮間天神川などの中小河川が流れている。平野部の大部分は農耕地・住宅地となっていて、近年は県都徳島市の近郊地として宅地の増加が著しい。山地の占める割合は小さく、最高点は327.5mで全域が暖温帯常緑広葉樹林・下部に属する。現存の植生はアカマツが優占するが、谷沿いなどには落葉広葉樹林が優占する傾向が見られる。
 鳥類の生息状況を通して見た、石井町の自然環境の現状はどのようなものであるか、ということにも注意を払いつつ調査を行った。


2.調査地区と調査方法
 石井町は平野部の占める割合が高いため、平野部の調査に重点を置いて、主として次の5つの項目について調査を行った。
1  自然状態の河川とコンクリート護岸された河川における生息状況の比較
2  湿地性の鳥類の繁殖期における分布
3  吉野川流域の調査
4  ライン・センサスによる調査
5  山地の森林の調査
 野生鳥類は、季節によって生息する種類・個体数が大きく変動するので、繁殖期の5〜8月を中心に1985年1月〜1986年1月のほぼ1年間にわたって調査を行った。


3.調査結果と考察
 各項目別に調査結果を概観してみたい。
(1)自然状態の河川とコンクリート
 護岸された河川との比較
 中小河川のうちで、未だ自然状態をほぼとどめているものと、改修工事などによりコンクリート護岸されたものについて、生息鳥類の比較調査を行った。


 調査地は、ほぼ自然状態の河川は江川とし、コンクリート護岸されたものは宮間天神川とした。河川に沿って歩きながら、確認し得た鳥類の種類と個体数をすべて記録した。対象種は、生活(採餌・休息・ねぐら・営巣繁殖など)のほぼすべてを河川内に負っているものとした。6月と8月に調査を行った。
 江川は、関(せき)東橋から西へ鴨鳥町との境界線までを調査した。全長約550m、川幅平均28.9m(岸辺の草地も含む)、面積15,895平方メートル(約1.59ha)であった。宮間天神川は、徳島市国府町との境界線の中央橋から西へ約1,150mの地点の橋までを調査した。このうち西側約600mの間は所々にヨシや水草類が茂るが、東側約550mの間はほぼ何もはえていないため、両者を分けて調査した。前者の川幅平均8.6m、面積5,160平方メートル(約0.52ha)、後者の川幅平均9.5m、面積5,225平方メートル(約0.52ha)であった。以下これらの調査地をそれぞれ1 、2 、3 とする。
 現地調査の結果、1 ではカイツブリ・カルガモ・ヒクイナ・バン・カワセミ・オオヨシキリの6種、2 ではバンのみ1種が確認され、3 では1種も確認されなかった。それらの生息数を1haあたりに換算したものが表1である。ほぼ自然状態の河川1 に比べて、コンクリート護岸された河川2 、3 の生息数は極めて少ない。


 このことから次のことがいえる。ヨシ・ガマなどが茂り湿性草地のある自然状態の流れのゆるやかな河川は、湿地性鳥類の生息・繁殖にとって非常に重要である。しかしコンクリート護岸にされると、それらの鳥類はまったく生息出来なくなる。改修後何年か経過し所々にヨシや水草が茂るようになっても、生息数・種類とも極めて少ないままであり、本来の種類数・生息数には遠く及ばない。
(2)湿地性鳥類の繁殖期における分布
 ほぼ自然状態の流れのゆるやかな河川・湖沼、ヨシ・ガマなどの湿性草地など、いわゆる湿地に生息しかつ繁殖する鳥類を対象にできるだけ多くの地域を5〜8月に調査した。その結果生息が確認されたのは、カイツブリ・カルガモ・ヒクイナ・バン・カワセミ・オオヨシキリの6種類であった。カイツブリ・カルガモ・バンはいずれも流れのゆるやかな水域に生息し、カイツブリがほぼ全面的に水と結びついた生活をするのに対し、カルガモ・バンの生活には陸地も必要である。ヒクイナは浅い水辺・湿性草地・泥陸地を好む。カワセミは小魚を捕食し、土の崖や山中の崖などに穴を掘って営巣する。オオヨシキリの生息には一定面積以上のヨシ原が必要である。
 生息が確認された水系は、河川では吉野川流域の湿地・吉野川河川敷内を流れる江川・江川・飯尾川・飯尾川放水路・宮間天神川・渡内川など。ため池では山路・前山公園・浄土寺奥・童学寺(上・下)であった。各種類別に分布図を作成した(図2a.〜f.参照)。国土地理院2万5千分1地形図を縦横それぞれ10等分して出来る区画(メッシュ)を、さらに縦横それぞれ2等分した区画(サブメッシュ)を単位とし、生息が確認されたサブメッシュは■で示した。また、各水系別の生息種を一覧表にまとめてみた。(表2.参照)


 カイツブリとオオヨシキリの生息サブメッシュが多い。ただし、後者は北部に偏る傾向がある。一定面積以上のまとまったヨシ原が北部を中心に分布しているためであろう。バン・カワセミ・カルガモの生息サブメッシュはやや少ない。河川改修護岸工事などによって、採餌・休息・ねぐら・営巣繁殖に必要な水ぎわの草地・泥陸地や土の岸辺がしだいに少なくなっているためである。特にカルガモは西日本で確実に繁殖する唯一のカモでありながら、生息域はかなり限定されている。ヒクイナはわずか3サブメッシュで生息確認されたのみであった。なお、当然生息すると期待されたヨシゴイ・タマシギは今回は発見できなかった。
 江川と飯尾川放水路は、確認された6種類すべてが生息し非常に重要な生息地である。吉野川流域湿地・吉野川河川敷内の江川・飯尾川も5種が生息するので重要である。


(3)吉野川流域
1  第十のセキ
 第十のセキには、水生昆虫の幼虫・成虫、岩の隙間に潜む小動物や流れをさかのぼる(または下る)魚類を求めて鳥類が集まる。5〜9月の調査で確認された種類は、ササゴイ・ダイサギ・コサギ・アオサギ・シロチドリ・トウネン・ハマシギ・キアシシギ・イソシギ・キセキレイ・セグロセキレイ・ハシボソガラス・ハシブトガラスなどであった。
 サギ類のうち最も多いのはコサギである。イソシギは、他のシギ類同様徳島県下では繁殖しない旅鳥〜冬鳥とされている。しかし7月13日に16羽、7月29日に57羽も確認されたので、付近で繁殖している可能性もある。今後さらに詳しく調査してみる必要がある。
2  第十セキ上流の湿地
 第十セキ上流の入江状になった湿地で5〜9月に確認された湿地・水辺性の鳥類は、繁殖するものがカイツブリ・カルガモ・バン・オオヨシキリ、採餌・ねぐら・休息地として利用するものがゴイサギ・ササゴイ・ダイサギ・コサギ・アオサギ・イソシギ・コアジサシ・カワセミなどであった。これらの鳥類にとって、このような湿地は重要な生息地である。
3  六條大橋下流の中洲
 六條大橋下流の吉野川中洲で、シギ・チドリ類を対象に生息数調査を行った。
 1985年9月15日 コチドリ18、イカルチドリ4、シロチドリ6、メダイチドリ1、トウネン83、ハマシギ2、合計114
 1985年11月18日 シロチドリ250±、ハマシギ500±、合計750±
 渡り途中及び越冬のための生息地としてかなり重要ではないかと思われる。
4  高瀬橋上流の砂レキ地
 高瀬橋上流の吉野川河原の砂レキ地(主として上板町側)において、コアジサシのコロニー(集団繁殖地)が発見され、その中にコチドリ・シロチドリ・ツバメチドリも繁殖していた。
 このうちコアジサシは、約40〜50つがいが繁殖していると推定され、ヒナに与える小魚は下流の方から運んでいた。コチドリ・シロチドリはそれより少ないが、前者は少なくとも5つがい、後者は少なくとも4つがいは繁殖していた。(1985月6月4日、10日、15日)
 さらに、6月10日にツバメチドリの2羽の成鳥・1巣・2卵が発見された(巣の位置は上板町側)。四国初の繁殖確認であり極めて貴重な記録である。
 徳島県下最大のコアジサシ・シロチドリのコロニーであった吉野川河口の干潟が、南岸とつながって人や野犬が多数入るようになり、ヒナや卵が盗まれたりつぶされたりして、ほぼ壊滅的な打撃を打けた現在、当地のコロニーは非常に重要である。


5  カッコウの繁殖確認
 カッコウ(ホトトギス科)は夏鳥として渡来し、県下では山地の疎林・草原に生息する。他種の鳥の巣に卵を産み込んでヒナを育てさせる「托卵性」をもつ。
 1985年7月4日、六條大橋南詰西方のヨシ原において、本種のヒナがオオヨシキリの巣内で発見された。徳島県初の繁殖確認記録である。また、平地における繁殖は西日本では珍しく、極めて貴重である。第十のセキから江川と吉野川の合流点付近にかけてのヨシ原や原野では、5〜8月にさえずる成鳥の姿がよく観察されたので、他にも繁殖地があるのは確実である。


6  コヨシキリ
 吉野川と江川(吉野川河川敷内)にはさまれた地域は、ヨシや他の高茎草本群落が拡がりその中にヤナギなどの樹木が点在するいわゆる原野状の環境である。ここは繁殖期にはオオヨシキリが数多く生息・繁殖し、カッコウも生息する。
 さらに、コヨシキリが6月10日〜7月4日に2羽さえずっているのが確認された。本種は、主として本州中部以北の高原、北海道の草原で繁殖する。西日本では繁殖せず旅鳥として通過して行くとされている。(最近九州で繁殖確認された)オオヨシキリより乾いた草原を好む。徳島県で初めて繁殖期を通して観察されたこにより、繁殖の可能性が高まってきた。もし正式に繁殖確認されれば、従来の通説を覆す全国的な一大事件となろう。


7 ツバメの集団ねぐら
 ツバメの重要な習性のうちで、一般に見過ごされているものがある。それは「集団ねぐら」である。本種は、春の渡来直後と秋の渡去前には、広いヨシ原で集団でねぐらをとるのである。またヒナが巣立つと、ヒナ鳥・親鳥とも「集団ねぐら」で眠る。すなわち、ツバメ保護のためには、広いヨシ原も保護しなければ意味がない。
 1985年7月8日、江川と吉野川の合流点付近のヨシ原で、日の入り時刻前後に約6,000羽ものツバメのねぐら入りが確認された。県下で確認された「集団ねぐら」で最大のものは、阿南市辰巳の広大なアシ原でのもので、約1万羽以上であった。しかし、工場用地再整備と称する埋め立てにより1984年秋に消滅してしまったため、当地の「集団ねぐら」は現在県下で最大級のものであり、このヨシ原の価値は極めて高い。
8  カモ類の越冬地
 第十セキから江川との合流点付近にかけての吉野川(石井町〜上板町)は、シベリア方面から渡来するカモ類の重要な越冬地である。1985年1月、3月、11月、1986年1月に生息数調査を行った。その結果は表3.の通りである。


 狩猟期間中(11月15日〜2月15日)と狩猟期間外とでは生息数が極端に違っているのが注目される。狩猟解禁前の生息数が本来の姿であると考えられので、餌となる水草・藻類の多い湿地があるこの地域は、カモ類の生息地として非常に重要である。しかし、狩猟期間中は可猟地区であるため殆んどいなくなる。下流の鳥獣保護区や銃猟禁止区域に避難するためである。
(4)ライン・センサスによる調査
 異なった自然環境により、鳥類相がどのように変化するのかを調べるため、ライン・センサス調査を行った。1 吉野川河川敷、2 平野部の農耕地、3 山地の森林について、それぞれ全長1km、1km、1.5km、幅50mの調査コースを設定し(図3.参照)、ロードサイド・カウントを行った。結果は、表4〜6に示す通りである。なお、比較しやすくするため、3 は全長1km(面積5ha)あたりに換算した値を用いた。以下、各調査コース別に考察してみる。


1  吉野川河川敷
 六條大橋〜高瀬橋の吉野川南岸に沿って調査した。海抜高度約10m。ヨシ原・ササやぶ・牧草などの草地が主で、ヤナギ・オニグルミ・エノキなどの樹木が点在する。水域はコース内にはほとんど入らない。すなわち乾燥した疎林〜草地状の環境である。
 優占種は、留鳥系がキジバト・ヒバリ・モズ・ホオジロ・スズメなど、夏鳥系がツバメ・オオヨシキリ・セッカなど、冬鳥系がヒヨドリ・メジロなどである。自然環境から予想される鳥類相とほぼ一致する。すなわち、ヒバリ、セッカは草原状の環境を好む。オオヨシキリは一定面積以上のヨシ原を必要とする。モズ・ホオジロは低木林〜疎林を好み、ヒヨドリ・メジロの生息には樹木の存在が不可欠である。
 アリスイ・オオジュリンは県下での観察例は少ないので貴重である。ウグイスはササなどのやぶを好む。ゴイサギは岸辺の木の枝で休んだりねぐらとしている。カルガモは付近の草むらで営巣していると思われる。
 ヒヨドリは1つがいながら繁殖も確認された。本種は本来は山地性であるので注目すべきである。


2  平野部の農耕地
 大万〜中塚地区を調査した。海抜高度約8〜9m。水田・畑地を主体とし、人家やその他の人工建物も多い。本来の自然植生と思われるエノキ・ムクノキ林、ヨシ原などはない。ここは丁度コース1 のような環境に人手が加わって人工化した場合にあてはまり、徳島県下のほとんどの平野部の現状でもある。
 優占種は、留鳥系がスズメ・ムクドリ・ドバトなど、夏鳥がツバメ、冬鳥がツグミなどである。コース1 と比べてみると、ドバトが新たに出現し、スズメ・ムクドリの増加が著しい。逆に、ヨシ原に生活の大部分を依存するオオヨシキリはまったく姿を消してしまっている。全体の出現種類数も非常に少なくなっていて、限られた種類の個体数のみ多くなっている。
 ドバトは、前年度の「羽ノ浦町」の調査報告で述べたように、自然環境の人工化に比例して増加する。スズメ・ムクドリは人工化された環境にもよく適応している。ツグミは開けた環境を好む。ヒヨドリ・メジロ・イカルは、わずかに残るエノキ・ムクノキや人家の庭木の実を食べに冬期に限って生息している。まとまった林がないため、繁殖期の生息は不可能である。
 コース1 と2 の調査結果は、本来の自然環境が改変され人工化された場合、いかに鳥類相が単純・貧弱になるのか一典型を示しているものであり興味深い。


3  山地の森林
 「野鳥の森」を調査した。海抜高度約30〜140m。アカマツ林が主体であるが、所々に広葉樹が混じりクヌギの大木などもある。巣箱が数多くかけられている。ため池もある。
 優占種は次の通りである。
a)留鳥系
 キジバト・コゲラ・ヒヨドリ・ウグイス・エナガ・ヤマガラ・シジュウカラ・メジロ・ホオジロ・カワラヒワ・ハシブトガラス
b)夏鳥
 ヤブサメ・コサメビタキ・サンコウチョウ
c)冬鳥系
 シロハラ・ツグミ・キクイタダキ・ミヤマホオジロ・アオジ・カケス
d)旅鳥系 アカハラ
e)餌探しのため他所から飛来するもの スズメ
 低山地(暖温帯下部)の森林で予想される鳥類相とほぼ一致する。しかし、冬期の生息数と種類が低山地の森林としてはやや少ない。これは、この年が冬鳥の渡来数の少なかった年回りであったのと、広葉樹が余り多くなくて餌となる木の実・昆虫・土壌動物などが豊富とはいえないためであろう。
 先に挙げた種類以外で当地とその周辺で繁殖するものは、留鳥系がトビ・コジュケイ・キジ・フクロウ・ハシボソガラスなど、夏鳥がサシバ・ホトトギス・キビタキなどである。
 フクロウは大木・古木の樹洞に営巣する。県下各地で開発などによる生息環境の破壊が進んでいるので、当地での生息は貴重である。キビタキ・コサメビタキ・サンコウチョウは自然度の高い森林に生息する。県下ではスギなどの植林による人工林化が過度に進行し、生息適地が少なくなっているので貴重な生息地である。ヤマガラ・シジュウカラは本来
は天然の樹洞に営巣するが、自然林の発達の程度が悪く樹洞が少ない「野鳥の森」では専ら巣箱を利用している。キビタキも巣箱(特に入口の穴が大きめの‘標準規格外’のもの)を利用するので、本種の当地における繁殖はそのような巣箱に負っている面もあるようである。メジロは常緑広葉樹林に最も適応しているので、アカマツ林が放置され低木層に常緑広葉樹が進出し次第に元の植生に回復している林では生息数も多くなる。


(5)山地の森林
 石井町の山地は全域が暖温帯下部に属するため、鳥類相の基本は「野鳥の森」と同じであると考えられるが、西部は海抜高度がやや高くなる(最高点327.5m)ので若干の違いがある可能性もある。今回の調査ではアオゲラの生息が確認された(1985年6月5日前山公園裏山)。「野鳥の森」では繁殖しないオオルリ・カケスも西部では繁殖している可能性がある。また、「野鳥の森」とその周辺でも過去にサンショウクイ(1982,83年)、センダイムシクイ(1982〜84年)、イカル(1983,84年)の繁殖期の記録があったので繁殖の可能性がある。
 ただ、毎年広範囲にわたってマツ枯れ防除のためと称して薬剤空中散布が行われているので、それが鳥類の生息に悪影響を与えている恐れがある(「野鳥の森」では行なわれていない)。本来の自然植生が広葉樹である地域において、そもそも‘松の緑’を守ることが必要なのかどうか疑わしい。


4.まとめと提言
 調査結果のうち、特に重要なものは以下の通りである。
1  河川がコンクリート護岸されると、元々から生息し繁殖していた鳥類は壊滅的な打撃を受けることが明らかにされた。
2  石井町には、他の市町村に比べれば湿地性鳥類の生息可能な水域が多く残されている。しかし次第に少なくなっている。
3  コアジサシ・コチドリ・シロチドリ・ツバメチドリのコロニー(集団繁殖地)が発見された。特に、ツバメチドリの繁殖確認は四国地方で初めての記録である。
4  カッコウの繁殖が徳島県で初めて確認された。特に平地での繁殖というのは西日本では珍しい。
5  コヨシキリが繁殖している可能性がある。
6  ツバメの「集団ねぐら」が発見された。
7  本来の自然環境が改変され農耕地・住宅地・工場などに変わった所では、自然環境が単調になり鳥類相も貧弱であることが明らかになった。

 今回は貴重な発見が相次いだ。これにより徳島県の野生鳥類の調査・研究が今後一層発展することが期待されるとともに、多くの鳥類や他の野生動物の生息基盤である豊かな自然環境が将来にわたって保護されるよう切に望むものである。
 以上のことをふまえて、次の5点の提言をいたしたい。
1  上に挙げた3 〜6 の鳥類の生息地の自然環境は厳正に保護されるべきである。
2  湿地性の鳥類や他の水生動物もすめるような洪水・湛水防除策を真剣に老えていただきたい。
3  特に飯尾川については、関〜諏訪地区から吉野川に至る放水路があり、ゴム井堰と揚水場によって水量を調節するようになっているので、これらをうまく利用すれば改修・護岸工事は殆んど必要がなくなるのではないだろうか。
4  また飯尾川放水路のうち、下流部は川幅が広く流れもゆるやかでヨシ原・湿性草地も存在するため、湿地性鳥類の貴重な生息地となっている。ここを遊水地帯と位置づけ、その自然環境が保全されるような措置をっていただきたい。飯尾川はすべてコンクリート護岸とし、放水路もコンクリート張りの単なる排水路にするというのなら余りにひどい話である。せめてどちらか一方だけでも、湿地性鳥類・カメ・魚類・水生昆虫などの野生動物がすめる環境を残すべきである。
5  江川についても、水温が冬に高く夏に低いという特異な現象を示すため県の天然記念物に指定されているほど価値のある川なのであるから、改修工事や周辺部の土木工事は慎重に行うべきである。生息する野生動物への配慮もしていただきたい。

 

5.鳥類目録
 1985年1月〜86年1月の現地調査で記録された種類を掲げる。過去に記録があるが、今回の調査では確認されなかった種類は記載しなかった。頁数の制約のため、各種類別の生息環境と具体的な観察記録は割愛せざるを得なかった。生息環境については前年度までの総合学術調査報告(鷲敷町・鴨島町・羽ノ浦町)を、重要種の記録については本文を、それぞれ参照されたい。その代わりとして、石井町での繁殖が確実なものについては◎印を、繁殖の可能性があるものについては○印を各種名の後に付して便宜を図った。
  カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES
 カイツブリ科 PODICIPITIDAE
1.カイツブリ Podiceps ruficollis ◎
2.カンムリカイツブリ Podiceps cristatus
  コウノトリ目 CICONIIFORMES
 サギ科 ARDEIDAE
3.ゴイサギ Nycticorax nycticorax
4.ササゴイ Butorides striatus
5.アマサギ Bubulcus ibis
6.ダイサギ Egretta alba
7.チュウサギ Egretta intermedia
8.コサギ Egretta garzetta
9.アオサギ Ardea cinerea
  ガンカモ目 ANSERIFORMES
 ガンカモ科 ANATIDAE
10.マガモ Anas platyrhynchos
11.カルガモ Anas poecilorhyncha ◎
12.コガモ Anas crecca
13.ヨシガモ Anas falcata
14.オカヨシガモ Anas strepera
15.ヒドリガモ Anas penelope
16.アメリカヒドリ Anas americana
17.オナガガモ Anas acuta
18.シマアジ Anas querquedula
19.ハシビロガモ Anas clypeata
20.キンクロハジロ Aythya fuligula
  ワシタカ目 FALCONIFORMES
 ワシタカ科 ACCIPITRIDAE
21.ミサゴ Pandion haliaetus
22.トビ Milvus migrans ◎
23.サシバ Butastur indicus ◎
 ハヤブサ科 FALCONIDAE
24.ハヤブサ Falco peregrinus
25.チョウゲンボウ Falco tinnunculus
  キジ目 GALLIFORMES
 キジ科 PHASIANIDAE
26.コジュケイ Bambusicola thoracica ◎
27.キジ Phasianus colchicus ◎
  ツル目 GRUIFORMES
 クイナ科 RALLIDAE
28.ヒクイナ Porzana fusca ◎
29.バン Gallinula chloropus ◎
  チドリ目 CHARADRIIFORMES
 チドリ科 CHARADRIIDAE
30.コチドリ Charadrius dubius ◎
31.イカルチドリ Charadrius placidus ○
32.シロチドリ Charadrius alexandrinus ◎
33.メダイチドリ Charadrius mongolus
34.タゲリ Vanellus vanellus
 シギ科 SCOLOPACIDAE
35.トウネン Calidris ruficollis
36.ハマシギ Calidris alpina
37.アオアシシギ Tringa nebularia
38.クサシギ Tringa ochropus
39.タカブシギ Tringa glareola
40.キアシシギ Tringa brevipes
41.イソシギ Tringa hypoleucos ○
42.タシギ Gallinago gollinago
 ツバメチドリ科 GLAREOLIDAE
43.ツバメチドリ Glareola maldivarum ◎
 カモメ科 LARIDAE
44.ユリカモメ Larus ridibundus
45.コアジサシ Sterna albifrons ◎
  ハト目 COLUMBIFORMES
 ハト科 COLUMBIDAE
46.キジバト Streptopelia orientalis ◎
47.アオバト Sphenurus sieboldii
  ホトトギス目 CUCULIFORMES
 ホトトギス科 CUCULIDAE
48.カッコウ Cuculus canorus ◎
49.ホトトギス Cuculus poliocephalus ◎
  フクロウ目 STRIGIFORMES
 フクロウ科 STRIGIDAE
50.フクロウ Strix uralensis ◎
  ブッポウソウ目 CORACIIFORMES
 カワセミ科 ALCEDINIDAE
51.カワセミ Alcedo atthis ◎
  キツツキ目 PICIFORMES
 キツツキ科 PICIDAE
52.アリスイ Jynx torguilla
53.アオゲラ Picusa awokera ○
54.コゲラ Dendrocopos kizuki ◎
  スズメ目 PASSERIFORMES
 ヒバリ科 ALAUDIDAE
55.ヒバリ Alauda arvensis ◎
 ツバメ科 HIRUNDINIDAE
56.ツバメ Hirundo rustica ◎
57.コシアカツバメ Hirundo daurica ○
 セキレイ科 MOTACILLIDAE
58.キセキレイ Motacilla cinerea ◎
59.ハクセキレイ Motacilla alba
60.セグロセキレイ Motacilla grandis ◎
61.タヒバリ Anthus spinoletta
 サンショウウクイ科 CAMPEPHAGIDAE
62.サンショウクイ Pericrocotus divaricatus ○
 ヒヨドリ科 PYCNONOTIDAE
63.ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis ◎
 モズ科 LANIIDAE
64.モズ Lanius bucephalus ◎
 ヒタキ科 MUSCICAPIDAE
 (ツグミ亜科 TURDINAE)
65.ジョウビタキ Phoenicurus auroreus
66.アカハラ Turdus chrysolaus
67.シロハラ Turdus pallidus
68.マミチャジナイ Turdus obscurus
69.ツグミ Turdus naumanni
 (ウグイス亜科 SYLVDIINAE)
70.ヤブサメ Cettia squameiceps ◎
71.ウグイス Cettia diphone ◎
72.コヨシキリ Acrocephalus bistrigiceps  ○
73.オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus ◎
74.メボソムシクイ Phyllo scopus borealis
75.エゾムシクイ Phylloscopus tenelllipes
76.キクイタダキ Regulus regulus
77.セッカ Cisticola juncidis ◎
 (ヒタキ亜科 MUSCICAPINAE)
78.キビタキ Ficedula narcissina ◎
79.ムギマキ Ficedula mugimaki
80.オオルリ Cyanoptila cyanomelana ○
81.コサメビタキ Muscicapa latirostris ◎
 (カササギヒタキ亜科 MONARCHINAE)
82.サンコチョウ Terpsiphone atrocaudata ◎
 エナザ科 AEGITHALIDAE
83.エナガ Aegithalos caudatus ◎
 シジュウカラ科 PARIDAE
84.ヤマガラ Parus varius ◎
85,シジュウカラ Parus major ◎
 メジロ科 ZOSTEROPIDAE
86.メジロ Zosterops japonica ◎
 ホオジロ科 EMBERIZIDAE
87.ホオジロ Emberiza ciodes ◎
88.カシラダカ Emberiza rustica
89.ミヤマホオジロ Emberiza elegans
90.アオジ Emberiza spodocephala
91.オオジュリン Emberiza schoeniclus
 アトリ科 FRINGILLIDAE
92.アトリ Fringilla montifringilla
93.カワラヒワ Carduelis sinica ◎
94.イカル Eophona personata ○
95.シメ Coccothraustes coccothraustes
 ハタオドリ科 PLOCEIDAE
96.スズメ Passer montanus ◎
 ムクドリ科 STURNIDAE
97.ムクドリ Sturnus cineraceus ◎
 カラス科 CORVIDAE
98.カケス Garrulus glandarius ○
99.ハシボソガラス Corvus corone ◎
100.ハシブトガラス Corvus macrorhynchos ◎

○ ドバト 原種はColumba livia ◎


参考文献
1)日本野鳥の会 1980:鳥類繁殖地図調査 1978:第2回自然環境保全基礎調査
動物分布調査報告書(鳥類) 全国版
2)高野伸二 1981:日本産鳥類図鑑 東海大学出版会 p.184〜389
3)藤波不二雄 1983:ヨシ原の面積とオオヨシキリの囀り雄の個体数との関係
Strix vol.2 日本野鳥の会研究報告 日本野鳥の会 p.41〜46
4)増谷正幸 1983:鷲敷町の野鳥 総合学術調査報告「鷲敷町」郷土研究発表会紀要第29号 阿波学会・徳島県立図書館 p.81〜98
5)増谷正幸 1984:鴨島町の野鳥 総合学術調査報告「鴨島町」郷土研究発表会紀要第30号 阿波学会・徳島県立図書館 p.55〜73
6)増谷正幸 1985:羽ノ浦町の野鳥 総合学術調査報告「羽ノ浦町」郷土研究発表会紀要第31号 阿波学会・徳島県立図書館 p.57〜73
7)野鳥徳島 No77,78,81〜85 日本野鳥の会徳島県支部 各p.10〜11
8)日本野鳥の会徳島県支部 1985:徳島県野鳥図鑑 徳島新聞社


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