阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第31号
羽ノ浦町住民の栄養調査

医学班

  近藤孝司・高間重幸・北島俊一・

  柴田裕子・戸羽正道・浜真奈美・

  林佳代・村上豊司・村田湖図枝・

  若野祐子・須見登志子・高坂裕子・

  大賀恵美子・中川雅子・水沼俊美・

  鈴木和彦・小川久子・岸野泰雄

 我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として、農村医学班の健康調査と並行して、羽ノ浦町住民の栄養調査を実施した。羽ノ浦町は、那賀川下流北岸の平野部に位置し、古くからの穀倉地帯であり、本町の特産はビニールハウスによるキュウリ、イチゴ、が有名である。また、近年では都市化も進んでいる。
 今回は食物摂取量、生活時間、味噌汁塩分濃度およびアンケート調査を実施し、興味ある結果を得たので報告する。


〈調査方法〉
1)対象
 徳島県那賀郡羽ノ浦町、羽ノ浦町農協に加入している農業従事者のうち、男性62名、女性129名の計191名について下記の調査を実施した。年齢は20才代から60才代で平均は男性55才、女性53.8才であった。
2)期間
 昭和59年8月1日から8月4日までの4日間にわたり実施した。
3)調査項目
 a)栄養摂取量
 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するよう依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認したうえでグラム数に換算した。栄養素摂取量および食品群別摂取量などの算定には、徳島大学情報処理センターの電子計算機・富士通FACOM・M360を使用した。
 b)生活時間調査
 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明瞭な点を再確認し、生活時間の推定を行った。消費エネルギーは、沼尻らの方法を用いた。各労作の活動代謝は、以前の報告と同様の値を用いた。
 c)味噌汁の塩分濃度
 全研社製の食塩濃度計により塩分濃度を測定した。
 d)栄養意識と食物摂取頻度
 栄養意識と食物摂取頻度調査には各アンケート用紙を各自に配布、記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度説明した上で、各回答を得た。各表の作成には山上ら、藤沢ら、細谷らの方法を参考にした。


〈結果および考察〉
1)羽ノ浦町住民の食品群別摂取量
 羽ノ浦町住民の食品群別摂取量を55年度国民栄養調査結果を100%として比較すると(図1)、穀類、菓子類、卵類、淡色野菜類、海草類、はほぼ国民栄養調査結果と同じであり、いも類、油脂類、肉類、乳類、はやや低く、豆類、魚介類、はやや高かった。一方非常に摂取量の高いものは緑黄色野菜、果実類であった。
2)年齢別にみた食品群別摂取
 以下の図2〜7は、24時間食事調査から算出した羽ノ浦町住民の食品群別摂取量を55年度国民栄養調査結果を100%として比較し、年齢別に示したものである。
 まず米、麦類(図2)についてみると米では、男性が全年齢層を通じて摂取量は高く女性では、ほぼ基準値であった。他方、麦類では男女ともに全年齢を通じて低く、これら穀類については米中心の摂取状況を示した。たん白質食品(図3〜4)についてみると、肉類は、全年齢を通じて低かったが、魚介類は全体的に高い傾向にあった。特に30代男性の摂取が高く、太刀魚、あじ、焼きちくわ、うなぎ等の摂取が多かった。卵類、豆類についてみると、卵類では、全年齢、男女を通じて低く、豆類については全体として高かったが、特に30代、60代の女性で特に高い摂取傾向をみた。なお豆類は豆腐、味噌、いんげん豆等の摂取が多かった。次に油脂類、乳製品(図5)についてみると、油脂類については、全年齢、男女ともに低い傾向にあり、この事は調査期間が夏期であった事が一因として考えられる。乳製品は20代、30代の男女で高い摂取であったが、高年齢になるにしたがい低下する傾向がみられた。いも類、果実類(図6)についてみると、いも類は全体的に男女共低値を示していたが、果実類は全年齢層、男女を通じてきわめて高い摂取を示し、中でもすいか、もも、まくわうりが高く、これは夏の調査によるためと考えられる。次に野菜についての摂取(図7)をみると、淡色野菜類については全年齢層、男女共に極めて高く、特になす、きゅうり(漬物)が多かった。緑黄色野菜類については、全体的に高い摂取を示し、高年齢層で特に高い摂取を示した。またその内訳は、トマトが特に多く、いんげん、ピーマン、人参などがみられた。
3)栄養摂取量
 図8は、栄養所要量(60年度目途)を100%とした時の、羽ノ浦町住民の平均栄養摂取量の比率(%)を示したものである。エネルギー(熱量)、たん白質、脂肪、カルシウム、鉄、ビタミンA、B1、B2、C、ナイアシン、糖質エネルギー比(CE/TE)、脂肪エネルギー比(LE/TE)について比較すると、これらの全項目について男女とも所要量を充たしていた。
4)年齢別にみた栄養摂取量
 熱量(図9)糖質エネルギー比(CE/TE)、脂肪エネルギー比(LE/TE)(図10)、たん白質、動物性たん白質(図11)、脂肪、動物性脂肪(図12)、ビタミンB1、B2、(図15)、各年齢層、男女共、栄養所要量に比較し過不足はみられなかった。しかしカルシウム、鉄(図13)は平均値としてはほぼ栄養所要量を充たしていたが、なかには50%を下回る人も若干みうけられた。ビタミンA、C(図14)については、20代、30代は、低い傾向にあり、特に30代男性でその傾向がみられた。これは緑黄色野菜類の摂取状態とよく一致している。次に食塩摂取量(表1)について男性平均13.4g/日、女性平均12.4g/日、であり全国平均値13gとほぼ同じであったが、厚生省の推奨値10g/日より高かった。年齢別にみると40代男性が15.4g/日と高い値を示した。繊維摂取量(表2)、については男性平均5.1g/日、女性平均5.0g/日、であり全国平均値5.0gとほぼ同じであった。
5)栄養比率
 ○エネルギーバランスと肥満度の関係
 生活時間調査より推定した消費エネルギー値と食物摂取量調査より得た摂取エネルギー値との比率を示したのが表3である。男女ともエネルギー出納はほぼバランスがとれていた。また身長および体重より算出した肥満度(Obesity Index)もほぼ1であり平均としてほぼ良好であった。
 ○たん白質/脂肪/糖質エネルギー比(P/F/C)
 全摂取エネルギーに対するたん白質エネルギー比(P)、脂肪エネルギー比(F)、糖質エネルギー比(C)(表4)それぞれについてみると全体的にバランスがとれていた。特に男性についてみると糖質エネルギー比は年齢とともに高くなる傾向がみられた。
 ○ナトリウム/カリウム比(Na/K比)
 前述したように食塩摂取量は全国平均値とほぼ同程度であったがNa/K比(表5)をみると2に近く、推奨されている比率1に比べて高値を示し、ナトリウム(食塩)の摂取をさらに減らす努力が必要である。
 ○カルシウム/リン比(Ca/P比)
 カルシウム摂取量とりん摂取量の比(表6)は、骨の形成に重要である。今回の結果では男女とも0.5であり推奨値1と比べて低値を示している。乳製品、小ざかな等カルシウム摂取量を高める必要がある。
6)みそ汁の塩分濃度
 図16は羽ノ浦町住民のみそ汁の塩分濃度を測定しその濃度の度数分布を示したものである。横軸は塩分濃度(%)を表し、縦軸は人数割合(%)を示している。全体の平均は1.05%であり標準的な値であったが、1.4%を越える人もわずかであるがおり、食生活に対する注意が必要と思われる。
7)アンケート調査結果
 以上の摂取食物調査は1日の結果であるので、食生活の全貌をとらえるべく、アンケートによる栄養意識および食物の摂取頻度を調べた(図17)。食品の組合せや欠食の程度、緑黄色野菜の摂取頻度の結果は全般的に良好であり、女性が男性にくらべより栄養に対する意識が高いと思われた。これらの結果は食物摂取調査とよく一致しており普段の食生活も調査日と同様な傾向にあるものと思われる。
〈まとめ〉
 調査時が夏期であったが羽ノ浦町住民の食生活は、全般的にみてバランスがよくとれていた。熱量についても過不足なく肥満傾向も比較的低かった。栄養素についてみると国民栄養調査などでも不足しているビタミンAが当町では、栄養所要量をこえる結果が得られた。これは緑黄色野菜の摂取が高い事によるものであり、近年報告されている癌予防と緑黄色野菜の関連からみても望まししい。


〈文献〉
1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19、57、1973
2)高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、20、73、1974
3)中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、21、103、1975
4)上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会紀要、22、191、1976
5)鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、23、143、1977
6)山本 茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、24、131、1978
7)鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、25、123、1979
8)森口 覚ら:池田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、26、183、1980
9)高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、27、79、1981
10)黒田耕司ら:貞光町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、28、151、1982
11)角田みどり:鷲敷町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、29、131、1983
12)河村純夫ら:鴨島町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、30、83、1984、
13)沼尻幸吉:エネルギー代謝計算の実際、第一出版1978
14)鈴木 健ら:公衆栄養、医歯薬出版、1981
15)厚生省公衆衛生局栄養課:昭和54年改訂日本人の栄養所要量、第一出版、1979
16)藤沢良知ら:栄養指導ハンドブック、第一出版、1978
17)細谷憲政ら:公衆栄養活動の展開、第一出版、1977
18)森口 覚ら:農業従事者(徳島県下)の栄養摂取と身体状況、栄養と食糧、33、No.5、335〜341、1980


徳島県立図書館