総合学術調査(7月26日〜31日)の開始前々日よりキノコ発生に適当な降雨があったので、採集には期待が持たれた。
結論的には、調査地の植生が、竹林・ブナ科植物等の少ない雑木林とあって、テングタケ・ベニタケ・イグチ科などの、いわゆる菌根性キノコ(ブナ科植物などの細根に、これらのキノコが菌系を伸ばし、栄養を得て生活している。実際は共生関係が成立)の発生に乏しく残念であった。 しかし、形態・生態面でおもしろいマメザヤタケ・キツネノエフデ・サンコタケ・シラタマタケ・ヤブニワタケ、薬理的に関心の高いサルノコシカケ科のカワラタケ、また毒成分の王者、テングタケ科のドクツルタケが採集されるなど、調査の意義は十分であった。
調査の前半は、★中学校周辺の竹林と雑木林を調査した。地上生のキノコは、殆んど見られなかったものの、竹林に縁のあるキノコが採集された。 ヤブニワタケは、タケの切り株に発生するヒダハタケ科のキノコで、ニワタケの変種。茎は太く、黒褐色の羊毛状の毛に被われた強じんなもの。日本のほかキューバに分布する。 マメザヤタケは、まさに「豆ざや」、形はさまざまである。木炭質の硬い黒いキノコで、ふくらんだ頭部には、被子器を持ち、子のうの中に黒褐色の胞子ができる。通常、広葉樹の枯れ木、立木の根元に発生し、倒木の原因となる。ここでは、伐採後にマメザヤタケの菌系が、竹の根元に侵入したものと、思われる。 マツの倒木にしばしば出会ったが、倒木直後によく見られるヒトクチタケ・シハイタケなどは殆んどなく、とって代って筆者には珍しい黄褐色でやわらかい、ひだの鮮やかな特微を持つサケバタケ(ヒダハタケ科)が、腐朽化を担っていた。(後期の遷移段階を担うものは外にもあろうが)
ニクウスバタケは、サルノコシカケ科のキノコで美しい。林内全域の枯木に群生していた。 カワラタケの大群生は実に見事、この種より開発された「クレスチン」は、癌に対する薬効が高く、なお使いやすいとあって最も注目を浴びている最近の制癌剤である。
カワウソタケは、キコブタケ科のキノコでヤマザクラの枯木一面に群生、日本特産種で、日本を記念した学名を持つ。傘の表面の密生した粗毛をカワウソに見立てたもの。
調査の後半は、★羽ノ浦町の西側地域、古毛に至るまでの竹林・神社の社叢(とう)の雑木林の調査をした。コナラ・アカマツを含む雑木林で、数種の興味あるキノコを採集した。 シラタマタケは、ショウロ科のキノコで、直径5cmのひしげた球塊状・林床に1個体発生していた。内部は、乳房状の暗褐色を帯びた軟骨質の固まりが多数あり、それらは外側に並び、中心部は寒天質で満たされている。
キツネノエフデは、社叢(とう)の腐朽木や竹林で豊富に見られた。幼菌は、さしずめヘビの卵と言ったところ、外皮が破れると、見る見るうちに成長して成菌になる。根元は白く、上に向かって桃色〜朱紅色、頭部2〜3cmにグレバがあり、胞子がつくられる。
ツチカブリは、ベニタケ科のキノコで、地中でロート形の傘が開くので、土をかぶって正体不明のまま盛上っていた。なめると辛い。 ドクツルタケは、猛毒キノコの最たるもの。1本食べると3日以内に必ず死ぬ。従来、徳島県内のやや山岳地方に分布することが記載されていたものの、本調査によって、アカマツ・コナラを含む低山帯にまで分布することが確認された。昭和29年、阿南市で8人が中毒、6人が死亡した痛ましい中毒事件は、多分この種の近縁種か、この種によるものと思われる。
今回の調査では、★未知種を含めて10目、25科、59属、82種の高等菌類の分布を確認した。 当然のことながら、キノコの発生する好ましい条件(発生環境)、とりわけ、降水量・土壌温度などの影響により、発生時期・種類数・量が決定される。発生調査では、継続観察の必要性があり、今後とも町民各位によって、完壁な調査を進めて欲しいものである。 末筆ながら、この調査・分類するにあたって、徳大薬学部助教授・高石喜久博士には、猛暑の最中、採集におしまぬご協力を、また滋賀大教育学部教授・本郷次雄博士には、分類・同定についてご指導をそれぞれ賜わることができた。両先生に紙面ながら謝意を表します。
羽ノ浦町の高等菌類 I
Ascomycetes 子のう菌類 Helotiales ビョウタケ目 Helotiaceae ビョウタケ科 1
Helotium sulphurinum
Quel. モエギビョウタケ Sphaeriales スフェリア目 Xylariaceae クロサイワイタケ科 2
Daldinia concentrica Ces. et DeNot. チャコブタケ 3 Hypoxylon annulatum
(Schw.) Mont. クロコブタケ 4 Xylaria polymorpha
Grev. マメザヤタケ II Basidiomycetes 担子菌類 (1)Heterobasidiae 異担子亜綱 Dacryomycetales アカキクラゲ目 Dacryomycetaceae アカキクラゲ科 5
Dacryomyces aurantius Farlow アカキクラゲ 6 Guepinia spathlaria
Fr. ツノマタタケ Tremellales シロキクラゲ目 Tremellaceae シロキクラゲ科 7
Tremella foliacea
Fr. ハナビラニカワタケ Auriculariales キクラゲ目 Auriculariaceae キクラゲ科 8
Auricularia polytricha Sacc. アラゲキクラゲ 9 A. auricularia-judae
Quee キクラゲ (2)Homobasidiae 同担子亜綱 (A)
Hymenomycetes 菌じん類 Aphyllophorales ヒダナシ目 Clavariaceae ホウキタケ科 10
Clavulina cristata Schroet カレエダタケ Polyporaceae サルノコシカケ科 11
Coriolus versicolor Quel. カウラタケ 12 C. hirsutus Quel. アラゲカワラタケ 13
C. consors Imaz. ニクウスバタケ 14 C. pargamenus pat. ハカワラタケ 15 Coltricia
cinnamomea Murr. ニッケイタケ 16 Cryptoporus volvatus Hubb. ヒトクチタケ 17
Daedaleopsis confragosa Schroet. チャミダレアミタケ 18 D. tricolor Bond et
Sing. チャカイガラタケ 19 D. styracina Imaz. エゴノキタケ 20 Elfvingia applanata
karst. コフキサルノコシカケ 21 Fovmitopsis pinicola Karst. ツガサルノコシカケ 22
Ganoderma lucid um karst. マンネンタケ 23 Hirschioporus abietinus
Donk シハイタケ 24 H. elogatus シロハカワラタケ 25 Inonotus
xeranticus ダイダイタケ Hydnaceae ハリタケ科 26 Steccherinum ochraceum S. F
Gray ニクハリタケ 27 Lenzites betulina Fr. カイガラタケ 28 Microporus
flabelliformis Kuntze. ウチワタケ 29 Phaeolus schweinitjii
Pat. カイメンタケ 30 Polyporellus elegans Karst. キアシグロタケ 31 P. picipes
karst. アシグロタケ 32 P. sp. 33 Pycnoporus coccineus Bond. et
Sing. ヒロイタケ Mucronoporaceae キコブタケ科 34 Inonotus mikadoi
Imaz. カワウソタケ Corticiaceae コウヤクタケ科 35 Aleurodiseus amorphus
Rabenh. アカコウヤクタケ 36 Sparassis crispa Fr. ハナビラタケ 37 Stereum
spectabile Klotzsch モミジウロコタケ 38 S. roseum Yasuda ウスべニウロコタケ 39 S.
ostrea Fr. チャウロコタケ 40 S.
sp. Agaricales ハラタケ目 Tricholomataceae キシメジ科 41 Collybia
dryophila Kummer モリノカレバタケ 42 C. sp 43 C. sp 44 Laccaria
laccata Berk. et Br. キツネタケ 45 Marasmius maximus Hongo オオホウライタケ 46
M. purpureostriatus Hongo スジオケバタケ 47 M. siccus Fr. ハリガネオチバタケ 48 M.
sp (ヤマウバノカミタケ) 49 M. sp 50 Marasmiellus nigripes
Sing. アシグロホウライタケ 51 Micromphale pacificum Hongo (和名なし) 52 Oude
mansiella longipes Moser ビロードツエタケ 53 Pleurocybella porrigens
Sing スギヒラタケ 54 Resupinatus appicatus S. F. Gray. シジミタケ 55
Schijophyllum commune Fr. スエヒロタケ 56 Xeromphalina cauticinalis K
uhner キチャホウライタケ 57 X. campanella Kuhner et
Maire ヒメカバイロタケ Amanitaceae テングタケ科 58 Amanita virosa
Secr. ドクツルタケ 59 A. citrina S. F.
Gray コタマゴテングタケ Boletaceae イグチ科 60 Boletus rubellus
Krombh. コウジタケ 61 B. ornatipes peck. キアミアシイグチ 62 Boletellus
sp. 63 Phylloporus rhodoxanthus
Bres. キヒダタケ Strobilomycetaceae オニイグチ科 64 Strobilomyces confusus
Singer オニイグチモドキ Russulaceae ベニタケ科 65 Lactarius volemus
Fr. チチタケ 66 L. piperatus S. F. Gray ツチカブリ 67 R. foetens
Fr. クサハツ Agaricaceae ハラタケ科 68 Agarius subrutilescens Hoston &
Stuotj ザラエノハラタケ 69 Lepiota praetervisa Hongo ナカグロヒメカラカサタケ 70
L. japonica kawam. ex Hongo アカキツネガサ 71 L. cristata
Quel. キツネノカラカサ 72 L. sp. Cortinariaceae フウセンタケ科 73 Inocybe
lutea kobayasi et Honmgo キイロアセタケ Rhodophyllaceae イッポンシメジ科 74
Rhodophllus omiensis Hongo ウスキモミウラモドキ 75 R.
sp Coprinaceae ヒトヨタケ科 76 Coprinus micaceus Fr. キララタケ C.
radians Fr. コキララタケ 77 Psathyrella hydrophila
Maire ムササビタケ Bolbitiaceae オキナタケ科 78 Agrocybe farinacea
Hongo ツバナシフミズキタケ Paxillaceae ヒダハタケ科 79 Paxillus atrotomentosus
Fr. var. bambusinus Barker et Dale ヤブニワタケ 80 P. curtisii
Berk. サケバタケ (B)
Gasteromycetes 腹菌類 Lycoperdales ホコリタケ目 Lycoperdaceae ホコリタケ科 81
Lycoperdon pyriforme Pers. タヌキノチャブクロ 82 Calvatia craniformis
Fr. ノウタケ Hymenogastrales ショウロ目 Rhizopogonaceae ショウロ科 83
Kobayasia nipponica Imai et A.
Kawam. シラタマタケ Sclerodermatales ニセショウロ目 Sclerodermataceae ニセショウロ科 84
Scleroderma
lycoperdoides ヒメカタショウロ Phallales スッポンタケ目 Phallaceae スッポンタケ科 85
Mutinus bambusinus Fisch. キツネノエフデ Clathraceae アカカゴタケ科 86
Pseudocolus schellenbergiae
Johns. サンコタケ 子のう菌類 2目、2科、4属4種 担子菌類 8目、24科、57属82種 10目、26科、61属86種 |