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1.はじめに 今回の阿波学会による鴨島町総合学術調査に参加し、水生昆虫を主とした底生動物の調査を行った。その結果を報告する。 調査期間の本年8月は、特に気温が高く、調査水系の1つ飯尾川の上流域は、水枯れまたはそれに近い状態であった。 また、江川、飯尾川の両河川とも、平野部を流れる河川で、調査対象である流水性の水生昆虫類が多く生息するような、石礫底の早瀬がなく、調査地点は極めて少ない結果になった。 今回の調査結果に加えて、1981年に江川、飯尾川を調べた結果を報告したい。
2.調査地点と調査方法 調査は、図1に示した各地点で行った。江川の源は鴨島町西麻植の吉野川遊園地西隅にある。吉野川からの伏流水が湧き出す湧水池がその源流になっている。鴨島町を東に貫流し、名西郡西高原で吉野川に流入する全長約8.8kmの小河川である。流域には、住宅が多く、その排水の流入等により、水の汚濁がすすんでいる。
 飯尾川は、鴨島町樋山地にその源を発し、鴨島町、石井町、徳島市国府町を流れ、徳島市不動東町の吉野川橋上流右岸で吉野川に流入する全長約25.8kmの河川である。 各地点の様相を述べると、E.1(鴨島町西麻植)は、江川の源になっている湧水地である。

吉野川からの伏流水が湧き出す、周囲30m、最深部で0.8mほどの池で、底は小さな砂礫からなる。水は澄み、冬期も水温が高く、東端の流水部では、近くの住民が洗い物をする。水面には、平地の池で見られなくなったミズスマシの姿が見られ、まだ自然が残された所のようである。E.2(鴨島第一中学校西側、多津美橋下)は、石礫が多く見られ、平瀬ができている。水質が良好であれば、カゲロウ類、トビケラ類などの流水性の水生昆虫が生息できる所である。付近の住宅からの排水が流入しており、汚濁が見られる。石面には汚水菌のコロニーができ、ヘドロが沈積した所も見られる。E.3(鴨島公園東端)は公園北側の堀に貯った水が、東端部で流出し、石礫底の瀬をつくる所である。

この地点も、水が清例であれば、流水性の水生昆虫が多く生息すると思われる所である。E.4(鴨島町喜来、清美橋)は、石礫底の平瀬が見られる地点である。家庭排水等の流入により、かなり汚濁がすすんでいる。
 In.1(鴨島町樋山地、下地橋)は飯尾川の最上流域で、標高140mの山地渓流である。河床は荒廃し、水生昆虫類がすみつきにくい様相である。水量は少ないが清例である。この地点から上流は急峻な谷となり、水枯れの状態である。In.2(鴨島町中島、宮地橋下)は、流速のある石礫が見られる所であるが、川底には瓦やコンクリート片が投棄されている。D.1(鴨島町壇)は、町の焼却場の50mほど上に位置する山地渓流が流れこんでできた池である。汚水の流入がないため、水質は良好で、水生植物も多く見られる。止水性の水生昆虫類が多く生息すると予想された。 調査方法は、定性採集を行った。金属製のザルを用いて、調査地点の川底の石礫、砂礫、泥をすくい取り、その中に見られる生物をピンセットで取り出した。各地点でできるだけ多くの生物を集めるように入念に採集をくり返した。
3.調査結果と考察 調査時に測定した気温・水温を表1に示した。
 採集された水生昆虫と昆虫以外の底生動物(魚類を除く)を、地点別に整理したのが表2である。
 全地点を通して、水生昆虫が8目51種、昆虫以外の底生動物が12種得られた。水生昆虫の目別種数では、蜻蛉目(トンボ類)が12種と多く、次いで蜉蝣目(カゲロウ類)が11種、毛翅目(トビケラ類)が10種、鞘翅目6種、半翅目5種、■翅目3種、双翅目3種、広翅目1種である。採集された水生昆虫の個体数は、特定の種を除くと極めて少なく、わずかに1〜2個体の種が多かった。 江川では、6目29種の水生昆虫が得られた。E.1の湧水池では、県内の平地部の池で見られなくなったミズスマシ、イトアメンボが採集された。特にミズカマキリが多く生息している。流水部には、シロハラコカゲロウのような清水性のカゲロウも生息している。E.2には、個体数は極めて少ないが、河川下流域の砂泥中にすむムスジモンカゲロウが採集された。愛媛県松山市の石手川下流では、1955年頃、この種がふつうに見られたが、その後製紙工場からの廃液等のため、1970年にはすっかり姿を消したことが報告されている(桑田1983)。E.2においても、かつては多く生息していたが水質の悪化にともない減少してきたと予想される。E.3では、コガタシマトビケラが非常に多く、この地点の優占種となっている。コガタシマトビケラは、有機物量が増え、やや汚濁がすすんだ流れに多く見られる種である。注目すべき種として、オオシマトビケラが採集された。四国の他の3県では、採集例が極めて少ない種である。本県では、吉野川の池田ダムから下流にかけて広く分布し、吉野川ではヒゲナガカワトビケラに次いで現存量の多い種である。吉野川の外は、那賀川、勝浦川、宮川内谷川、日開谷川、伊予川、穴内川(高知県)の各河川で採集した。しかし他の多くの河川からは採集されておらず、生息する河川が限定される。分布が極めて局地的な種である。1981年にE.3地点で採集調査した時は、1個体も採れなかったが、今回その生息を確認した。コガタシマトビケラと同様に、汚濁に対してやや強い種である。 E.4では、清水域にすむ種は、全く見られない。やや汚染水域(β中腐水性)〜かなり汚染水域(α中腐水性)の指標生物である、タイコウチ、ミズムシ、マルタニシや、極めて汚染水域(強腐水性)に多いユスリカ(赤色)が採集されている。 昆虫以外の底生動物のうち、江川には特にカワニナが多く生息している。カワニナはゲンジボタルの幼虫の食餌になる貝である。水質が良好であれば、ゲンジボタルが生息する可能性は充分あると思われる。 飯尾川のIn.1では、25種の底生動物を得た。フタスジモンカゲロウ、オビカゲロウなど、山地渓流域に生息する種が見られる。蜻蛉目(トンボ類)の1部を除いて、すべて清例水域(貧腐水性)を好む種である。特に汚濁に弱い■翅目(カワゲラ類)の昆虫が、この水域には生息する。クロタニガワカゲロウ、オオヤマカワゲラ、クロヒゲカワゲラを除いた種の個体数は極めて少ない。河床が不安定で長くすみつけないのであろうと思われる。In.2では、トビケラ類、カワゲラ類が見られずカゲロウ類は2種得られただけである。ミズムシ、マシジミ、ミミズ、ヒルなど、β〜α中腐水性の指標生物が多い。 昭和39年発刊の鴨島町誌には、飯尾川の動物の中で「水棲昆虫としては、ミズスマシ、オオミズスマシ、アメンボ、タガメ、ゲンゴロウ、タイコウチなども棲息している。」と記述されている。また麻名用水の動物の中で「ホタルの幼虫が農薬の散布、その他の条件で減少した。」と記述されている。現在では、水面生活をするアメンボと、汚濁に強いタイコウチの外は姿を見ることがなくなった。 江川(1981年11月)、飯尾川(1981年6月)の調査結果を、地点別に示したのが表3である。

表中の調査地点E.2、E.3、E.4、In.2は図1に示したE.2、E.3、E.4、In.2と同一地点である。E.5(名西郡石井町西高原)は、江川が吉野川に流入する地点である。汚濁が見られ、黒色の砂泥が沈積する。In.3(石井町高川原南島)、In.4(徳島市国府町東黒田)は、いずれも平地のゆるやかな流れである。石礫は少なく、昆虫類はごく限られた種が生息すると思われる所である。 全地点で6目22種の水生昆虫と、その他の底生動物8種を採集した。In.2、E.2、E.3ではコガタシマトビケラの個体数が非常に多く見られたが、今回はIn.2、E.2から姿を消し、E.3ではさらに多くなっている。 下流域のE.4、E.5、In.3、In.4で採集された底生動物は、β〜α中腐水性、強腐水性の指標生物で占められている。生物相からみて、これらの水域が、汚濁のすすんだ水域であることが示されている。
4.おわりに 江川、飯尾川の両河川で、8目57種の水生昆虫と、その他の底生動物13種を採集した。 飯尾川上流域の山地渓流には、清水性の水生昆虫類が生息するが、平地部の流れには、極めて少数の種が見られる程度であった。 江川、飯尾川の水質階級は、底生動物相から推定すると、β中腐水性〜α中腐水性の段階にあると判断される。 失われた美しい流れをとり戻すために、地域住民による取り組みが展開されるよう望まれる。 参考文献 1.津田松苗(1962):水生昆虫学、北隆館 2.津田松苗、森下郁子(1974):生物による水質調査法、山海堂 3.桑田一男(1983):理科I(人間と自然)の研究、愛媛県・石手川水系の開発とそれに伴う底生動物相の変貌、愛媛高校理科 4.徳山 豊(1982):吉野川水系の底生動物相と生物学的水質判定、長期研修生研究報告書、第18集、徳島県教育研修センター 5.鴨島町誌(1964):江川・飯尾川・麻名用水の動物、P.92〜P.94、鴨島町教育委員会
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