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我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として、農村医学班の健康調査と並行して、鷲敷町住民の栄養調査を実施した。鷲敷町は那賀川中流に位置し、気候は温和で土地が肥沃なため稲作が古くから盛んに行われている。また、筍・蜜柑・柿・栗なども栽培されており、最近ではすだち・煙草作りを始め、苺のハウス栽培などの盛んな農業の町である。今回は食物摂取量、生活時間、みそ汁の塩分濃度およびアンケート調査を実施し、興味ある結果を得たので報告する。
〈調査方法〉 1)対象 徳島県那賀郡鷲敷町、鷲敷農協に加入している農業従事者のうち、男105名、女105名の計210名について下記調査を実施した。年令は20才代から60才で平均男48.7才、女49.5才であった。 2)期間 昭和57年7月28日から7月31日までの4日間にわたり実施した。 3)調査項目 a)栄養摂取量 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査日の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するよう依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認したうえでグラム数に換算した。栄養素摂取量および食品群別摂取量などの算定には、国民生活センター(東京都港区高輪三丁目13の22)の電子計算機を使用した。 b)生活時間調査 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明瞭な点を再確認し、生活時間の推定を行った。消費エネルギーは、沼尻らの方法を用いた。各労作の活動代謝は以前の報告と同様の値を用いた。 c)味噌汁の塩分濃度 全研社製の食塩濃度計により塩分濃度を測定した。 d)栄養意識と食物摂取頻度 栄養意識と食物摂取頻度調査には各アンケート用紙を各自に配布、記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度説明した上で、各解答を得た。各表の作成には山上ら、藤沢ら、細谷らの方法を参考にした。
〈結果および考察〉 1)栄養摂取量 栄養摂取量を農耕従事者の1日あたりの栄養所要量に対する比率としてあらわすと図1の如く、基準量を充足しているのはエネルギー、蛋白質、動物性蛋白質、鉄、ビタミンB1、Cで、基準量以下のものは脂肪、動物性脂肪、カルシウム、ビタミンA・B2である。全エネルギーに占める糖質エネルギー比(CE/TE)は高く、それに反し全エネルギーに占める脂肪エネルギー(LE/TE)は低い。これは、典型的な農村的食物体を示しているが、調査期間が夏季であったことを無視することはできない。 2)年令別にみた栄養摂取量(図2〜8) 熱量は全世代を通じて所要量を上回っていたが(図2)、摂取エネルギーを生活時間調査から得られた消費エネルギーと比較すると男性では0.9、女性では0.95と消費エネルギーが摂取エネルギーを上回っていた(表1)。蛋白質は全年令を通じてほぼ充足されていたが(図3)、動物性脂肪では比較的低値を示し、とくに30才代、60才代で摂取量が低くなっていた(図4)。鉄は男女差が著しく、女性の摂取比率がかなり低くなっている(図5)。ビタミンA・B2は全世代を通じて所要量を下回っており、本調査における栄養素群の中で最も不足が目立っていた(図6、7)。全年令を通じて糖質エネルギー比は比較的高く、脂肪エネルギー比は低値を示した。 3)食品群別摂取量 鷲敷町住民の食品群別摂取量を、性、年令、身長、体重、労作強度を考慮した食糧構成基準を100%として比較すると(図9)、殻類、淡色野菜、海草類、乳製品の摂取が高く、また魚介類も比較的多くとっている。しかし油脂類、果実類、牛乳の摂取が低くなっていた。淡色野菜摂取の非常に高いのは、その内訳でほとんど西瓜で占められていたためと思われる。 4)年令別にみた食品群別摂取量(図10〜16) 食糧構成基準を100%として各食品群の摂取量を性別、年令別に比較すると、殻類は各年令層を通じて基準よりかなり高く男女差はみられなかった。油脂類については全年令とも低くなっていた。魚介類については鷲敷町が山間部に位置しているにもかかわらず全年令層で基準を上回っており、スーパーなどの進出による流通の改善が大きな要因をなしているものと思われる。これは鷲敷町において魚介類からの蛋白補給が重要な位置を占めていると考えられ、低脂肪で良質の蛋白質を含んでいるため、良い傾向と思われる。肉類および卵類については30才代と60才代の摂取が低くなっていた。緑黄色野菜については30才代、40才代での摂取が低く、これが先に述べたビタミンAなどの不足の大きな原因をなしているのではないかと考えられる。海草類は全世代を通じて高い値を示した。わかめがNaの吸収を阻害するという報告もあることより、高血圧予防のためにもよい習慣と思われる。牛乳の摂取は全世代を通じて著しく低く、カルシウム、ビタミン不足の改善のためにも牛乳摂取の増加が望まれる。 5)食品の摂取頻度のアンケート調査結果(表2) 調査が一日の栄養摂取であったため食生活の全貌をとらえるべく、アンケ−トによる食品の摂取頻度を調べてみた。頻度の平均値はその食品を一日何回食べたかを表している。米2.96回、漬物2.06回と食べる回数が多く米を中心とした農村独特の食形態であることがうかがえた。しかし、野菜、海草類は1.84回、0.67回と比較的頻繁に摂取されており望ましいことと思われる。少なくても1日1回摂取すべき肉類、乳製品は、0.41回、0.58回と前述の調査結果と一致して低く、栄養改善の面から摂取の増加が望まれる。 6)味噌汁の塩分濃度(図17) 大部分において標準値の1%を超えている。中には1.6%を超えるものがあり、アンケート結果からわかるように漬物の摂取頻度も高く、食塩摂取に対する栄養指導が必要であろう。 7 栄養に対する意識調査(図18) 栄養に対する意識をアンケートにより調査した結果、人参、ほうれん草などの緑黄色野菜をよく食べますかという質問に対して、半数以上が“はい”と答えているが、調査結果からは緑黄色野菜の摂取の低い結果になっている。
〈まとめ〉 調査時期が夏期であったが比較的バランスのとれた食生活がなされていた。しかし、ビタミンA・B2の不足がみられ、ピーマン、南瓜、人参などの緑黄色野菜、牛乳、肉を摂取することが必要であろう。また漬物や醤油の摂取頻度も高く、高血圧、脳卒中予防のためにも塩分摂取をひかえることが肝要と思われる。
文献 高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要,27,79,1981 沼尻幸吉:エネルギー代謝計算の実際、第一出版,1978 鈴木 健:公衆栄養、医歯薬出版,1981 藤沢良知ら:栄養指導ハンドブック、第一出版,1978 細谷憲政ら:公衆栄養活動の展開、第一出版,1977



















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