阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第27号
同和問題に関する意識調査

教育社会学班 

平木正直・原田彰・福田邦孝・高田稔

はじめに
 同和行政や同和教育が今日どこの市町村においても地域の課題としてきわめて重要な位置づけを与えられていることは、改めて言うまでもないことである。同和行政や同和教育は、同和地区の実態にもとづいて、とりわけ同和地区の人々の本質的な願いにもとづいて行われなければならない。そのためには、同和地区の実態を正確にとらえるとともに、同和地区の人々の願いを正しくとらえていく努力が、行政関係者や教育関係者に要請されている。それは、基本的には、日々の行政活動や教育活動のなかで行われる必要があるが、時には、調査という方法をとることも必要である。
 もちろん、調査といってもいろいろあるが、とくにアンケート調査のようなものだけで問題を十分にとらえることができるわけではない。アンケート調査は、同和問題解決のための活動の全体からみれば、ごく小さな部分を占めるにすぎない。しかし、アンケート調査は、同和問題解決のためのさまざまな活動に対して1つの参考資料あるいは反省資料を提供するという役割を多少なりとも果たすことができるのではないかと考えられる。
 ここでは、同和地区の人々を対象とする意識調査を実施することとした。

 

1 調査の概要
(1)調査対象
   上板町同和地区住民(満20歳以上)
(2)調査時期
   昭和55年8月2日〜8月8日
(3)調査方法
   調査票を8月2日に配布し、各自が記入したものを8月8日に回収した。
(4)回収率
   配布数282に対して、有効回収数159であった。有効回収率は56.4%である。
(5)回答者の性別・年令別構成
 表1のように、性別では男76人(47.8%)、女78人(49.1%)、不明5人(3.1%)となり、年令別では20〜39歳69人(43.4%)、40〜59歳70人(44.0%)、60歳16人(10.1%)、不明4人(2.5%)となっている。

 

2 調査結果の考察
 調査結果のなかから、とくに次の2点に限定して報告したい。
 1つは、上板町で昭和53年12月に町民を対象に実施された第2回同和問題意識調査の質問項目と同じ質問項目を今回の調査に取り入れて、一般町民と同和地区住民とでは、どのような意識の違いがあるかを見ようとするものである。
 もう1つは、同和地区の人々の同和問題に対する意見のうち、主要なものを取り出して、同和行政や同和教育について、1つの反省資料、検討資料を提供しようとするものである。
1. 町民対象の調査と今回の調査との比較
 まず、第1の点について調査結果を見てみよう。町民対象の調査のなかには、もちろん、同和地区の人々も含まれているが、しかし、それはきわめて少数だと考えられるので、一般町民と同和地区住民との比較というふうに考えてもさしつかえないであろう。なお、2つの調査時期がへだたっているという難点があるが、しかし、この点については、とくに問題になることはないのではないかと思われる。調査結果について、まとめて5つのことを指摘しておきたい。
(1)差別問題の認知
 「今日の日本の社会ではどんな差別が強く行われていると思うか」とたずねた質問項目について、町民全体と同和地区住民との回答を比較すると、図1のようになる。

ここには、差別問題に対する目の向け方の違いがあらわれている。同和地区では、居住地(どこに住んでいるか)ということに端的にあらわれる部落差別に目を向ける人が53.5%と過半数を占めるのに対して、一般町民の場合は、職業、学歴、家柄、貧富などといった、いわゆる「一般差別」的なものを重視する人が多くなっている。
(2)部落の起源
 部落の起源についてどの説が正しいかをたずねた質問項目をみると、図2のとおりである。

全体としてみると、「政治起源説」が町民全体61%、同和地区72.3%と多数を占めている。しかし、「人種起源説」が同和地区ではほとんど皆無といってよいのに対して、一般町民のなかには11%も存在しており、人種が違うといった全く根拠のない考え方が今なお根強くみられることに注目すべきである。
(3)同和地区の環境改善事業に対する意見
 同和対策事業、とくに環境改善事業に対する意見をみると、表2のようになる。

2つの調査であらかじめ設けた選択肢が同一でないという難点があるが、しかし、大体の傾向を知るうえで支障はないと思われる。こうした事業を「不公平だ」(24%)または「逆差別だ」(46%)とみる意見が、一般町民の場合非常に強くみられ、両者をあわせると70%に達する。一般町民のいわゆる「ねたみ差別」がきわめて根強いことがうかがわれるのである。
 これに対して、同和地区では、「地区外の必要な人にもおこなうべきである」という意見が35%とかなりの割合を占めているものの、それ以上に注目されるのは、「同和地区の環境改善をすることは、ひいては地区外もよくなることである」という意見が32%、つまり3分の1を占めていることである。このように、一般町民と同和地区住民の間には大きな意見の違いがみられるのであるのであるが、しかし、町全体のなかでは少数者(マイノリティ)としての位置づけしか与えられていない同和地区の人々のこうした意見は傾聴に値するものではなかろうか。
(4)学習会等への参加状況
 学習会、講演会、研修会などへの参加状況をみると、図3のとおりである。

「全然参加したことがない」と答えた人が、同和地区では15.1%に対して、町民全体では37%と非常に多くなっている。一般町民が学習会などに参加しようとしない傾向はきわめて強く、このこと自体、「さわらぬ神にたたりなし」という町民の同和問題に対する態度のあらわれといわねばならない。
(5)部落差別をなくす方法
 部落差別をなくす方法についてたずねた質問項目をみると、図4のようになる。

町民全体では「同和地区の人が差別を受けないようりっぱな人間になる」というのが35%と非常に多くなっていることに注目したい。この考え方は、部落差別の原因と結果を取り違えて「差別されるのは部落の人自身に悪いところがあるからだ」とみなし、「その責任は部落の人自身にあるのだから、彼らがりっぱな人間になるよう努めるべきだ」とするものである。
 これに対して、同和地区では、「みんなが同和問題について正しく理解・認識して、積極的に差別をなくすよう行動する」が33.1%と1番多くなっている。しかし、「地区の人がりっぱな人間になる」が18.8%と少なくない。これは、上述のような一般町民の考え方を受け入れた融和主義であると考えられる。また「同和地区の人を啓蒙して、差別しないよう教育をする」が、同和地区の方が相対的に多く、逆に町民全体では7%にすぎない。このように、一般町民は,自分自身が同和教育を受けねばならない存在であるとはあまり意識していないのである。
 なお、「同和地区の人が一定の地域にかたまって住まず、分散して住むようにする」と「みんなが同和問題のことを口に出さず、そっとしておく」は、町民全体では、それぞれ10%と12%であり、いわゆる「分散」論や「寝た子を起こすな」論の誤りを徹底させることが必要である。また「分散」論が同和地区で13.9%もある点については、居住地ということに端的にあらわれる部落差別の厳しさの反映としてとらえるべきであり、その底にある同和地区の人々の本質的な願いに目を向けなければならないであろう。
 以上、きわめて限られた質問項目にもとづいて、同和地区の人々と一般町民との間の意識の違いをみてきたが、実は、ここから、一般町民にとっての学習課題がいくつか浮き彫りにされてくるという事実に着目する必要がある。すなわち、部落差別といわゆる一般差別との関連、人種起源説の誤り、逆差別論の誤り、部落差別の原因と結果を取り違えた考え方の誤りなどについて、学習を深めていかねばならないのは、一般町民の方であるにもかかわらず、学習会などへの参加者は少ない、という厳しい状況がみられるのである。
 

2.同和問題に対する意見
 次に、同和地区の人々の同和問題に対する意見を主要な質問項目に限定して見ておきたい。
  まず、全体的な傾向としては、次のようなことが指摘できる。
(1)部落差別の現状に対する認知
 部落差別の現状について、同和地区の人々はどのように見ているのだろうか。表3によれば、「まだ差別は残っている」(59.7%)と「差別は強くなっている」(13.8%)をあわせると、73.5%とほぼ4分の3を占めている。「差別はなくなった」と答えた人はひとりもいない。差別がどこにあるかを具体的にたずねると、「恋愛・結婚」をあげた人が46人、「就職・職場」が16人、「住所」が5人、あとは無答となっている。このように、結婚差別を指摘する人が多い。


(2)同和対策事業に対する評価
 上板町で行われている同和対策事業をどのように評価しているかをみると、表4のとおりである。

「充分である」と答えた人が56.6%と半数を超えているが、しかし、「不充分である」と答えた人も32.1%と決して少なくない。不充分なところとして、具体的には、「車がはいらない道路」、「排水施設ができていない」、「ゴミ処理の問題」などがあげられている。
 なお、年令別にみると、20〜39歳では「充分である」が71.0%と多数を占めているのに対して、40〜49歳、60歳以上では「不充分である」がかなり多くなっており、年令による評価の差があらわれている。
(3)環境改善事業に対する意見
 全体的な傾向については、すでに表2で見たとおりである。年令別にみると、20〜39歳で「同和地区の環境改善をすることは、ひいては地区外もよくなることである」が23.2%とやや少ない傾向がみられる(表5参照)。


(4)同和対策事業と同和問題の解決
 「同和対策事業によって同和問題が解決されつつあると思うか」とたずねたところ、表6のようになった。

「解決にむかって進んでいる」と「解決の役に立っていない」がほぼ同じ割合を占めているが、「どちらともいえない」が半数に近い。質問の意味が十分理解されなかったこともあると思われるが、環境改善事業を中心にした同和対策事業という形のものだけでは同和問題の解決につながらないという気持もあらわれているのではなかろうか。それは、結婚問題などを考えてみれば、うなづけるように思われる。
(5)町職員・小中高教師に対する評価
 同和問題に本気でとりくむ上板町職員や小中高教員がふえたかどうかをたずねると、表7のようにな った。

「ひじょうにふえてきた」と答えた人は、町職員・小中高教師のいずれの場合も、8%程度である。「あまりふえていない」と「まったくふえていない」をあわせると、町職員の場合44.0%、小中高教師の場合31.5%となり、町職員に対する評価の方がやや厳しいように思われる。
(6)学校同和教育への要望
 学校同和教育ではどんなことに力を入れるべきかについて、あらかじめ設けた項目のなかからいくつでも選んでもらった。表8によれば、「学校で学んだことを家庭で子どもが親と話しあうようにする」が52.2%と半数を超える人々によって選ばれている。

学校同和教育と家庭同和教育との一致協力への切なる願いがこめられているのではなかろうか。次に多いのは、「部落の歴史を生徒に学ばせる」と「地域懇談会などを通じて教師自身が部落の実態に学ぶ」の2つであり、いずれも40.9%となっている。
(7)部落差別解消への展望
 「部落差別はなくなると思うか」とたずねたところ、表9のような結果を得た。

これによると、44.0%、つまり半数近くの人が「努力してもなくならない」と答えていることが注目される。「自然になくなっていく」は8.8%と少数であり、「努力すればなくなる」(29.0%)とあわせても、「なくなる」と答えた人は37.8%と4割に満たない。このきわめて悲観的な見通しは、部落外の人々が差別意識を克服して差別をなくしていかない限り、明るい見通しに変わることのできないものなのではなかろうか。
 年令別にみると、20〜39歳で「努力してもなくならない」と答えた人が53.6%と半数を超えている点に着目しておきたい。
(8)解放運動への態度
 「上板町で行われている部落を解放する運動についてどう思うか」とたずねてみた。表10によれば、「もっと運動する必要がある」と答えた人が49.1%とほぼ半数を占めている。

「運動などしなくてもよい」といった考え方をする人は19.5%となっており、比較的少ない。このように、解放の見通しについてきわめて悲観的であるにもかかわらず、というよりもむしろ、こうした見通ししかもてないだけになおさら、多くの人々が運動を一層強化する必要を感じているのである。
 なお、年令別にみると、とくに大きな差があるわけではないが、20〜39歳で「もっと運動をする必要がある」と答えた人が42.0%とやや少ない傾向がうかがわれる。
 以上、8つの質問項目に限定して調査結果を見てきた。
 この調査の結果については、性別・年令別の集計を行なっているが、性別による差はほとんどみられなかった。しかし、すでにみたように、年令別による差は、人数が少ないのではっきりした傾向はとらえにくいものの、微妙にあらわれているように思われる。そこで、くりかえしになるが、年令別にみた調査結果についてまとめておきたい。
 今述べたように、人数が少ないため、年令をこまかく分けて考察することができない。それで、一応、20〜39歳、40〜59歳、60歳以上という、やや大ざっぱな分け方をしてみた。20〜39歳は戦後育ちの世代、40〜59歳は戦前の世代、あるいは少なくとも戦前の時代を多少なりとも経験した世代ということになる。こうしたきわめて大まかな分け方でとらえた場合、とくに注目されるのは、20〜39歳という戦後世代の人々の意識が特徴的だということである。たとえば、「同和対策事業に対する評価」(表4)をみると、「充分である」と答えた人が20〜39歳では71.0%と非常に高率であり、40〜59歳で「不充分である」が41.4%を占めているのと対照的である。「環境改善事業に対する意見」(表5)で、「同和地区だけでなく、地区外の必要な人にもおこなうべきである」と「同和地区の環境改善をすることは、ひいては地区外もよくなることである」という2つの意見のどちらを支持する人が多いかをみると、20〜39歳は39.1%と23.2%、40〜49歳は31.4%と41.4%となっており、それぞれの割合が逆になっている。とくに「地区外もよくなる」という考え方が20〜39歳に少なくなっているのである。
 また「部落差別解消への展望」(表9)をみると、「努力してもなくならない」と答えた人が40〜59歳の38.6%に対して20〜39歳は53.6%と半数を超えている。このように、20〜39歳に悲観的な見方をする人がとくに多くなっているのである。このことと関連して、「解放運動への態度」(表10)をみると、「もっと運動する必要がある」と答えた人が、40〜59歳では55.7%と半数を超えているのに対して、20〜39歳では42.0%と半数に満たないのである。
 以上のように、人数が少ないので確定的なことはいえないとしても、同和地区の20〜39歳という若い層の人々のこうした意識の特徴は、現在の同和行政や同和教育に対して深い反省を迫るものといわねばならない。それと同時に、解放運動の側からも、若い層の人々の意識の点検が必要となっているように思われる。

 

おわりに
 今回の調査のなかには、この報告で取り上げなかった部分がまだ残されているが、別の機会に公けにしたいと考えている。ここで報告した結果だけからみても、部落差別解消のためには、なお一層の努力を要する困難な問題が私たち自身の内部にも周辺にも厳存していることが明らかである。同和問題の正しい理解と差別意識の克服のためには、私たちが取り組まねばならぬ学習課題はきわめて多い。とくに社会啓発活動を一層積極的に展開する必要がある。上板町でも、訪宅実践の試みが行われつつあると聞く。明日の上板町が明るいことを祈らずにはいられない。


徳島県立図書館