阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第26号
池田町の植生

生物学班 

    友成孟宏・森本康滋・石井愃義

1.はじめに
 池田町は徳島県の西北端、香川県・愛媛県に接した地域で、面積は県下50市町村のうち8番目に広い。北には讃岐山脈が、南には四国山地がひかえており、四国山地を源とする吉野川が町境に沿って北流し、町内で流路をかえ、中央構造線にそって、東へ流れている。山地はよく利用されており、特に祖谷川・松尾川流域及び、それ以南の地域にはスギ・ヒノキ植林が多く見られる。町全域にわたって代償植生がほとんどを占めている。自然・半自然植生としてはモミ林、シラカシ林、湿原などが小面積点在しているにすぎない。
 われわれは、昭和54年7月23日から7月31日までの8日間にわたって、植生調査を行い、これと平行して1/5万の地形図上に現存植生図を作成した。
 調査期間が少なかったため、所期の目的は十分に達せられなかったが、調査できた範囲内で報告する。
 この報告をまとめるにあたり、この調査にご協力いただいた池田町、県当局の方々に謝意を表します。

 

2.自然環境
 1)地形・地質 池田町東部、吉野川以北は讃岐山脈から出た南北に走る海抜約700mの尾根で三好郡三好町と、そして吉野川以南は三好郡井川町と五ノ丸山(822.6m)など約700〜1,200mの山で接している。西部は香川県三豊郡大野原町、愛媛県川之江市と約500〜930mの連山で、また西南部は三好郡山城町と吉野川をはさんで接している。南部は三好郡西祖谷山村と中津山(1446.4m)などの山々や祖谷川、松尾川などで接している。北部は香川県観音寺市、三豊郡財田町、山本町と讃岐山脈の中蓮寺峰(753m)、若狭峰(786.8m)など約550〜790m、の山々で接している。
 吉野川には町内を東流してきた馬路川が白地で、西祖谷山村から町内に流入してきた祖谷川が祖谷口でそれぞれ合流する。吉野川本流は山城町との境を北流して町内に入るが、イタノ付近から東へ方向をかえている。
 本町の平野部はこの吉野川が方向をかえた所に、ごくわずか広がっているにすぎない。
 中央構造線が吉野川、馬路川ぞいに東西に走り、北には中生界の砂岩、頁岩、礫岩を中心とする和泉層群があり、南には古生界の三波川帯の結晶片岩類が分布している。
 2)気候 本町の年間降水量は1,554mmで、県下では少ない方である。

また気温は海岸から内陸部に移行するにつれて、漸次低くなる傾向がある。鳴門市では年間平均気温は16.0℃であるが、池田町では15.1℃となっており、約0.9℃低い。吉良は温量指数(※)を用いて、日本の植物帯を180〜85m.d.は暖温帯林、85〜(55)45m.d.は冷温帯林であるとした。
 本町(34.1N、133.48E 240m)の温量指数を算出すると122.7m.d.で、暖温帯林であることがわかる。
 次に任意地点の月別気温の推定法(気象庁技術報告第2号 1960年)により、雲辺寺山(920.7m)と中津山(1446.4m)の平均気温を推定し、温量指数をだすと、中津山は57.5となり、冷温帯林。雲辺寺山は81.6となり、冷温帯林と暖温帯林の境界に近いことがわかる。このような地域は暖温帯林から冷温帯林への推移帯と呼ばれ、中間温帯林(モミ・ツガ林)が成立することが知られているが、雲辺寺山はこれにあたるものと思われる。

 ※月平均気温が5℃より高い月の〔月平均気温−5℃〕の総計。

 

3.植生概観
 本町の土地利用状況は表2のとおりである。林野面積が全体の82.3%を占め、うちスギ・ヒノキ植林が41.6%である。耕地面積は5.4%しかないが、山の傾斜地を利用した段々畑があり、特に雲辺寺山下の水谷などを中心に、高冷地野菜の栽培が盛んである。又山地を利用してのクリ園が0.8%の135haもある。森林としては出合を通る東西の線より北にはアカマツ林が多く分布し、南にはコナラ林、スギ・ヒノキ植林が多く見られる。
 急傾斜地の谷ぞいにはシイ・カシ萌芽林が発達している。中津山のような海抜1,000m以上のところではかつて自然林としてのブナ林があったが、今はスギ・ヒノキ植林に化しており、所々代償植生としてのシロモジ林が残されている。

 

4.調査方法
 植生調査は Braun-Blanquet(1964)の方法に従い、各群落を代表すると思われる所で、できるだけ均質な場所を選び、最小面積以上(1〜400平方メートル)になるよう調査区を設けた。そして、その中に出現する羊歯植物以上の植物について階層別(I〜IV層)に被度・群度の測定を行った。
 Ellenberg のテーブル操作法(1974年)によって、各群落識別種群を引きだし、総合常在度表を作成した(付表−1)。
 また、池田町全域について1975年撮影の航空写真で群落を判別し、1/5万地形図上に記録し、現地調査で修正・確認をして、現存植生図を作成した(付図−1)。植生区分は後記のように、景観による区分として100×100平方メートル以下の群落については表記を省いた。

 

5.調査結果と考案
 踏査コースは、讃岐山脈の雲辺寺山、野呂内谷、西山牧場方面、馬路川沿いに香川、愛媛両県境付近、吉野川周辺、漆川、黒沢湿源、松尾川及び祖谷川流域、中津山方面で、本町の主な山地と各谷を含む。そして、各地域において、計62地点で植生調査を行った。踏査コースと調査地点を図1に示す。

 池田町の植生区分
 本町を調査した結果、下記の群落が区分できた。
1 自然・半自然植生、
 1)モミ群落、2)ヨシ群落、3)シラカシ群落
2 代償植生
 4)シロモジ群落、5)アカマツ群落、6)コナラ群落、7)シイ・カシ萌芽林、8)サワグルミ群落、9)伐跡群落、10)牧草地
3 植林地植生・耕作地植生・その他
 11)スギ・ヒノキ植林、12)クヌギ植林、13)竹林、14)果樹園、15)桑園16)水田、17)畑地、18)裸地
  1 自然・半自然植生
 1)モミ群落
 群落識別種 モミ、ヒイラギ、アカガシ、カマツカ、ユズリハ、イヌガヤ、コシアブラ、ツタ 平均出現種数42.8種
 本県の気候極相としては海岸から500〜600m付近までは暖温帯のシイ林が、海抜1,000m以上は冷温帯のブナ林が、中間の推移帯にはモミ・ツガ林が発達する。


 雲辺寺山頂付近は推移帯に属し、海抜830〜870m付近に樹高25mもあるモミ群落が見られる(付表−2)。
 主な構成種として、高木層にモミ、ウラジロノキなど、亜高木層にシラカシ、コハウチワカエデ、ミズキなど、低木層にシラカシ、コハウチワカエデ、シロダモ、コバノミツバツツジ、ケクロモジ、ヤマウルシ、ヒイラギ、ハイノキ、シロモジなど、草本層にツルリンドウ、カナクギノキ、ミヤマシキミ、コバノフユイチゴ、タンナサワフタギなどが見られる。組成的には暖温帯(ヤブツバキクラス域)のアカマツ群落種群のソヨゴ、ネズミモチ、コバノガマズミ、ヤブコウジ、ヤマツツジなどや、冷温帯(ブナクラス域)の要素のケクロモジ、シロモジ、コハウチワカエデ、ミヤマシキミなどが混生している。また、ツガ−ハイノキ群集にみられるハイノキが識別種として存在している。このことは本来ツガ−ハイノキ群集であったものから、何らかの原因によりツガが欠除したことを示すものではないかと思われる。雲辺寺は延暦8年(789年)に開創され、四国霊場第66番札所として栄えたため、自然景観が大切に保護されてきた。しかし、最近車道ができ、自然林も少しずつ影響を受けつつある。
 2)ヨシ群落
 群落識別種ヨシ、ミズオトギリ、ニョイスミレ、アシボソ、ヒメシダ、イヌコウジュ、イ 平均出現種数7.0種
 池田町漆川に見られる黒沢湿原は海抜550mの沼沢盆地にある。このような湿原は高層湿原、中間湿原、低層湿原と大別されているが、本町の湿原は低層湿原であり、ヨシクラスの群集に属する。


 すでに徳島県自然保護協会調査報告書第1号の中に森本により詳しい植生図が報告されている。その中で17の群落区分があるが、今回はヨシ群落のみについて報告する(付表−3)。
 草丈2.5mのヨシが密生し、植被率100%である。主な出現種はヨシ、ミズオトギリ、ニョイスミレ、アシボソなどである。
 周辺はアカマツ林で、乾燥化している。
 自然保護協会の提言(湿原の水の供給源確保、オオミズゴケの保護、湿原の乾燥化防止等)に従って、今後共保護してほしい。
 3)シラカシ群落
 イケミナミの八幡神社の社叢として小面積残されている。このシラカシ林は残された暖温帯の自然林として大変重要で、この地域の潜在植生を知る大きな手がかりになる。


 調査区数1なので、以下結果を記録する。
1979年7月31日、海抜210m、方位N20度E、傾斜15度調査面積10×15平方メートル
高木層(15m) シラカシ 5・3  コジイ 2・1  ツタ +
 
亜高木層(8m) ヤブツバキ 1・1  コジイ 2・1
  ヤマハゼ +  マメヅタ +
低木層の1(4m) テイカカズラ +  ヒノキ 1・1
  ヤマウルシ +  マメヅタ +  エゴノキ +
  シラカシ +
低木層の2(2m) コジイ 2・2  ネズミモチ +  ナツヅタ +
  ヒノキ +  ヤブツバキ +  リョウブ +
  シロダモ +  ナツフジ +  サカキ +
  コバノガマズミ +  フジ +  カナメモチ +
  エゴノキ +  マメヅタ +  アオキ +
  ソヨゴ +  クスノキ +  タカノツメ +
  イヌビワ +  カクレミノ +
草本層(0.8m) テイカカズラ 1・1  シラカシ 1・1
  ヤブコウジ +  ナツヅタ +  フユヅタ +
  イヌビワ +  コヤブラン +  サルトリイバラ +
  リンボク +  フユイチゴ +
  ナガバジャノヒゲ +  コウヤボウキ +
  ツタ +  チヂミザサ +  ヘクソカズラ +
  サカキ +  リョウブ +  ベニシダ +
  ヤマノイモ +  ヒサカキ +  イノコズチ +
  ナワシログミ +  アオキ +  タカノツメ +

  2 代償植生
 4) シロモジ群落
 群落識別種 テンニンソウ、タガネソウ、ゼンマイ、ショウジョウバカマ、コナスビ、ヒコサンヒメシャラ、ミヤコザサ、カジカエデ 平均出現種数 34.6種
 中津山山頂付近(1,420〜1,435m)はかつてブナの自然林であったが、伐採により二次林のミロモジ群落となっている。


 上層は高木層を欠き、樹高約8mでコハウチワカエデ、リョウブ、シロモジ、ネジキなど、ブナクラス域の標徴種が多くみられ、低木層の樹高は約4mで、シロモジアオハダ、アワノミツバツツジなどがみられる。樹高が低いため、光量も多く草本層にはタガネソウ、テンニンソウ、ヤマカモジグサ、チャイトスゲ、シコクトリアシショウマ、イシヅチウスバアザミなど数多くの種がみられる(付表−4)。
 5)アカマツ群落
 アカマツ群落は本町の出合を通る東西の線以北に多く分布しており、今回は馬場西、西山牧場下、大西山の3か所で15スタンド調査した。テーブル操作した結果、大きく3つの群落に区分することができた(付表−5)。
 平均出現種数 44.7種

 5)−I オンツツジ群
 群落識別種 オンツツジ、ネズミモチ、アセビ 平均出現種数 23.4種
 馬場西でみられたアカマツ群落である。山城町において著者らはアカマツ−オンツツジ群集を発表した(1978年)が、本町でも同じような種構成のアカマツ群落を見い出した。
 構成種として、高木層にアカマツ、亜高木層にヤマウルシ、ネジキ、ネズミモチ、ソヨゴ、カゴノキ、リョウブ、オンツツジ、低木層にオンツツジ、ヤマウルシ、アセビ、草本層にシシガシラ、ノブドウ、ツルリンドウ、ヤブコウジなどがみられる。
 5)−II ワラビ群
 群落識別種 ワラビ、ヤマザクラ、ミツバアケビ、ヘクソカズラ、チヂミザサ、ノリウツギ 平均出現種数 55.4種
 この群落はワラビ、ミツバアケビ、ヘクソカズラ、チヂミザサのような草本の識別種により区分されたアカマツ群落である。このことは林内が明るく、採草、その他人工が極度に加わった林であることを示している。そして更に2つに下位区分される。
 5)−II−A ススキ亜群
 群落識別種 ススキ、シハイスミレ、ネザサ、リンドウ、ニガナ、アリノトウグサ、ナキリスゲ、ノイバラ、テリハノイバラ、クマイチゴ、ノガリヤス、
 平均出現種数 42.2種
 西山牧場近く(760m)にあり草本層の植物がよく採草されている。従って亜高木層、低木層がなく、ススキ、ネザサ、シハイスミレ、ワラビ、リョウブ、シシガシラ、ツルリンドウ、ノイバラ、アリノトウグサ、ヘクソカズラなどが草木層に出現する林である。


5)−II−B ヤマナラシ亜群
 群落識別種 ヤマナラシ、イヌシデ、カナクギノキ、コハウチワカエデ、シロモジ、イタヤカエデ、ウリハダカエデ、チャイトスゲ、ツタウルシ、ハリギリ、ウツギ、オカトラノオ、アワノミツバツツジ、ブナ、アズサ、アオハダ、エゴノキ、ヤマジノホトトギス、エイザンスミレ、コシアブラ、イワガラミ、ミズキ、タンナサワフタギ、サンカクヅル、ヒヨドリバナ、ウラジロノキ、サンショウ、ツルウメモドキ、モリイバラ、アカシデ、ヤマグワ、マツブサ、ヤブレガサ、コミヤマスミレ、ニオイイバラ 平均出現種数 66.4種
 中津山北の大西山(970m)山頂付近のアカマツ林は冷温帯に近い所で、発達しているアカマツ群落である。

 識別種群にヤマナラシ、イヌシデ、カナクギノキ、コハウチワカエデなど、ブナクラスの種が出現する反面、ワラビ群の識別種を含み、平均出現種数が多く、林としては人工の加わったものであることがわかる。アカマツの樹高は13〜18mもあり、胸径も55〜72cmであった。
 構成種として、高木層にアカマツ、ヤマナラシ、亜高木層にリョウブ、イヌシデ、カナクギノキ、アズサ、イタヤカエデ、低木層にシロモジ、マツブサ、アオハダ、コハウチワカエデ、イヌシデ、ガマズミ、草本層にウリハダカエデ、ツタウルシ、エイザンスミレ、チャイトスゲ、マツブサ、ミツバアケビ、ナンカイアオイ、ワラビなどがみられる。
 6)コナラ群落
 コナラ林は一般に山腹の比較的乾燥した所に出現するが、本町の場合敷ノ上、西山浜、中津、中西の上、出合、祖谷渓の上、大西山下等に出現する。今回は大西山下と敷ノ上の2か所で調査し、テーブル操作した結果、大きくアラカシ群とシロモジ群に区分することができた(付表−6)。
 この群落は全国的にはイヌシデ−コナラ群団に属すると考えられる。
 平均出現種数 51.7種
 6)―I アラカシ群
 群落識別種 アラカシ、クヌギ、ネムノキ、ヤマハゼ、ナナミノキ、イヌビワ、ナツフジ、ナンテン、ネズミモチ、コウヤボウキ、コヤブラン、チヂミザサ、シュンラン、ヤマコウバシ、コバノガマズミ、ナワシログミ、ヒメドコロ、カマツカ、スイカズラ、マルバウツギ、ムラサキシキブ、ヤマイタチシダ、ヤマカモジグサ、ケスゲ、ザイフリボク、トキリマメ、カニクサ、オオカモメヅル、ツタ、ヒサカキ、クズ、ヤブムラサキ、ニシキギ、フジ、シュロ、ヤブニッケイ、カエデドコロ、ヤブコウジ、ジャノヒゲ、ヌルデ
 平均出現種数 55.0種
 敷ノ上の谷筋に近い海抜150〜160mの所にみられ、アラカシを含んでいる。またクヌギを含んでいることから、クヌギ−コナラ群集に属するものと思われる。
 主な構成種として、高木層にクヌギ、コナラなど、亜高木層にネムノキ、ヤマハゼ、クリなど、低木層にアラカシ、ナワシログミ、イヌビワ、ナンテン、ナナミノキ、ムラサキシキブなど、草本層にナンテン、ネズミモチ、ツタ、ヒサカキ、コヤブランなどがみられた。


 6)−II シロモジ群
 群落識別種 シロモジ、エゴノキ、カナクギノキ、ノリウツギ、ガマズミ、イタヤカエデ、イヌツゲ、タンナサワフタギ、シシガシラ、ツルリンドウ、シコクトリアシショウマ、ゼンマイ、クリ、イチヤクソウ、リョウブ、フタリシズカ、ナガバモミジイチゴ、タチツボスミレ、モリイバラ、ホウチャクソウ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、ウラジロノキ、モミジドコロ、ヤマジノホトトギス、エイザンスミレ、ホソバナルコユリ、シモバシラ、アオツヅラフジ 平均出現種数 48.4種
大西山の下、950〜960mの所にみられたもので、クリ、エゴノキ、ヤマザクラなどを含むことから、クリ−コナラ群集に属するものと思われる。この群落は中間温帯林であり、ブナクラス域構成種のタンナサワフタギ、イヌツゲ、コハウチワカエデなどがみられる。


 主な構成種として、高木層にコナラ、クリ、カナクギノキなど、亜高木層にカナクギノキ、ヤマザクラ、ヤマフジなど、低木層にノリウツギ、イタヤカエデ、タンナサワフタギなど、草本層にシシガシラ、ツルリンドウ、ゼンマイ、ヤマシロギクなどが見られる。
 7)シイ・カシ萌芽林
 群落識別種 アラカシ、コジイ、ハゼノキ、サカキ、ヤブツバキ、マメヅタ、ホソバトウゲシバ、リンボク、コツクバネウツギ 平均出現種数 22.5種
 出合の東、松尾川沿いの海抜190mの地点で調査した。傾斜は55度で、露岩がある場所である。シイ・カシ萌芽林はこのような谷ぞいの急斜面に分布している場合が多く、シイの自然林を伐採した後に生じた代償植生である。


 かつては薪炭林として利用していたが、現在はほとんどが放置された状態である。
 主な構成種として亜高木層にアラカシ、コジイ、ハゼノキ、エゴノキなど、低木層にヤブツバキ、リョウブなど、草本層にマメヅタ、シシガシラ、リンボクなどがみられ、他の群落に比べて出現種数は少ない(付表−7)。
 8)サワグルミ群落
 松尾川から不自由への林道の途中の谷ぞいにあり1か所調査した。
 群落構成は次のとおりであった。
  1979年6月17日、海抜450m、方位S70度W、傾斜20度、調査面積15×15平方メートル
高木層(17m)植被率80% サワグルミ 5・4  オニグルミ 1・1
亜高木層(8m)植被率20%
 イヌガヤ 2・1  サワグルミ 1・1  アケビ +  ヤマフジ +  イワガラミ +  ネムノキ +  サルナシ +  ツヅラフジ +
低木層(4m)植被率40%
 ヤマグワ  ウツギ 1・1  チドリノキ 1・1  ガマズミ +  アケビ +   ノブドウ +  アオキ +  スイカズラ +  シロダモ +  サンショウ +  ニワトコ +  ノキシノブ +  ヤマブドウ +  エゾエノキ +  コウモリカズラ +  サルナシ +  ケヤキ +
草本層(0.8m)植被率95%
 イヌガヤ +  アケビ +  ノイバラ 1・1  クサイチゴ 4・4  ヤマアイ 3・2  ヤマトウバナ +  マツカゼソウ +  リョウメンシダ 2・2  ジュウモンジシダ +  サワギク +  ダンコウバイ +  コアカソ +  クマイチゴ +  アオキ +  ニワトコ +  ミズヒキ +  イトスゲ +  フキ +  ケヤキ +  ヤブヘビイチゴ +  ヤマアザミ +  ツルウメモドキ +  チヂミザサ +  フタバアオイ 1・2  ヤマシロギク +  ヤマヤブソテツ +   アキチョウジ +  ウマノミツバ +  ヌリワラビ +  モミジカラスウリ +  ノブドウ +  シロダモ +  イタドリ +  ボタンヅル +  イワガラミ +  コボタンヅル +  ヤマムシグサ +  オオバノハチジョウシダ +  コナスビ +  アオイスミレ +  モミジガサ +  コカンスゲ +  ジャノヒゲ +  サイコクイノデ +  オカタツナミソウ +  ヒメドコロ +  マユミ +  エビネ +  ツヅラフジ +
 9)伐跡群落
 群落識別種 ヌルデ、ツユクサ、センニンソウ 平均出現種数 19.4種
 敷ノ上のコナラ林のすぐ東側にある伐採跡で調査したもので、アラカシ、クヌギなどのコナラ林にみられる種を見い出すことができるので、以前はコナラ林であったと思われる(付表−8)。
 主な構成種は、草本層にアラカシ、ヌルデ、ナツフジ、ケスゲ、タラノキ、クヌギ、ノイバラなどがみられた。


 10)ススキ群落
 群落識別種 ヘラオオバコ、ブタナ、ハルガヤ、アカツメクサ、ヒメハギ、シバ、シラゲガヤ 平均出現種数 12.2種
 西山牧場で調査したもので、2m近いススキが、所々小班状にみられる(付表−9)。
 まわりはアカマツ林である。
 ススキ群団標徴種としてのススキ、トダシバがあり、この牧草地はネザサ−ススキ群集に属すると思われる。
 主な構成種はススキ、ブタナ、ハルガヤ、アカツメクサ、トダシバ、ヒメハギ、シバ、シラゲガヤである。


 3 植林地植生・耕作地植生・その他
 11)スギ・ヒノキ植林
 本町全域にわたって植林はあるが、特に町の南部に広くみられる。
 四国山地は讃岐山脈より、雨量が多いので植林の生長もよいようである。
 12)クヌギ植林
 井ノ久保西の上部、海抜500m付近の道路ぞい、その他小面積ずつであるがみられる。
 13)マダケ林
 群落識別種 マダケ、ミツバ、オニドコロ、ドクダミ、ムラサキカタバミ、ジャノヒゲ、セントウソウ、キヅタ、ケマルバスミレ、ヒオウギズイセン、イラクサ 平均出現種数 26.4種
 竹林は中津以東の吉野川ぞいに分布している。中津でマダケ林の調査をした。
 マダケの高さ約11m、竹林の中には群落識別種及びイタドリ、コヤブラン、チヂミザサ、ノブドウなどが見られた(付表−10)。
 洪水により上流より流されてきたと考えられる(ジャノヒゲ、イラクサ、ウバユリ)も生育している。


 14)果樹園
 山腹を利用してクリ栽培(135haで105t/年)が盛んである。その他柿、ビワ、ナシ、ウメ、柑橘類の栽培も行われている。
 15)桑 園
 東州津を中心に桑園がある。
 16)水 田
 平地部が狭いため、山の傾斜地を利用した段々畑状の水田が可成りみられ、町全体で848haある。
 17)畑 地
 海抜が700m位までの山の斜面を中心に畑地が広がっており、高所では高冷地野菜栽培が行われている。主な作付種は大麦、小麦、裸麦などを含む麦類、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、カボチャ、スイカ、エンドウ、トウモロコシ、キャベツ、ハクサイ、レタスなどの野菜類である。
 18)裸 地
 正夫、影野、漆川方面の道路ぞいに見られる。

 

6.提 言
 潜在植生を知る意味からも、自然林として八幡神社のシラカシ林、雲辺寺山のモミ林などの現状保護を今後共維持してほしい。

 

7.摘 要
 1979年7月23日〜7月31日までの8日間、池田町の全域の植生調査を行い、1/5万の地形図に現存植生図を描いた。そして各植生単位毎に現地調査をした。
 その結果、次のような群落が明らかになった。
1 自然・半自然植生
 1)モミ群落、2)ヨシ群落、3)シラカシ群落
2 代償群落
 4)シロモジ群落
 5)アカマツ群落
  I オンツツジ群
  II ワラビ群
   Aススキ亜群
   Bヤマナラシ亜群
 6)コナラ群落
  I アラカシ群
  II シロモジ群
 7)シイ・カシ萌芽林
 8)サワグルミ群落
 9)伐跡群落 10)牧草地
3 植林地植生・耕作地植生・その他
 11)スギ・ヒノキ植林
 12)クヌギ植林 13)マダケ林
 14)果樹園 15)桑園 16)水田
 17)畑地 18)裸地

 参考文献
 1)気象庁(1972):全国気温・降水量・月別平年値表 観測所観測(1941〜1970)
気象庁観測技術資料第36号、167〜169
 2)小林秀雄(1971):雲辺寺山とその周辺の植物、1〜30
 3)鈴木時夫(1966):日本の自然林の植物社会学体系の概観 森林立地8、1〜12
 4)鈴木兵二・豊原源太郎(1976):滄浪園周辺の植生、漕浪園総合学術調査研究報告、129〜145 広島県名勝滄浪園緊急調査団
 5)中国・四国農政局徳島統計情報事務所(1978):徳島農林水産統計年報(1976〜1977)、4〜173
 6)友成孟宏・森本康滋・石井愃義(1978):市場町の植生、郷土研究発表会紀要第25号、55〜69、阿波学会・徳島県立図書館
 7)豊原源太郎(1973):マツ林の植物社会、佐々木好之編、生態学講座4、植物社会学、48〜53 共立出版
 8)豊原源太郎・鈴木兵二(1975):厳島(宮島)と本土とのアカマツ林の比較研究、厳島の自然―総合学術調査研究報告、119〜132 天然記念物弥山原生林・特別名勝厳島緊急調査委員会
 9)Braun-Blanquet、J.(1964):Pflanzensoziologie、Grundz■ge der Ve-getationskunde(鈴木時夫訳:l976:植物社会学I、II)
 10)宮脇 昭編(1967):原色現代科学大事典3.植物、33〜200 学研
 11)宮脇 昭(1978):日本植生便覧、69〜202 至文堂
 12)Mueller-Dombois、D. and H. Ellenberg(l974):Aims and Methods of Vegetation Ecology、1〜547
 13)森本康滋(1973):脇町の植生、郷土研究発表会紀要第19号、1〜13 阿波学会・徳島県立図書館
 14)森本康滋・友成孟宏・他(1975):神山町の植生、郷土研究発表会紀要第22号、23〜35 阿波学会・徳島県立図書館
 15)森本康滋・友成孟宏・他(1977):山城町の植生、郷土研究発表会紀要第24号、21〜34 阿波学会・徳島県立図書館
 16)森本康滋・他(1974):黒沢湿原の植生、徳島県自然保護協会調査報告書第1号、黒沢湿原、18〜24 徳島県自然保護協会
 17)山中二男(1979):日本の森林植生、1〜189 築地書館
 18)吉岡邦二(1948):日本松林の群落型と発達について生態学研究11、204〜216


徳島県立図書館