阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第25号
市場町の薬用植物分布調査

生薬班

  村上光太郎・里見昌彦・大矢奈保美・ 

  岡本三千代・小牧裕子・田辺恵利子

〈目 的〉
 市場町は吉野川中流の北岸にあり、南は吉野川をはさみ川島町に、西は阿波町に、東は土成町に、北は阿讃山脈の中央部で香川県に接する位置にあり、土地は乾燥しがちで植生も乾燥地を好むものが多くなる傾向がある。過去に近隣の脇町の民間薬調査を行っているので、使用している(または知っている)民間薬と自生の薬草との関係を調べ、また以前に調査した牟岐町の薬用植物の分布との比較を見ることを目的とした。
〈調査方法〉
 調査コースの沿道に自生している植物をできるだけすべて記録し、その周辺に分布している量を調査した。分布量は、その周辺に見られる数が5株以下のものを(+)、6株以上〜10株以下のものを(■)、11株以上のものを(■)として記載した。
〈調査日と調査地域〉
 昭和53年7月24日から7月26日の3日間調査した。調査地域は以下のようになっている。

 24日 A班 切幡寺周辺
    B班 遠光から沢登り
    C班 市場町役場→下喜来→大俣→法満寺
 25日 A班 城王山一法満寺
    B班 犬墓→野開→座主→遠光
    C班 仁賀木から沢登り
 26日 A班 金清谷
    B班 境目→大影
    C班 為後→大平


〈整理方法〉
 調査によって確認されたすべての植物について、文献により薬効の有無(薬効・薬用部位)を調べた。使用した文献は、「和漢薬、赤松金芳著」「和漢薬用植物、刈米達夫・木村雄四郎共著」「薬用植物辞典、村越三干男著」「薬用植物図説、村越三千男著」「民間薬用植物誌、梅村甚太郎著」「原色日本薬用植物事典、伊沢凡人著」「徳島県の薬草、村上光太郎著」である。


〈結 果〉
 結果は表に示すようで、薬用植物の総数は89科242種であった。
〈考 察〉
 市場町に自生している薬用植物を牟岐町に自生している薬用植物と比べて見ると、アオツヅラフジ、アカネ、アカメガシワ、アキノタムラソウ、アザミ、アセビ、イタドリ、イチヤクソウ、ウツボグサ、オオバコ、オトギリソウ、ガガイモ、カタバミ、カキドウシ、カニクサ、カヤ、カラスウリ、カラムシ、キカラスウリ、キランソウ、キンミズヒキ、クサギ、クサスギカズラ、クズ、クヌギ、クロモジ、クワ、ゲンノショウコ、サルトリイバラ、サンショウ、シソ、スイカズラ、センニンソウ、ソクズ、ダイコンソウ、タケニグサ、タラノキ、ツチアケビ、テイカカズラ、ナンテン、ニガキ、ネズミモチ、ネムノキ、ノイバラ、ノゲシ、ハスノハカズラ、ハダカホオズキ、ハハコグサ、ヒオオギ、ヒヨドリジョウゴ、フキ、ヘクソカズラ、ボタンズル、ムベ、ヤブカンゾウ、ヤブタバコ、ヤマノイモ、ヨメナなどが両方の地区で見られたが、今回の調査で採集したのに牟岐町の調査では見られなかったものも見られた。しかし、調査が面の調査ではなく、コース別調査をとっていたため、当然市場町や牟岐町に生えていると思われるのに調査では、見つけられなかったものが、かなり多く見られ、調査された植物の種類の違いが直ちに地域の差とは言えない。しかし、牟岐町の調査では95科276種の薬用植物があったものが今回の調査では89科242種しか得られなかった理由として考えられる事は、牟岐町の調査では島を含めた海岸より山までの調査であったのに対して、今回の市場町は平野より山までの調査であることと、市場町と牟岐町の温度、雨量の違いが考えられる。従って市場町には、キク科のオケラ、セリ科のミシマサイコなどが自生しているのに対して、牟岐町にはアカネ科のカギカズラ、マメ科のミヤマトベラなど暖地性の薬草が見られた。また、今回採集した全植物数のうちで薬用植物の占める割合は平均61.6%であり、これは牟岐町の平均59.5%とほぼ等しい値であった。この二ケ所の調査だけでは結論づけられないが、薬用植物は約60%の割合いで生えているといえる。次に市場町の近くの脇町の民間薬調査と比べて見ると、ウツボグサ、オオバコ、オトギリソウ、カタバミ、クズ、ゲンノショウコ、センダン、タンポポ、ドクダミ、スイバ etc. のように市場町に自生しているものの多くが脇町の民間薬調査で使用されている(または知っている)品目にあがっている。しかし、アカネ、オケラ、キズタ、キランソウ、キンミズヒキ、カニクサ、クワetc.のように使用する(または知っている)品目にあがっていないものもあった。これらの事は自生の民間薬の活用を考える必要を痛感する。
〈資 料〉
 以下に調査日・調査班別に採集した薬用植物の科名・植物名(ラテン名)・分布量・薬用部位・主な薬効について記す。

表1  表2  表3  表4  表5  表6  表7  表8  表9


徳島県立図書館