阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第25号
市場町の植生

生物学班

   友成孟宏・森本康滋・石井愃義

1.はじめに
 阿波郡市場町は東西にのびる讃岐山脈のほぼ中央、吉野川北岸に位置している。東は板野郡土成町に、西は阿波郡阿波町に、南は吉野川をはさんで麻植郡山川町に、北は香川県大川郡白鳥町にそれぞれ接した地域である。
 本町の総面積は7236ha、山林は4509haで、62.3%にあたる。その殆どがアカマツ林で、平野部は日開谷川の扇状地上にあって、南へ下るほど低くなり、水田・畑地が見られる。また、吉野川に浮かぶ善入寺島の約2/3が市場町に含まれている。
 本県における県北部の総合学術調査は脇町(1973年)に次いで2度目で、前回もそうであったが、讃岐山脈は殆ど二次林で占められ、一次林は社叢にわずかに残されているに過ぎない。
 調査は大きく2つの目標に従って行われた。すなわち、第1は町全体の相観による植生図を作製することと、第2は、第一金清池南の山のアカマツ群落を詳しく調査し、アカマツ群落を下位単位まで識別することであった。
 昭和53年7月24日から28日迄の5日間、同8月14日から16日迄の3日間、同10月10日から11月3日迄の7日間の計15日間、日開谷川の上流、相栗、大影方面と仁賀木方面、金清谷川の東の山のアカマツ群落を調査した。
 調査期間が少なかったので、所期の目的が十分達せられなかったが、調査できた範囲内で報告する。
 この報告をまとめるにあたりご校閲をいただいた広島大学鈴木兵二名誉教授、および調査にご協力いただいた市場町、県林業課の方々に謝意を表します。

 

2.自然環境
 1)地形・地質
  香川県の矢筈山、東女体山等から白鳥町払川、番所を通り讃岐山脈を横断する先行性河川は市場町に入り、南流して大北で仁賀木谷と合流し、その他町内の支流を集めながら町を大きく東西に2分する日開谷川となって吉野川に注ぐ。東半部は仁賀木谷によってさらに東西に2分されている。そして、東西に走る讃岐山脈の主脈から、それぞれ日開谷川に平行して、南に分岐した尾根がのびている。すなわち、西の阿波町との境には海抜700〜752.8mの尾根が南に走り、中央部は城王山(620m)をはじめ海抜500〜600mの尾根があり、東には土成町との境の海抜580m級の尾根が南下している。そして、これらの山の南部に平野が広がっている。
 本町の平野部には中央構造線が走っており、山地部はその内帯に含まれ、砂岩・泥岩を互層とする地層が重なっている。
2)気候
 表−1は市場観測所の観測データを示したものである。徳島県全体の中では比較的気温は高いが雨量は少ない地域である。

 

3.植生概観
 本町の土地利用状況(表−2)によると、林野面積は4509haで全町の62.3%を占めている。そして林野のほとんどは二次林と人工林で、自然・半自然植生は2か所社叢として残っているにすぎない。また、二次林の大部分がアカマツ林で、町東部で広い面積を占めているが、西部では次第に少なくなり逆に人工林やコナラ林が多くなっている。また、森林の約42.3%が植林で、スギ・ヒノキ林、アカマツ・クロマツ林、外国産針葉樹林、クヌギ林の4つに区別することができる。このうち、外国産針葉樹の植林面積が可成り広い面積を占めているのが特徴的である。
 また、耕作地としては水田・畑・樹園地・牧草地などの面積が1491haで20.6%を占めている。
 南部の平地部は水田・畑が中心で、山地部は、ハッサクなどのミカン類、ブドウ、梅、クリなどが栽培されている。

 

4.調査方法
 植生調査法はBraun−Blanquet(1964)に従い・10×10平方メートル〜15×15平方メートルの調査面積をとり、その中に出現する羊歯類以上の植物について階層別に優占度と群度の測定を行なった。アカマツ群落ではクラドニア(地衣類)、蘚苔類についても調ベた。
 調査区の大きさは、できるだけ均質な所を選び、最小面積以上になるようにした。
 ここでは、昭和53年7月〜11月にかけて得た66の植生調査資料をもとにEllenbergのテーブル操作法(1974)によって群落識別種をだした。
 また、市場町全域については1/5万地形図、金清池南の山については1/5千地形図を用いて現存植生図を作成した。これは上記の現地調査と1975年9月撮影の航空写真で判別したものをもとに、更に現地再調査を行なって補正したものである。

 

5.調査結果とその考察
 踏査コース及び調査地点は図−1のとおりである。


1)町全体の植生
 本町で識別された植生図の凡例は次のとおりであるが、市場町現存植生図には表現できない大きさのものもある。群落識別種は付表1に示した。
A.自然・半自然植生
 1)イヌシデ群落、2)コジイ群落
B.代償植生
 3)アカマツ群落、4)コナラ群落、5)シイ・カシ萌芽林、6)伐採跡群落、7)植林(スギ・ヒノキ林、アカマツ・クロマツ林、外国産針葉樹林、クヌギ林)8)水田、9)畑、10)樹園地、11)桑園、12)竹林、13)造成地
 以下これらについて説明を加える。
A.自然・半自然植生
1)イヌシデ群落
 城王山山頂にごくわずかに残っているイヌシデ群落は高木層、亜高木層にイヌシデ、コハウチワカエデ、オオモミジ、ヤブニッケイなどの常緑、落葉樹が混生している中間温帯林である。植生図に表示できない位の小面積である。


 構成種は次のとおりである。
 1978年7月28日調査、調査地番号1
 海抜620m、方位W10゜N、傾斜5゜、調査面積15×15平方メートル
高木層…樹高25m、植被率95%、胸径115cm
 アカマツ2・1、クロマツ4・1、イヌシデ3・1、オオモミジ3・1、コハウチワカエデ2・1、スギ3・2、ヤブニッケイ1・1
亜高木層…樹高8m、植被率60%、胸径34cm
 カヤ1・1、ヤブニッケイ1・1、イロハモミジ1・1、アセビ2・1
低木層…樹高2〜4m、植被率30%
 ヒイラギ1・1、ヤブニッケイ1・1、アセビ1・1、ツリバナ+、ヤブムラサキ+、ヒサカキ+、ツルウメモドキ+、コマユミ+、カヤ+、ネズミモチ+
草本層…樹高0.8m、植被率40%
 ミヤマシキミ3・2、チヂミザサ+、サンショウ+、ヤブラン+、ハエドクソウ+、サルトリイバラ+、ノササゲ+、カナクギノキ+、ケクロモジ+、ヤブニッケイ+、スギ+、ヒイラギ+、カヤ+、ネズミモチ+、テイカカズラ+、ヒサカキ+、ジャノヒゲ+、イワガラミ+、コガクウツギ+、ツタ+、ヤブコウジ+、イヌツゲ+、フジ+、ヒノキ+
2)コジイ群落

 仁賀木八幡宮の社叢として面積は狭いがよく保存されている。讃岐山脈南麓にはコジイ林は少なく、板野町の大宮神社の社叢と2か所しかない。構成種は次のとおりである。

 1978年7月29日調査、調査地番号12
 海抜150m、調査面積12×12平方メートル
高木層…樹高18〜20m、植被率95%、胸径66cm
 クロガネモチ1・1、コジイ5・3、カゴノキ2・1、リンボク2・1、シラカシ1・1
亜高木層…樹高8m、植被率15%、胸径17cm
 テイカカズラ1・1、イロハモミジ1・1、アラカシ1・1、コジイ1・1、ヤブツバキ+、イヌマキ+
低木層…樹高4m、植被率60%
 ネズミモチ1・1、ヤブツバキ1・1、アラカシ1・1、ヤブニッケイ1・1、コジイ1・1、リンボク+、テイカカズラ+、シュロ+、フジ+、イヌビワ+、シラカシ+
草本層…樹高0.8m、植被率30%
 ジャノヒゲ+・2、イヌビワ+、テイカカズラ+、ヤブニッケイ+、アリドオシ+、キヅタ+、イヌマキ+、シュンラン+、シュロ+、ツルウメモドキ+、ヤブツバキ+、ミミズバイ+、フジ+、カゴノキ+、アオキ+、ヤマノイモ+、ヤブコウジ+、ヤブラン+
B.代償植生
3)アカマツ群落
  調査区数 46、平均出現種数24.0 識別種 ネズ
 市場町の山地の約3/4はアカマツ林でおおわれている。本町周辺のアカマツ群落は雨量が少ないため発達が悪く、林床をコシダ、ウラジロが一面におおっている所が多く、他の植物の生育をはばんでおり、ネズがほとんどの所で出現する。そして落葉が少ないため腐葉土層の発達が悪く、土地は自然瘠悪になってしまう。それでも、斜面下部や谷ぞいなどは土壌の含水量が比較的多いので、アカマツの樹高も8〜10mある。斜面上部になるに従い樹高も低くなり、林床はコシダ、ウラジロでおおわれている場合が多い。更に山頂付近になると、アカマツの樹高も2m位で、地表に地衣類のCladoniaが出現する。
 かつて鈴木時夫(1966)はヤマツツジ、モチツツジ、オンツツジなどのツツジ類とアカマツとの結びつきに着目し、群集を発表している。これに基づいて森本康滋ら(1975)は「神山町の植生」の中で海抜300mから下はアカマツ−モチツツジ群集、500m〜600m付近ではアカマツ−オンツツジ群集と報告している。
 今回の調査では、アカマツ−モチツツジ群集の中で海抜240〜260m付近にもオンツツジが出現し、識別種としてうかび上がってきている。このことは、オンツツジとモチツツジの住み分けが、この市場町では明確ではないことを示している。
 アカマツ群落の下位単位については後述する。
4)コナラ群落


 調査区数5、平均出現種数28.6
 識別種 ヤマウグイスカグラ、ニオイイバラ、ヤマカモジグサ(付表2参照)
 コナラ群落は本町では城王山、仁賀木、大久保谷などで確認できた。城王山の尾根部海抜550m付近のコナラ群落は高木層がなく、樹高も約8m、胸径が8〜13cmのコナラが優占し、ソヨゴ等の常緑広葉樹も混生しており、低木層にはモチツツジが優占するので本来アカマツ−モチツツジ群集に含まれていたと考えられる。
5)シイ・カシ萌芽林
 本町の谷ぞいを中心に分布しているが、面積がせまいので植生図に表示することはできない。犬墓の大月で調査したので記録しておく。
 1978年7月5日調査、海抜180m、方位N、傾斜50゜、調査面積15×15平方メートル
高木層…樹高10m、植被率90%、胸径18cm
 ホオノキ2・2、ノグルミ3・3、ヤマザクラ1・1、アラカシ3・2、リョウブ2・2、コナラ1・1
亜高木層…樹高6m、植被率60%、胸径6cm
 アラカシ3・3、ヤブツバキ1・1、ヤブムラサキ+、アワブキ2・2、シラキ1・2、カゴノキ1・1、ノブドウ+、サカキ1・1、カナメモチ1・1、ヤマウルシ+、ソヨゴ2・2
低木層…樹高2m、植被率40%
 ヒサカキ1・1、ヤブツバキ1・1、ウツギ1・1、ヒイラギ1・1、リンボク+、イヌガヤ+、アラカシ1・1、クロモジ+、イタビカズラ+、マメヅタ+、ノキシノブ+、ウンゼンツツジ2・2、ヤブニッケイ+、サカキ1・1、マルバウツギ1・1、モチツツジ1・1
草本層…樹高0.5m、植被率10%
 ガクウツギ+、ヤブツバキ+、ヤブマメ+、ヤブムラサキ+、イヌビワ+、ヤブラン+、クロモジ+、リンボク+、イタビカズラ+、マメヅタ+、ノキシノブ+、コツクバネウツギ+、カキ+、シキミ+、ヤブニッケイ+、ジャノヒゲ+
6)伐採跡群落


 調査区数5、平均出現種数16.8
 識別種 アカメガシワ、クズ、クサイチゴ、キブシ(付表3参照)
 城王山の海抜600m付近で調査した。本町にはごくわずかしかなく、大月の西山上部にある程度である。主な出現種はアカメガシワ(4・3)、ナガバモミジイチゴ(1・1)、コナラ(2・1)、ヤマザクラ(1・2)、ヤマコウバシ(1・1)、モチツツジ(1・2)、イヌザンショウ(+)、ミツバアケビ(+)、ヘクソカズラ(+)、ヤマノイモ(+)、ヤクシソウ(+)、カエデドコロ(+)、ススキ(+)、イボタノキ(+)、クズ(+)
7)植林
 植林は主にスギ・ヒノキ林、アカマツ・クロマツ林、外国産針葉樹林、クヌギ林に大別されるが、便宜上植生図では一括して植林として扱った。


 次に若干の説明を加える。
 1 クロマツ林


  調査区数5、平均出現種数53.4
  識別種 クロマツ、ヌルデ、ナガバモミジイチゴ、イタドリ、ヤマアザミ、ヤマグワ、エノキ、ケヤキ(付表4参照)
 城王山の海抜585〜530m付近で調査したもので、クロマツの胸径は25〜38cmあり、かなり年数が経過しているものと思われる。亜高木層の植被率は低く、低木層、草本層の植被率は高くなっている。
 このことは何年か前に下刈りをしたためと思われる。ナガバモミジイチゴ、ススキ、ニオイイバラなどが高い割合で出現する。主な出現種は次のとおりである。
高木層…樹高15m、植被率80%、胸径35cm
 クロマツ5・5、ヤマフジ1・1
亜高木層…樹高6m、植被率60%
 ノブドウ1・1、クロマツ1・1、カエデドコロ1・1、ハリギリ1・1
低木層…樹高2m、植被率90%
 アカメガシワ+、ナワシログミ+、クズ1・1、マルバウツギ2・2、コバノガマズミ+、ヤブムラサキ+、カナクギノキ+、ヤマザクラ1・1、イタヤカエデ1・1、モチツツジ+
草本層…樹高1m、植被率50%
 ナガバモミジイチゴ2・2、ススキ2・1、サルトリイバラ+、ジャノヒゲ+、イタドリ+、ケスゲ1・2、ミツバアケビ+、オカトラノオ+、ネズミモチ+、ヤマアザミ+
 2 外国産針葉樹林


 外国産針葉樹としてテーダマツ、ストローブマツ、スラッシュマツ、リギダマツなどが植林されている。主に境目の東側が中心である。これらのマツは生長が悪く倒伏を防止するためにビニールのつなで保護していたのが印象的であった。
 構成種は次のとおりである。
 1978年8月15日調査、調査地番号65
 海抜250m、方位N30゜E、傾斜20゜、調査面積10×10平方メートル
高木層…樹高8m、植被率70%、胸径20cm
 ストローブマツ4・4
亜高木層…樹高4m、植被率20%
 ヤマウルシ1・1、ストローブマツ1・1、アオツヅラフジ+、フジ+、ヒノキ+、タラノキ+
低木層…樹高2m、植被率95%
 ウバメガシ2・2、コナラ2・2、リヨウブ1・1、コガクウツギ2・2、アラカシ1・1、モチツツジ1・1、コバノガマズミ2・2、イヌザンショウ1・1、ヤマウルシ1・1、サルトリイバラ+、マルバハギ+、サンカクヅル+、コツクバネウツギ+、ヒサカキ+、クロモジ+、ノグルミ1・1、ニオイイバラ+、ナガバモミジイチゴ+、ヌルデ+、ウツギ+、ゼンマイ+、クリ+、ソヨゴ1・1、イタヤカエデ+
草本層…樹高0.5m、植被率10%
 ススキ1・1、シシガシラ+、ワラビ+、ノブドウ+、ウバメガシ+、モチツツジ+、ソヨゴ+、ヤブムラサキ+、ヘクソカズラ+、チヂミザサ+、コナラ+、ノイバラ+、ネズミモチ+
 構成種からもわかるようにたえず下刈りをしているようであるが、あまり生長量は大でないので、クロマツ、ヒノキなどを更に植林している。
8)水田
 本町の興崎、香美、市場など平野を中心に作付をしている。
9)畑
 水田の裏作として、小麦、ビール麦、裸麦などを作付し、その他キュウリ・ナスなどの野菜栽培もさかんである。
10)樹園地
 切幡、古田などの山麓を中心にミカン園やブドウ園が、また境目などにクリ園が見られる。


11)桑園
 吉野川の中にある善入寺島や大月などで見られる。
12)竹林
 善入寺島などを中心にマダケが見られ、各家庭の裏にモウソウダケが散在しているのが見られる。
13)造成地
 白水、地幡などに造成された裸地がごくわすか見られる。

2)第一金清池南の山のアカマツ群落
 一般に自然林を植物社会学的単位に細かく分ける仕事は早くからなされていた。しかし、二次林について分け、遷移の各段階を明らかにしていく仕事はまだ数少ないと思われる。
 広島大学の豊原源太郎によって、アカマツ群落の植物社会字的植生図作成の作業が試案された。筆者らはこの方式によって、市場町の金清池南の山(約150ha)のほとんど全域を踏査して41林分の資料を取り、城王山及び境目付近の5林分を加え、46林分の資料を Ellenberg のテーブル操作法に基づき13回操作をした結果、付表5の9タイプの群落を識別することができた。再度、踏査、修正、確認して付図2の現存植生図を得た。
 付表5からわかるように瘠地を代表するネズがほとんどの所に川現し、ネズ典型のやや安定したアカマツ群落は少ないことがわかった。以下各タイプについて述べる。
 1−A−(1)−a−1 クロバイ型

 調査区数9、平均出現種数27.0
 識別種 クロバイ、キヅタ、イヌザンショウ、マツグミ、ムクノキ
 このタイプは主に日吉神社の上部と西南部にある。ネズが出現し、常緑のネズミモチ、アラカシ、ヤブコウジなどが出現し、ウラジロ、コシダが稍少ない。割合明るい林で、アカマツ群落としては比較的安定したものと思われる。
 1−A−(1)−a−2 クロバイ典型


 調査区数10、平均出現種数27.3
 ここでクロバイ典型としたのは1 クロバイ型に対応してクロバイの種群を欠くタイプという意味である。1 と異なる点は識別種がなく、草本層にコシダが多く入りこみ、他の種が入りこみにくい状態をつくっている。伐採によって林内が明るくなり、その結果シダ類が入りこんだためと考えられる。西斜面を中心に分布している。
 1−A−(1)−b−3 テイカカズラ型
 調査区数7、平均出現種数28.0
 識別種 テイカカズラ、ジャノヒゲ
 このタイプは主に日吉神社上部に分布しており乾燥型である。城王山485m付近でも見い出すことができた。
 1−A−(2)−c クラドニア型


 調査区数3、平均出現種数13.7
 識別種 カガミゴケ、キツネノマタゴケ
 このタイプの特徴は高木属、亜高木層がなく、同じネズの出現する所でありながら、樹高2m前後のネズ、モチツツジ、サルトリイバラ、ネジキなどがアカマツとほぼ同じ高さで生育しており、草本層はワラビ、ススキが散生する程度で明らかにまわりのアカマツ群落とは異なる。地表面まで日光がとどき、出現種数はごくわずかである。
 1−A−(2)−d クラドニア典型


 調査区数8、平均出現種数17.8
 クラドニア型より少し安定したタイプでネズ、ワラビ、マルバハギ、コウヤボウキ、シュンラン、ケタガネソウなどが出現し、コシダ、ウラジロが広い面積をおおっている所が多い。東斜面の大半をしめている。
 2−B−(3)−e ヤブラン型
 調査区数2、平均出現種数43.5
 識別種ヤブラン、ホウチャクソウ、ニガキ、オオアレチノギク、イナカギク
 谷ぞいなのでアラカシ、ネズミモチ、ヤブコウジなどが出現し、ネズがなく、アカマツ群落としては比較的安定したものと思われるが、下草を時々刈り払うため帰化植物のオオアレチノギクが入りこめる環境になり、カエデドコロ、イタドリ、ゼンマイなどが出現しアカマツ群落の中で一番種数の多い群落である。オカタツナミソウ、イヌシデ、トキワガキなどが、下草刈り払い以前のアカマツ群落の姿をとどめている。第一金清ダム北に分布する。
 2−B−(3)−f タラノキ型
 調査区数2、平均出現種数17.0 識別種 タラノキ
 ヤブラン型の典型タイプで、ネズがなく遷移の初期の段階と思われる。日吉神社北にごくわずか分布する。
 2−B−(3)−g アセビ型
 調査区数3、平均出現種数24.3
 識別種アセビ、ヒイラギ、ウラジロノキ、ガマズミ
 このタイプは、金清池南の山にはなく、市場町境目の西の山に分布している。アカマツ−オンツツジ小群のタイプの1つである。オンツツジ、ソヨゴ、リョウブがあり、しかもアラカシ、ネズミモチなどの常緑樹が出現する。讃岐山脈の中では安定した群落の1つであろう。ウバメガシがごくわずか出現する。
 2−B−(4)−h タカノツメ型


 調査区数2、平均出現種数21.5
 識別種 タカノツメ
 アセビ型の典型タイプで、北東部に分布しアセビ型についで安定した群落と思われる。
 付:クヌギ群落
 金清池南の山に、ごくわずかクヌギの植林があった。構成種は次のとおりである。
 1978年11月3日調査
 海抜150m、方位E40゜S、傾斜15゜、調査面積10×10平方メートル
高木層…樹高10m、植被率95%、胸径18cm
 クヌギ5・5、フジ1・1
亜高木層…樹高4m、植被率30%、胸径1cm
 ミツバアケビ1・1、イタビカズラ1・1、コナラ1・1、ヤマウルシ1・1、ヤマザクラ+、ノブドウ+
低木層…樹高2m、植被率60%
 コナラ1・1、フジ+、カマツカ3・3、ナワシログミ2・2、モチツツジ2・2、ヘクソカズラ+、イタドリ1・1、ネズ+、マルバアオダモ+
草本層…樹高0.5m、植被率50%
 モチツツジ1・1、ヌカボ2・2、ミツバアケビ+、イタビカズラ+、ネズミモチ+、ヒサカキ+、チヂミザサ1・1、アケビ+、ナワシログミ+、ヤマイタチシダ+、イタドリ+、イヌツゲ+、ススキ+、ガマズミ+

6.提言
 本町では森林が62.3%もあるが、自然・半自然植生としてはイヌシデ群落・コジイ群落が残っている程度である。
 1 城王山のイヌシデ群落、仁賀木のコジイ林は町内でわずかに残された自然林であるので、社叢として今後大切に保護していただきたい。
 2 岩石採取地等裸地が数か所見られたが、裸地が原因となるような災害が起こらないよう十分留意してほしい。

7.摘要
 1978年7月から11月までの間計15日間、市場町全域の植生調査を行い、1:5万の地形図に現存植生図を描いた。そして各植生単位毎に現地調査をした。最も広い面積を占めるアカマツ群落は、組成的に細分できたので、金清池南の山における植生図(1:5,000)を別に作製して、これらの配置を表現した。
 その結果、次のような群落が明らかになった。

A.自然・半自然植生
 1)イヌシデ群落 2)コジイ群落
B.代償植生
 3)アカマツ群落
 1.ネズ群
  A.ネズミモチ亜群
  (1)カキノキ小群
    aヘクソカズラ型
     1 クロバイ型
     2 クロバイ典型
    bヘクソカズラ典型
     3 テイカカズラ型
  (2)カキノキ典型小群
    cクラドニア型
    dクラドニア典型
 2.ネズ典型群
  B.ネズミモチ亜群
  (3)テイカカズラ小群
    eヤブラン型
    fタラノキ型
  (4)オンツツジ小群
    gアセビ型
    hタカノツメ型
 4)コナラ群落
 5)シイ・カシ萌芽林
 6)伐採跡群落
 7)植林(スギ・ヒノキ林、アカマツ・クロマツ林、外国産針葉樹林、クヌギ林)
 8)水田
 9)畑
 10)樹園地
 11)桑園
 12)竹林
 13)造成地

 参考文献
1)気象庁(1972):全国気温・降水量・月別平年値表 観測所観測(1941) 気象庁 観測技術資料第36号:150〜171
2)鈴木時夫(1966):日本の自然林の植物社会学、体系の概観、森林立地8:1〜12
3)鈴木兵二・豊原源太郎(1976):滄浪園周辺の植生、滄浪園総合学術調査研究報告:129〜145 広島県名勝滄浪園緊急調査団、広島
4)中国・四国農政局徳島統計情報事務所:(1978)徳島農林水産統計年報(1976〜1977):4〜173
5)友成孟宏(1975):土成町の植生:1〜24
6)友成孟宏(1978):生徒の自然認識を高める指導法、国内留学研究報告書:1〜10
7)豊原源太郎(1973):マツ林の植物社会、佐々木好之編、生態学講座4、植物社会学:48〜53、共立出版、東京
8)豊原源太郎・鈴木兵二(1975):厳島(宮島)と本土とのアカマツ林の比較研究、厳島の自然−総合学術調査研究報告:119〜132、天然記念物弥山原始林、特別名勝厳島緊急調査委員会、広島
9)Mueller-Dombois, D. and H. Ellenberg(1974):Aims and Methods of Vegetation Ecology:1〜547
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11)森本康滋・友成孟宏 他(1975):神山町の植生、郷土研究発表会紀要22:23〜35 阿波学会、徳島県立図書館
12)森本康滋・友成孟宏 他(1977):山城町の植生、郷土研究発表会紀要24:21−34 阿波学会、徳島県立図書館
13)吉岡邦二(1948):日本松林の群落型と発達について、生態学研究11:204〜216


徳島県立図書館