阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第24号

山城町住民の栄養調査

医学班

   山本茂・力丸徹・幸林友男・

   上江洲典子・森口覚・小松龍史・

   岸野泰雄

(はじめに)
 例年どおり医学班は、農村医学班と共に山城町住民の健康調査を行った。農村医学班は住民の検診(臨床検査を合む)を、当班は同じ対象者の摂取栄養調査を担当した。
 今回対象に選ばれた山城町は、池田町、高知県、愛媛県に北、南、西を接し、東は吉野川をはさんで、西祖谷山村に接する四国中央の山岳地帯である。吉野川にそっては、高松と高知を結ぶ国道32号線が走り、また最近の自動車の発達と道路の整備により交通の便はかなり良くなっているものの、毎日の食品の購入は相当制限されている。

 

〈調査対象と調査方法〉
1)調査対象
 徳島県三好郡山城町の農林業従事者を中心として男102人、女92人、合計194人に対して調査した。年令は男女とも20〜70才(男平均47才、女平均46才)であった。
2)調査期間
 昭和52年8月2日より8月5日までの4日間実施した。
3)調査項目および調査方法
a、食事調査
 食事調査日の数日前に食事調査表を各自に手渡し、24時間中に摂取した食品の目安量を記入するよう依頼した。食事調査の翌日、個々面接により食品のモデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が確認した上でグラム数に換算した。栄養摂取量および食品群別摂取量の算定には、国民生活センター(東京都港区高輪3丁目13の22)の電子計算機を使用した。
b、アンケートによる食習慣調査
 食習慣判定のためのアンケート用紙を各自に配布し記入を依頼した。

 

〈調査結果〉
 調査対象者の大部分は農林業従事者で、表1にみるごとく40〜60才の間の者がほとんどであった。各種栄養素の摂取量は、年令別の特徴的な差が観察されなかったので、以後全年令の平均値についてみてゆく。
 図1は山城地区住民の栄養摂取量を、昭和50年度改定の日本人の栄養所要量(40〜60才)の値を100%とした時の比較で表わしたものである。但し調査期間が年間を通じて最も暑く、食欲の低下した時期であったので労作強度を加味せず、普通労作時の所要量を100%とした。熱量、蛋白質、鉄、ビタミンCは男女とも所要量を満たしていたが、脂肪、カルシウム、ビタミンA、ビタミンB2は所要量より低い摂取であった。ビタミンB1の摂取は男では所要量に達しなかったが、女は所要量をこえる摂取であった。
 各種栄養素の摂取量を昭和47年度の国民栄養調査の結果と比較して表2に示した。山城地区住民の摂取量は全国農家の平均値と比較して全部の栄養素について低値を示した。しかし熱量を含む大部分の栄養素がほぼ同じ割合で低いことは、この調査時期が夏であったためであり、これをもって一年間の山城地区の食事実態とすることはできないことを念頭におくべきであろう。
 熱量摂取量は図1にみるように平均値では所要量を満たしていたが、図2のように個人間の摂取量の差は非常に大きかった。
 蛋白質摂取量は、大部分のものが所要量に近いか、あるいはそれ以上の摂取であり(図3)このうち動物性蛋白質の割合が約40%(図1)であった。蛋白質摂取に関しては、ほぼ満足できる状態にあると考えられよう。
 一般の栄養調査でも、特に夏の調査では、カルシウム、鉄、ビタミンA、B1、B2は所要量よりも低い摂取になりやすい栄養素である。鉄不足は20〜30%の日本女性にみられ、重要な公衆栄養上の問題であるが、山城地区では摂取平均値も所要量より高く(図1)、また個人別にみても摂取量の不足している人の割合は低い(図5)。
 カルシウム(図4)、ビタミンA(図6)、ビタミンB1(図7)、ビタミンB2(図8)は、個人の摂取分布をみても全体的に不足が目立った。
 大部分の人がビタミンCを豊富にとっているのは、この時期にスイカ、トマト、キューリなどを大量に食べるためであろう(図9)
 表3および図10に、昭和47年度国民栄養調査における食糧構成の成績と山城地区住民の食糧構成の比較を示してある。全国農家平均値に比べ穀類、淡色野菜、海藻類の摂取が非常に高い。淡色野菜の大部分は、スイカ、トマト、キューリなどの夏野菜であった。穀類摂取が非常に高いにもかかわらず、総熱量摂取が所要量をほぼ満たす程度であるという事実は、油脂の摂取が低い事と一致する。油脂の摂取が低いのは暑い夏場であったためかも知れない。魚介類、肉類、卵類などの蛋白食品の摂取も食欲の低下している時期であることを考慮に入れるとほぼ満足できるものであると考えられる。牛乳の摂収は全国平均に比べ非常に低いが、この地域は山間で、特に夏場の腐敗しやすい時期の購入は困難であり、今回の調査対象者の平均年令が男47才、女46才と高く、牛乳をあまり好まない者が多いためと考えられる。
 図11は、山城地区住民の食習慣のアンケートとその結果である。食習慣上、特に問題になる点はないと考えられるので、夏場における食欲の低下は適切な調理工夫によって改良できるであろう。

 

〈考察〉
 山城地区における今回の調査は、8月2日〜5日といった、一年を通じて最も暑く、食欲の低下しやすい時季であった。事実これらの地域では農林業に大部分の者が従事しているので、少くとも熱量の摂取は、普通労作時の所要量を男で500Cal、女で400Calは越えることが予想されるが、結果は普通労作に従事する者の熱量所要量とほぼ同じであった。これは食欲の低下を意味するものであろう。故にこの結果をもって、山城地区の栄養摂取が年間を通じて他の地域よりおとるという結論にはならない。しかし食欲が低下し、体力の消耗の激しいこの時期にこそ、よりバランスのとれた十分な栄養素の摂取が望まれる。
 栄養素摂取はカルシウム、ビタミンA、B1、B2の不足といった、一般的に多くの地域で観察される結果と同じ傾向を示した。農村医学班の結果によれば、この地域でも高率で肩こり、腰痛、つかれ等の、いわゆる農夫症がみられた。このような農夫症が、はたして先に述べたような栄養素摂取の不足にどの程度影響されるかは、まだ明らかでないが、少くともこれらの摂取不足によって助長されていることは確かである。栄養と農夫症の関係は、今後明らかにしてゆかねばならない重要な問題である。
 この地域に不足する栄養素を改善するために次のよらな方法を推奨したい。まずビタミンB1、B2の摂取を十分にするために、強化米の使用を実施する。ビタミンAの補給のためほうれん草、大根葉、かぶ葉、にら、しゅん菊、にんじん、かぼちゃ。トマト等の野菜を毎日の食卓にのせられるよう自家裁培する、

 文献
国民栄養振興会:昭和50年改定日本人の栄養所要量と解説、第一出版、昭和50年
厚生省栄養課:昭和47年度国民栄養調査成績、第一出版、昭和52年

 

 


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