阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第24号
アリの分布及び生態に関する調査

動物班 梅本利広

     (徳島県立池田高等学校教諭)

 昭和52年度の山城町総合学術調査における、動物班に参加し、アリの調査を担当したので、この機会に過去の調査結果も合せて報告する。

 I 調査地域及び方法
調査経路
 (1)藤川谷地域 水無より羽頼をへえ野鹿池山(1,294m)に至る。
 (2)白川谷地域 白川口より粟山に至る。
 (3)黒川谷及び岩戸地域 黒川、岩戸、平野をへて、塩塚峰(1,043m)に至る。
 (4)相川谷地域 相川、大和川、寺野に至る連峰(620m)
 (5)平坦部 伊予川、吉野川の国道沿い。上記の5コースを歩きながら、地表、樹上、地中、石の下などについて、アリを採集し、確認の上、種名、環境要因(地表温度、照度、天候、時刻)を記録した。また調査の必要に応じて、方形区を設定し定量的に調査した。


 II 調査目的及び意義
 アリは、私等の近くのいずこにも存在し、アリを知らない人はいないが、あまりにも見慣れた生物なので、これを調査することもなく放置されている。
 私等人間は、地上に生まれてわずか百万年であり、現代人は5万年の歴史にすぎない。
 しかし、アリは土蜂より進化してアリになって、1億年地上で生活し、現在生存しているアリの仲間に8千万年前のアリが、オーストラリヤに生存していることが確認された。私等周辺にも3千万年前のアリが山林内に生存している。しかもアリは、蜂より進化し、無脊椎動物では最も進歩した社会生活を営む昆虫である。また脊椎動物で最も進歩した社会生活を営む人間とは、いかにも対象的である。更に生活方法もアリは、本能的行動に従い、人間は知能的社会生活を形成する、この点も亦対象的で興味深いものがある。
 このアリの生活場所は、樹上生活、朽木の中、地中生活、地表生活などあらゆる環境で生活し、環境条件と深いかかわりがある。山城町の環境の現状及び変化を推定するには、最も適切な動物である。従って、アリを通して山城町の実態を把握したいと考えて、調査に参加したのである。今回の調査では未解明の部分も多いが、今回を出発点として今後も調査を継続する。更に生物学的に見ても山城町のアリの解明は徳島県のみならず、四国のアリの実態の把握にもつながる重要なキーポイントであることも本調査の実施を通して感じた。


 III アリの種類
1 フタフシアリ亜科 Myrmicinae
 (1)オオズアカアリ属 Pheidole
  アズマオオズアカアリ P. fervida
  インドオオズアカアリ P. indica
  オオズアカアリ P. nodus
 (2)シリアゲアリ属 Crematogaster
  キイロシリアゲアリ C. osakensis
  トビイロシリアゲアリ C. laoriosa
 (3)ウロコアリ属 Strumigenys
  ウロコアリ S. lewisi
 (4)アミメアリ属 Pristomyrmex
  アミメアリ P. Pungens
 (5)クシケアリ属 Myrmica
  クロキクシケアリ M. kurokii
  シワクシケアリ M. ruyinodis
 (6)アシナガアリ属 Aphaenogaster
  アシナガアリ A. famelica
  スミスアシナガアリ A. japonica
 (7)ヒメアリ属 Monomorium
  キイロヒメアリ M. triviale
  クロヒメアリ M. floricola
  ヒメアリ M. nipponense
 (8)トフシアリ属 Soleopsis
  トフシアリ S. japonica
 (9)ウメマツアリ属 Vollenhovia
  ウメマツアリ V. emeryi
 (10)シワアリ属 Tetramorium
  シワアリ T. caespitum
 (11)ナガアリ属 Messor
  クロナガアリ M. aciculatum

2 クマアリ亜科 Formicinae
 (1)ヤマアリ属 Formica
  クロヤマアリ F. japonica
  ハヤシクロヤマアリ F. fusca
 (2)ケアリ属 Lasius
  トビイロケアリ L. niger
  キイロケアリ L. flavus
  アメイロケアリ L. umbratus
  クロクサアリ L. fuliginosus
 (3)サムライアリ属 Polyergus
  サムライアリ P. samurai
 (4)サクラアリ属 Paratrechina
  アメイロアリ P. flavipes
 (5)クロオオアリ属 Camponotus
  ムネアカオオアリ C. obscuripws
  キュウシュウムネアカオオアリ C. hemichlaena
  クロオオアリ C. japonicus
  ウメマツオオアリ C. tokioensis
  ミカドオオアリ C. kiusivenensis
 (6)ヨツボシオオアリ属 Myrmentoma
  ヨツボシオオアリ M. cdryae
 (7)アメイロオオアリ属 Tanaemyrmex
  アメイロオオアリ T. devestiaus
 (8)トゲアリ属 Polyrhachis
  トゲアリ P. lamelligens
3 ルリアリ亜科 Dolichoderinae
 (1)ルリアリ属 Lridomyrmex
  ルリアリ L. glaber
4 ハリアリ亜科 Ponerinae
 (1)オオハリアリ属 Brachypono
  オオハリアリ B. chinnsis
 (2)メクラハリアリ属 Cryptopone
  メクラハリアリ C. sauteri
 (3)ノコギリハリアリ属 Amplyopono
  ノコギリハリアリ A. silvestril
 合計 4亜科、23属、38種

 考察
 1 アリの種類は、北海道より沖縄までと含める約280種、本県西部で約50種は可能である。現在の種の採集では地中生活のアリの採集が不充分である。
 2 本県は、南方系と北方系の交流地点として、更に調査を進めると面白い結果が得られるものと期待している。
 今回の調査より特色のある点も取り上げて見ると、ムネアカオオアリは全国的に分布しているが、九州ムネアカオオアリは四国と九州のみにしか見られないので、県西部は北限に相当する。
 北方系のシワクシケアリは、本県では1000m以上の山地に見かける。更にスミスアシナガアリも600m以上の高所に見られる。同じく、ツヤクロヤマアリは、本州中部が南限となっているが、植生より考えて本県の1500m以上の山に生存する可能性が高い。
 3 平凡な山林のアリとして見過されている、ハリアリ亜科は、土蜂より進化し現在でも針を持ち、3000万年以前の原始的な形態をとどめている。この種の解明は興味深いものが多い。私は、従来生態的な調査に主目点をおいていたので、分類上の採集調査は不充分で種類の量も少ないが今回を基盤とし今後調査を進めて充実するつもりである。

 

 IV アリの分布
1 垂直分布

第1表 野鹿池山(1294m)


 第1表 略記号
Fj クロヤマアリ
Co ムネアカオオアリ
Ff ハヤシクロヤマアリ
Ch 九州ムネアカオオアリ
Ln トビイロケアリ
Cj クロオオアリ
Lf キイロケアリ
Ck ミカドオオアリ
Lfu クロクサアリ
Pl トゲアリ
Ps サムライアリ
Pfe アズマオオズアカアリ
Pf アメイロアリ
Pn オオズアカアリ
Pp アミメアリ
Ci トビイロシリアゲアリ
Tc シワアリ
Bc オオハリアリ
Af アシナガアリ
Cs メクラハリアリ
Aj スミスアシナガアリ

 備考
 1、調査月日 昭和52年8月上旬
 2、各アリの採集最低位置が、海抜100mとなるが、山城町役場(平坦部)が海抜120mであるので基準を定めた。
 考察
 1 山城町は四国中央に位置し、高知県、愛媛県に隣接する山岳地帯であるが、山は比較的低く、野鹿池山1,294mが最も高くその他はいずれも1,000m程度の山が連なっている。
 山野は肥沃にして、総面積の85%は造林計画が進み針葉樹林で被われ、はげ山などの荒廃地は見られない。
 従って、垂直分布の対象としては、特色のある野鹿池山と塩塚峰の二ツを選定した。
 2 野鹿池山1,294mは1,250mまでは杉、桧など針葉樹で被われ、それ以上はブナやナラなどの雑木林が散在し、クマザサで被われ高層湿原を形成している。
 塩塚峰1043mは900m以上はススキ群落を形成し草原となっている。
(これは、採草地としてススキの刈取りや草焼などの繰返しによるものである。)
 3 アリの垂直分布の消長は、植生分布と密接な関係があり、アリの高度限界は、2,000m〜3,000m以上に達している。従って、県西部のいずれの山もアリの垂直分布の限界以内である。
 4 第1表(野鹿池山1,294m)第2表(塩塚峰1,043m)も比較して見るとアリの分布に植物群落の影響が明確に表われている。
 5 以下環境要因のアリの分布におよぼす影響の実態を要約すると次のようになる。
(1) 分布の最も広いアリは、トビイロケアリ(Lasius. niger)アメイロアリ(P. flavipes)アズマオオズアカアリ(P. fervids)キイロシリアゲアリ(C. osakensis)などである。これらは、いずれも平坦部より山頂まで分布している。即ち、垂直分布も水平分布も、ともに広範囲をしめている。これらが広分布種となる理由は、雑食性で住居に対しても適応能力があり、営巣場所は主に地中であるが樹上に営巣することもあり、いたる所で生活し、行動も昼夜両行性で日照の影響を受けず、時と所を選ばない活動家である。
(2) 人家の近くで最も眼につき易いアリは、クロヤマアリ(F. japonica)である。しかし、森林が深くなると急激に数が減少する。その原因は、クロヤマアリは昼行性のアリで800Lux 以下では活動しない、即ち、明るい場所でのみ生活するので、広い林道がある場合道路ぞいに高い所まで展開している。場所によっては、1,700mに存在するデーターがある。山城町の場合は1.000mが限界になっているが、これは環境の影響である。
 クロヤマアリは、野鹿池山の上限は400m、塩塚峰の上限は1,000mであることは、いずれも林道との関係である。
 クロヤマアリは、800Lux 以下の照度では活動しないので、野鹿池山は針葉樹林で、塩塚峰は1,000m以上は密集したススキの草原で侵入をさえぎられている。
(3) ハヤシクロヤマアリ、(Formica fusca)は、照度に対する反応はクロヤマアリほど敏感でなく、暗い林や狭い小道にも見られる、その結果、野鹿池山方面では、200m〜1,000mまで分布しているが、塩塚峰方面では、200m〜800mが上限となっている、これは植生としての雑木林の分布の影響である。
(4) 植生の状態から考えると、階層構造をしている夏緑樹林に種類、量ともに多く、単層構造となっている針葉樹林や密度の高い常緑樹林に種類、量ともに少い。種類の例をあげると、オオハリアリ、アメイロアリ、アズマオオズアカアリ、などの限られた種類となる。
 雑木林を生活場所とするものに、クロオオアリ、ムネアカオオアリ、トゲアリがある。
(5) 特殊な場所を生活場所として選ぶものをあげると次のようになる。
 イ、朽木の中で生活するものに、メクラハリアリ(Cryptopone, sauteri)ウメマツアリ(Vollenhovia emeryi)があり、ウメマツアリは外部でも活動するが、メクラハリアリは朽木の中のみを住居としている。
 ロ、アミイロケアリ(Lasius umbratus)は、地中生活が主で根に寄生している。アブラ虫の蜜を食糧としていて地上に表われることはない(昭和48年の秋、柿の果実が落ちるころ地上に現われたことがある。場所、三好県山城町岩戸)
 ハ、ヨツボシオオアリ(Myrmentoma cdryae)、(黒色に白の斑点のある美しいアリ)主に樹上生活でサクラの木で採集される、現在までは海抜450m以下の場所で採集した。

2 垂直分布の比較

第3表(野鹿池山、高越山、塩塚峰の比較)


 備考
 1 調査月日 昭和52年8月上旬
 2 調査場所 徳島県三好郡山城町(野鹿池山、塩塚峰)
 3 対照区 麻植郡山川町 高越山(海抜1,122m)
 4 第3表 凡例と記号
  ○−○ 野鹿池山
  ▲−▲ 高越山
  ■−■ 塩塚峰
  ×印 山頂の位置
  ?…? 未採集種
  Ln トビイロケアリ
  Fj クロヤマアリ
  Ff ハヤシクロヤマアリ
  Co ムネアカオオアリ
  Ch 九州ムネアカオオアリ
  Pl トゲアリ

 考察
 1 トビイロケアリ(Lasius niger)は、第3表の如く平坦部より山頂までの広範囲に分布している。従って、環境の支配を受けることの少ない種類であることが、この表で明らかである。
 2 クロヤマアリの場合は、野鹿池山の400mは広い林道が伸びているが、それ以上は細い道となり針葉樹林となり、クロヤマアリの侵入をこばんでいる。
 高越山の林道は現在1,000mまでのびているが、これは新設であるのでこれには、クロヤマアリが定着していない。従って、高越山では寺院の参道にそって600mまで広がっている。
 塩塚峰の林道は、1,000mまで古くより設置されているのでこの明るい道路ぞいに1,000mの高度まで分布している。
 3 ハヤシクロヤマアリ(Formica fusca)は、雑木林で主に生活し平坦部より森林とともに山頂に広がる。高越山においては明るい牧場にも分布し反対にクロヤマアリの姿が見あたらない。これは近年まで、雑木林が存在し牧場は雑木の伐採あとであることを示している。
 また、塩塚峰は700mが限界となっているのは、雑木林群落の限界を示しているものである。
 4 ムネアカオオアリ(Camponoeus obscuripws)雑木林に分布するアリであるが、上限は約1,700mである、このアリは山林性のアリで四国、九州、本州と広範囲に分布しているが、第3表の如く植生の影響を受けている。
 5 九州ムネアカオオアリは、平地性のアリで四国、九州には見られるが本州には見られない。普通800m程度であるが、野鹿池山の1,250mは予想以上に高地で採集されたので、今後の関連についての調査が必要である。
 6 トゲアリ(Polyrhacis lamelligens)は、同じく雑木林で樹木の根本に営巣する種類であるが、比較的低い場所で採集される。

3 水平分布
(1)環境要因とアリの分布及び営巣との関係

第4表 分布と営巣


 備考
 1 調査月日 昭和52年7月30日11時
 2 調査場所 徳島県三好郡山城町
 3 ●−● 分布範囲
  ◎印 営巣場所

 考察
 1 アリの分布する種類及び分布密度は、階層構造をなす雑木林に最も多く単層構造で雑草のない暗い森林内が最も密度が低い状態を示している。
 2 単層構造をなす森林の代表的なアリは、肉食性のオオハリアリか、朽木の中のみで生活する植物性のメクラハリアリなどである。
 3 アリの営巣の位置は、全般的に見ると明るくて日照度の多い温暖な場所である。即ち、裸地の周辺に多い傾向がある。
 4 裸地では、夏期の日中直射日光を受ける場合は、地表温度が、35〜45度Cになることがあるので、活動を一時停止することがある。クロヤマアリ、シワアリは高温に強く、アズマオオズアカアリ、アシナガアリは高温に弱い。比較的高温に強いクロオオアリは昼行性のアリであるが、盛夏には一時的に涼しい夜間に行動し夜行性となる。
(2)環境条件と分布密度

第5表 分布密度


備考 環境条件及び調査位置は第4表に同じ、

 考察
 1 このグラフは、前記第4表の内容を量的に表明したものである。暗い森林内よりも、明るい雑草地に営巣も密度もともに高いことが明らかである。
 2 雑草地を比較して見ると、草の点在地よりもやや密度の高い雑草地に多い傾向がある。これは、住居・食糧などから考えて当然である。
 3 最も密度、種類ともに高いのは、階層構造をなす雑木林であることは、第4表及び第5表で明らかである。

 V アリの生殖
1 羽アリの発生時期

  第6表 羽アリの発生表


備考
 1 調査期間 昭和46〜52年
 2 場所 徳島県三好郡山城町
 3 ●−●−● 羽アリの採集期間と採集時期

考察
 1 羽アリの発生時期は、アリの生殖時期を示すものである。(羽アリは、女王アリと雄アリである)
 2 羽アリの発生時期は、3月〜11月である。3月に発生するのは、クロナガアリ(Messor aciculatum)で、11月は、トゲアリ(Polyrhachis la-melligens)であるが当地方ではまだ採集出来ていない。
 3 羽アリの発生する種類の多いのは、6〜8月である。
 4 羽アリの発生時刻は、1日においても種類によって時刻が異る。午前中、正午、午後、夜間の区別がある。
 例へば、午前中は、クロヤマアリ、正午は、アシナガアリ、午後は、ムネアカオオアリ、夜間は、キイロシリアゲアリ、トビイロケアリなどである。
 5 羽アリの発生する日の気象状況は、温暖無風で晴の日である。
 発生する時刻日時は、同じ地域では平坦部も山地も同じである。
 6 羽アリの発生する時刻が同じ時期である理由は、近親交配をさけ種族の退化を防ぐ生物の英知である。
 7 女王アリは、交尾が終わると羽が脱落して働アリに運搬されて巣に帰るか、1匹で穴をさがして巣を作り育児にかかる。その後約5年間生存する。雄アリは、羽アリとなり巣から出るとその翌日は死亡し各種のアリの餌となる。
 8 雄アリは、女王の未受精卵から産れると考えられているが、これは蜜蜂よりの類推であり、アリの場合は働アリを飼育すると単為生殖で雄アリとなる。卵を産む、これは、女王アリの負担を軽減する方法であり、ここにもアリの生活が蜂より進歩していることが推察することが出来る。
 9 アリの女王は、1巣の中に2〜12匹共同生活している。蜂の女王は1巣に1匹であるが、ここにもアリの社会生活における形式的な進化が見られる。

2 地中温度と羽アリの時期

  第7表 地中温度


 備考
 1 調査年度 昭和48年度
 2 調査場所 徳島県三好郡山城町
 3 ×−× 地表温度
   ●−● 地下1m温度

 考察
 1 羽アリの発生が、6〜8月に多いのは、地中温度が上昇する時期であり、育児に好都合であると共に地表の飼料採集に好都合である。又、9月以後に生殖期のあるアリは、冬眠期に育児をつづけ早春より活動を開始する(例、キイロシリアゲアリ)
 2 地中温度は深いほど安定している。
 3 羽アリの発生時期が、平坦部と山地であまり変化なく同じ時期に発生するのは安定した地中温度と生理周期の一致を示すものである。
 4 アリの営巣の深さは、クロヤマアリでは、3mに達することがある。
 5 アリの活動にも地中温度が関係する。即ち、寒冷期になるとクロヤマアリは、地表温度が14度C以上になると外に出て行動し12度C以下になると巣に帰り活動を停止する。

3 羽アリの形態
 VI アリの分布より見た山城町の現況
 1 オオハリアリの分布が広いことは、針葉樹林が広く、雑木林の樹令も高く、単層構造をした単純林に変化しつつあることを示すもので、この傾向が続くとアリの種類の減少にとどまらず、昆虫や鳥類の減少の原因ともなる。
 2 オオハリアリと共に針葉樹林の中にハヤシクロヤマアリ、ムネアカオオアリの混住していることが、しばしば見られる。
 このことは、雑木林を伐採し針葉樹を植林したが、樹令の比較的若く20年以内のものが多く、森林内が明るいことを示すものである。
 3 クロオオアリが平坦部の国道沿いに見られる、これは雑木林の存在を示すものである。
 4 クロヤマアリの分布が比較的狭いのは、畑地や人家のある集落面積の狭さを示し、特に広い農道や林道にもハヤシクロヤマアリが多いのは、道路の設置後の年数がたっていないことを表わし、更に山林が広く造林事業が進んでいるにもかかわらず、林道設置の遅れを示すものである。
 5 メクラハリアリ、ウメマツアリが比較的多く各所で採集されることは、山林内に朽木の多いことを示すバロメーターであり、雨量、湿度も高く樹木の成育には好適で土壌の肥沃であることがわかる。
 しかし、その反面林道の不備により間伐材が経済的に搬出されていないことを示すものである。
 6 南向き斜面の松林及び雑木林が、階層構造をしているにもかかわらず、アリの種類が少い。これは、土質の乾操と土地の痩ていること及び土地の浅いことが原因である。更にアリの少い土地には他の昆虫や鳥類も少い共通性がある。

  おわりに
 本調査を実施するに当たり、町当局及び住民の方々の温かいご協力に対し厚くお礼を申し上げます。アリの生活は多彩であり身近な生物だけに参考となる面が多いが、紙数の関係で調査の一部分しか記載出来ないのは残念である。残りの資料は後日別途印刷する機会にまわします。


徳島県立図書館