阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第24号
山城町の渓流における水生こん虫と biotic index

生物学班 徳山豊・長池稔

 今回の山城町における総合学術調査に水生こん虫班として参加し、山城町内の渓流における水生こん虫の採集調査にあたり、若干の結果を得たのでここに報告する。
1 調査水系の概要と調査地点及び方法
 調査した水系は、第1図に示す山城町を流れる伊予川、白川谷、藤川谷の3渓流及びその支流である。伊予川(銅山川)は、愛媛県別子山系に端を発し、山城町川口で吉野川に流入する河川で、山城町を流れるのは、約10.4kmである。山間部を流れ、各所に深い谷を作り、河床は岩が多く、いたる所に深い淵が見られる、白川谷(約13.6km)、藤川谷(約8.9km)は山間部を流れる短い渓流で、河幅は狭く、周囲には山が迫り各所にV字型の谷が見られる。水は清冽で、民家が少いので、汚水の流入も少いといえる。全長に対し、第2図の断面図に見られるとおり、傾斜が急なため、流速が速く水深が浅いのが特徴である。調査は、第1図に示す各地点で行った。

定量採集は、各地点の瀬において、また定性採集は各地点の瀬淵を問わず、調査地点に見られるこん虫をできるだけ集めた。採集と同時に、気温、水温等の環境要因も測定した。
 おもな地点の様相を述べると、伊予川の、S1〜S4の各地点は流れは、ややゆるく、平瀬になる地点である。T3(川口)は、周囲に民家が多く、汚水の流入が多い上に、夏季には水量が少く、瀬切れとなり、河床の石には汚水菌が付着する。S5は支流で、山城町の名所、ホタルの里赤谷へ通じる渓流である。周囲は水田があり、河床には泥が多く積もっていた、白川谷のT1、S1は上流部で水は清冽であるが、工事、山崩れによる土砂の流入により河床は荒れている。T3では汚水の流入があり、水はやや濁っていた。藤川谷では、各地点で汚水の流入も見られず、水は清冽と思われた。
 調査地点の環境要因は第1表に示すとおりである。

採集時刻は午前と午後にわたり、夏季においては、気温、水温とも標高、河川の上下流にかかわらず高低がみられる、水温についてみると白川谷のS1において20.2℃と最も低く伊予川のS2(茂地)で最も高く30℃を示している。底質については、どの地点も石レキ、石からなっている。河川型Aaと示した地点は山地流を表す。
 第2表は定性採集における各調査地点の環境要因である。

水温についてみれば白川では、上流ほど低く、下流にゆくにつれて高くなっている。他の渓流では、河川の上下流にかかわらず高低がみられる。底質については、どの調査地点も、石、石レキ、砂レキ、泥等である。河川型Aa―Bbと示した地点は山地流から平地流への移行型を表す。


2 調査結果及び考察

 定量採集の結果は第3表に示した。

伊予川のS4を除いた地点では、種類数が多く、藤川谷のS2白川谷のS5において、最も多く19種採集された。全地点を通して42種のこん虫が採集されたが、それらを目別にみると第4表に示すとおりトビケラ目 Tricoptera が最も多く16種(38.1%)、次いでカゲロウ目 Epemeroptera が15種(35.7%)とこの両目で、全体の73.8%を占める。次いでカワゲラ目、双翅目が4種、以下トンボ目、広翅目、脈翅目が各1種である。一般に瀬においてはトビゲラ目よりカゲロウ目の種類数が多くなるが、この調査ではトビゲラ目が多くなっている。


 各地点での特徴種についてみると、伊予川のS1、S3においてオオシマトビケラ Macronema radiatum が4頭採集された。本種は県内では吉野川穴吹付近で採集した外は採集していない。また、支流を除く全地点でコガタシマトビケラ Hydropsyodes brevilineata が採集されたことから、河川型は中間渓流で山間部を流れているが、平地流的であるといえる。白川谷、藤川谷の全地点にみられた種として、Ephemerella sp nG、エルモンヒラタカゲロウEpeorus latifolium,ヒゲナガカワトビケラ Stenops-yche sauteri がみられた。
 BECK-TSUDA 法による biotic index を計算した結果を第3図、第6表に示した。

伊予川のS4で極めて低い値を示すが、これは底質が沈み石で流速もやや他に比べてゆるいことが原因と思われる。白川谷、藤川谷においては、白川谷のS2(栗山)を除いたすべて20以上の値を示し清冽という結果を得た。伊予川は白川谷、藤川谷に比べてかなり濁りがみられたが、指数がそれを裏づけるといえる。
  定性採集の結果は第6表に示した。全地点で計58種が採集された。藤川谷のT1で27種と最も多く採集された。またこの地点ではムカシトンボ Epiohle-bia superstes selys が採集された。淵のこん虫を加えると種類数が増えるのは、トンボ目 Odon-ata、モンカゲロウ属 Ephemera のこん虫が加わるためである。伊予川のS3(大野)で夏季に採集されたオオシマトビケラ Macronema radiatum が15頭採集された。この地点ではウルマ―シマトビケラ Hydropsyche-ulmeri に次ぐ現存量を占める。夏季に白川谷、藤川谷の全地点でみられた Ephemerella sp. nG(マダラカゲロウ属の一種)が姿を消している。
 一地点のみで採集された種として、藤川谷のT1でオナシカワゲラ科の一種、Nemouridae Rhyac-ophila sp.(ナガレトビケラ sp)、T2で Hydr opsyche sp. HA(シマトビケラ科 sp.)モンカゲロウ Ephemera strigata、シロタニガワカゲロウ Ecdyonurus yoshidae Takahashi、クロツツトビケラ Uenoa tokunagai Iwata、T3でミヤマタニガワカゲロウ Cinygma hirasana Imanishi、T4でコオニヤンマ Sieboldius albardae Selys、白川谷のT1でミルンヤンマ Planaeshna milnei Selys、ウチワヤンマ Ictinogomphus clavatus、チビサナエ Stylogomphus ryukyuanus Asahina、T3でユスリカ科の一種、伊予川のT1で Ephemerella sp.(マダラカゲロウ属の一種)、Baetis sp、(マダラカゲロウ属の一種)、T2でチラカゲロウ lsonychia japonica、ヒメクロサナエ Lanthus fujiacus があげられる。
 

3 摘要
1.BECK-TSUDA 法により biotic indexを求めると、藤川谷、白川谷の各地点で極めて高い値を示した。伊予川の各地点の biotic index はやや低い値を示す。
2.種類数は、藤川谷が最も多くみられ、次いで白川谷、伊予川の順である。
3.伊予川の川口では、現存量が極めて少く、民家からの汚水の流入、加えて夏季の瀬切れが原因と考えられた。
 文献
1)津田松苗(1962):水生昆虫学
2)津田松苗(1964):汚水生物学
3)桑田一男(1959):愛媛県におけるトビケラ類の採集記録 あけは7号
4)小松典(1964):日生態会誌
5)可児藤吉(1944):渓流棲昆虫の生態

採集されたおもな水生昆虫

  

  


徳島県立図書館