阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第24号
山城町の植生

生物学班

    森本康滋・友成孟宏・鎌田正裕

1.はじめに
 徳島県の西端に位置する山城町は、西は愛媛県と、南は高知県と接し、四国山脈を浸食して深く狭い谷を形成しつつ南から北へ流れる吉野川より西部の急峻な山地ばかりの地域である。
 本地域は県境に1,000m級の山が連なり徳島市から遠いこともあって、これまで調査が十分行われていなかったが、今回の調査によりその植生を明らかにすることができた。
 海抜1,000m以上の山としては、塩塚峰、剣ノ山、三傍示山、野鹿池山、黒滝山などがあり、かつてはブナ林がかなりあったと考えられるが現在では殆ど全て伐採されてしまっている。特に野鹿池山頂付近には昭和48年度天然記念物緊急調査時には立派なブナ林があり、その中央部にホンシャクナゲの大群落もみられたが、今回の調査ではブナ林はすべて伐採され、本県では他に類をみないこのホンシャクナゲ群落も環境が変わった今、次第に姿を消していくのではないかと思われる。
 また、町の西南部は広範囲にわたって皆伐されており、ある所は植林もされてはいるがまだまだ幼木で、集中豪雨時などに中下流域が危険にさらされる事も十分考えられる。
 山城町における自然景観の保護と自然の利用や管理による災害防止なども加味して、昭和52年8月4日から8月8日までと、9月22日、23日にわたって町内の国道32号線とそれから分かれて入る伊予川、黒川谷、白川及び藤川谷などの支線、高川原、塩塚峰、中曽山、黒滝山などにみられる種々の植生型を対象に植生調査を行い、これと平行して1:50,000の地形図上に現存植生図を作製(昭和52年5月撮影のカラー空中写真を利用)した。調査期間が短かったので所期の目的が十分達せられなかったが調査できた範囲内で報告する。
 この報告書をまとめるにあたり、御指導・御校閲いただいた高知大学の山中二男教授、並びにこの調査に御協力いただいた山城町及び県当局の方々に謝意を表します。

 

2.自然環境
 1)地形・地質 山城町は本県の最西端に位置し西は愛媛県宇摩郡新宮村と峰畑山(747.9m)、塩塚峰(1,043.4m)、三傍示山(1,157.8m)などの連山で接し、南は高知県長岡郡大豊町と野鹿池山(1,294.4m)、黒滝山(1,209.9m)など1,000m級の山で境され、北は海抜およそ600mの連山で三好郡池田町とそして東は北流する吉野川をはさんで池田町及び西祖谷山村と対している東西に短かく南北に長いほぼ四辺形をした西に高く東に低い山地ばかりの地域である。当地には伊予川、白川および藤川の三つの川があるが伊予川は愛媛県東部石鎚山脈の冠山、別子銅山の近くに発して東流し、山城町を貫いて小歩危北で吉野川に合流している。白川は町の南西部三傍示山、中曽山に端を発し、いくつかの支流を集めながら北流し、白川付近で東に曲がり小歩危に流入する町内を流れる最大の川である。また藤川は町の南部を東流し大歩危に注いでいる。このような川の流れる方向からもわかるように山脈は大体西から東に走るものが多い。そしてこれらの山が吉野川に接するところは数十〜数百メートルの絶壁となり三波川帯の結晶片岩が露出し大歩危、小歩危の景勝を形成している。地質は古生界三波川帯に属する結晶片岩からなり大歩危、小歩危に代表される緑色片岩を主とし、泥質片岩もみられる。
 2)気候 本町は海から遠く四国山地の本県における最西端部に位置しているため年平均気温は徳島県でも低い方に属する。そして藤川以南が低く、北の池田町に近いほどわずかではあるが高い傾向がみられる(図1)。
 山城町の気象データーがないので、北に隣接する池田町の資料を示す。
 隆水量は1,500mmから2,000mmまでの間で、町の南部がやや多いようである。

 

3.植生概観
 本町の土地利用状況は表2の通りで、森林が全体の約85%にあたる10,958haを占め、そのうち人工林、竹林及び無立木地が7,445haあり7割近くが人工植生となっている。平地が少ないので山腹の傾斜地には段々畑がつくられ、水稲、麦類、陸稲、豆類、いも類、タバコなどが栽培されており、また樹園地としてはクリが最も多く、茶、ハッサク、ウメなども作られている。
 調査対象地域にみられる森林植生の最も低い地点は池田町との境界付近の国道32号で海抜180m、最も高い野鹿池山で1,294.4mあるので大部分は照葉樹林帯(85〜180m.d.)に含まれ池田での暖かさの指数は122.7m.d.またこれから気温減率により算定すれば海抜900m位で85m.d.となり、これより上が、落葉広葉樹林帯(〔45〜56〕〜85m.d.)のブナ林となる。塩塚峰より南部には900m以上の山地が多く、ここにはブナ林がかなりあったと考えられるが現在では殆どが植林または二次林におきかえられ、塩塚峰や根津木越付近はススキ草原となっている。また照葉樹林帯に属する地域も広範囲にわたってスギ・ヒノキの植林がなされてはいるが、高い山地ではコナラ林、そして吉野川沿い及び伊予川沿岸にはアラカシ・コジイの萌芽林がみられる。また伊予川より北の池田町に近い山地はアカマツ林となっている。
 

4.調査結果
 山城町で識別された群落は、A.自然・半自然植生 1)ブナ群落、2)ホンシャクナゲ群落、3)モミ・ツガ群落、4)イワカンスゲ群落。B.代償植生 5)アカマツ―オンツツジ群落、6)アラカシ・コジイ群落、7)コナラ・クリ群落、8)シロモジ群落、9)伐採跡群落、10)ススキ群落、C.人工植生 11)スギ・ヒノキ植林、12)樹園地、13)水田、14)畑、15)竹林などである。
  A 自然・半自然植生
 1)ブナ群落
 識別種 ブナ・コハクウンボク・ベニドウダン・ヒメクロモジ・ツタウルシ・ヤマイヌワラビ・アワノミツバツツジ・オトコヨウゾメ・イトスゲ・コタチツボスミレ・ヤマアジサイ・ミヤマイボタ、平均出現種数 40種。
 本町におけるブナ林は空中写真からの判読では三傍示山頂の東北部と黒滝山とにあるが現地調査ができたのは黒滝山のみであった。

 ブナ林は、冷温帯の代表的極相群落で、本県では海抜1,000m付近から発達し、1,600m付近まで見られるが、これは西日本の太平洋岸に発達するブナ―スズタケ群集に属する。黒滝山のブナ林は、林床にスズタケを伴わず、胸高直径が10〜20cmであることから、かつて伐採されたことのある林であると考えられる。高木層には樹高10〜15mのブナ・アズサ・コミネカエデ・ヤマザクラ・ホオノキ・ウリハダカエデ・コハウチワカエデ・イヌシデ・カナクギノキなどが混生し、亜高木層にはリョウブ・アオハダ・コハクウンボク・ヤマボウシ・カマツカなどがみられ低木層にはシロモジが優占し、アワノミツバツツジ・タンナサワフタギ・ツクバネウツギ・ベニドウダン・ヒメクロモジ・カマツカ・シラキなどが、そして草本層にイトスゲ・ヤマアジサイ・コタチツボスミレ・ヤマイヌワラビ・ツタウルシの他マツブサ・ヒメアザミ・テイカカズラ・クマイチゴ・ナライシダ・ハリガネワラビ・ツルリンドウ・シシガシラ・ナガバモミジイチゴ・チヂミザサなど多種類が生育している(付表2)。
  野鹿池山頂付近のブナ林は現在は伐採されてしまったが、かつて1973年8月13日に調査した資料があるのでここに示す。当時は樹高約20m、胸高直径80〜100cmのブナ林が高木層にうっそうと茂り、林床は一面のスズタケでおおわれている典型的なブナ−スズタケ群集であった。その当時の群落構成は次の通りであった。

   1973・8・13 海抜 1,290m 方位N  傾斜3°20m×20m
 高木層   ブナ 4・2  カジカエデ 1・1
 (20m)
 亜高木層  ブナ 1・1  ヒコサンヒメシャラ 2・1
 (10m)   エゴノキ 1・1  コハウチワカエデ +
       リョウブ 1・1  (サワグルミ +)
 低木層   カマツカ 2・2  シロモジ 2・2
 (3m)   タンナサワフタギ 1・1  ツリバナ 1・1
       アオハダ +  ミヤマイボタ +
 草本層   スズタケ 5・5  サワグルミ +
 (1.5m以下) アオハダ +  ノリウツギ +
       サワグルミ +  ニワトコ +
       ツタウルシ +  ハガクレツリフネ +
       ミヤマタニソバ +
 2)ホンシャクナゲ群落

 上記ブナ林に囲まれた湿地にホンシャクナゲの群落があるがその群落組成は
  1973・8・13 1,290m 傾斜0°10m×10m
 亜高木層  ホンシャクナゲ 4・4  ノリウツギ 2・2
 (6m)   コミネカエデ 1・1  アオハダ 1・1
       ベニドウダン +  ヒノキ +
       アズサ +  ネジキ +
 低木層   ホンシャクナゲ 2・2  ウメモドキ +
 (2m)   ヤマシグレ +  コツクバネウツギ +
       ネジキ +  カマツカ +
       ベニドウダン +  リョウブ +
 草本層   ツルシキミ 1・2  ホンシャクナゲ 1・2
 (0.8m)  ミゾソバ 1・2  ゼンマイ +
       ベニドウダン +  コミネカエデ +
       ノリウツギ +  ツクバネソウ +
       イワガラミ +  ヤマウルシ +
       ヒノキ +
 コケ層   オオミズゴケ 5・5
 のようであった。
 3)モミ・ツガ群落
 識別種 アカガシ・オオキジノオ・サカキ・ホンシャクナゲ・ツガ・ヤマイタチシダ・キジノオシダ・クサソテツ・シノブ、平均出現種数 20種。

 冷温帯の落葉広葉樹林(ブナ林)と暖温帯の常緑広葉樹林(シイ林)との推移帯(海抜700〜1,000m)には、通常モミやツガが他の樹冠からぬきん出た特徴ある景観を呈するモミ・ツガ群落がみられる。調査地では中曽山付近にまだ伐採されていない自然度の高い群落が残されている。ここでは高木層に樹高15m胸高直径30〜45cmのツガ・アカガシが優占しその他シキミ・ウラジロガシなどの常緑広葉樹と、アズサ・イヌブナ・コミネカエデ・エゴノキ・ミズナラ・リョウブ・コシアブラなどの落葉広葉樹とが混生しており、亜高木層にはソヨゴ・シロモジ・サカキ・ネジキ・ツガ・ヤブツバキ・アセビ・ソヨゴ・コバノトネリコ・イイギリなどがよくみられ、低木層にはホンシャクナゲが優占しヒサカキ・ツガ・アセビ・ヤブツバキなど亜高木層と同じ樹種が多くみられ、草本層はあまり発達していないがツルシキミ・オオキジノオ・ヤマイタチシダ・キジノオシダ・イヌツゲ・シノブ(着生)などがみられるものである(付表3)。
 4)イワカンスゲ群落
 識別種 イワカンスゲ・アオヤナギバナ・キシツツジ・キハギ・スダレギボウシ・アワモリショウマ、平均出現種数 4.3種。

 吉野川が四国山脈を削ってつくる大歩危・小歩危の断崖の割れ目やくぼみの少し土壌のたまったところにイワカンスゲの優占するイワカンスゲ群落が発達している。ここではイワカンスゲの他このような河ぶちの環境を好むアオヤギバナ・キシツツジ・スダレギボウシ・アワモリショウマ・ヤシャゼンマイ・ススキなどがみられる。その他上流から流されて来た山地性の植物(ヒサカキ・コマツナギ・フジ)や雑草(ハコベ・ギシギシ・ヨモギ・ノゲシ・タネツケバナ・カラムシ)、帰化植物(アメリカセンダングサ・オオイヌタデ)などがかなりみられる(付表4)。
 B 代償植生
 5)アカマツ―オンツツジ群落
 識別種 アカマツ・スノキ・ウンゼンツツジ・タカノツメ・ナツハゼ、平均出現種数 25.8種。

 徳島県のアカマツ林の大部分は吉野川をはさむ南北両岸の山地に発達しているが、その最上流部が山城町にある。小面積の群落はもっと上流にもあるが、山腹全体を覆うよに一面に発達しているのは伊予川以北からである。吉野川下流域では、海抜400m以下ではアカマツ―モチツツジ群落が、それより上ではアカマツ―オンツツジ群落がみられるのが普通であるが、本町においては海抜が低くてもアカマツ―オンツツジ群落が発達している(山城町現存植生図参照)。高川原付近のアカマツ林では、高木層に樹高15m胸高直径25〜35cmのアカマツが優占し、亜高木層は発達悪いが、ヤマウルシ・コナラ・リョウブ・アラカシなどが散生し、低木層にはオンツツジが高い被度と出現度であらわれ、その他ヤマウルシ・ソヨゴ・ヒサカキ・ナツハゼ・ネジキ・タカノツメ・イヌツゲ・コツクバネウツギ・リョウブ・カマツカ・アベマキ・サルトリイバラ・ツクバネウツギ・ガマズミ・コバノガマズミなどが叢生している。草本層は光が十分達しないため発達悪いがオンツツジ・シシガシラ・ウンゼンツツジ・ヤブコウジ・ワラビ・コウヤボウキ・ツルリンドウ・ススキなどがみられる(付表5)。
 6)アラカシ・コジイ群落
 識別種 アオキ・ハナミョウガ・ネズミモチ・イヌワラビ・オオカナワラビ・コジイ・シュロ、平均出現種数 22.6種。

 一般に山地の渓谷沿いの急傾斜地にアラカシ林がよくみられるが、本調査地では、吉野川に沿った山の斜面に帯状にみられるのと、伊予川沿いの斜面にも発達している。これらはいずれも、かつて薪炭用として択伐されていたものらしいことがその切株や枝分かれなどからうかがえる。大門付近では高木層に樹高約10m、胸高直径18〜20cmのアラカシ・コジイが他をぬきんで、亜高木層は約7mの高さで一面に林冠がおおい、胸高直径約7cmのアラカシ・ヤブツバキが優占しネムノキ・リョウブ・ネズミモチ・イヌビワ・ゴンズイ・タラノキ・マダケ・ヒサカキ・カナメモチ・コガクウツギ・ヤブムラサキなどが散生し草本層にはハナミョウガ・オオカナワラビ・ヤブコウジ・シュロ・シュンラン・コウヤボウキ・シシガシラ・ヒメヤブラン・フユイチゴ・イチヤクソウなどがみられた(付表6)。なお川口駅付近から下流へ、大川持・下川・大屋敷と吉野川に面する斜面の中腹以下のアラカシ林はアベマキを可成り含み、遠くから見てもシイ・カシ林とやや相観が異なるが、組成的にはよく似ているので、アラカシ・コジイ群落にまとめた(付表6)。
 7)コナラ・クリ群落
 識別種 イヌガヤ・カヤ、平均出現種数 25.9種。

 伊予川以南の黒川谷、白川、藤川に面する斜面の海抜1,000m以下は、かつて薪炭用に利用されていたコナラ・クリ群落で占められていたと考えられる。現在ではその半分以下が、スギ・ヒノキの植林の間に、飛び地状に可成り広い範囲にわたって、コナラ林として認められた。藤川中流域の平部落の上部730mにあるコナラ林では、高木層に樹高約12m、胸高直径15〜26cmのコナラが優占し、クリ・イヌシデ・ウラジロノキ・ヤマザクラ・エンコウカエデなどが混生し、亜高木層にはリョウブ・アワブキ・エゴノキ・シラカシ・シロモジ・イロハカエデ・アワブキ・ソヨゴ・クマノミズキ・ケヤキなどが混生しており、低木層には、アセビ・オンツツジ・ツリバナ・ノリウツギ・シロダモ・イヌツゲ・ヤブツバキ・コバノガマズミ・コガクウツギ・ナツフジ・イヌガヤ・ケクロモジ・ヤブムラサキなど多種類がみられ、草本層は、やや貧弱ではあるが、フユイチゴ・ヒメヤブラン・コウヤボウキ・シシガシラ・ツルリンドウ・シュンランなどがあった。
 根津木越の付近は一面のススキ群落であるが、その中にはコナラの低木が疎にみられ、また下部からコナラ群落が次第に侵入しつつあり、群落の遷移がみられた。ここでは、樹高約5m胸高直径約9cmのコナラに混ってヤマザクラ・リョウブ・クリ・エゴノキなどが林冠を形成し、次第に自然更進が行なわれている(付表7)。
 8)シロモジ群落
 識別種 ケヤマハンノキ・コゴメウツギ・アサガラ・エイザンスミレ・カエデドコロ、平均出現種数 22.3種。

 本県のブナ林はシロモジを伴うことが多く、ブナ林の伐採跡地にはシロモジガ、優占する群落がよくみられる。本町では野鹿池山の1,000m付近、黒滝山頂のブナ林周辺(900m)などにみられる。黒滝山頂近くのシロモジ群落では高木層はなく亜高木層に樹高5〜8m胸高直径2〜5cmのシロモジが叢生して最も優占し、コミネカエデ・ミズナラ・タムシバ・アオハダなどブナ林構成要素を多く含み、低木層には、ベニドウダン・タンナサワフタギ・コハクウンボク・ノリウツギ・ヒメクロモジなどがみられ、草本層にはツルシキミ・ミヤマフユイチゴ・ミヤマシグレ・シシガシラ・ハリガネワラビ・ツタウルシなどがみられた。また所によっては高木層にケヤマハンノキやアサガラ・ウリハダカエデ・ヤマザクラ・イヌシデ・クリなどがぬきん出ていることもあり、前述のコナラ・クリ群落と組成の似た点もあるが、やや海抜が高い所にあり、ブナ材構成種を多く含んでいる点で異なる(付表8)。
 9)伐採跡群落
 識別種 カンスゲ・エビガライチゴ・サルナシ・オオマルバノテンニンソウ・コアカソ・フキ・ウツギ・クマイチゴ・ヒメジョオン。平均出現種数 13.7種。

 小規模な伐採跡地は町内各地に見られる。町の西南部白川の上流域では広範囲にわたる皆伐が行われ、すでに植林された所もあるが幼令の植林地も含めておよそ520ha以上にわたって樹林のない地域がある。また藤川谷流域でも220ha以上が伐採跡地又は幼令の植林地となっている。これら伐採跡地では、海抜高や地形、また以前の群落、伐採されてからの期間などによって群落組成の様子は異なるが、三傍示山下の伐採跡地(840m)では、すでにスギが植林され2mほどに育っているが、その間に高さ1.5m位のノリウツギ・クマイチゴ・ムラサキシキブ・カナクギノキ・エビガライチゴ・アカメガシワ・エゴノキ・ヌルデなどが、一面に生えたススキの上に伸び出している。そしてススキの中に以前の群落構成種であったオオマルバノテンニンソウがマット状に生育しているところもみられた(付表9)。
 10)ススキ群落
 識別種 マルバハギ・ミツバツチグリ・オミナエシ・オトギリソウ・タカクマヒキオコシ、平均出現種数 12.3種。

 山城町では塩塚峰と津屋から平上にかけての尾根部(東西約3.5km幅300〜500m)に広いススキ群落がみられる。これらは古くから採草地として毎年刈取られ、屋根のふきかえや農作業用に利用されてきたが、最近では殆んど刈取りが行われなくなっている。そのため平の上部ではススキ群落の中ヘコナラ群落が下から侵入し始めており、また、ススキ群落の中にもコナラが斑状に生長し次第にコナラ群落へと遷移していく様子がみられた。海抜840m付近ではススキ(1m)が最優占し、コナラ・マルバハギ・ノリウツギ・ネムノキなどの木本類が散生し、下層にはミツバツチグリ・オミナエシ・アキノキリンソウ・ワラビ・トダシバ・ヒメヤブラン・タチツボスミレなどがよく出現している(付表10)。また塩塚峰でもススキ群落の下部は次第にコナラ群落に移り変りつつある。
 C 人工植生
 11)スギ・ヒノキ植林

 前述のように本町では人工林が全森林面積の61.4%を占めており、これは'73農林省策定の森林資源に関する基本計画の54%をはるかに越えている。スギ林は町全域にわたってみられるが、特に白川谷流域に多い。スギの生育は南部でよく、林床にみられる植物は以前の群落構成種により異なるが、海抜の高い地域ではシロモジが優占している。
 12)樹園地 山腹を利用したクリの栽培が盛んで165haで300tを生産している。茶畑が68haあり中でも藤川谷の津屋及び影は山城茶の主要産地として知られている。
 13)水田 谷沿いの傾斜地に段々につくられた水田がみられ、水稲が栽培されている。
 14)畑 各集落の周辺の傾斜地に畑がみられる。主な作物は陸稲(34ha)、麦類(58ha)、タバコ(34ha)、豆類(32ha)、甘藷(23ha)、そさい、雑穀類などである。

 15)竹林 人家の近くにはたいていモウソウチク林がみられる。日浦のモウソウチク林の群落組成は次の通りである。
  海抜620m 方位N80°E 傾斜40° 100平方メートル 出現種数 40種
高木層(13m)植被率100% モウソウチク 5・4
亜高木層(8m)植被率20% モウソウチク 2・1
草本層(0.8m以下)植被率90% カラムシ 3・2 チヂミザサ 1・1
 ゼンマイ+、ミズヒキ+、ウツギ+、カラスビシャク+、コアカソ+、ヌスビトハギ+、ゲンノショウコ+、ツユクサ+、ミツバアケビ+、ノブドウ+、ヤマノイモ+、ヨモギ+、キツネササゲ+、オオバコ+、ウバユリ+、カテンソウ+、へクソカズラ+、フキ+、ヤマイヌワラビ+、イタドリ+、アケビ+、イナカギク+、シュロ+、ススキ+、ヤブカンゾウ+、キカラスウリ+、ネムノキ+、キヅタ+、アキノタムラソウ+、クサイチゴ+、イノコズチ+、ヘビイチゴ+、トキリマメ+、シオデ+、クワ+、ダイコンソウ+、ヒメヤブラン+

 

5.提言
 本町では人工林面積が全森林面積の61.4%(6,723ha)を占め三好地域でも多い方に属する。また伐採跡地及び幼令植林地が約800ha(森林面積の約12%)もありしかもそれが白川谷上流域に集中(約520ha)して存在していること。また、藤川谷にも可成り(約220ha)みられることから、本町は雨量が少い地域であるとはいえ、いつ集中豪雨に見舞われるかも知れず、その時になってからでは遅過ぎるので、この調査を機に対策を立てることが望ましい。すでに昨年度、藤川谷中流域で家の土台がえぐられそうになったと聞く。また各所で山地の崩壊もみられ、特にスギ植林地や皆伐跡に多い。白川谷及び藤川谷流域ではこれ以上皆伐することを禁止し、積極的な植生回復策を立て早急に実施することを提案する。
 

 

6.まとめ
 1977年8月と9月に計7日間、山城町全域の植生調査を行い、1:50,000地形図に現存植生図を描いた。そして各植生毎に現地調査を行った結果次のような群落が明らかとなった。
 A 自然・半自然植生
  1)ブナ群落
  2)ホンシャクナゲ群落
  3)モミ・ツガ群落
  4)イワカンスゲ群落
  B 代償植生
  5)アカマツ―オンツツジ群落
  6)アラカシ・コジイ群落
  7)コナラ・クリ群落
  8)シロモジ群落
  9)伐採跡群落
  10)ススキ群落
 C 人工植生
  11)スギ・ヒノキ植林
  12)樹園地
  13)水田
  14)畑
  15)竹林

 主な参考文献
1)徳島県高等学校教育研究会地歴学会編 1974:徳島県郷土事典 205〜213
2)沼田真編 1975:自然保護ハンドブック 15〜24 東京大学出版会
3)文化庁  1975:天然記念物緊急調査 植生図・主要動植物地図 36 徳島県
4)森本康滋 1972:松尾川流域の植生 郷土研究発表会紀要18 1〜12
       阿波学会・徳島県立図書館
5)森本康滋 1977:牟岐町の植生 郷土研究発表会紀要23 61〜73
       阿波学会・徳島県立図書館
6)山中二男 1963:四国地方の中間温帯林 高知大学学術研究報告 Vol.12
       自然科学No.3 1〜9


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