昭和51年度の牟岐町総合学術調査の一環として、青木家所蔵の陶磁器の調査を行なったので、その概要を報告する。 青木家の表座敷に並べられた、およそ500個に近い陶磁器について調査したが、まだ倉庫の中に、いくらか残っているとのことであった。
1.陶磁器の種類 1
伊万里焼 伊万里焼は381個に達し総数の8割を占めている。このうちで錦手伊万里が212個染付伊万里が169個、そのほかにルリ釉と青磁のものが含まれている。これらを形態別に大別すると。 大皿・鉢・中皿・三ッ丼・小皿・刺身皿・飯茶碗・盃洗などに分けられ、形は円形のものが大部分で一部に輪花・角形・角隅とり・魚形・扇面などがある。 絵付模様は近世に伊万里で常用されている図柄ばかりで、その主だったものをあげると、 丸文・花鳥文・竜文・魚文・鳳凰文・笹文・桐文・波文・風景・松竹梅文・牡丹文・蝶文・四君子・麟麟文・瓔珞文など日本的に定着した図柄で、初期伊万里にみられる朝鮮風図案に始まり中国風に移行する図柄は認められない。高台内の銘は、角福が最も多く一部に富貴長春・大明成化年製・大明万暦年製があり、五良太夫という珍らしいものもある。 2
備前焼
伊万里に続いて多いのが備前である。布袋・置物・急須・香炉・小花生・耳付壼・三ツ耳壼・水屋壼・建水・すり鉢・徳利がある。徳利は出土品らしく極めて古い。三ツ耳壼も古備前の古いところ。香炉は古備前といえる勝れた造形である。 3
吉向焼の皿 吉向焼は砥部の陶工吉向治兵衛が明和時代大阪の十三で開窯したものだが、この皿は近世の作である。 4
黄瀬戸釉小徳利 油壼であろうか、使用目的が判然とせぬが茶席の振出しに使うとおもしろい。 5
丹波焼徳利 これは愛陶家の鑑賞意慾をそそる徳利。 6
高取水指 高取は福岡県のやきもので茶人が愛好する水指である。2個あるが1個は少し古いようである。 7
尾戸焼茶碗 窯が文政3年能茶山に移ってからの作品も一般に尾戸と呼ぶ人があるが、竹の図柄は好んで用いられる。この茶碗の高台の渦文とよく似ている無地の1碗があるがこれも尾戸といえそうである。 8
織部敷瓦 茶の湯に使うものだが、この織部敷瓦は新しい作である。 9 南蛮ちまき掛花入 見ごみのする南蛮である。 10
■平黄南京写鉢 菓子鉢に最適だが破損が惜しまれる。 11 真葛香合 製作年代は新しい。 12
楽黒茶碗 楽家の製作というより脇窯であろう。 13 刷毛目茶■ほか3個 14
萩焼煎茶器2組(急須・茶■5客・湯ざまし)近代作で印や銘はない。 15
蓮月刻銘煎茶器1組 歌人蓮月の余技の煎茶器はよくみかけるが写しものが多いので注意せねばならぬ 私は2回ほど偽物をつかんだ。 16
道八煎茶器1組 繊細な絵付は立派であるが仁阿弥道八まではゆかない。 17
万暦赤絵写煎茶器1組 大変よく写しているが本歌なれば千金の価がする。 18
木米銘煎茶■5客 木米は抹茶器も造るが煎茶器を多く焼いている。高価なものだがら贋物も多い。私は煎茶■を持っているが偽物らしい。15年ほど前に7万円出して買った染付の蓋置はほん物らしい。 19
急須 10個ばかり箱につめてあるが平凡な常用のものばかり。 20
水次 常用のもの2個あり、とり立てて言うほどのものでない。 21
中国もの 明末の染付芙蓉手の皿40客分は見事で、青木家蔵品の中で最高のレベルにあるものである。そのほか中国製とおぼしき山水染付の手洗鉢・獅子置物がある。
2.青木家陶磁器についての雑感 以上で青木家の陶磁器を略記したが、一般的にみて、鑑賞陶器や有名作家の作品は少なく、主として伊万里を中心とした来客用や会席用のものが殆んどで、大きな皿や鉢は、いわゆる皿鉢料理としての用途があり、従って料理を取り分ける小皿類が極めて多い。 伊万里焼は幕末から明治にかけてのものが大部を占め、古伊万里は少なく、初期伊万里は一品もない。箱に明治11年と書いたのが相当あるところから、その時代に購入したものが多いのであるまいか。 直径45.5cmの染錦大皿は某陶工が150万円の価値があると言ったそうだが、値段は別として大皿の中では秀逸である。 江戸後期以降のけばけばした絵付けの錦手伊万里は、たいていの旧家や富豪によく見られるやきものである。徳島県においても終戦この方、田舎廻りの骨董屋によって大量に買い出され、殆んど米国へ輪出されたので、現在においては、青木家のように大量の伊万里の所蔵家は少なくなった。 錦手伊万里は輪出向として、よく売れたものであるが、染付伊万里は相手にしてくれなかった。ところが近年に至り、おもしろい図柄のものはずいぶん高価となっている。1枚数十万円の高価を呼ぶものすら出ている。青木家蔵品中、備前の香炉は形が変っていて珍しい古備前である。丹波と思われる舟徳利や黄瀬戸油壼は数寄者の座右に置きたいもの。 天啓染付芙蓉手の皿は骨董屋が見ると最初に手にするものであろう。 青木家のやきものの特長は、煎茶器の幅広い蒐集である。これは江戸時代から明治にかけて流行した文人好みの煎茶を、青木家の方が、たしなまれていた証左である。 千家や茶人の宗匠などの箱書のある茶器が、見当らないところからみると、茶の湯は、あまり愛好されなかったと推察できる。以上適正でない評もあるかと思うが見逃していただいて、このへんで擱筆する。
|