阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第23号

牟岐町の薬用植物分布調査

生薬班

  村上光太郎・高橋宏和・加地由照・

  瀬尾規子・谷本省三・蟻井緑郎

〔目 的〕
 徳島県下では、これまで県西部の祖谷・松尾川流域、県北部阿讃山麓の美馬郡脇町全域、剣山周辺の麻植郡木屋平村、美郷村、那賀郡木頭村、名西郡神山町全域、県南部の海部郡宍喰町、海南町全域について民間薬調査が行なわれている。これらの地域は、県下でも薬用植物が民間薬として、比較的よく利用されていると思われる地域である。このように使用されている面からの調査を行なっているので、民間薬として使用されている植物と自生している植物との関係を調べるために、薬用植物の分布調査を行った。また現時点での薬用植物の分布の記録を作成することも今回の調査目的とした。

 

〔調査方法〕
 調査コースの沿道に自生している植物をできるだけすべて記録し、その周辺に分布している量を調査した。分布量は、その周辺に見られる数が5株以下のものを(+)、6株以上10株以下のものを(■)、11株以上のものを(■)として記載した。

 

〔整理方法〕
 調査によって確認された植物すべてについて、文献により、薬効の有無(薬効・使用部位)を調べた。使用した文献は「和漢薬、赤松金芳著」「民間薬用植物誌、梅村甚太郎著」「和漢薬用植物、刈来達夫・木村雄四郎共著」「薬用植物辞典、村越三千男著」「薬用植物大事典、木島正夫・柴田承二・下村孟・東丈夫共著」である。

 

〔調査日と調査地域〕
 昭和51年8月26日から8月30日まで調査した。調査地域は以下のようになっている。


  26日 I・III班 宮ノ本→大牟岐田→中山→砂美→小牟岐
     II班 亀山神社→大牟岐田→砂美→小張崎→馬地
  27日 I班 大島南側
     II班 大島中央部
     III班 大島北側
  28日 I班 津島西部
     II班 津島中央部
     III班 津島東部
  29日 I班 喜来→笠松→大谷→白木山→胴切山
     II班 笠松→大谷→胴切山
     III班 ふどの→五剣山→ふどの→芝原→橘川→橘→平間
  30日 I班 ヤレヤレ峠→奥谷→西又→白鳳神社→白木谷→宮ノ内→山口
     II班 本村→牟岐川→八幡神社→天神神社→牟岐中学校→大坪→市宇谷→鍛治屋谷山→小松→辺川→国鉄辺川駅
     III班 杉谷→山田→百々路山

〔結 果〕
 結果は表に示すようである。

〔考 察〕
 牟岐町に自生している薬用植物を海南町、神山町、脇町の民間薬調査で出現した薬用植物と比較して見ると、三地区で薬用植物として使用されていた植物は、アセビ、イワタバコ、ウツボグサ、オオツヅラフジ、オトギリソウ、カキノキ、ゲンノショウコなど44種であった。次に海南町と神山町で薬用植物として使用されていた(脇町では使用されていない)植物は、アオキ、カニクサ、カヤ、カラスウリ、クワ、サンショウ、シソ、ジュズネノキ、セリ、ツバキ、ノイバラ、バショウ、ヤブコウジの14種であり、神山町と脇町で薬用植物として使用されていた(海南町では使用されていない)植物は、アカメガシワ、オナモミ、ギシギシ、キリ、スイカズラ、ニガキ、フキ、ヘビイチゴの8種であり、海南町と脇町で薬用植物として使用されていた(神山町では使用されていない)植物は、ウバメガシ、カンアオイ、クリ、クロモジ、タンポポ、ハハコグサ、ヒイラギ、ヒキオコシ、ホオノキ、ショウガ、ヤツデ、ヤマノイモ、ヤマモモの13種であった。また海南町でのみ薬用植物として使用されていた植物は、アカガシ、アカネ、キランソウ、キブシ、クスノキ、コナラ、シシガシラ、チドメグサ、ツルナ、ナデシコ、ナルコユリ、マムシグサ、ヤマザクラの13種、神山町でのみ薬用植物として使用されていた植物は、アオツヅラフジ、アカザ、イチヤクソウ、ウツギ、エゴノキ、クサギ、クマザサ、コナスビ、シキミ、ネムノキ、ヒオウギ、ヤブカンゾウ、ヤマグワ、ヤマフジの12種、脇町でのみ薬用植物として使用されていた植物は、アカマツ、ウバユリ、カタバミ、クロマツ、ススキ、セキショウ、ソクズ、ツチアケビ、ツルニンジン、ヘクソカズラ、メナモミの11種であった。これらを調査地区ごとにまとめてみると、牟岐町に自生している薬用植物と、使用されている薬用植物とが、最も多く共通していたのは、海南町の84種で以下、神山町の80種、脇町の76種となっている。このように各調査地区間に差があまりなかったのは、今回の調査が海岸から胴切山などのような山間部までという広い調査地域によるものと思われる。
 また牟岐町に自生していた薬用植物のうちで、海南町、神山町、脇町での民間薬調査では民間薬として使用されていない植物には、アキノキリンソウ、アキノタムラソウ、アマズル、アラカシ、イケマ、イヌガヤなど159種もあった。このことは分布量にもよるが、民間薬として使用できる多くの植物を、ただの雑木、雑草として見すごしていることを現わしている。
 次に海南町の民間薬調査で民間薬として使用されていたにもかかわらず、今回の調査で生育が確認されなかったものには、アララギ、イカリソウ、イノコズチ、ウコギ、ウラジロなど153種(前記文献に薬用植物として記載されていない植物、8種「イノモトソウ、ウラジロ、グユミ、コシダ、サカキ、ジシバリ、タチシノブ、モッコク」が含まれている)があった。神山町の民間薬調査で民間薬として使用されていたにもかかわらず、今回の調査で生育が確認されなかったものは、アズサ、アスナロ、イチョウ、イノコズチ、ウラジロガシなど176種(前記文献に薬用植物として記載されていない植物、3種「ウラジロ、ミツバ、モッコク」が含まれている)があった。脇町の民間薬調査で民間薬として使用されていたにもかかわらず、今回の調査で生育が確認されなかったものは、アラカシ、アスナロ、アララギ、イノコズチ、ウラジロガシなど144種(前記文献に薬用植物として記載されていない植物、5種「ウラジロ、カキツバタ、クヌギ、サカキ、ネザサ」が含まれている)があった。
 以上のことより民間薬として使用されているにもかかわらず、牟岐町での調査で見られなかった植物数は神山町で多少、多いものの各町にあまり差がなかった。
 またキンカン、キハダ、シュンラン、ショウガ、ヒガンバナなど他の三町では民間薬として使用されているにもかかわらず、今回の調査で見つからなかった植物が少なからずあったが、これは私達の見落しや、調査が沿道にそっていることによると思われる。また調査が夏期の一回だけであったことも原因になると思われる。

〔資料〕
 以下に調査日・コース別に、科名・植物名(ラテン名)・分布量・生薬名・薬用部・主な薬効について記す。


徳島県立図書館