阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第23号

牟岐川水系の水生昆虫

水生昆虫班 神野朗・長池稔・徳山豊

 筆者らは、今回の牟岐町における総合学術調査に参加し、河川の清冽度の指標生物として知られる水生昆虫の調査を実施した。調査は、7月28、29日と8月27、28日の4日間行った。調査日の前後の河床の状態は、7月の調査の前に、雨天が続き、河床は不安定であった。昆虫相がもっとも貧弱であるといわれる夏季のみの調査だが、その結果を報告する。

 

I 水系の概要と調査地点及び方法
 調査した水系は、牟岐川、橘川、奥谷川で、全長にしてわずかに14.1kmの小河川である。全流域を通じ、河巾、流れ巾は狭く、水深も浅い。源流地点の標高は低い(約120m〜130m)が、それに比較して全長が短いため、流量は極めて少い。多量の雨が降った場合は、急激に流量が増え、従って河状係数(最大流量と最小流量の比)が極めて大きい河川といえる。この最大流量の際には、流速もたいへん大きく、河床に及ぼす影響も大きく、河川にすむ生物は、大きな被害を受けていると思われる。
 調査地点は第1図に示した合計9のStationにおいて、主として、瀬の水深10〜30cmの所を選び採集した。淵のある地点では、淵での採集も同時に行った。


 調査地点の概要を述べると、奥谷(St.1)、西又(St.2)、芝原(St.7)は断面図(第2図)に示すとおり、山地を流れる渓流で、源流に近く、水深も浅く、河巾、流れ巾も狭く、水は澄んでいる。付近には民家もなく、ゴミの投棄も見られない。笹見(St.3)、平野(St.4)、辺川(St.7)赤水(St.8)はやや周囲も開け、流れ巾も広がり、水量も増え、山地流から平地流への移行を示す。川又(St.5)で、2つの河川が合流し、むぎ(St.9)では河巾もさらに広くなり湾へと注いでいる。


 以上の調査地点で採集を行った。採集は30cm×40cmのチリトリ型金網で、瀬、淵とも各2回ずつ、底の石礫ごとすくいとり、肉眼でみえる生物をすべてピンセットで採り、管瓶に収容した後、種類ごとに個体数を数えた。同時に採集地点の環境要因として、水温、底質、河巾、流れ巾を測定した。

 

II 調査結果と考察
 調査地点の環境要因は、第1表のとおりである。

採集時刻は午前と午後にわたる。水温は上流と下流部で明らかな相違はみられない。長い河川だと一般に上流部の水温は低く下流になるに従って高くなる。底質はどの地点も瀬は石礫で、淵は砂、木片、植物の破片からなっている。
 河川型Aaと表した地点は山地渓流を表し、Aa−Bbは山地流から平地流への移行型を表す。また、Bbと表したのは、平地流を表す。(河児 1944)
 各地点で採集された水生昆虫の種名及び個体数は第2表に示すとおりである。

全地点を通して、第3図に示すとおり8目51種の水生昆虫が採集された。

それらを目別にみると、カゲロウ目22種43%、トビケラ目15種29%とこの両目で全体の71%を占める。次いで双翅目5種10%、カワゲラ目3種6%、トンボ目2種4%、広翅目1種、鞘翅目1種、羊翅目1種であった。瀬と淵に分けてみると第4図のようになる。


 瀬のみにみられた種数は、カゲロウ目で19種、トビケラ目で13種、双翅目4種、カワゲラ目、広翅目が各1種であった。瀬の方が淵よりはるかに昆虫の種類は多く瀬の種数38種に対し、淵では15種であった。淵の主な種としては、ムスジモンカゲロウ、フタスジモンカゲロウ、キイロカワカゲロウ、トンボ目の各種があげられる。
 地点別にみると、辺川(St.7)においてもっとも多くの種がみられ、計18種採集された。全地点をとおし、種数、個体数が少いと思われる。個体数が少いのは、ウルマ−シマトビケラ、ヒゲナガカワトビケラ、イノプスヤマトビケラのような一般に多くの個体数を示す種が極めて少いことに原因がある。ウルマ−シマトビケラやヒゲナガカワトビケラのような造網型の昆虫の現存量が多くを占める場合はその地点は底の状態が安定で、極相を示す(津田 1959)ことから、採集時においては、河川の河床状態は極めて悪かったといえる。BECK−津田による biotic index を算出してみると、半数以上が清冽と出ている。河床状態が良ければ、さらに高い値を示すものと思われる。
 ※川の清冽度を知るための生物指数(BECK−津田の方法)
 算出方法は50cm×50cm(2500平方センチメートル)のコドラード内で採集された種を汚濁に耐えない種と耐えられる種に大別し、それぞれに含まれる種数をA、Bとして、2A+Bを biotic index つまり生物指数とする方法である。そして、その値が0〜5は極めて汚濁、6〜10はかなり汚濁11〜19はやや汚濁、20以上は清冽であるとされている。採集は、早瀬において行う。今回の採集では、B:汚濁に耐えうる種は、採集されなかった。

 

おわりに
(1)本調査により、牟岐川水系では水生昆虫51種(うち成虫はヒラタドロムシの1種)が採集され、その大部分はカゲロウ、トビケラ目であった。
(2)全流域をとおし、個体数は少く、その原因は、トビケラ目のウルマーシマトビケラ、ヒゲナガカワトビケラのような多くの個体数を示す昆虫の少いことによる。
(3)造網型昆虫の現存量が少いことから、河床状態は不安定であったといえる。
(4)清冽度を知るには、河川の安定をまって調査したい。河床が安定しておれば、さらに高い指数を示すと思われる。
主な参考文献
1)石手川水系における水生昆虫の生態 1972(桑田一男)
2)日本幼虫図鑑 北隆館
3)津田松苗ほか 1961:水生昆虫学 北隆館


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