阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第23号

牟岐町の植生

生物学班

    森本康滋・友成孟宏・鎌田正裕

1.はじめに
 徳島県の南部、海部郡のほぼ中央に位置する牟岐町は、東及び北は日和佐町と、西及び北西は海南町と接し、南は太平洋に面した北に高く南に低い、東西にやや細長い四辺形である。そして、洋上には大島、津島、出羽島が点在している。
 本調査地は、海南町に次ぐ温暖な地方で、南からの暖かい風を受け、降水量も多く、植物の生育は旺盛で、南方系の植物を豊富に産する。津島には、暖帯の代表的樹林としてのスダジイ林がよく保存されており、出羽島に産する分布の北限としてのシラタマモと共に、国の天然記念物に指定されている。
 このように、自然度の高い群落が存在する一方では、開発が進み、南阿波サンラインの開通による海岸植生の破壊、宅地造成のための山腹の切り取り、皆伐法による山林の伐採などによる自然破壊が目立ってきている。これらの原因による災害が昭和51年10月18日に起った。記録的な豪雨ということもあったが、山地では多数の崩壊が起こり、また町の中心部では数百戸が床上浸水した。このような現状のもとで、自然景観の保護と、その枠内での慎重な利用を考え、自然の管理による災害を未然に防ぐことなども加味して、昭和51年7月26日から7月31日、10月16・17日にわたって、町内の幹線道路及び支線の周辺、町内で最も海抜の高い胴切山、海洋に浮ぶ津島、大島、出羽島などの自然林も含め、可能な限りの植生型を対象に植生調査が行なわれた。この植生調査と平行して、1:50,000の地形図上に現存植生図を作製した。なお、これには、空中写真サクラタニ山−632(第2カイフ)1972.5.7撮影を利用した。
 この報告書をまとめるに当り、御指導、御校閲いただいた高知大学山中二男教授並びにこの調査に御協力いただいた町及県当局の方々に謝意を表します。
 

2.自然環境
 1)地形・地質 牟岐町は東西約8km、南北約6km、面積57.14平方キロメートルで、そのうち森林面積が86.1%(4,917ha)という山地の多い町である。そして町北には矢筈山(800m)、胴切山(884m)、五剣山(638m)の連山がそびえ、西及び東は町境の尾根が南下するにつれて高度を下げ、海岸へと降りている。町の東半分に降った雨は、橘川、辺川川及び喜来川に流れ、これらは小松付近で合して一本になって西流し、西半分に降った雨は奥谷川となって東流し、両者が川又で合流して南下し牟岐港へ注いでいる。
 地質は中生代白亜紀の四万十帯に属し、おもに砂岩、頁岩よりなるが、平野部は礫土が多い。

 2)気候 本町は県内の最暖地域に含まれ、年平均気温は17℃に近く、殆ど雪を見ない。降水量は多くおよそ3,000mm、台風時には風雨をまともに受ける。牟岐町には気象台の観測所がなく累年の資料が得られないので、本町をはさんで西南西にある宍喰町と、東北東にある日和佐町のものを次に示す。牟岐町の気象はこの2つの資料の中間の値と考えられる。


 3)フロラ 牟岐町は温暖多雨でかつ山地が多いため、本県としても南方系の珍らしい植物が豊富である。
 タチバナ及びナギ林は県指定天然記念物になっており、他にアコウ、バクチノキ林、オガタマノキ、ミサオノキ、シラタマカズラ、シマカノコユリなども多く、またラン類としてダイサギソウ、ウスギムヨウラン、キリシマエビネ、キバナノセッコク、オサラン、ササバランなどは北限となるもので、その他、およそ50種のランが確認されている。


3.植生概観
 植生調査の対象地域は、殆どがヤブツバキクラス域に含まれ(暖かさの指数143)胴切山頂(884m)での暖かさの指数を気温減率(0.6℃/100m)により算定すれば85.4となり、常緑広葉樹林帯の上限域であることがわかる。自然植生として、津島のスダジイ林及び海岸の砂浜や断崖地にみられる海岸植生、及び半自然植生として胴切山頂付近にみられるアカガシ群落などいずれも面積としてはわずかなものである。戦後木材の需用が高まり伐採がさかんに行なわれ、かつての薪炭林はスギ及びヒノキの植林におき代えられ、現在では森林面積の半分以上(約52%)が人工林になっている(表2)。


4.調査結果
 牟岐町で識別された群落は、A自然・半自然植生 1.海岸植生 1)ツワブキ群落 2)アゼトウナ群落 3)ハマゴウ群落 2.森林植生 4)ウバメガシ群落 5)スダジイ
群落 6)アカガシ群落 B代償植生 7)シイ・カシ群落 8)アカマツ群落 9)伐採跡群落 C人工植生 10)スギ・ヒノキ植林 11)外国産針葉樹植林 12)竹林などである。
A自然・半自然植生
 1.海岸植生 牟岐町は山が海にせまっているため、海岸線の大部分は断崖で、砂浜は殆ど発達していない。西浦海岸に砂浜はあるが、ハマアザミが点在するのみでハマゴウ群落はみられず、調査地内で確認できたのは大島の入江の奥だけであった。
 1)ツワブキ群落(付表2)牟岐町楠の浦の海岸断崖地にみられるもので、土壌が殆どない断崖のくぼみにツワブキが点在している。満潮時の海面から1〜2mの間にあり、それより上には土壌があって、次に述べるアゼトウナ群落や海岸の低木林が発達してくる。
 2)アゼトウナ群落(付表2)
ツワブキ群落の上方、海面より3〜6mの間、海食崖の中〜上部にみられるもので、アゼトウナの他、ハマナデシコ、シオギクなどを伴う。


 3)ハマゴウ群落(付表3)前述のツワブキ、アゼトウナ群落が海岸の断崖地に発達するのに対し、ハマゴウ群落は砂浜海岸や礫海岸にみられる。この群落はハマゴウ、テリハノイバラ、ハマエンドウ、ハマヒルガオなどで識別され、さらに、コウボウムギ、コウボウシバ、ハマスゲなどを伴い砂浜に発達するハマゴウ・コウボウムギ群落と汀線よりやや入った所にある礫海岸にみられるハマゴウ・イワタイゲキ群落とに下位区分される。イワタイゲキ群落は、県南の礫海岸に時々みられるが、大島にあるものは非常によく発達したものである。


2.森林植生
 4)ウバメガシ・トベラ群集(付表4) 海岸近くで常時強い雨風にさらされるような場所では、樹林は大きく生長できず、さらに風のために樹形がゆがめられ風下の方へ枝がよくのびた風衝樹形を呈している。こういう場所には、ウバメガシ−トベラ群集がみられる。大島のウバメガシ・トべラ群集は、ウバメガシ、トべラ、マルバシャリンバイ、ツワブキなどで識別され、これはさらに2つの群落に下位区分される。
 i)ウバメガシ−ヒロハテイショウソウ群落 これは大島の南側の断崖上、海抜40m付近に発達しているもので、樹高1〜2mの低木層にウバメガシ、トベラ、ヤブツバキ、ヒサカキ、タイミンタチバナ、モチツツジ、マルバシャリンバイなどがガリグ状に茂り、その下にヒロハティショウソウ、ヒメカンスゲ、キキョウラン、ツワブキなどが疎にみられる。


 ii)ウバメガシ−コシダ群落 これは牟岐町の海岸にせまる山腹にみられるもので大戸付近では樹高3〜4mのウバメガシ、タイミンタチバナ、トべラ、カクレミノ、イソノキ、ヒメユズリハ、タブなどが叢生し、林床にはコシダが密生している。ここでは人工がやや加わっていると考えられる。
 5)スダジイ群落(付表5) 牟岐町の大部分は、かつてはスダジイ群落でおおわれていたと考えられるが、現在では、極相としてのスダジイ群落は殆どみられない。しかし、津島と大島には、ほぼそれに近いと患われる群落が残されており、特に津島のスダジイ群落は島に人が住んでいないこともあって、保存がよく前述のように国指定の天然記念物となっている。これらのスダジイ群落は、カクレミノ、シラタマカズラ、リュウキュウヤブラン、ウラシマソウ、ムサシアブミ、モッコク、ジュズネノキなどで識別され、これはさらにスダジイ−ホソバカナワラビ群落と、スダジイ−ヒトツバ群落とに下位区分される。


 i)スダジイ―ホソバカナワラビ群落 津島は東と西の2つの丘陵よりなるが、これはその東丘陵上に発達するもので、高木層に樹高約15m、胸高直径50〜70cmのスダジイが優占し、ヤマモガシ、タブノキなども混じえ、亜高木層にもスダジイが優占し、ヒメユズリハ、タイミンタチバナ、モチノキ、オオムラサキシキブ、アコウ、ヤブツバキなどがみられ、低木層にもスダジイがあり、草本層はホソバカナワラビ、ツルコウジなどの出現度が高く、スダジイの幼木も多数みられるものである。


 ii)スダジイ−ヒトツバ群落 津島の西丘陵及び大島の蛭子神社の社叢にみられるもので、土壌が浅く、よく乾燥しており、ヒトツバを伴っている。ここでは高木層に樹高約8m、胸高直径20〜60cmのスダジイが優占し、タブノキ、ヒメユズリハ、ヤマモガシ、モチノキなどが混生し、亜高木層には、スダジイ、タイミンタチバナ、カクレミノ、モチノキ、シラタマカズラ、ヒサカキなどがみられ、低木層には、スダジイ、ヒサカキ、トベラ、タイミンタチバナ、モッコク、サカキカズラなどがやや疎に生え、草本層にヒトツバが高い出現度であらわれ、その他にテイカカズラ、ヤブコウジ、マンリョウ、タチドコロ、ジュズネノキ、リュウキュウヤブラン、ムサシアブミなどを伴っている。前記スダジイ−ホソバカナワラビ群落の典型的なものと、群落組成がよく似ているが、半自然植生と思われる。
 6)アカガシ群落(付表6) 牟岐町の北部を構成する連山の稜線は、高い所(胴切山)で883.6mあり、この高さは常緑広葉樹林帯の上部に当る。この胴切山頂近くに、小面積ではあるがやや発達したアカガシ群落が認められた。この群落はアカガシ、モミ、ツガ、ウラジロガシ、シキミ、シラキ、シロダモなどで識別され、ヤブツバキクラスの指標種を多く含む。ここでは高木層に樹高12〜15mのアカガシが優占し、モミ、ツガ、ウラジロガシ、イタヤカエデ、ウリカエデなども混生し、亜高木層にはシキミ、サカキ、ヤブツバキ、カマツカ、シラキ、ソヨゴ、ヤブニッケイ、ウラジロノキ、カゴノキなどがみられ、低木層にはヒサカキ、ヒイラギ、ネズミモチ、シロダモ、ヒメクロモジなどが植被率約80%を占め、林床には光が十分達しないためか草本層の発達悪く、わずかにシロダモ、ヤブニッケイ、ネズミモチ、ホソバタブ、ヒイラギ、ヤブツバキなどの幼木が散生しているにすぎない。


B 代償植生
 牟岐町の森林の大部分がこの代償植生と次に述べる人工植生とで占められている。代償植生は、アラカシ、アカメガシワ及びススキの三種を共通に含む点で、前述のA自然・半自然植生と区別される(付表1)。
 7)シイ・カシ群落 かつて薪炭生産のため択伐をくり返していた林で、シイ・カシの萌芽林である。この群落は、海岸に近い山腹に発達するウバメガシを優占種とするスダジイ・ウバメガシ群落と、内陸部に多くみられアラカシを主とするコジイ・アラカシ群落とに区分することができる。
 i)スダジイ・ウバメガシ群落(付表7) これは、海岸に面した山腹に発達しており、シイは殆どがスダジイであるが、コジイも混生している。南阿波サンライン沿線はこの群落で占められており、ウバメガシ、スダジイ、ヤマビワ、トキワガキなどで識別される。この群落は高木層を欠き、樹高6〜8mの亜高木層に、胸高直径12〜18cmのウバメガシ、スダジイが優占し、タイミンタチバナ、ヤマビワ、トキワガキ、カクレミノ、ヒメユズリハなどの他、ハマクサギ、カラスザンショウなども混生し、低木層にはヤブツバキ、ヒサカキ、ネズミモチ、シャシャンボ、クチナシ、ヤブムラサキ、オンツツジなどがよく出現し草本層はウラジロやコシダが一面に密生している所が多い。また、大島にみられるスダジイ・ウバメガシ群落では、低木層にアワノミツバツツジが高い出現度であらわれている。


 ii)コジイ・アラカシ群落(付表8) この群落は、主に牟岐町の中部及び北部の山地に発達しているもので、町の南部でも海岸に面していない所はこの群落である。最近、この群落域は次第に皆伐され、スギ、ヒノキ、外国産針葉樹などの人工林におきかえられつつある。群落の構成種やその樹令は、以前の群落が伐採されてからの経過年数によって異なり、大谷では、樹高10〜11m、胸高直径約15cmのコジイやアラカシが、トキワガキ、ヤマモモ、クリ、ヤマビワ、リョウブ、ミミズバイなどと共に高木層を構成し、亜高木層には、ヤブツバキ、イスノキ、リンボク、タブノキ、カナメモチなど、そして低木層にはヤブムラサキ、ネズミモチ、サカキ、シキミなどがやや疎に生育しており、草木層には局所的に密生したウラジロがあり、その他センリョウ、アリドウシなどがみられる。また、ふどのでは、樹高約5m、胸高直径約8cmのアラカシ、コジイ、ヤブツバキ、ネジキ、ヤマモモ、カキなどが叢生し、植被率は100%である。林床には十分光が達しないため、以前に繁茂していたコシダやウラジロも枯れかけており、ヤブツバキ、アラカシ、シキミ、ヒサカキなどの芽生えとマンリョウ、コガクウツギなどがまばらにみられるのみである。


 ◎ナギ林 喜来川上流の海抜600m付近にナギの自生林があり、ここは県指定の天然記念物にされている。このナギ林の構成種は次のようである。
高木層 ナギ、コジイ、モチノキ、コバンモチ、スダジイ、イスノキなど。
亜高木層 ヤブツバキ、タイミンタチバナ、ミミズバイ、カクレミノ、カンザブロウノキ、ヤマビワ、ホソバタブ、クロガネモチ、タブノキ、クロバイ、カラスザンショウ、ナギ、サカキ、カゴノキ、イスノキ、ハゼなど。
低木層:カナメモチ、ルリミノキ、ミサオノキ、ヒサカキ、アセビ、ネジキ、オンツツジ、モチツツジ、シロバイ、ヤブムラサキ、ネズミモチ、ウンゼンツツジ、トキワガキなど。
草本層:アリドウシ、シュウラン、シハイスミレ、リュウサュウヤブラン、モエギスゲ、ヤマモガシ、トベラ、トキワガキなど。
 8)アカマツ群落(付表9) アカマツ群落は、本県の北部、吉野川沿いによく発達しているが、県南ではあまりみられない。これは気温、降水量、土壌などの関係も考えられるが、大きな要因は樹林ヘの人工の加え方の相違によるものと考えられる。即ち、県南では古来択伐による森林の経営が行なわれてきたため、アカマツ林の発達が阻まれたものと思われる。


 調査地域内では、アカマツ群落は極く小面積しかみられず、ふどのの少ししも手にあるものでは、高木層を欠き、亜高木層に高さ6〜8m、胸高直径10〜20cmのアカマツにクロマツも混じえ、低木層にはモチツツジ、ヤブツバキ、ネジキ、ヒサカキ、アセビ、ウバメガシなどが可成り叢生し、草本層にはウラジロ、コシダが一面に地表をおおっている。
 9)伐採跡群落 本県の山地部では皆伐法による伐採が広く行なわれ、色々問題を引き起こしているが、当町でも、同様な伐採法による伐採が続けられている。伐採跡に発達した群落は、伐採されてからの経過年月によってかなり違っている。


 i)コシダ群落(付表10) みこやしきの海抜150m付近に伐採後3〜4年と思われるコシダ群落があり、ここではコシダが一面に密生し、その中に以前の群落構成種であるアラカシ、ネズミモチ、カナメモチ、ヒサカキ、リンボクなどが萌芽し、更新している。なお付近にはヒノキが植林されている。


 ii)ベニバナボロギク群落(付表11) 伐採後1年位の所には、ベニバナボロギクが優占する群落がみられる。ここではベニバナボロギク、ダンドボロギク、ススキ、アカメガシワ、タケニグサ、タラノキ、ヌルデ、クサギなどの伐採跡を特ちょうづける好窒素植物が多く、以前の群落構成種、アラカシ、ヒサカキ、ネズミモチ、ヤブツバキ、スノキ、リョウブなどの萌芽(約20cm)もみられる。


C 人工植生
 牟岐町では、人工林が天然林を上まわり全森林の52%がスギ・ヒノキなどの植林である。植生図に示された植林地の範囲には、20〜30年生のスギ・ヒノキ林から幼令林までを含んでいる。
 10)スギ・ヒノキ植林 スギ・ヒノキの植林地は、海岸山地、町の中央部、及び町境と全域にわたっており、大部分が終戦以降に植林されたもので、樹令は若い。また最近、シイ・カシ林を皆伐した跡に植えられた幼令植林地も広い範囲を占め、全植林地域のはぼ1/3に達し、特に奥谷川流域に多い。


 11)外国産針葉樹植林 県道55号線沿いの日和佐町との境に近い寒葉坂の北側、及びふどのの奥には、外国産のマツが植休されており現在4〜5mに成長している。
 12)竹林 牟岐川上流宮ノ内、笹見付近、辺川川流域の山下の山脚や、大谷・橘川沿いの芝原付近などにマダケ林やモウソウチク林が点在している。これらは大体民家の近くにありかつて植えられたものと思われる。大谷のモウソウチク林では、高さ約10m、径約8cmのモウソウチク林があり、その組成は次の通りである。
 海抜80m、方位N30W 傾斜20° 面積100平方メートル 出現種数34
 高木層 10m 植被率100%
モウソウチク5.4、クスノキ1.1、アカメガシワ1.1、クリ+
 亜高木層 3〜7m 80%
アラカシ4.2、ヤブツバキ2.1、カナメモチ1.1、ヤブムラサキ1.1、ハゼ1.1、ヒサカキ1.1、カマツカ1.1、ネズミモチ+
 低木層 2〜3m 40%
ヒサカキ1.1、ヒイラギ+、ネズミモチ+、ナツフジ+、ヤブツバキ+、シロダモ+、ツルグミ+、サカキ+
 草本層 0.8m以下 10% 被度は+
ホソバカナワラビ、ベニシダ、アカメガシワ、フユイチゴ、イワガラミ、チジミザサ、イヌビワ、ネズミモチ、ヒサカキ、ウラジロ、アラカシ、ヤブニッケイ、ヤマノイモ、ムべ、ナワシログミ、ヤブコウジ、マンリョウ、テイカカズラ、キツネササゲ、マメヅタ、リュウキュウヤブラン
 この群落は、かなりの年月放置されており、多数の樹種が侵入し、遷移が進行していることがわかる。
 また辺川川の渓側や平間付近にはメダケ林がみられた。

 

5.提 言
 かつては薪炭の産地であった牟岐町も戦後木材の急激な需要増により林道がつけられ、森林の伐採が進み、スギ・ヒノキの植林が行なわれてき、現在もなお皆伐法による伐採が町北部の山地で進められている。植林は生産性が高いとはいえ、一旦皆伐するとその後数十年は雨に弱く植林地の山地の崩壊を引きおこし、中流域〜下流域への災害がもたらされる。現に昭和51年10月18日の集中豪雨により町中心部の中村、牟岐浦では約360戸が床上、約200戸が床下に浸水し、また裏山が崩壊して民家が倒壊した。豪雨による被害額4億6,000万円。被害者には心からお見舞申し上げるが、このように1日のうちに1年間の1/10もの降雨があることもあるのだという事実を肝に銘じて、先を見通した町全体の植生の維持・管理・保護がなされるべきである。
 今回の集中豪雨による山地の崩壊は大小あわせて40カ所以上にのぼり、それもスギ・ヒノキ植林地が殆どである。このことからも時に植林地は豪雨によって表層の崩壊を起こしやすいといえる。以後再び災害のおこらない森林経営をされんことを望む。

 

6.要 約
 1976年7月を中心に9日間、牟岐町全域の植生調査を行い、1:50,000地形図に現存植生図を描いた。特に貴重な群落として津島のスダジイ林、喜来川上流のナギ林があげられ、またシラタマモ、タチバナなど南方系の貴重な植物も十分な保護が望まれる。また51年10月18日の集中豪雨による被害から今後の町の森林経営の方向が考え直されるべきである。このたびの調査により記録された群落・群集は以下の通りである。
 A 自然・半自然植生
  1 海岸植生
   1)ツワブキ群落
   2)アセトウナ群落
   3)ハマゴウ群落
    i)ハマゴウ−コウボウムギ群落
    ii)ハマゴウ−イワタイゲキ群落
  2.森林植生
   4)ウバメガシ−トベラ群集
    i)ウバメガシ−ヒロハテイショウソウ群落
    ii)ウバメガシ−コシダ群落
   5)スダジイ群落
    i)スダジイ−ホソバカナワラビ群落
    ii)スダジイ−ヒトツバ群落
   6)アカガシ群落
 B 代償植生
   7)シイ・カシ群落
    i)スダジイ・ウバメガシ群落
    ii)コジイ・アラカシ群落
   8)アカマツ群落
   9)伐採跡群落
    i)コシダ群落
    ii)ベニバナボロギク群落
 C 人工植生
   10)スギ・ヒノキ植林
   11)外国産針葉樹植林
   12)竹 林

 

主な参考文献
阿部近一 1975:牟岐町の生物 牟岐町史 牟岐町
森本康滋 1974:穴喰町の植生 郷土研究発表会記要20、31〜38
山中二男 1963:四国地方の中間温帯林 高知大学学術研究報告Vol.12 自然科学No.3 1〜9
山中二男 1969:南四国における二次林の研究 高知大学学術研究報告Vol.18自然科学No.1 1〜14


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