阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第22号
神山町の植生

生物学班 森本康滋・友成孟宏・鎌田正裕

1.はじめに
 徳島県のほぼ中央に位置する神山町は、北側の四国山地(東宮山、壁岩峠、柳水庵、梨ノ木峠など)と、南側の剣山地(土須峠、雲早山、旭丸、高鉾山など)とにはさまれ、西は川井峠、奥屋敷に端を発する鮎喰川が、神山町の中央を屈曲しながら東流している西に高く東に低い山地の多い地域である。古くから林業が盛んであるが、高い山脈が連っており、剣山に次ぐ動植物の豊庫でもある。雲早山、紫小屋および東宮山にみられるブナ林、焼山寺山に残されたモミ・ツガ林、旭丸から高鉾山にかけての尾根筋にみられるアワノミツバツツジ群落などは、現在残されている貴重な群落である。
 植物相、動物相も変化に富み、神山町で発見された学会未記録の植物も多く、動物も北方系、南方系などの種が生息しており、自然度の豊かな生物相を示している。
 近年、開発が進み、林道の拡張、整備が行われ、同時に山奥まで山林の皆伐がなされるなど、自然環境の破壊が目立ってきている。このような現状をふまえ、自然景観の保護と、その枠内での慎重な利用を考え、さらに積極的な管理と、破壊されている植生の復元をめざして、1975年7月28日〜8月2日、8月19日、8月31日、9月15日、9月28日にわたって、神山町の植生調査が行われた。
 この調査は、町内の中央を走る県道徳島剣山線とそれより分岐して入る幹線道路、および現在建設中のスーパー林道への取り合い道路沿いをはじめ、雲早山、紫小屋、焼山寺山など、高所にある自然林も含め、可能なかぎりの植生型を対象に行われた。これらの植生調査と平行して、1:50,000の地形図上に、現存植生図の作成が進められた。なお、これには空中写真(SI−69−IX、クモソウヤマ662)が利用された。

 

2.白然環境とフロラ
 1)地形・地質 神山町は、東西約40km、南北約10km、面積174、18平方キロメートルで、そのうち林野面積が81%を占める山の多い地域である。町の北縁をほぼ東西に走る四国山地(狭義)は、西端の東宮山(1090m)より東へいくに従って漸次低くなり、最東端の童学寺越で海抜160mになっている。これに対し、南縁を東西にのびる剣山地は、木沢村および上勝町との境では、海抜1000m以上の高い山が連なり、佐那河内村と接する分水界で急に高度をさげ、海抜300m〜400mで徳島市と接している。そして、これらの山々は、南斜面でゆるく、北斜面でけわしい傾向をもっている。


 地質学的には、川井峠から寄井を経て佐那河内村符殿に至る御荷鉾構造線によって、町は南と北とに2分されており、南は変成作用の少い古生界(秩父層群)よりなり、北は結晶片岩で強い変成作用を受けた古生界(長瀞系または三波川系)よりなる。そしてこれは破砕帯を伴うため、地辷りが起こりやすい。
 2)気候 徳島県の気候を、地域により大きく四つに分けた場合(南部臨海地域、東部臨海地域、吉野川流域地域、四国山地地域)、神山町は、四国山地地域に含まれ、本県としては多雨地域に含まれる。しかし、剣山山地の北側に位置しているため、降水量は県南地方ほど多くはない。鬼籠野における気象条件は次の通りである。
 神山町のこれらの地形や気候などの自然環境が、植物の生育や植物群落の発達および分布に重要な要因となっている。


 3)フロラ 神山町は、徳島市との堺の海抜400mから雲早山頂1495.9mまでの標高差があり、殆んどが山地で、地形が変化に富んでいる。さらに母岩は古生界の変成岩で、かつ蛇紋岩地を含み、かつて採堀されていた銅山が2カ所もあるなど、これらの諸要因が複雑にからみ合っており、フロラは豊富である。
 故伊延敏行氏は、昭和初期から熱心に研究を続けられ、学会未記録の植物や植物分類地理学上注目すべき植物などが多くあったことを明らかにされている。
 ◎神領村で最初に発見された植物  ヒメホウチャクソウ、ジンリョウユリ、アワノミツバツツジ、シロバナトサノミツバツツジ、オウギバセントウソウなど。
 ◎植物分類地理学上注目すべき植物  ハコネシケチシダ、オオダイトウヒレン、ヒメコウモリソウ、ノゲヌカスゲ、フキヤミツバ、イヨトンボ、イシズチコウボウ、アワコバイモ、コタニワタリ、クマノチョウジゴケ、ケットゴケなど。

 

3.植生概観
 植生調査の対象地域は、下部のヤブツバキクラス域から上部のブナクラス域にわたる。
 全体的にみれば、町の西半分はスギ・ヒノキ植林地で、東半分はアカマツ林で占められており、それらの中にわずかに自然植生が社叢林として残されているに過ぎない。なかでも特筆すべきは、馬地の八幡神社(海抜約80m)のコジイ林で、ここは、徳島市の海岸から約18kmも内陸部にあるに拘らず、コジイの他に、コバンモチ、タイミンタチバナ、ヤマビワ、カンザブロウノキ、イズセンリョウ、シャクジョウソク、ササクサなど、本県としては主に南部の海岸地方にみられる植物が多く生育している。また、焼山寺山にはモミ・ツガ林があり、東宮山、雲早山、紫小屋にはそれぞれブナ林が残されている。代償植生としては、ヤブツバキクラス域では、アカマツ林が最も広い面積を占め、下流域の川沿いにはシイ・カシ林、小し高い所ではコナラ林とイヌシデ林、ブナクラス域ではシロモジ林やアワノミツバツツジ群落などが確認された。

 

4.調査結果(植生単位)
 神山町で識別された群落は、次の通りである。
自然植生 ブナ林、モミ・ツガ林、コジイ林、
代償植生 シロモジ林、イヌシデ林、コナラ林、シイ・カシ林、アカマツ林、アワノミツバツツジ群落、ススキ草原、伐採跡群落、
人工植生 スギ・ヒノキ植林、樹園地、畑、水田、桑畑などである。
A 自然植生
 1 ブナ林 日本の太平洋岸の温帯に発達するブナ林は、ブナ−スズタケ群団で、コハウチワカエデ、タンナサワフタギ、コミネカエデ、シロモジ、クロモジ、スズタケ、ミヤコザサなどにより特徴づけられているが、四国地方では、特に、シロモジ、べニドウダン、ツクシシャクナゲなどを標徴種および識別種とするブナ−シロモジ群集にまとめられている。
 神山町のブナ林は、海抜約1100m以上で、かつ人為的撹乱からまぬかれ、限られた地域に生育しており、ブナ、アサガラ、ツリバナ、ヤマボウシ、スズタケなどで他の群落から識別される。そして、さらにブナ−シロモジ群集と、ブナ−シラキ群落とに細分される。
 a)ブナ−シロモジ群集 ◎区分種 スズタケ、オオイタヤメイゲツ、オオカメノキ、ミツバテンナンショウ。平均出現種数19種。
 雲早山の海抜1210mより上に、林床にスズタケを伴うブナ林が発達している。ここでは、高木層に樹高15〜20m胸高直径50〜70cmのブナの他、ヒメシャラ、アズサ、ハリギリなどが優占し、亜高木層には、シロモジ、コハウチワカエデ、リョウブ、シナノキ、アサノハカエデ、オオイタヤメイゲツ、アオダモ、カジカエデ、アサガラなどが、低木層にはオオカメノキ、ツリバナ・カマツカ・タソナサワフタギ、ヤハズアジサイ、アオハダなどがみられ、草本層にスズタケが密生しているものである。
 b)ブナ−シラキ群落 ◎区分種 シラキ、ツクシシャクナゲ、ナナカマド、コハクウンボク、ヒメコウモリソウ、コガクウツギ、ナガバノスミレサイシン、オトコヨウゾメ、オンツツジ・クサアジサイ・コミネカエデ、チャイトスゲ、シコクトリアシショウマ、コゴメウツギ、クロモジなど。平均出現種数47種。


 紫小屋の海抜約1100mより上、尾根までブナ林があるが、これは野間部落の水源涵養保安林として、伐採されずに保護されてきたもので、ここではスズタケを伴わない。前述の雲早山のブナ林にくらべ湿潤で、サワグルミやチドリノキ、クサアジサイ、モミジガサなどの湿潤地指標種を含んでいる。そして亜高木層ないし低木層にシラキがよく出現している。高木層構成種は、ブナ(樹高13〜15m、胸高直径40〜50cm)、イヌシデ、コハウチワカエデ、ハリギリ、アズキナシ、トチノキ、サワグルミ、アオダモなどで、亜高木層にシラキ、ヒメシャラ、リョウブ、コハクウンボク、アオハダ、エンコウカエデなどが多く、低木層にベニドウダン、ツクシシャクナゲ、シロモジ、クロモジ、タンナサワフタギ、ヤハズアジサイ、オトコヨウゾメ、オンツツジなどがあり、草本層にはミヤマクマワラビ、ヒメコウモリソウ、シコクトリアシショウマ、オオヤマハコベ、ナガバノスミレサイシン、ムカゴイラクサ、ウワバミソウ、ツルカノコソウ、イワボタンなど多種類が生育している。


 2 モミ・ツガ林 常緑広葉樹よりなる暖帯林と、落葉広葉樹を主とした温帯林との間に推移帯がみられるが、これは地域により落葉樹林(コナラ林やクリ林)がこの帯を占めることもあり、また、モミ・ツガ林が安定相をなすこともある。この中間帯の範囲は、暖帯林の生活範囲(暖かさの指数85℃以上、寒さの指数−10℃〜−15℃以下)よりやや寒冷であると、考えられる。調査対象地域内でこの中間帯にあたる海抜高のところは、殆んど人工植生または代償植生におき代っているため、前述の様相を呈する群落は、わずかに焼山寺山頂付近にみられるだけである。ちなみに焼山寺山(海抜930m)の暖かさの指数は79.4℃、寒さの指数−19.6℃、で丁度中間帯にあたることがわかる。


 ◎区分種 モミ、ツガ、アカガシ、シキミ・テイショウソウ・ミヤマシキミなど、平均出現種数45種。
 この群落は、焼山寺山の頂上を含む尾根から、東ないし北斜面にかけて発達しているもので、高木層にモミ、ツガ、イヌシデ、ケヤキ、トチノキ、アズサ、ミズキ、コハウチワカエデ、ヤマザクラなどの樹高15〜18m、胸高直径60〜80cmの大木が樹冠を形成し、亜高木層にシラキ、カマツカ、ヤブニッケイ、カナクギノキ、アセビ、アオハダ、オンツツジなどがよく出現し、低木層にコガクウツギ、ヒイラギ、ヤブツバキ、アカガシ、クロモジ、ヤマコウバシ、ツリバナ、ソヨゴ、シキミなどがみられ、草本層にテイショウソウ、シシガシラ、マツブサ、ツルリンドウ、コウヤボウキなどが疎に生育している。これらの構成種から、ヤブツバキクラスのアカガシ亜群団のモミ−シキミ群集に属するものと考えられる。なおこの群落には、ヤブツバキクラス域指標種と、ブナクラス域指標種とがほぼ半々に含まれている。
 3 コジイ林 かつては広範囲にわたってあったと思われるが、この調査で、阿野字馬地の八幡神社に保存のよいコジイ林が確認された。ここでは、高木層に樹高13〜15m、胸高直径50〜60cmのコジイが優占し、アカガシも混生しており、亜高木層には、コバンモチ(樹高約8m、胸高直径30〜40cm)、タイミンタチバナ、リョウブ、ヤブツバキ、タカノツメ、アラカシ、ネジキ、ヤブニッケイなどがみられ、低木層には、モチツツジ、ネズミモチ、コバノミツバツツジ、アセビ、トキワガキ、カゴノキ、サカキ、カンザブロウノキ、ヤマビワ、マルバウツギ、シロバナウンゼンツツジなど多種類が生育しており、草本層にコジイ、マルバベニシダ、アリドウシ、イズセンリョウ、ナンカイアオイ・ヤブコウジ、コウヤボウキ、コクラン、ササクサ、シャクジョウソウ、リンボク、カナメモチ・コシダ・ウラジロなどがみられる。


B 代償植生
 4 シロモジ林 海抜1000m以上の、かつてブナ林があったと考えられるような場所にみられる代償植生で、場所や地形によって群落組成はやや異なっている。
 ◎区分種 ヒメホウチャクソウ、ヤワラシダ、イシズチウスバアザミなど。平均出現種数35.4種。
 この群落は雲早山のブナ林の下部などにみられる。ここでは高木層と亜高木層との区別がつかず、樹高8〜12m、胸高直径12〜15cmのシロモジが最優占し、アズサ、コミネカエデ、カナクギノキ、シラキ、コハウチワカエデ、リョウブ、ウリハダカエデ、クマシデ、アワブキ、ヒメシャラ、アオハダ、コハクウンボクなどが可成り密に生育しており、低木層はシロモジ、コガクウツギ、シラキ、クロモジ、ツリバナ、タンナサワフタギ、カマツカ、ツクシシャクナゲ、ヤマボウシ、モミ、ツガ、アセビ、ヤマザクラなどが叢生している。草本層はあまり発達していないがヒメホウチャクソウ、イナカギク、シシガシラ、ナガバノスミレサイシン、フタリシズカ、シコクトリアシショウマ、ミツバテンナンショウなどがみられる。


 5 イマシデ林 シロモジ林より海抜のやや低い急傾斜地にみられる群落で、調査対象地域内ではごく狭い面積のものが数カ所、川井峠の下、海抜約700m付近、三ッ木の上、左右山川の東斜面などでみられた。
 ◎区分種 イヌガヤ、ヌカボシソウ、クマワラビなど。平均出現種数39.3種。
 川井峠下のイヌシデ群落では、高木層に樹高10〜15mのイヌシデが優占し、ミズナラ、ヤマザクラ、ウラジロノキ、イロハモミジ、クマノミズキ、イタヤカエデなどが混生しており、亜高木層には、シラキ、アオダモ、エンコウカエデ、ネジキ、アワノミツバツツジ、ソヨゴなど、そして低木層にはイヌガヤ、ダンコウバイ、カマツカ、イヌツゲ、マルバウツギなどが疎生しており、草本層にはコウヤボウキ、ナルコユリ、クマワラビ、ナガバタチツボスミレ、アキノキリンソウ、イナカギク、ヤマムグラ、ホクロ、イタドリ、サルトリイバラ、イタチシダ、ナワシログミ、テイカカズラ、オニタビラコなど、ブナクラス域の指標種と、ヤブツバキクラス域指標種とが混在している。
 6 コラナ林 上記イヌシデ林より、さらに海抜の低い山地の100〜600m位にみられる群落であるが、これも神山町ではあまり広い面積は占めていない。
 ◎区分種 ケスゲ、ナンテン、ホシダなど。平均出現種数49・1種。
 海抜高や地形、さらに場所によって群落組成を異にしている。すなわち、海抜の高い野間林道の470m付近のコナラ林は、クロモジを伴うコナラ−クロモジ群落であり、イヌシデ、クロモジ、シラキ、オンツツジ、ヤブイバラ、ナガバノコウヤボウキ、アオダモ、ナナカマドなどの区分種で下位区分される。また、長代の海抜約120mにあるコナラ林は、シラヤマギクを伴うコナラ−シラヤマギク群落である。この群落の下位区分種は、シラヤマギク、イボタノキ、ケスゲ、クリ、タチシノブ、ヤブラン、オトコエシ、クチナシ、ネムノキ、ノイバラ、イヌビワ、キンミズヒキ、ナンテンなどである。
 7 シイ・カシ林 神山町でも東寄りの、駒坂、福原、須賀、坂瀬川、椚野、広野付近などの川沿いの急傾斜地にみられるシイ・カシ萌芽林である。アラカシ、ヤブコウジを伴うことから、コジイ−アラカシ−ヤブコウジ群集(得居・57)に相当するものと思われる。
 ◎区分種 コジイ、カナメモチ、ヤマハゼ、リンボクなど。平均出現種数24.3種。
 広野にあるシイ・カシ林では、樹高約8m、胸高直径約13cmのコジイが密に生育しており、低木層にもコジイがあり、その他リョウブ、アラカシ、ヒサカキ、カナメモチ、カキ、ヤマハゼ、モチツツジ、イヌビワ、ヤブムラサキ、ヤブツバキ、マルバウツギ、クチナシ、リンボク、シャシャンボなどがみられ、草本層は発達悪いが、ヤブコウジ、シュンラン、サルトリイバラ、コシダ、コウヤボウキなどが高い出現度であらわれている。
 8 アカマツ林 神山町のほぼ中央を、北西から南東に区切る左右内の上流から流れ出す川と、上角谷川とを結ぶ線より東側一帯にアカマツ林が発達している。このアカマツ林は、アカマツ、ウマノスズクサ、サジガンクビソウ、ナガイモ、ナキリスゲなどで、他の群落から識別される。そして、海抜高によって林床植物に相違がみられ、海抜約400mより高い所ではオンツツジを伴うアカマツ−オンツツジ群集、低い場所ではモチツツジが顕著に現われるアカマツ−モチツツジ群集に下位区分される。
 a) アカマツ−オンツツジ群集 ◎下位区分種 オンツツジ、ヤブレガサ、ヒメヤブランなど。平均出現種数63種。


 元山から高鉾山への登山道の、海抜600m付近によく発達したアカマツ−オンツツジ群落がみられる。ここでは高木層に樹高12〜15m、胸高直径20〜45cmのアカマツが優占し、亜高木層には、コナラ、ミズキ、ヤマザクラ、リョウブなどが疎に生え、低木層にはオンツツジ、ヤマウルシ、カマツカ、ネジキ、ノリウツギ、ヤマボウシ、イヌツゲ、カナクギノキ、クロモジ、ヒサカキなどが叢生しており、草本層には光が十分達しないため発達悪く特に被度が大きな種はないが、ウマノスズクサ、コウヤボウキ・ヤブコウジ、ヤブレガサ、イナカギク、ヤマジノホトトギス、ツルリンドウ、アキノタムラソウ、エイザンスミレ、アキノキリンソウなど多種類の植物が出現しており、平均出現種数は他の群落にくらべ最も多い。これは、この群落がまだ安定してないことを示している。
 b)アカマツ−モチツツジ群集 ◎下位区分種 ナツフジ、ゴンズイ、ネズなど。平均出現種数55.6。
 元山の上、海抜約300m付近にみられるアカマツ林では、高木層に樹高10〜12m、胸高直径約15cmのアカマツが優占し、亜高木層にヤマザクラ、ヤマウルシ、コナラ、ゴンズイ、ヤマモモなど、低木層にモチツツジ、カキ、イヌツゲ、ヒイラギ、ヒサカキ、カクミスノキ、コバノミツバツツジ、ウツギなどが叢生し、草本層には、ワラビ、サルトリイバラ、ノブドウ、コウヤボウキ、ヤブコウジ、ナキリスゲ、ヘクソカズラ、ツルリンドウ、ナツフジ、シユンランなど多種類の植物が群落を構成している。
 9 アワノミツバツツジ群落 旭丸から高鉾山にかけての稜線部に、アワノミツバツツジを優占種とする群落がみられる。ここでは、アカマツの亜高木を伴うこともあるが、アワノミツバツツジ、シロモジ、リョウブ、ネジキ、アセビ、タンナサワフタギ、ノリウツギ、ヤマツツジなどが密に叢生した低木林である。
 10 ススキ草原 雲早山頂から東北へのびる尾根の海抜1380mの所に、少しひらけた鞍部があり、そこに採草によって生じたと思われるススキ草原がみられた。ここは、ブナクラス域に含まれるので、ブナクラス域の指標種であるタンナサワフタギ、ホソバノヤマハハコ、シコクトリアシショウマ、ミヤマワラビ、シロモジなどが、ススキの間に点在しており、ワラビ、ミツバツチグリ、ヨモギなどの草原指標種と混生している。


 11 伐採跡群落 ◎区分種 オオアレチノギク、ダンドボロギク、ベニバナボロギク、クワクサなど。平均出現種数19.5種。
 神山町では、ヤブツバキクラス域から、ブナクラス域に至るまで、あちこちに伐採跡地がみられる。伐採跡にすでにスギやヒノキの幼木を植林したところもあるが、全く放置してある面積も広い。特に木沢村および上勝町との堺界を形成している剣山地の北斜面に、広範囲にわたって皆伐された箇所が10ヵ所以上もある。これら伐採跡地には、以前の群落構成種が萌芽したもの、伐採跡地に好んで生える好窒素性のダンドボロギクやベニバナボロギクなどの帰化植物、陽地植物であるタラノキ、アカメガシワ、ヌルデ、クサギ、アカマツ、サルトリイバラなどの幼木が混生している遷移初期の群落である。
 なお、この他に、植生図には表わせなかったが、大久保谷にアスナロ、コウヤミズキ、イワツクバネウツギ、イワガサ、ジンリョウユリなどを含む蛇紋岩地特有のアスナロ群落、次郎銅山や広石銅山跡にみられるヘビノネコザ群落などもあったことを付記しておく。


C 人工植生
 12 スギ・ヒノキ植林 神山町の東半分がアカマツ林で占められるのに対し、上流域である西半分はスギ・ヒノキの植林でおおわれている。町の人工林率は61・7%であるが幼木林が多く、20年生未満がその70%を占めている。成長は那賀川流域には劣るが、良好である。
 13 樹園地、山地が町内の大部分を占めているため、耕作地は全体の約6%にしかすぎない。樹園地はその半分の3%であるが、なかでもウメの栽培が盛んで、作付面積は180ha(S・48)、次いでスダチ(52ha)、ハッサク(45ha)となっている。
 14 水田・畑・桑畑・竹林など、鮎喰川沿いのひらけた地形の所には水田がみられるが、やや高い所では畑や桑畑になっている。また宅地の裏山などに少面積のモクソウチク林がよくみかけられた。


5.神山町の自然保護に対する植生学からの提言
 海抜600m以下では、広い地域にわたって古くから農業や林業などの立場で、伐採、開墾、植林などが行われてきた。そのため、かつては常緑広葉樹林でおおわれていた地域は、スギ、ヒノキ植林をはじめ、アカマツ林、コナラ林、シイ・カシ林などの人工植生や代償植生におきかえられている。そして、昭和40年頃から毎年林道が延長され、破壊に弱い落葉樹林帯まですぐ手がとどくようになった。このようにして剣山地の高所まで、森林の伐採.搬出が容易にできるようになったため、広大な面積にわたって、一度に皆伐法による伐採が行われた。植生図でみればわかるように、広範囲の伐採跡地が十数ヵ所もある。これは防災上決して好ましくない。そして、これらによる山崩れや、中・下流域での水害が十分考えられる。現に、昭和49年7月8日の台風8号による上分地区の集中豪雨による大被害。それに続く昭和50年8月22日の台風6号による山崩れ(260カ所)、道路決壊、床上浸水など、毎年のように大きな災害をこうむっている。神山町は、地質学的にも破砕帯をもち、地辷りや山崩れなどが生じやすいので、それらの事も十分考慮した上で、町全体として、百年の計の上に立って、植生の維持管理とその保護がなされることが望ましい。


 特に、自然植生は、道路建設などの人為的破壊に弱いので、これらを積極的に保護する必要がある。
6.要約
 1975年7月から9月にかけて、神山町全域の植生調査が行なわれ、以下の群集、群落が記録された。また、1:50.000地形図に現存植生図が描かれた。
A 自然植生
 1 ブナ林
  a)ブナ−シロモジ群集
  b)ブナ−シラキ群落
 2モミ・ツガ林
 3コジイ林
B 代償植生
 4 シロモジ林
 5 イヌシデ林
 6 コナラ林
 7 シイ・カシ林
 8 アカマツ林
  a)アカマツ−オンツツジ群集
  b)アカマツ−モチツツジ群集
 9 アワノミツバツツジ群落
 10 ススキ草原
 11 伐採跡群落
C 人工植生
 12 スギ・ヒノキ植林
 13 樹園地
 14 水田、畑、桑畑、竹林など

   主な参考文献
1)神山町 1975:神山町勢要覧。1〜54。
2)神領村誌編集委員会 1960:神領村誌。25〜56。神領村
3)福岡県高等学校生物研究会 1975:福岡県植物誌。29〜170。
4)宮脇 昭・大野啓一・奥田重俊 1973:大山の植生。 大山隠岐国立公園 大山地区学術調査報告。 55〜127。 日本自然保護協会。
5)森本康滋 1975:勝浦郡の植生。郷土研究発表記要。21,91〜101。阿波学会・徳島県立図書館。
6)森本康滋 1976:高丸山の植生。城東高等学校研究紀要。1、26〜35。徳島県立城東高等学校。
7)山中二男 1945:四国地方に於ける暖帯材から温帯村への移行について。高知大学学術研究報告。 5,20。 1〜6。 高知大学
8)山中二男 1963:四国地方の中間温帯林。高知大学学術研究報告。12,3。1〜9。高知大学
9)山中二男 1969:南四国における二次林の研究。高知大学学術研究報告。18,1,1〜14。高知大学


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