阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第21号
上勝町の読書調査 読書調査班 猪井達雄・布川文次

 今年の読書週間の標語は「本との出会い、豊かな心」であります。上勝町の方がたが、どういう具合いに本との出会いをもち、徳島県立図書館とか、町の公民館などとどういうふうにかかわりあいを持つかというのが、この読書調査のねらいであります。
 読書に関する世論調査表(昭和49年8月1日現在)を作成し、学校を通じて調査表を配布・回収を行い、読書環境、読書についての背景、読書の状況、などを調べたわけでありますが、13項目にわたる調査設問について順次結果を簡略にご報告いたします。


〈調査表の回収および回収率〉
 徳島県推計人口は昭和49年7月1日現在、219,692世帯、人口787,979人(男375,727 女412,252)で、この中上勝町は1,033世帯、人口3,473人(男1,662、女1,811)でありますから、できれば、この全世帯へ配布して調査をいたしたかったのですが、昨年の全世帯配布の回収率が悪かったので、思いきって上勝町では小学校・中学校の在学生を通じ父兄に配布し記入してもらう方法をとりました。したがって調査区を
1 正木2 傍示3 上勝西4 旭の小学校区といたしました。


 1 正木 176
 2 傍示 87
 3 上勝西 188
 4 旭 138
  計 589
を配布いたしました結果、全世帯の1,033のおよそ2分の1にゆきわたり、その回収も82.9%488枚が得られましたので、この種の調査としては、回収率が良い方ではないかと喜んでおります。上勝町教育委員会、学校、児童生徒、ご父兄のみなさんがたのご協力に対し、厚く御礼申しあげます。調査区の概況を申しあげますと、1 正木地区は、みかん作地帯で、ふるくは石炭などもでていたそうでありますが、いまうなぎの養殖池がめだっているのと、正木ダムの工事が、ひときわ目につきます。2 傍示地区は田畑が少なく盆地で森林のしごとに従事する人が多く。3 上勝西は、森林の所有者が多く製材がめだち、むかしは薪炭などの産業が盛んで、あめごの養殖などが目にとまります。4 旭地区は森林地帯で八重地牛で名高かったところで四地区ともそれぞれ特徴がありますが、全町あげて過疎対策として養鶏・養豚・肉牛飼育などにとりくんでいるようであります。
 この四調査区ごとに各項目について集計しましたところ、四地区それぞれの地域性がでてたいへんおもしろいものであります。


〈調査結果の概要〉
1.地域の就学状況
 本調査を実施するために、小学校、中学校に在学中の父兄の子弟が、どのように就学しているかを調べたものが第1問ですが、父兄の年齢が比較的若いためか、高校以上の就学中の子弟が少なくなってなっており、卒業・中退とも百分比は表のとおりであります。


2.情報(知識)を得る手段
 最近、情報化社会は、情報禍社会いわゆる情報の「わざわい」の社会といわれるほど過剰現象を起こしています。ラジオ・テレビ・レコード・テープ・ビデオ・新聞・雑誌・書籍・映画等々、マス・メディアの多様化はおどろくべき数になっております。ある調査によりますと、十年前にくらべて供給量は3.2倍情報消費量は1.4倍にとどまり、情報消費率は30.9%から9.9%にとどまり10分の9はむなしくきえているということであります。情報化社会の受け手である上勝町のかたがたにマスコミといわれる新聞・雑誌・書籍・テレビ・ラジオからどのように情報を受けているか1.2.3.のようにチェックしてもらいましたが、それを合計したものが、つぎのようになっています。
  テレビ  445件  34.3%
  新聞  425件  32.8%
  ラジオ 175件  15.0%
  雑誌  193件  14.9%
  書籍   39件  3.0%
  計 1,297件 100.0%
であります。電気媒体は活字媒体は5分5分で、テレビがあっても新聞がほしいし、新聞があってもテレビがいるということがよくわかります。活字でたしかめたい意欲、ここに活字媒体を選択する大きい意味での選書というものが現代人に要求せられているように思えますし、公共図書館の選書についても最大の研究が必要でなかろうかと思われます。
3.県立図書館の利用状況
 今年の徳島県教育委員会だより読書振興特別号(49.10.15)に、「読書の輪を広めよう」と竹田俊一徳島県立図書館長が県民によびかけていますが、県下9公共図書館(県立を含む蔵書約26万冊)、移動図書館6台公民館図書室(平均蔵書1千冊)が施設の実態で、県教委では公民館図書室の充実のために児童図書コーナーおよび図書購入費に対する補助、ブロック別読書振興大会に対する援助を実施し、市町村における読書についての関心の高まりをはかっていることをのべていますが、読書推進等については、当館のみならず、国・県・市町村などの読書施設、読書団体関係者が力をいれているところであります。
 本調査では、上勝町が県立図書館から、かなり遠隔地にありながら、およそ40%の方がたが県立図書館とのかかわりあいをもっているチェックをしていますが、調査者としてたいへんうれしい好結果であります。


4.文化調度品の所有状況
 私たちが生活をいとなむうえに、いろいろな文化調度品がいりますが、18品目について所有状況をみました。洗濯機、冷蔵庫などは99〜98%、電話96%というようにずいぶん普及しております。それに比して本立74.2%、本箱52.3%というのは少ないような気がします。「衣食たって礼節を知る」といいますが、戦後は、エンゲル係数をもって生活のバロメーターとし、経済成長は3C時代を現出しましたが、文化生活は読書にもつながるということで状況をみたわけであります。もちろん生活をきりつめても読書をという人々もいることを忘れてはならないと思います。
  1 洗濯機 99.2%
  2 冷蔵庫 98.4%
  3 電話 96.3%
  4 自分の家 96.l%
  5 ラジオ 90.0%
  6 カラーテレビ 89.9%
  7 本立 74.2%
  8 乗用車 66.6%
  9 本箱 52.3%
  10 オルガン 27.0%
  11 ステレオ 25.0%
  12 レンジ 16.2%
  13 書架 12.5%
  14 応接セット 6.8%
  15 書籍保管庫 5.7%
  16 別荘 3.5%
  17 ルームクーラー 2.3%
  18 ピアノ 1.0%
5.文化調度品購入の意向
 「何を買うか」ということは、たいヘんたいせつなことです。文化調度品18品目について書いてもらいましたが、レンジ82件、ステレオ31件、乗用車21件と4〜5年まえの調査とずいぶん状況もかわり、生活の向上がうかがわれます。
  レンジ 82件
  別荘 38件
  ステレオ 31件
  カラーカレビ 23件
  乗用車 21件
  自分の家 17件
  冷蔵庫 14件
  ルームクーラー 13件
6.最近の読書の状況
 全国の読書世論調査で読書時間は1日42分、テレビは2時間20分ですが、本問は最近3か月に本を読みましたかという調査です。その結果
  週刊誌 30.0%
  雑誌 24.3%
  書籍 12.3%
  読んでない 33.0%
ということで、手軽いものがよく読まれ、書籍となるとぐんとおちていることがわかります。しかし、33%の人々がよんでいないのは残念です。
7.読書の動機
 「テレビをみて本を読むか、本を読んでテレビをみるか?」ということがよく話題にされますが、人々に聞きますと、本を読んでくわしく知っているのでテレビをみる気がしないという人がいるし、もう一度、吟味しながらみるという人がいるし、テレビに誘発されて読書するという人、その逆の人もいるというわけで、いろいろな動機があります。それの問いかけが、本問でつぎのようになっています。
  書店・駅の売店などで本をみて 22.1%
  新聞・雑誌の書評をみて 14.4%
  新聞広告をみて 13.9%
  人にすすめられて 11.6%
  テレビをみて 7.3%
  雑誌の広告をみて 5.5%
  図書館・公民館で 4.3%
  ラジオを聞いて 4.0%
  カタログをみて 3.3%
  寄贈をうけて 2.3%
  映画をみて 1.0%
  ポスター、ダイレクトメール 1.0%
  その他 9.3%
     計 100.0%
8.本を読む目的
 男性は仕事に役立たせるため、女性は生活を向上させるためというのが、ある読書調査の本を読む目的ですが、本調査ではつぎのような結果です。
  職業上の必要から 21.3%
  娯楽 18.8%
  なんとなく 17.8%
  趣味 15.9%
  教養 14.2%
  こどもの教育 10.4%
  その他 1.6%
9.本の入手先
 本を読みたいとき、どこから本を手に入れるかということが本問ですが、65.6%が自分で買うということで図書館・公民館などから借りるというマナーが身についていないというより、むしろ読書施設がないから、手うすだからという結果がでているのではないでしょうか。
  自分で買う 65.6%
  友人から 11.5%
  移動図書館車 5.7%
  家にある 5.1%
  図書館・公民館 3.0%
  職場文庫 2.8%
  学校 2.6%
  貸し本屋 1.2%
  その他 2.6%
ちなみに年間人口1人当たり出版物の消費額(S44.6〜S45.5)は徳島県2,971円、全国平均対比60.8%であります。(新文化S45.5.17より)
10.蔵書と年間購入図書
 蔵書冊数の平均は一世帯50冊ぐらいといわれています。いわゆる読みすてしないでのこしておく本ですが、この調査ではつぎのとおりです。
 400冊以上の本になりますと1間分の書架以上に本がつまるということになりますから、たいした蔵書数といえるでしょう。


 購入冊数はつぎのとおりです。


11.希望購入図書
 図書館の分類の10に加味して15項目にチェックをしてもらいましたところ、各分野にちらばって希望があり、10%以上のものは、
 6 健康保険衛生関係 11.8%
 2 歴史伝記地理関係 11.3%
 8 家事家庭育児関係 11.2%
 14 文学古典小説詩歌関係 10.5%
の四つでありました。選書について気を配ることはもちろん、その構成も多面にわたる必要があります。
12.余暇の利用
 最近・週休2日制のところもあり余暇をどう過ごすかという問題がとりあげられています。私たちは、できれば図書館の本を読んでいただきたいという願いをこめて問いを発したわけでありますが、昨年にひきつづいてやはり読書は3位ということになっています。
  ラジオ・テレビ 41.7%
  ごろ寝・休息  20.1%
  読書 12.7%
  日がえり旅行 8.0%
  一泊以上旅行 1.5%
  スポーツ 4.9%
  買物 3.9%
  その他 7.2%
  計 100.0%
というわけで、上勝町の人々も勤労の余暇にはゆっくり休みたいという人々が、かなりのウエイトをしめていることがわかります。
13.希望意見
 希望意見欄に記入した人は、
  町に図書館を建設せよという人-----------3人
  移動図書館車の充実をのべた人-----------9人
  県立図書館がよくわからないという人-----9人
  県立図書館が遠いという人---------------3人
で、合計24人の人々が、この欄を貴重なご意見でうずめていただきました。
 人間である以上生涯にわたって読み書きを忘れてはならないし、生きがいをみつけなければならないと思います。職業上の必要から読書をする人が多いという上勝町の調査が終わって農協ヘ「ゆこうの酢」を求めにまいりましたが、このゆこうの酢を製作するにしても、栽培そして加工から出荷までずいぶん上勝町の先人が実地に読書に研究をつまれたことと思います。県立図書館には黒上泰治博士の寄贈にかかる黒上文庫がございますので、果樹園芸などの研究に役立てていただきたいと思います。上勝町にも、町の産業を中心に図書館がほしいというのが、希望意見でもあることをつけくわえておきます。

    調査表の設問と集計表
問1 現在、あなたのご子弟で就学中の方がありますか。また、すでに卒業されている方や、中退された方がありますか。ありましたら、該当の項目の数字を○でかこんでください。
  就学中(1小学校 2中学校 3高校 4高専 5短大 6大学)
  卒 業(7小学校 8中学校 9高校 10高専 11短大 12大学)
  中途退学(13小学校 14中学校 15高校 16高専 17短大 18大学)


問2 人間は、社会生活を営むうえにいろいろ新しい情報(知識)が必要ですが、あなたは、その情報(知識)を得られる手段としてつぎのどれによっておられるか。該当のものの頭に○印をつけ、その○の中に、あなたが利用されている順に1、2、3のように番号をいれてください。
   新聞・雑誌・書籍
   テレビ・ラジオ


問3 県立図青館は、みなさんに情報(知識)を提供するセンターとしての役割りを果たしていますが、あなたまたはご家族のかたの利用状況について、該当のものの数字を○印でかこんでください。
  1 図書の閲覧
  2 図書の借用
  3 図書館へ電話で照会(口頭を含む)
  4 図書館へ文書で照会
  5 巡回図書(移動図書館車)の利用
  6 読書会に参加
  7 読書グループに所属
  8 その他(  )
  9 利用したことがない


問4 あなたのご家庭で持っているものの項目の数字を○でかこんでください。
  1 冷蔵庫
  2 自分の家
  3 電話
  4 ステレオ
  5 乗用車
  6 電気洗濯機
  7 ラジオ
  8 カラーテレビ
  9 電子レンジ及びガスレンジ
  10 ルームクーラー
  11 ピアノ
  12 オルガン
  13 別荘(他市町村に)
  14 本立
  15 本箱
  16 書架(何段式かになっているもの)
  17 書籍保管庫(何段式かになっているもの)
  18 応接セット


問5 あなたは、問4の項目のうち、一番さきに購入したい、または持ちたいと思うもの一つをつぎに記入してください。
  No.(     )  名称(          )


問6 あなたは、最近3か月間に本を読みましたか。該当の項目の数字を○印でかこみ読んでいる方は書名等を下欄に記入してください。
  1 週刊誌
  2 雑誌
  3 書籍
  4 読んでいない


問7 あなたが本を読む動機となったのは、つぎのどれですか。該当の数字を○印でかこんでください。
  1 新聞の広告をみて
  2 雑誌の広告をみて
  3 新聞・雑誌の書評をみて
  4 書店・駅の売店などで実物をみて
  5 ポスターをみて
  6 ダイレクトメールで
  7 カタログを見て
  8 図書館・公民館・読書グループなどから
  9 テレビをみて
  10 ラジオをきいて
  11 映画をみて
  12 人にすすめられて
  13 寄贈されて
  14 その他(  )


問8 あなたが本を読む場合、おもにどんな目的で読みますか。つぎの該当する項目の番号を○印でかこんでください。
  1 職業上の必要から
  2 趣味のため
  3 教養のため
  4 娯楽のため
  5 こどもの教育のため
  6 なんとなく
  7 その他(  )


問9 あなたが読みたい本は、おもにどこから入手されますか。該当する項目の番号を○印でかこんでください。
  1 自分で買う
  2 図書館・公民館で借る
  3 移動図書館車を利用する
  4 学校から借る
  5 職場の文庫から借る
  6 友人から借る
  7 貸し本屋から借る
  8 家にある
  9 その他(  )


問10 あなたのお家の蔵書冊数は。およそ何冊ですか。また過去1年間で何冊ぐらい書籍を購入しましたか。つぎに記入してください。
  家庭蔵書冊数(  )冊  年間購入冊数(    )冊
 (注)該当のない項目については、なしと記入してください。


問11 図書館の蔵書を充実するうえにおいて、みなさんのご希望を参考にしたいと思いますので、あなたが興味をおもちの本、または購入希望の本がありましたら、つぎの該当する項目の番号を○印でかこんでください。
  1 哲学・倫理・宗教関係
  2 歴史・伝記・地理関係
  3 政治・経済 法律・社会関係
  4 教育関係
  5 自然科学(物理・化学・生物)関係
  6 保健衛生・健康関係
  7 工業・工学(土木・建築・機械・電気)関係
  8 家事・家庭・育児関係
  9 農林水産関係
  10 商業・商店経営関係
  11 交通通信関係
  12 音楽・演劇関係
  13 スポーツ娯楽関係
  14 文学・古典・小説・詩歌関係
  15 郷土に関するもの


問12 あなたは、余暇をどう過ごしますか。
  1 読書
  2 ラジオ・テレビ
  3 ごろ寝・休息
  4 日帰り旅行
  5 1泊以上の旅行
  6 スポーツ
  7 買物
  8 その他


問13 県立図書館についてお気づきの点、感想、希望をつぎに記入してください。
〈記入欄〉


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