阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第21号
勝浦川水系の水生昆虫

生物学班(水生昆虫) 神野朗・長池稔 徳山豊

はじめに
 筆者らは今回の勝浦郡総合学術調査にあたり、河川の清冽度の指標生物として知られる水生昆虫の調査を実施した。
 郡内を流れる主要河川は勝浦川でその他、旭川、杉地谷川、藤川谷、立川、坂本川など多くの支流を含め勝浦川水系としてまとめられる。標高約850mの澱河内に端を発する勝浦川は上勝、勝浦の郡内2町を経て徳島市へ流れる全長約50kmの県下第4番目の河川である。
 調査期間は7月30日から8月4日までの6日間で短期間でありしかも、最も水生昆虫相が貧弱であると言われている夏季のみで充分な調査とは言えないが、ここに調査結果を報告したい。

 

調査方法と地点
 調査は図1に示すように本流に13ケ所、支流に10ケ所の計23ケ所の station を設け、主に瀬について、50cm ×50cm のコドラードをおき、このワク内の石、礫をチリトリ型の金網中に取り上げ、その中の肉眼動物をすべてピンセットでとり、アルコール又はホルマリン液で固定し持ち帰った後、種の同定及び個体数を調べた。

同時に各地点での気温.水温.底質.流速.川巾等の環境要因を測定した。主な調査地点の様相について述べると殿河内(st.1)は源流地点で谷はV字型となり、まわりは山地で囲まれ、流れ幅も狭く大きな岩が多い。大北上(st.2)、大北下(st.3)、谷囗(st.4)、落合(st.5)は山地溪流で川幅もやや狭く、付近は山地である。平間(st.6)、日浦(st.7)は中間溪流で近くには民家や水田も見える。正木(st.8)は現在ダム工事中であり完成後はこれより上流は湖底と化する所である。福川(st.9)は中間溪流だが川幅も広く平地流に近い。中小家(st.10)で川は再び山地溪流的になる。この付近はアユ漁や川辺での魚料理が盛んに行なわれていた。構瀬(st.11)、生名(st.12)、山田(st.13)は平地流で川幅も広く周囲には民家や水田がよく発達している。


 河川全域を通し、落合(st.5)にゴミが多く捨てられていたこと、山田(st.6)で白い泡が水面に多く見られ民家からの下水が流入していることの他は特に目立った汚水の流人その他水生昆虫に影響を及ぼすと思われるものは目当らず、肉眼的にみて清冽な河川と思われた。

 

  

調査結果および考察
各調査地点の環境要因は表1に示す。


採集時刻は午前と午後にわたり、気温についてみれば18.5℃から34.0℃と標高、河川の上下流にかかわらず高低がみられるが、水温については上流部(殿河内から落合まで)の平均が20.8℃、中流部(正木から山田まで)は平均が24.0℃その差は約3℃ある。支流部についても、ほぼ上流ほど水温が低い。
 底質については、どの地点も、主として瀬で10〜15cm大の石・礫からなっている。
 河川型 Aa と示した地点は山地流を表わし Aa−Ab は山地流と平地流の移行型を、Ab は平地流を示す。
 各地点で採集された水生昆虫の種名及び個体数は、表2のとおりである。


 全地点を通して表3のとおり46種の水生昆虫が採集されたが、それらを目別にみるとカゲロウ目18種38.3%、トケビラ目11種23.4%この両目で全種に対する割合は61.7%を占める。次いでカゲロウ目、双翅目が6種、以下トンボ目と続く。採集された水生昆虫は半翅目ナベブタムシ、鞘翅目ヒラタドロムシの2種は成虫であるが、他はすべて幼虫である。


 地点別に種数をみると、福川(st.9)、山田(st.13)が最も少なく8種、藤川谷が最も多く19種採集された。他の各地点はほぼ10〜16種である。
 個体数についてみると、各地点でかなりの差がみられる。これはトビケラ目のウルマ−シマトビケラの個体数の多少による。ウルマ−シマトビケラのような造網型の昆虫の現存量が多く占める場合、その地点は底の状態が安定しており、極相を示す。(津田1959)
 落合、藤川谷は川底の状態が安定してると思われる、その地点の種数も多い。
 各地点での特微種についてみると、殿河内大北下、杉地、中山、月ケ谷の5点を除く全地点でウルマ−シマトビケラの個体数が最も多く最優占種である。殿河内ではヒメヒラタカゲロウ、シロハラコカゲロウまた大北上、下、八重地、傍示谷、坂本ではシロハラコカゲロウ、谷口、落合ではフタバコカゲロウ、月ケ谷ではシロタニガワカゲロウ、杉地、中山ではモンカワゲラがそれぞれ多く採集された特微種であるといえよう。


 中山、坂本、神田、藤川谷においては双翅目のガガンボが多くみられる。
 平間、神田、藤川谷ではユスリカも多くみられ、落合ではシギアブが多くみられた。
 河川全域にみられた種として、マダラカゲロウ、シロハラコカゲロウ、ウルマ−シマトビケラ、ヒゲナガカクトビケラ、カガンボがあげられる。
 上流部にはフタバコカゲロウ、イノプスヤマトビケラ、ユスリカ(青)が見られ、下流部には見られない。逆に下流部に見られ上流部に見られないものには、チャバネヒゲナガカワトビケラ、ヒメトビイロカゲロウがあげられる。
 支流に多くみられたものには、シロタニガワカゲロウ、キブネタニガワカゲロウ、ヘビトンボ、ヒラタドロムシ、トンボがあげられる。
 次に、川の清冽度を知るために生物指数を Beck−津田の方法によって算出したものが、表4である。


 算出方法は 50cm×50cm のコドラード内で採集された種を汚濁に耐えない種と耐えられる種に大別し、それぞれに含まれる種数をA.Bとして、2A+Bを biotic index つまり生物指数とする方法である。そして、その値が0〜5は極めて汚濁、6〜10はかなり汚濁、11〜19はやや汚濁、20以上は清冽であるとされている。
 それによると、福川、山田の16、横瀬の18と3ケ所がやや汚濁されているのみで、他の地点はすべて20以上で現在のところ、きれいな川であるといえよう。
 なお、B:汚濁に耐えうる種は双翅目のミズアブ科の1種のみで他はすべて汚濁に耐ええない種である。

 

おわりに
 本調査により、勝浦川水系では水生昆虫46種(2種のみ成虫、他は幼虫)が採集され、そのうちの大部分はカゲロウ目、トビケラ目に属するものであり、また汚濁の耐忍種はただ1種のみ採集されただけで、生物指数をみても、23地点のうち3ケ所のみ20以下でやや汚濁されているにすぎず、他は全く清冽で、きれいな状態が保たれているといえる。したし逆に考えると除々に汚濁が進行しつつあるともいえよよう。正木ダムの完成により川が流れなくなり、民家や工場等の汚水の流入が増加すると、汚濁の非耐忍種が大部分であるだけに昆虫相もしだいに貧弱化し、それらをエサとする魚類等にも影響が及ぶと考えられる。
 この清冽な川をいつまでも保持していくよう願いたいものであり、本調査が自然保護の一助となれば幸いである。


徳島県立図書館