阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第21号
勝浦川流域の植物相

博物同好班 阿部近一

1.自然環境の概況
 勝浦川流域として取上げた地域は、雲早山(1496m)並高丸山(1439m)に源を発する勝浦川上流の上勝町や下流の勝浦町一帯で、紀伊水道に注ぐ徳島市の一帯は除く。
 地理的には、その北側に、剣山系の伸びた雲早山や旭丸(1312m)、 高鉾山(1020m)、中津峯山(773m)などが並び、南側は竜峠(1160m)を始め、蟹峠(799m)、鶴峠(287m)などの低山を隔てて、上那賀町や阿南市に接する。
 また地質的には、北側の高丸山から殿川内谷を経て中津峯山に至る一帯は秩父古生層に、その南部の信義峠、竜峠から旭、福原の一帯は中生代の白塞系に、さらにその南部の杉地から中伊豆一帯は、ジュラ系の三宝山層群に属する。こうした変化に富む地質環境は、到る所蛇紋岩や石灰岩の露岩地をつくり、特異な植生要因をつくっている。
 気候は極めて温暖で、横瀬観測所の統計(10ケ年平均)によると、年平均気温は15.5℃で、降水量は年間2635mに達し、県内のやや高温多雨地帯にあり、植物の生育には、極めて好条件を与えている。したがって、古くから柑橘の栽培が盛んで、毎年多大の生産を誇っている。


2.植生の状況
(1) 暖 温 帯 林
 勝浦川流域は、多くが低山帯で、生活環境にも恵まれるので、古くからその樹林は開発せられ、今日ではアカマツの二次林やスギ、ヒノキの人工林に置き換えられる外、柑橘などの果樹園や農耕地に姿を代える所が少くない。
 勝浦川下流の溪側露岩地では、アカマツの外ウバメガシの繁茂が目立ち、その他の温性地では、アラカシの優占する樹林が少くない。また勝浦町中山や坂本、立川、或は上勝町藤川や旭などの段丘乾性地では、シイの優占する樹林が多く、仮りに中山の八幡神社々叢に例をとると、次のような組成がみられる。
 ◎ 勝浦町中山  八幡神社
  高木層 コジイ(優占)、ヤマモモ、ホルトノキ、アラカシ、クスノキ、
      裏参道北側には見事なヒノキ林がある。
  亜高木層 コジイ、ヤマモモ、ヒメユヅリハミミズバイ、アラカシ、タブノキ、カクレミノ、ヤブツバキ、クスノキ、ホルトノキ、クロガネモチ、ヤブニツケイ、ソヨゴ
  抵木層 モチツツジ、クチナシ、ネズミモチ、カナメモチ、サカキ、ヒメユヅリハ、コジイ、ネジキ、ミミズバイ、ソヨゴ、クロバイ、リョウブ、ヒサカキ、アセビ、カクレミノ、オンツツジ、ヤブムラサキ、ヤダケ
  草本層 アリドウシ、ヤブコウジ、ヒメユヅリハ、アラカシ、ヤブツバキ、ヒカゲスゲ、ヒトツバ、コジイ、ウラジロ、コシダ、マルバベニシダ、コウヤボウキ、アセビ、ノキシノブ、ヤクシソウ、ヒヨドリジョウゴ、ムクノキ、ホラシノブ、ベニシダ、シシガシラ、ササクサ、イヌマキ、シュンラン
 またバラオ谷や杉地谷の溪側では、タブの優占する樹林やウラジロガシの優占する社叢が残されており、その組成には次のようなものが見られる。
 ◎ バラオ谷  山神神社(標高250m)
  高木層 タブ(優占)、イスノキ、スギ、クロガネモチ
  亜高木層 ヤブツバキ、イスノキ、サカキ、シロダモ、アラカシ、ケヤキ、
  低木層 ヒサカキ、ヤブツバキ、クスノキ
  草本層 ウラジロ、クリハラン、イワヘゴ、ホソバカナワラビ、ミゾシダ、ミズヒキグサ、イヌビワ、ヤブニッケイ、アケボノソウ、シュロ
◎ 蟹が峠 竜王権現岩屋(標高450m)
  高木層 ウラジロガシ(優占、周5.0m)、アカガシ、ツガ(周2.6m)、イロハカエデ、スギ、
  亜高木層 ヤブツバキ、タブノキ、ホソバタブ、カゴノキ、カクレミノ、サカキ、アスナロ、マツラニッケイ、ヤマグルマ
  低木層 ネズミモチ、シキミ、ヒサカキ、ヤブニッケイ、ツリバナ、アセビ、ホンシャクナゲ、カゴノキ、カヤ
  草本層 ユキモチソウ、ベニシダ、トキワシダ、シシラン、ヒトツバ、イワヤナギシダ、ヌリトラノオ、マルバベニシダ、ホソバコケシノブ、ユヅリハ、ホンシャクナゲ、サワダツ、マムシグサ、ナンカイアオイ、エビネ、マメヅタラン、ムギラン、セッコク、
◎ 田野々 神明神社(標高300m)
  高木層 アラカシ、シラカシ、コジイ、アカガシ、ウラジロガシ、クロガネモチ、カゴノキ、アカシデ
  亜高木層 イヌガシ、リンボク、シキミ、サカキ、ヤブツバキ、ヤブニッケイ、カヤ、クロバイ、ウリカエデ、
  低木層 シラキ、センリョウ、マツラニッケイ、アオキ、ホウライカズラ、
  草本層 ミキマノコギリシダ、ヌリトラノオ、キジノオシダ、ミセマウズラ、フウラン、マメヅタラン、ヨウラクラン、ムギラン、セッコク、クモラン(樹上)
(2) 冷 温 帯 林
 標高が500〜550m以上になると、次第に冷温帯要素が多くなり、大体1000m附近から、ブナを含む落葉広葉樹林に交代する。その代表的なものは高丸山の原生林で、標高1150mの中腹神社附近では、周3.2mに及ぶブナの巨樹が枝を支え、下部はスズタケが蔽うて、太平洋側に発達する代表的なブナ〜スズタケの群落がみられる。その組成は、
高木層 ブナ(優占)、トチノキ、イタヤカエデ、アサダ、カツラ、オオモミジ、イヌシデ、アズサ
亜高木層 アオハダ、コミネカエデ、ウリハダカエデ、ハリギリ、アサダ、ヒメシャラ、ヒナウチワカエデ、イタヤカエデ、コハウチワカエデ、カジカエデ、サワシバ、ミズキ、クマシデ、アワブキ、リョウブ、シラキ
低木層 ツリバナ、サイコクイボタ、マルバマンサク、アナガラ、コミネカエデ、アオハダ、タンナサワフタギ、ベニドウダン、アワノミツバツツジ、フウリンウメモドキ、
草本層 スズタケ、テバコモミジガサ、ミセマカタバミ、フタバアオイ、シコクブシ、ツルマサキ、オタカラコウ、シロバナエンレイソウ、ヤマシャクヤク、ミツバテンナンショウ、イトスゲ、サバノオ、ムカゴツヅリ、ワチガイソウ、ルイヨウボタン、フウロケマン、ヤマヒナハウスツボ、ウスバアザミ、ヒカゲミツバ、オカタツナミ、ハガクレツリフネ、ハルトラノオ、ヤマヒナノウスツボ
 しかしこの原生林も、その範囲は神社周辺に限られ、その他はスギの人工林や頂上近くに成立する落葉広葉樹の二次林でおおわれる。その多くは、イヌシデ、アカシデ、シナノキ、アラゲアオダモ、コハクウンボク、リョウブ、コミネカエデ、シロドウダン、アワノミツバツツジ、アセビ、ネジキ、フウリンウメモドキ、ダケモミなどの低木で、林内には、ヤマシャクヤク、ミツバテンナンショウ、ミヤマママコナ、フクオウソウ、アサマリンドウ、テリハキンバイ、ナガサキオトギリ、タカネオトギリなどの草本もみられる。
 また標高1160mの竜峠や1312mの旭丸一帯には、わずかながらブナを含む冷温帯林がみられるが、いずれも伐採跡に成立した貧弱な二次林で、全く見るべき姿はない。しかし殿川内谷の奥地では、断崖露岩地にせまいながらもモミ、ツガ、ヒノキなどの残存林がみられ、旭峠近くでは見事なアカマツ林が目立つ。また旭丸やその周辺では、次のような低木林が発達し、脚の踏み場もない所がある。


 シラキ、アズサ、シャラノキ、シロモジ、アオハダ、リョウブ、ハリギリ、タンナサワフタギ、アワブキ、コハクウンボク、タムシバ、ヒメシャラ、クマシデ、アカシデ、ケヤマハンノキ、ケヤシャブシ、ウリハダカエデ、ヒナウチワカエデ、コハウチワカエデ、コバノトネリコ、ミヤマクロモジ、ブナ、ヤマボウシ、ネジギ、アセビ、シロドウダン、ツクシシャクナゲ、ハイシキミ、アワノミツバツツジ、ガマズミ、ヤマシグレ、クロズル、ミツバウツギ、ハジカエリヤナギ、モミ、ツガ
草本類
ミヤマママコナ、シンジュギク、ヒメノガリセス、マルバイチキクソウ、シロヨメナ、ショウジョウバカマ、ツクバネソウ、コミヤマスミレ、チゴユリ、ホリバノヤマハハコ、ヨツバヒヨドリ、アキノキリンソウ、センブリ、リンドウ、ミツバコンロンソウ、ナガサキオトギリ、アリノトウグサ、アサマリンドウ、ヒメコウモリ、ナガバシュロソウ、ホウチャクソウ、シシウド、オオバショウマ、アオテンナンショウ、トサノミカエリソウ、シコクトリアシショウマ、コナスビ、キバナアキギリ、ヤマジオウ、タカクマヒキオコシ、ハエドクソウ、シコクスミレ、ヤマカモジグサ、コウヤザサ、イトスゲ、ハルトラノオ、ナガバノスミレサイシン、ヤマタツナミソウ、ヤマイヌワラビ、シシガシラ、ヤワラシダ、ミヤマクマワラビ、ヘビノネゴザ、フクロシダ、ナライシダ、ウスヒメワラビ、フジシダ
(3) 中間帯の樹林
 前述したように、標高が4〜500mから6〜700mへと、その高度を増すにつれて、常緑広葉樹林に交ってモミ、ツガの下降をみたり、またケヤキやイヌシデなどの落葉広葉樹の混生が目立つ。更に標高が加わると、その景観は一変し、落葉広葉樹に交って、常緑広葉樹の上限を限るウラジロガシやアカガシなどの混生をみることもあるが、凡そ1000m近くともなると、樹林はやや安定し、冷温帯林に交代する。
 こうした現象は、高度差による気温の影響によって、暖温帯林から冷温帯林へと移行する途中相を示すものといえる。勝浦町立川の鳥井ゲヤキ一帯では、標高が450mというのに、見事なケヤキ林の外、附近には立派なモミ、ツガ林が成立するなど、特異な景観をみることもあるが、また標高650mの上勝町禅定窟周辺では、こうした中間帯のやや代表的な移行型が成立する。
 ◎ 上勝町禅足窟(標高650m)
  高木層 ケヤキ(周3.0m)、アサダ、イヌシデ、モチノキ、クマノミズキ、モミ、カヤ、
  亜高木層 ウラジロガレ、カゴノキ、ヤブツバキ、ヒサカキ、シラキ、カヤ
  低木層 オンツツジ、マツラニッケイ、ヒイラギ、ネズミモチ、カゴノキ、ヤブツバキ、ヤブニッケイ、タンナサワフタギ、クロモジ、イヌシデ、アセビ、ヒサカキ、エンコウカエデ、コナラ、モミ
  草本層 ガンクビソウ、シャガ、ヤマルリソウ、ヒメガンクビソウ、ヤブレガサ、ツルシキミ、ウナヅキギボウシ、コタチツボスミレ、コウヤボウキ、ナベワリ、ヒロハノハネガヤ、シコクブシ
(4)  石灰岩地の特殊な植生
 上勝町藤川の標高600mには、鶴林寺の奥の院といわれる慈眼寺があり、この裏山一帯には、大きな石灰岩の露岩地がある。そこには、禅定窟といわれる石灰洞があり、洞窟性の特殊な小動物が生息する。またこうした露岩地では、Ca を含む土壤条件とともに、日中の灼けつくような岩盤や通水性の強い岩塊地など、高温と乾燥と貧栄養の特殊な環境域をつくるので、そこには自ら特異な植物の生育や植生をみることが少くない。
 この地域では、クモノスシダを始め、ツクシクサボタン、ヨコグラノキ、オニシバリなどの好石灰岩植物がよくみられる。またこうした特殊環境では、普通一般の植物が生育しにくい所だけに、これに耐える植物にとっては、反って生存競争の少い安全な生活域ともなるので、カヤ、ネズ、クロウメモドキ、イワガサ、イワツクバネウツギ、ヤマガシュウ、コクサギなどの耐石灰岩植物の外、エゾエノキ、コバノチョウセンエノキ、モロコシソウなど、古い畤代から生きつづける所謂遺留植物の生育をみることも少くない。尚この一部には、最近その伐採によって、自然状態の破壊せられた所のあるのは遺憾といわざるを得ないが、その組成の状況を示すと次の通りである。


高木層 カヤ(多く)、ヨコグラノキ、エゾエノキ、クマノミズキ、イロハカエデ、
亜高木層 ヤブツバキ、エゾエノキ、イロハカエデ、フサザクラ、ニガキ、モチノキ、コバノチョウセンエノキ、
低木層 イタヤカエデ、ニワトコ、バイカウツギ、カゴノキ、サンショウ、ニガキ、イワツクバネウツギ、コクサギ、クロウメモドキ、ウリノキ、ヤマブキ、ネズ、イボタノキ、イヌガヤ、ウラジロガシ、キハギ、フユザンショウ、ネズミモチ、イワガサ、コバノチョウセンエノキ、ヨコグラノキ、マツラニッケイ、バイカアマチャ、マユミ、ヤブサンザシ、メギ、コショウノキ、オニシバリ、ヤマガシュウ


草本層 モロコシソウ、ナツエビネ、エビネ、クマガイソウ、シガバチソウ、シロバナハンショウズル、タカネハンショウズル、ボタンズル、クモノスシダ、ウナヅキギボウシ、ヤブヘビイチゴ、コバノヒノキシダ、ビロウドシダ、ナベワリ、エドドコロ、イワガラミ、ツクシクサボタン、ヌスビトハギ、ヤブソテツ、イトスゲ、コオニユリ、マルバマンネングサ、べニカヤラン、カヤラン、ウチョウラン、アキカラマツ、ヤマガシュウ、ヒロハテンナンショウ、クサイチゴ、ミヤマフユイチゴ、ヨコグラノキ、
 尚この外にも、殿川内、高鉾山の一帯には、一部石灰岩の露岩地がみられ、オウレンシダ、ヒメイワトラノオ、ソバナ、カタクリなど、若干特異な分布を示すものもあるが、その範囲は極めて狭い。
(5) 蛇紋岩地の特殊な植生
 勝浦川の上流、八重地トンネルから信義峠を経て、竜峠、旭、平間に至る間には、到る所蛇紋岩の露岩地がみられる。蛇紋岩地では、石灰岩の露岩地と異なり、そのもろく、やわらかな岩質によって、露岩表層の風化するものが多く、表土の浅い崩壊地となることが少くない。
 その土壤は、Ug を多く含むとともに、通水性の強い岩礫質で、土層は浅く、乾燥と貧栄養をその特徴とするため、好蛇紋岩植物や耐蛇紋岩植物の生育をみる外、矮性多枝で、小葉狭葉の植物が群生するなど、特殊な植生を示す所が少くない。


 中でも竜峠や信義峠の一帯は、その代表的な所で、竜峠では、貧弱なアカマツの疎林の下に、到る所イワガサの大群生がみられる。また好蛇紋岩植物といわれるジンリョウユリやトサトウヒレンの外、僅かながらも伐彩を免れたアスナロの樹林もみられて珍らしい。また信義峠では、アカマツやヒノキ、ツガなどの貧弱な疎林のもとに、イワガサが群生し、ベニドウダン、カイナンサラサドウダン、ナンキンナナカマド、ナガバノコウヤボウキ、ツクバネウツギ、ウメモドキ、メギなどの低木林や林側のトサトウヒレンに、蛇紋岩地植物の特徴的な様相をみることができる。



3.勝浦川流域の特記すべき植物
(1) Celtis Ieveillei Nakai コバノチョウセンエノキ
 落葉高木で、本州の近畿以西から九洲、朝鮮に分布。四国では、この調査で始めて明らかとなり、分布上珍らしい。上勝町禅定岳の石灰岩地に数株自生するが、最近その主幹が伐られたのは惜しい。


(2) Celtis jessoensis Koidz. エゾエノキ
 落葉高木で、北海道より朝鮮に分布。県内では剣山周辺に多く、暖地には見ない。上勝町禅定岳の石灰岩地に、その巨樹をみる。
(3) Berchemia berchemiaefolia Koidz. ヨコグラノキ
 落葉小高木で、石灰岩地によく出現する好石灰岩地植物。那賀川筋では稀にみられ、勝浦川筋では初発見。上勝町禅定岳には、周1.05m に及ぶものがある。
(4) Torreya mucifera Sieb. et Zucc. カヤ
 暖地に多い常緑高木で、石灰岩地にはよく出現する。上勝町禅定岳に多く、周2.7に及ぶものは、県内屈指の巨樹。保護をはかることが望ましい。
(5) Thujopsis dolabrata Sieb. et Zucc. アスナロ
 ヒノキに似て葉はより広大、日本では本州北部に多い、好蛇紋岩植物といわれ、県内では那賀川や海部川筋にまれに自生し、この地域では竜峠や平間の蛇紋岩地に出現する。材は水によく耐え、建築材や家具材の外漆器の木地に利用せられる。またその成分アスナロンは殺菌性があり、ポマードや歯磨の原料ともなる。
(6) Faqus crenata Blume. ブナ
 冷温帯のブナ帯の表徴植物で、県内では大体標高1000m以上の原生林内によく美事な樹林をつくる。この地域では、高丸山の中腹にその代表的樹林がみられ、竜峠、信義峠、殿川内などの二次林内にもわずがに出現する。
(7) Spiraea blumei G. Don イワガサ
 石灰岩や蛇紋岩地に好んで生育する小灌木で、禅定岳、竜峠、信義峠、平間などに群生する。時に庭木として庭園に植えられる。
(8) Spiraea nipponica Maxim. var. tosaensis Makino トサシモツケ
 イワガサに似た小灌木で、葉は細い。県内には那賀川筋に特産し、上勝町平間の溪側には特に多い。正木ダムの建設によって水没する恐れがないでもない。


(9) Rhododendron pentaphyllum Maxim. アケボノツツジ
 深山に生える落葉低木で、葉は枝の先に5個が輪生する。花は桃色で、早春葉に先だって開く。竜峠にみられるが少い。
(10) Trochodendron aralioides Sieb. et Zucc ヤマグルマ
 常緑の高木で、深山の岩場にまれに自生する。樹皮でとりもちをつくるのでトリモチノキともいう。殿川内や竜峠の岩場にわずかに自生する。
(11) Mallotus japonica Muell. Arg. form. lonqiracemosa C. Abe ホナガアカメガシワ
 アカメガシワの花序が長く垂れる一型で、果に軟刺毛を欠くか、あっても微少。上勝町日浦から梅木に通ずる道端に稀。
(12) Gardneria nutans Sieb. et Zucc. ホウライカズラ
 常緑の蔓植物で、本州の安房以西から、四国、九州の南部を経て琉球に分布。県内では海岸に近い林内に稀で、上勝町田野々から竜峠に通ずる林内によく繁茂する。
(13) Uncaria rhynchophylla Miq. カギカズラ
 大形の蔓性木本で、本州安房以西から九州の暖地に分布する。勝浦町立川にまれにみられる。
(14) Lysimachia Sikokiana Miq. モロコシソウ
 本州安房以西から四国、九州の南部を経て琉球、台湾に分布。県内では県南に稀。上勝町禅定岳にわずかに見られ、古い分布を示すものとして珍らしい。
(15) Burmannia Championii Thw. ヒナノシャクジョウ
 中国南部、マレー、マレーシア、セイロン島に分布する南方植物。上勝町平間蟹峠入口、生実公民館裏、田野々竜峠道などに自生。極めて珍稀な植物で、分布上妙らしい。


(16) Sciaphila japonica Makino ホンゴウソウ
 暖地に自生する珍稀な小形植物。上勝町竜峠道の杉の人工林内に稀にみられ、極めて珍らしい。
(17) Dactylostalix ringens Reichb. fil. イチヨウラン
 北海道、本州の外四国の深山に稀にみられるもので、竜峠の蛇紋岩地林内にわずかに遺存するが、極めて少い。
(18) Lilium japonicum Thunb. var abeanum Kitamura ジンリョウユリ
 蛇紋岩植物で、県内の蛇紋岩地に特産するササユリの生態型。上勝町竜峠の外、旭の蛇絞岩崩壊地に自生。
(19) Cacalia shikokiana Makino ヒメコウモリソウ
 土佐の工石山、紀伊の日置川上流などに稀に自生する珍稀な植物。上勝町旭丸の外、杉地谷上流の林内にみられ、極めて珍らしい。


(20) Gymnaster pygnaeus Kitam. シンジュギク
 小形の菊科植物で、時に栽植せられる。県内では、美馬町竜王山や神山町柴小屋の外、上勝町旭峠に僅かに自生。
(21) Saussurea yoshinagae Kitam. トサトウヒレン
 蛇紋岩植物で、四国に特産する。上勝町竜峠の外、信義峠の蛇紋岩地に多産。
(22) Clematis stans Sieb. et Zucc. var. austrojaponsis Ohwi ツクシクサボタン
 石灰岩植物で、那賀川筋の石灰岩地の外、上勝町禅定岳にわずかに自生。またここには、C. williamsii A. Gray シロバナハンショウズルもみられて珍らしい。
(23) Pseudostellaria heterantha Pax ツチガイソウ
 小形の珍らしい植物で、県内には高越山、剣山の外は少く、高丸山のブナ林内に僅かに自生。
(24) Lythrum salicaria Linn. エゾミソハギ
 ミツハギに似て、全体に突起状の毛があり、葉の基部はやや抱茎。県内には少く、上勝町平間の湿地に生える。また近くにはミソハギをみる。
(25) Carex ligulata Nees サツマスゲ
 暖地の海岸にまれに自生するもので、上勝町藤川の慈眼寺登山道にみられて、珍らしい。
(26) Japanobotrychium strictum Nishida ナガボノナツノハナワラビ
 ハナワラビ科の珍らしい一種で、上勝町杉地の杉林内に僅かにみられる。
(27) Monachosorum flagellare Hayata オオフジシダ
 暖地性の珍らしいシダで、殿川内の溪側岩場にわずかにみられる。また同地域には、フジシダ、ヒメサジランも自生。
(28) Athyrium deltoidofrons Makino サトメシダ
 寒地性のシダで、県内には半田町以西に多くみられ、勝浦町バラオ峠では、珍らしい分布。
(29) Cornopteris hakonensis Nakai ハコネシケチシダ
 やや珍らしい暖地深山性のシダで、上勝町杉地の杉林内にわずかに自生。
(30) Diplazium mettenianum C. Chr. var. tenuifolium Kurata ウスバミヤマノコギリシダ
 夏緑性のミヤマノコギリシダで、勝浦町狸谷の杉林内に自生。また中伊豆には、母種のミヤマノコギリシダも多い。
(31) Catalpa ovata G. Don キササゲ
 中国原産の落葉高木で、今日では県内各所の溪側にわずかに野生化する。ササゲ状の実は、利尿剤として広く民間に利用せられる。上勝町月が谷、平間の溪側によく生育。
(32) Sequoia sempervirens Endl. セカイヤメスギ(センぺル・セコイア)
 北米原産で、世界最大最古の生きた化石殖物として有名。上勝町八重地のものは、明治36年同町長楽寺九世住職矢野証道氏が日清戦役の戦捷記念樹として植えたものを、二年後に現位置に移植したもの。昭和22年台風のため頂端中折、昭和23年3月測定周2.96m、昭和49年8月4.02mで、その間周1.06m成長。
(33) Zelkova serrata Makino 鳥井ゲヤキ
 勝浦町立川には、美事なケヤキ林が成立し、そこには二つの株がその枝で融合連理して鳥井状の生態型をつくるものがみられる。誠に奇態で、その大きい株は周3.25m、他は2.38mに及び、古くから称してこれを鳥井ゲヤキといい、名勝として賞讃せられる。
(34) Ginkgo biloba Linn. form. tubifolia Muroi et Okamura ラッパイチョウ
 イチョウの中で、葉がラッパ型に巻く一型をいう。勝浦町生名の道路上にあり、周4.2mに達する巨樹で、先年の道路拡張の際にも多くの要望によって保存せられ、今日に至る。


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