阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第20号
宍喰地区住民の栄養調査

高橋俊美・手塚朋通・鈴木和彦・井内雅代・藤田正隆・中西晴美・泉本利枝子・岸上みつる・津川定枝・出口和子・手島希代子・不藤由起子・湯屋ひろみ

まえがき
 第14回阿波学会総合調査の一環として、医学班では宍喰地区の栄養調査を昭和48年8月1日より7日迄実施した。昨年脇町地区で行った調査は主として農村地区住民を対象としたものであったが、今年度は漁村地区であり、食物摂取状況には宍喰が県南地域であること以外にも、脇町とは種々な面で相違が予想された。私共は、徳島県全県下の食物摂取と栄養状態について、個人別調査により、その現状を把握することを徳島大学医学部栄養学科に課せられた課題の一つと考えており、その研究の一部としてこの調査を行ったという面もある。こゝでとくに個人別と強調した意味を簡単に説明しておく。今までに徳島県下でも、保健所その他で幾度か栄養調査は実施されてきたけれども、そのほとんどは世帯を単位とした調査であって、その世帯に属する各個人は世帯の平均に近い食物摂取をしているであろうとの仮定に立って、栄養状態の判定をしたり、身体状況との関連を考察したものである。しかし、近年のように食生活の個人化が進むと、そのような仮定は成立たぬ場合が多く又成人病、肥満等個人の健康上、栄養との関係が重要になってくると、個人別の調査結果が必要となる。
 このような意味で、脇町と同様に学童についても調査を実施したく考えたが、調査期間、調査班の人数、経費等の関係で、今回は成人男女のみを対象とした。
 食糧事情のよくなった近年、生活の機械化に伴う運動量の減少とあいまって、日本でも肥満は学童と壮年以上の健康上の大きな問題となりつゝある。以前は肥満は都市生活者に主に見られたけれども、最近はこれが地方町村へも拡大しつゝあり、徳島県もその例外ではないと思われる。食生活を含めて、生活全般の地域格差が減少しつゝある現在、宍喰地区でも栄養一般の調査に加えて、特に肥満に重点をおいて調査することも有意義と考えて以下のような調査を実施したので、その結果を報告する。
〈調査対象と調査方法〉
(1)調査対象
 徳島県海部郡宍喰町の竹ケ島地区と宍喰地区の二地区の30、40、50、60才代の男女の希望者を調査対象として調査を実施した。調査数は計89名であった。
(2)調査期間
 1973年8月3日から8月6日までの4日間。
(3) 調査項目
 a)世帯状況、b)生活状況、c)身体健康状況、d)食物摂取状況及び食習慣、e)体位・体力、f)血液性状
(4)調査方法
 a)食事調査
  食事調査日の前に、説明会を現地で開き、食習慣調査票と24時間食事メモを渡し、面接の前24時間中に摂取した食品の種類をメモし出来れば目安量を記入して世帯状況、生活身体状況、食習慣調査票とともに、当日持参するよう依頼した。面接にあたっては、食品モデル、食器見本を用いて、量を確認しながら、面接前24時間中(多くの場合前日一日)に、当人が摂取した食品を聞き出した。その際に当人の持参した食事メモを参考として、もれのないように配慮し、各自が記入した食品目安量を調査員が確認した上で、グラム数に換算した。
 栄養摂取量の算定及び栄養比率の算定は、三訂標準成分表を用いて、手集計と電子計算機 TOSBAC-3400 の2つの方法で行った。
 面接会場で直ちに手集計で、摂取栄養量を算出し、それにもとづいて、被調査者にその場で食生活と栄養の指導を行った。調査終了後コンピューターで栄養量の計算と平均、分布等の統計処理を行い、その結果を集団の事後指導に用いた。
 b)体位・体力調査
  身長はマルチン式身長計で、体重は下着のみの裸で、胸囲はプラスチック巻尺で常法により朝食前に測定した。皮脂厚(上腕部、背部、腹部)は、栄研式皮下脂肪計を用い、同一部位を3回測定し、その平均値をとった。垂直とびは、連続3回試行し、その最高値をとった。握力は、左右それぞれ2回測定し、左右の最高値の平均をとった。立位体前屈は、3回試行し、その最高値をとった。5分間走は、5m間隔で標示した道路又は、グラウンドを5分間走り、又は歩かせ、その距離を測った。
 c)血液検査
  全血比重、血清蛋白、血圧、トリグリセライド、遊離脂肪酸、コレステロールについて測定した。全血比重は硫酸銅法により、血清蛋白は屈折計により測定。トリグリセライドは、アセテルアセトン法により、遊離脂肪酸は、板谷、宇井の変法により、コレステロールは、ザックヘンリー法により定量した。
  尚採血は、朝食前空腹時に、肘静脈より行った。
〈調査結果と考察〉
(1)栄養調査
 調査対象人数が89人と少ないので、結果を性、年令別に集計するのは不適当である。そこでこれらの差を捨象できる、所要量の充足率、栄養比率を中心に解折する。
 a)栄養摂取量
  地区別・性、年令階層別の栄養摂取量を表1で示した。表1からわかるとおり各階層で S.D が非常に大きい。特にビタミン類はその傾向が強い。これは、1日間の調査であるから、階層内の個人差と、同一人の日差が相加される結果でありバラツキの大きなことがわかる。


 b)栄養所要量に対する栄養摂取量の比率
  日本人の性、年令、労作別栄養所要量を基にして、被調査者個人の身長、体重 職業でこれを補正した値を基準(100)として、これに対する摂取栄養量の充足率を示した。
○男女別にみた場合(図1―a)
 男性は、熱量、蛋白質、鉄については所要量を充しており、各々、106、155、142%の充足率となっている。上記以外の栄養素については全て所要量を充していない。一方女性については、熱量と蛋白質のみ所要量を充している。男女間に充足率の差が大きく出たのは、蛋白質、脂質、鉄である。男性よりも女性の方が高い充足となっているのは、脂質とビタミンCである。ビタミン類の充足は、女性の場合A、B1、B2、Cが各々39%、68%、66%、52%となっている。同様に男性の場合40%、76%、74%、41%となっている。男女共ビタミンAは所要量の約半分しか摂取していない。


○地区別にみた場合(図1―b)
 竹ケ島、宍喰の両地区共、100%以上の充足となっているのは、熱量、蛋白質、鉄である。脂質とカルシウムで地区差が出ており、共に竹ケ島地区で高い充足となっている。しかし、統計的に有意差は認められなかった。


○栄養素的にみた場合(図1―c,d)
 図1―c,dは地区別・性、年令階層別にみたものである。蛋白質は、30、40、50才代の両地区の男女(50才代の竹ケ島の女を除く)が、非常に高い充足率を示している。特に、宍喰地区の40才代の男女が各々、188%、193%と、所要量の2倍近い摂取状態にあることが解る。鉄の充足率については、各年代共、男女差が大きい。女性についてみると、40才代の宍喰地区の女性が137%の充足率となっている他は、全ての年代で所要量を充していない。一方男性については、40才代の竹ケ島の男性と、60才代の宍喰の男性の充足率が各々94%、73%で所要量を充していない他は、全て134から181%の高い充足となっている。

  


 c)栄養比率(図2―a,b)と食品群別摂取の特徴

  穀類カロリー比は約59%で、基準値60%とほゞ同じ値である。動蛋比は両地区共、基準の40%をはるかに上まわっている。さらに栄養比率を年令階層別にみると(図2―b)、年代をおうごとに穀類よりとるカロリー比が高くなり、逆に動物性蛋白質の摂取は年代をおうごとに低下している。特に女性においてその傾向が強い。高年令層の人達は、昔の米食中心の食習慣から長年ぬけきれない状態でいることが伺える。

  尚、食品群別に摂取状況をみると、牛乳と野菜の摂取が少く、一方、魚の生の摂取が目立った。特に、40、50才代の男性は女性の約2倍量もの魚を摂取しているのが注目された。
 

(2)体位、体力調査
 体位、体力の実測値は表2に示した。図3は、「昭和46年度国民栄養調査成績」の全国平均値を100とした場合の実測値の割合を表わしている。

 


 a)身長
  男性については、60才代の宍喰地区の男性を除いて、全年代で、全国平均値よりやゝ低い値となっている。しかし、統計的に有意差は認められなかった。一方女性においては、全国平均値より高く、50才代の女性を除く、全年代で、全国平均値との間に5%の危険率で有意差を認めた。
 b)体重
  男性は全国平均よりやゝ低く、女性はやゝ高い値となっている。60才代の女性においては、全国平均値より10数%体重が重く、全国平均値との間に5%の危険率で有意差を認めた。尚肥満との関連については、別に論ずることにする。
 c)胸囲
  全年代を通じ、男女共全国平均値なみである。但し、60才代の女性においては全国平均値との間に5%の危険率で有意差があった。60才代の女性は、身長、体重、胸囲で全て、全国平均より有意に高く、特に竹ケ島地区でその傾向が強い。
 d)握力
  男性には漁夫が多く、握力の強い事が予想されたけれども、男女共、全年代を通じて、全国平均値との間に有意差は認められなかった。
 e)立位体前屈
  男女共個人差が大きく比較検定をするには例数が少なすぎるので測定値を示すにとどめた。
 

(3)血液検査
 a)全血比重、血清蛋白質、血圧について
  表3に示される通り、男女共全年代を通じて、血清蛋白質、全血比重共に正常で、血圧も高くない。なお、30才代の女性の血清蛋白質は正常範囲内ではあるが竹ケ島地区(7.0±0.1%)、宍喰地区(7.6±0.1%)間に5%の危険率で有意差があった。又50才代の男性の最高血圧も、竹ケ島(117.3±4.5mmHg)宍喰(138.0±7.6mmHg)の二地区間に5%の危険率で有意差があった。

  「昭和42年度国民栄養調査成績」の血圧平均値と比べると、男性の場合、60才代を除き全ての年代でやゝ低い傾向にある。一方女性の場合は、30才代を除き全年代で、ほゞ全国平均値なみである。
  さらに、高血圧、低血圧者をWHOの基準に照らして選び出した。その結果、男性3名(40才代1名、60才代2名)、女性6名(40、50、60才代で各々1、2、3名)合計9名の高血圧者で、全対象89名中9名であり、約10%の出現率で、全国平均より明らかに少ない。その内わけは、竹ケ島地区3名、宍喰地区6名であった。尚低血圧者は40才代の女性に1名いた。
  このように全国平均と比べて血圧平均値が低く、血圧異常者が少ないのは、この地域の食生活習慣と関連があると考えられる。特に魚蛋白、海草の摂取の多いことと、現在には多くないが、食歴の聴取からうかがえた昔の野菜の摂取状況等は近藤氏の全国長寿者調査の結果とも一致しており、研究の余地がある。
 

 b)コレステロール、トリグリセライド、遊離脂肪酸について(図4)


  男性の場合、遊離脂肪酸が年代をおうごとに低下する傾向にあるが、年代間に有意差は認められなかった。コレステロールについて注目すべきことは、全対象者に異常値を示す人が一名も存在しなかったことである。尚40才代と50才代との間に有意差は認められなかった。トリグリセライドと遊離脂肪酸の間に30才代で正の相関があった。又コレステロール、トリグリセライド、遊離脂肪酸に地区間の有意差は認められなかった。
  一方女性の場合もコレステロールは全対象者で正常範囲にあった。トリグリセライドで50才代と60才代との間には有意差はなかった。50才代では、トリグリセライドとコレステロールとの間には正の相関が認められた。又全ての年代において、コレステロール、トリグリセライド、遊離脂肪酸に地区間の有意差は認められなかった。
  このように男女共に全対象者のコレステロールが正常範囲にあり、一名の高コレステロール血症も認めなかったことは、心臓、血管障害との関連で喜ばしいことであり、摂取栄養状態がこの面で良好であることを示すであろう。一般には、高血圧や脳出血と心臓疾患を中心とする動脈硬化とは栄養上相反する疫学的特徴をもち、日本特に農村には前者が多く、欧米諸国や都市では、後者が多い。そして日本は全体的に後者の傾向に変りつゝあることから考えて、当漁村地区はそのどちらもみられぬことは栄養的に興味がある。
 

(4)肥満傾向について
 a)ブローカー指数でみた肥満傾向
  肥満の判定には、従来から、身長別基準体重、ブローカー指数、ローレル指数 カウプ指数などいろいろな方法があるが、まずブローカー指数 {(体重/身長−100)×100} によって肥満傾向をみた。
  性、年令階層別・ブローカー指数別の百分率を図5に示した。


  男性の場合、ブローカー指数が110以上の肥満傾向にあるのは、30才代で18.2%、40才代で16.7%、50才代で11.1%、60才代で25%となっている。これを、「昭和46年度国民栄養調査成績」と比較すると、ブローカー指数110以上の肥満傾向にある男性は、30、40、50才代でいずれもほゞ10%であるのに対し、竹ケ島、宍喰地区の男性は全年代で全国平均より高い出現率となっている。さらにこのうち、ブローカー指数120以上のものは、30才代で0%(全国平均3%)、40才代で5.6%(全国平均3%)、50才代11.1%(全国平均3%)、60才代12.5%と年令をおうごとに増加していることが解る。しかし、全国平均はほゞ3%で中年以後年代差は殆んどみられない。従って宍喰平均と全国平均との間には異った傾向が認められる。
  一方女性についてみれば、ブローカー指数が110以上のものが、30才代で8.3%(全国平均23%)、40才代で44.4%(全国平均31%)、50才代22.2%(全国平均37%)であった。さらにブローカー指数120以上のものは、30才代で8.3%(全国平均9%)、40才代で11.1%(全国平均14%)、50才代で22.2%(全国平均18%)であった。
  ブローカー指数は単に身長と体重の対比であって、筋肉、骨格等が多くても、脂肪が多くても高い数値になり、真の肥満を表わすものではなく、一つの目安にすぎない。上述のように、ブローカー指数で見ると男性の方にむしろ肥満が多いかの如き結果となるが、これは後の皮脂厚の結果とあわせて考えてみると、むしろ当地区の男子は漁業従事者が多く筋骨の発達がよいために、ブローカー指数が高くなっていることに理由があると考えられる。
b)皮下脂肪厚(上腕部+背部)でみた肥満傾向
  本来、肥満とは、貯臓組織における中性脂肪(主にトリグリセライド)の過剰沈着である。そこで、体脂肪量を直接示すものとして、皮下脂肪厚をもって、長嶺らの方法(表4)により肥満を判定した。その結果を図6に示す。

  男性の場合、肥満の出現率に地区による差は認められない。40才代を除き全年代で軽度の肥満となっている。肥満は40才代で11.1%の出現率である。
  一方女性についてみれば、軽度から極度の肥満者は、圧到的に竹ケ島地区に多い。但し50才代の極度肥満者は宍喰地区で11.1%の出現となっている。又軽度+肥満+極度肥満の出現を年代別にみると、30才代で8.3%、40才代で22.2%、50才代で33.3%、60才代で38.5%と年令をおうごとに、肥満の出現率は高くなっている。さらに又、30才代、40才代では、軽度肥満に一歩手前という人が各々、41.7%、44.4%と多くいることが注目される。この人達が50、60才代で肥満に移行してゆくものと考えられる。しかし、皮脂厚にみる肥満傾向を昨年度の「腕町地区住民の栄養調査結果」と比較すると、全年代を通じ、宍喰町の肥満出現率は、脇町の1/2以下の低い出現率となっている。
 

(5)肥満(皮脂厚による判定)と 栄養摂取状態との相関について
 男性の場合、皮厚と熱量、蛋白、脂質の間にかなり高い正の相関があるが、有意ではなかった。一方女性の場合、熱量、蛋白質、脂肪、糖質で負の相関係数がえられた。このことは、宍喰町の肥満女性は、現在は痩せた女性より少食であることはあっても過食はしていないことを意味する。しかし、肥満の一般的成因から考えて、現在に至るまでは過食していたものか、又は現在は意識的に減少している可能性もあり、又カロリー消費の面で、食事量の割に運動が少いことが原因になっているのかも知れない。そこで、皮厚と栄養摂取との間に負の相関係数が出たために、非肥満者の栄養摂取状態と、肥満者の摂取状態に差があるかどうかをさらに調べた。
 その結果、30、40、50、60才代の全年代において、肥満者と非肥満者の栄養摂取状態には、5%の危険率で有意差は認められなかった。このことから、肥満の原因は主として、相対的運動不足にあることが推察される。


(6)肥満と体位及び体格指数との相関について
 男性の場合、ローレル指数、ブローカー指数にのみ5%の危険率で有意な正の相関が認められ、身長の割に体重が重いことがあっても、真の肥満はその一部にすぎないと考えられる。
 一方女性については、身長を除く上記の項目全てに5%の危険率で有意な正の相関が認められた。すなわち女性は、皮下脂肪の過剰が身長の割に体重の重い主な原因であることが判明した。


(7)肥満と体力との相関について
 男性の場合、垂直とび、5分間走に負の相関があるが有意ではなかった。
 一方女性の場合、握力、立位体前屈、垂直とび、5分間走に負の相関がある。特に、垂直とび、5分間走は肥っているものほどそれらの値が低いと推察される。尚5分間走は10%の危険率で有意であった。
 以上、肥満者は体重の移動を伴う体力検定では非肥満者に比べて体力が劣っていることがわかる。


(8)肥満と血圧、コレステロールとの相関について
 男女共、血圧、コレステロールは皮脂厚と正の相関があり、血圧、コレステロール共に当地区では正常範囲内ではあるが、肥満はそれが高いことを示している。女性においては最高、最低血圧共、危険率5%で有意性を認めた。


〈総 括〉
1)男女共、所要量を充していたのは、熱量と蛋白質のみである。脂質は所要量を充していないが、女性より男性の方が低い充足率であった。鉄については、男女差が大きく出た。全体を通じて、カルシウムとビタミン類の摂取量が所要量をかなり下回っているのは、国民栄養調査成績と同じ傾向である。竹ケ島、宍喰地区差が出たのは、脂質とカルシウムであった。穀類カロリー比は年令をおうごとに高くなり、逆に動物性蛋白質の摂取は年令をおうごとに低下していた。特に女性でその傾向が強かった。
2)男性の体位はほゞ全国平均なみかあるいは全国平均よりやゝ低めであった。女性の体位はほゞ全国平均なみかあるいはやゝ高めであった。特に60才代の女性では身長、体重、胸囲で全て全国平均より有意に高く、特に、竹ケ島地区でその傾向が強かった。
3)体力では男女共全国平均との間に有意差はなかった。特に男性には漁夫が多く握力の強いことが予想されたけれども全国平均値との間に有意差を認めなかった。
4)血液性状は非常によく、特にコレステロールにおいては、対象者89名全員が正常値を示した。血圧については、高血圧者の出現率が約10%で全国平均より明らかに少ない。血圧異常者が少ないのは、この地域の食生活習慣とくに魚蛋白と海草の摂取の多いことと、昔の野菜の摂取状態が良かったという食歴の聴取結果と関連があると考えられる。
5)皮下脂肪厚より肥満を判定した場合、男性については、40才代を除き全年代で軽度の肥満となっていた。女性においては、年令をおうごとに肥満の出現率が増加している。特に竹ケ島地区に肥満が多い。又30、40才代では肥満一歩手前の人が目立つ。
6)ブローカー指数で肥満をみた場合、男性の方にむしろ肥満が多いかの如き結果となったが、皮脂厚からみた結果と考え合せると、むしろ当地区の男性は、漁業従事者が多く、筋骨の発達がよいためにブローカー指数が高くなっていることに理由があると考えられる。
7)皮下脂肪厚と栄養摂取状態との相関は、男性の場合正の相関があり、女性は負の相関がみられた。但し、女性において、栄養摂取状態に肥満と非肥満者との間に有意な差は認めなかった。このことから、肥満の原因は主として相対的運動不足にあることが推察される。
8)皮下脂肪厚と体格との相関から、男性の場合、身長の割に体重が重いことがあっても、真の肥満はその一部にすぎないと考えられ、他方女性の場合は、皮下脂肪の過剰が身長の割合に体重の重い主な原因であることが判明した。
9)皮下脂肪厚と体力との間には負の相関がみられた。尚肥満者は体重の移動を伴う体力検査では非肥満者に比べて体力が劣っていた。
10)皮下脂肪厚と血圧、コレステロールとの間には正の相関がみられた。特に女性の皮下脂肪厚と血圧には有意な相関を認めた。又、血圧、コレステロール共に当地区では正常範囲ではあるが、肥満者はそれらの値が高いことが判った。

参考文献
1)科学技術庁資源調査会 三訂日本食品成分表
2)厚生省公衆衛生局 日本人の栄養所要量(昭和44年改定)
3)文部省体育局 体力・運動能力調査報告書(昭和46年度)
4)厚生省公衆衛生局 国民栄養の現状(昭和46年度)
5)厚生省公衆衛生局 肥満指導の手びき
6)長嶺晋吉 日本医師会雑誌(第68巻)
7)長嶺晋吉 民族衛生(第32巻第6号)
8)佐藤登志郎 栄養数理統計学
9)厚生省公衆衛生局 国民栄養の現状(昭和42年度)
10)M. J. Fletcher, clin. chim. actd, 22, 393(1968)
11)Itaya, K and Ui, M. J. Lipid Res, 6:16, 1965


徳島県立図書館