阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第20号
竹ケ島西側海域における海中生物

徳島生物学会 近藤康男・服部義則

1 竹ケ島西側海域の地理的条件
 竹ケ島は海部郡宍喰町に属し、町の中心より南東2kmに浮かぶ陸島である。陸地とは100mの橋で結ばれ、58戸、248人が住む。島の中央部の高さは98m、その地点は北緯33°32′22″93、東経134°19′24″06にあたる。
 東西約250〜700m、南北約1150m、周囲約4kmの竹ケ島は、西側に海をはさんで高知県東洋町甲浦が1.5kmに接し、その中間海域の沖合に浮かぶ葛島(くずしま・東西500m、南北150m)との間には、内海的湾海域を形成している(第1図)


 この海域の汀潮線は、干出岩礁や浅瀬が多く、100〜150m沖付近までは水深0〜5mで、深い所でも10m未満である。四季を通じ波はおだやかで透明度高くまた海水のかん度も高い。
 水温は第2図に示す通り、昭和39年〜47年の10m層平均海水温は、最低が3月の15.8℃、最高は9月の26.4℃年間平均海水温は20.6℃で県内海域では最高値を示している。したがって、この海域には熱帯及び亜熱帯の海域に生息するサンゴ類を主とする腔腸動物や熱帯魚がみられる。


2 調査のねらい
 この海域は、漁業面からみると、造礁サンゴの群生によって主要魚類の生息は少なく、漁場生産力的価値は少ない。昭和43年7〜8月、観光開発としての海中公園予備調査が実施され、竹ケ島周辺海域の生物分布の概要が把握された。その結果、昭和47年10月16日付で、海中公園の指定をうけた。その海域は、第3図に示すように、1号海域5.3ha,2号海域4.6ha,計9.9haとなっている。


 しかし、この予備調査の場合、調査海域が広く、潜水調査も概要把握の立場から行われ、それ以降の指定海域における詳細な実態は調査されていない。今回は指定海域を中心に、造礁サンゴの種類・群落・規模および魚類・藻類などの分布状況を明らかにし、自然保護を基底とした観光開発に資することを目的とした。
3 調査方法
 (1)調査メンバー 調査対象物が海中生物であるに加え、海中公園指定海域であるので、調査は原則として水中での観察記録によらなけれはならないし、魚類・海藻類・サンゴ類等の総合調査をねらったので、その道の専門家である方々の全面的なご協力とご指導をいただいた。特に対岸和歌山県沿岸の海中生物の生態研究を専門とする京都大学瀬戸臨海実験所布施博士の同行を得たことは、日本各県沿岸との比較検討ができる意義をも加え、非常に強力なメンバーをそろえることができた。調査にあたったメンバーは次の通りである。
・徳島生物学会  高島律三  近藤康男  服部義則
・徳島水産試験場  殿谷次郎  中久喜昭  小島 博  中村和夫  沖津佐喜男
・徳島アクァメイツ・クラブ  岩田唯男  浜西 悟
・地元協力者  大黒 勲  栗林 克  戎田賢一
・京都大学  布施慎一郎
(2)現地調査期間 昭和48年8月1日から3日までの3日間
(3)調査船 県水試調査船「ちどり」2.14t・20sp ほか漁船二隻
(4)調査の方法 海中公園指定海域なので、捕獲・採取をできるだけさけ、スキューバ潜水具を着用した5名の調査員(中久・小島・岩田・浜西・布施)を主とした水中観察測定記録を行った。記録は、観察板にメモするほか、カラー写真・16mmカラー映画の水中撮影をも実施した。
 造礁サンゴ類および藻類の調査は、汀潮線から沖合に向って100mのメートルロープを敷設し、それに沿って潜水観察した。サンゴ類の生育密度については、1平方メートルの枠門調査をも実施した。調査線の敷設箇所は第4図の通りである。


4 調査結果と考察
(1)海藻分布と海底地形
 第4図調査線1 4 6 7 8 9 10 の7本の100mロープ敷設上の分布と地形を観察測量した。予想されたように、種類も少なく、夏枯れで単調な植相を示していた。紙面の都合上、具体的観察例は調査線1 4 7 9 にとどめる。他の調査線も、ほぼ同様の様相を呈していた。
 調査線1  基点付近の水深は約0.7mで、海底地形は東西に走る岩礁となっている。


 基点から10mの地点では、水深は1.5m〜2mとやゝ深まり、海底は岩礁地に転石が見られる。これより沖合では漸次深くなり、基点より100m地点の水深4.5mまでは、なだらかな傾斜が続いている。海底地形は岩礁地帯から転石・砂質地に移り、再び35m地点から岩礁となり、75m地点まで続く。75m〜85m地点は砂質地に転石がみられるが、これより沖合100m地点までは砂質地である。
 海藻分布をみると、基点から10m地点までは、ウスバウミウチワ・ヤツマタモク・コブクロモク(以上褐藻類)や、マクサ・カニノテ・ヤハズシコロ(以上紅藻類)の着生密度も高い。10mより沖合の着生度は次第に低下し、サンゴ類も観察されない。25m〜65m地点の転石・岩礁部では、ウミウチワ・コブクロモクの褐藻類や、マクサ・ヒラクサにまじり時折トサカノリ(紅藻類)も観察された。
 調査線1 の水域で、着生密度の高かったのはコブクロモクで、全域に亘って観察されたが、カニノテ・ヤハズツコロ・トサカノリは少なかった。
 調査線4 
 基点付近の水深は2.5m、基点より25m地点でも2mの深さである。これより沖合では漸次深くなり、100m地点で3.5mとなっている。
 海低地形は第6図に示す通り、基点から30m地点までは岩礁地に転石が点在し、時折砂質地が観察される。調査線50m〜60m地点は、砂質地に転石が点在、これより沖合100m地点までは、低い岩礁がゆるやかに連なっている。


 この水域の海藻分布は、基点から30m地点までの転石上に、ウスバウミウチワやマクサの着生がみられるが密度は低い。50m〜60m地点の転石上にはコブクロモク・ウスバウミウチワ(褐)、ナガミル(緑)、マクサ・ヒラクサ(紅)の着生がみられるが、やはり密度は低い。
 調査線7 
 基点付近の水深は3mで、基点より35m地点では6mに達するが、45m地点はやゝ浅く、水深は4.5mである。基点より50m地点では再び6mの水深となり、100m地点までゆるやかに傾斜し、7mの水深に至る。
 海底地形は、基点付近が岩礁地で、8m〜35m地点までが転石に時折岩礁がみられる。基点より35m〜50m地点の間は岩礁地、これより沖合100m地点までは、岩礁地に転石が点在する地形となっている。
 調査線上の基点より5m〜35m地点の転石上には、ノコギリモク・コブクロモク・シワヤハズ・ウスバウミウチワ(褐)やマクサ(紅)が混生し、時折ナガミル(緑)ホソバノトサカモドキ(紅)が観察された。基点より35m〜50mの岩礁部ではアンロク(褐)が、50mから沖合100m地点まではノコギリモク(褐)のみが観察された。


 調査線9 
 基点付近の水深は3m、漸深的傾斜は基点から25m地点まで続き、25m地点の水深は4mである。25m〜40mの間は第8図の如く急深的で、40m地点の水深は7mに達する。これより沖合は漸深的で、80m地点で水深9m、100m地点まで漸浅的で水深は8mとなっている。


 海底地形は、基点より40m地点までが岩礁地となっているが、15m地点には転石がみられる。40m地点以上の沖合の海底は、100m地点に至るまで礫および砂礫地に転石が点在する地形である。
 海藻分布は、コブクロモク・ノコギリモク・ウスバウミウチワ(褐)、マクサ・トサカノリ(紅)のほか、ナガミル(緑)も観察された。全般に着生量が少なく、70m〜100m地点にかけては、ウスバウミウチワ(褐)が群落を形成していた。
 以上竹ケ島西側水域の海藻分布を4調査線について詳述した。これを総括すると次の通りである。
1)海藻の種類は、緑藻類2種、褐藻類6種、紅藻類6種の計14種類で、各調査線上の分布密度は第1表の通りである。


2)褐藻類6種中、群落を形成するものはウスバウミウチワ・ノコギリモクで、竹ケ島西側湾口部で観察された。また、シワヤハズ・アンロクが湾口部に限定されて分布していた。
3)紅藻類6種中、寒天原藻のマクサは、密度は低いながらも全域で観察されたが、カニノテ・ヤハズシコロ・トサカノリ・ホソハノトサカモドキは、局所的にわずかばかり観察されたのにすぎない。
4)緑藻類2種のうち、1m〜1.5mに伸びたナガミルは局所的に少数が観察され、また、ヒナイワズタも湾内東側の砂質地に、単葉を砂上に表わす程度で、その分布範囲は狭いようであった。
 今回の調査で、新しく発見されたヒナイワツダが特記されるが、全体的には種類が甚だ少なく密度も小さく、外海に臨む裏曾根的性格の強い内湾海域の特徴を確認したに過ぎない。
(2)魚類の分布とその特徴
 この海域に生息回遊する魚類は、食用としての価値は低く且つ小形で、熱帯および亜熱帯種の魚もかなりの数にのぼることは、いままでの調査からも指摘されていたことである。今回の水中観察および調査線9 と10 の間に敷設した刺し網による捕獲結果から確認された種類は、つぎの目録に示す24科45種であった。この目録に記載した以外に、観察調査結果から種の不明なものや、幼魚のため同定のできないものが数種あったが、目録からは除外した。目録には参考のため、分布域をも記載した。番号前の※印は観察数の多いことを示す。
竹ケ島海中公園内の魚類目録
 1 ゴンズイ Plotosus anguillaris (BLOCH) ゴンズイ科
   本州中部以南、朝鮮南岸、南洋諸島、インド洋、紅海
 2 種名不明    ヨウジウオ科
 3 ボラ Mugil cephalus LINNAEUS ボラ科
   世界各地の温帯部・熱帯部
※4 コスジイシモチ Apogon shlegeli BLEEKER テンジクダイ科
   南日本、沖繩諸島、中国、フィリッピン、東印度諸島、紅海
 5 クロホシイシモチ Apogon semilineatus T. et S. テンジクダイ科
   南日本、フィリッピン、カラチ
 6 オオスジイシモチ Apogon doederleini JORDAN et SNYDER テンジクダイ科
   南日本、台湾、フィリッピン
 7 クエ Epinephelus moara T. et S. スズキ科
   南日本、台湾、中国
 8 種名不明     スズキ科
※9 キンギョハナダイ Franzia squampinnis PETERS スズキ科
   南日本、フィリッピンからアフリカ東岸まで
 10 コロダイ Plectorhynchus pictus THUNBERG イサギ科
   南日本、シナ海、東南アジア、インド洋
 11 Lutjanus SP. フエダイ科
 12 種名不明    フエダイ科
※13 メジナ Girella punctata GRAY メジナ科
   北海道以南、朝鮮、中国、フィリッピン
 14 オキナヒメジ Pseudupeneus spilurus BLEEKER ヒメジ科
   千葉県以南、ポリネシア、オーストラリア
 15 タカノハ Goniistius zonatus C. et V. タカノハダイ科
   本州中部以南、沖繩、台湾、東シナ海
※16 クマノミ Amphiprion bicinctus RUPDELL スズメダイ科
   伊豆下田以南、紅海、アフリカ、オーストラリア
※17 スズメダイ Chromis natatus T. et S. スズメダイ科
   千葉・新潟以南、朝鮮、シナ海
※18 ソラスズメダイ Pomacentrus coelestis JORDAN et STARKS スズメダイ科
   千葉・新潟以南、南朝鮮、宮古島
 19 マツバスズメ Pomacentrus fumeus TANAKA スズメダイ科
   駿河湾、和歌山、高知、長崎
 20 セダカスズメダイ Pomacentrus marginatus スズメダイ科
   和歌山以南、沖繩、ハワイ
※21 オヤビッチャ Abdefduf vaigieinsis Quoy et GAIMARD スズメダイ科
   茨城以南、朝鮮、アフリカ、オーストラリア、ポリネシア、ガラパゴス
※22 ルリスズメダイ Abdefduf assimilis GUNTHER スズメダイ科
   和歌山以南、東インド、メラネシア
 23 オハグロベラ Duymaeria f1agellifera C. et V. ベラ科
   千葉・新潟以南、朝鮮、ニューギニア、ポリネシア、アフリカ
※24 ササノハベラ Pseudolabrus japonicus HOUTTYN ベラ科
   茨城・新潟以南、沖繩、朝鮮
 25 ホンソメワケベラ Labroides dimidiatus C. et V. ベラ科
   千葉以南、紅海、アフリカ、オーストラリア、ポリネシア、ハワイ
※26 カミナリベラ Stethojulis kalosoma BLEEKER ベラ科
   千葉・島根以南、朝鮮、紅海、アフリカ、オーストラリア、ポリネシア
 27 ニジベラ Stethojulis phekadopleura BLEEKER ベラ科
   相模難・島根以南、朝鮮、南シナ海
 28 キューセン Halichoeres poecilopterus T. et S. ベラ科
   北海道以南、朝鮮、南シナ海
 29 ホンベラ Halichoeres tenuispinis GUNTHER べラ科
   東京・新潟以南、朝鮮、シナ海、フィリッピン
※30 ニシキベラ Thalassoma cupido T. et S. ベラ科
   茨城・新潟以南、朝鮮、東インド諸島
 31 ヤマブキベラ Thalassoma lutescens SOLANDER ベラ科
   相模灘以南、東インド諸島、オーストラリア、ポリネシア、ハワイ
※32 イトヒキベラ Cirrhilabrus temminckii BLEEKER ベラ科
   相模灘以南、フィリッピン
※33 ブダイ Leptoscarus japonicus C. et V. ブダイ科
   南日本、朝鮮、東インド諸島、ハワイ
※34 チョオチョオウオ Chaetodon collare BLOCH チョオチョオウオ科
   千葉以南、朝鮮、紅海、アフリカ、マダガスカル、ミクロネシア
 35 キンチャクダイ Holacnthus septentrionalis T. et S. チョオチョオウオ科
   東京・新潟以南、朝鮮、東インド諸島
 36 カゴカキダイ Microcanthus strigatus C. et V. カゴカキダイ科
   茨城・新潟以南、朝鮮、シナ海、オーストラリア、ハワイ
※37 ニザダイ Prionurus microlepidotus LACEPEPE ニザダイ科
   千葉・新潟以南、朝鮮、オーストラリア
 38 種名不明    トラギス科
 39 種名不明    イソギンボ科
 40 Scorpaena sp. カサゴ科
 41 Onigocia sp. コチ科
※42 ウマズラハギ Novadon modestus GUNTHER カワハギ科
   北海道・新潟以南、朝鮮、アフリカ
 43 ハコフグ Ostracion tuberculatus LINNAEUS ハコフグ科
   北海道以南、朝鮮、紅海、了フリカ、オーストラリア ポリネシア、ハワイ
 44 キタマクラ Canthigaster rivulatus T. et S. キタマクラ科
   茨城以南、小笠原、沖繩、朝鮮、ハワイ
 45 ヒガンフグ Fugu pardalis T. et S. フグ科
   ウラジオストック、室蘭、沖繩、シナ海
 以上の観察魚類を総覧すると、千葉から沖繩にかけての沿岸域にすむ熱帯性起源の魚種で、それが温帯海域に定着し、分化した種類が多いといえよう。また、観察魚類中、特に美しい形態あるいは興味ある生態を示すものとして、つぎのような魚類があげられよう。
1)キンギョハナダイ
 シコロサンゴの上や周辺に、数匹から十数匹の群をなして遊泳している。ルリスズメなどと共泳し、雌雄に形態的な差があり、特に雄が美しい。
2)ルリスズメダイ・ソラスズメダイ
 ミドリイシ類の周辺などに群遊し、スズメダイ科やチョオチョオウオ科の若魚などと共に観察される。カラフルで色彩的にも美しい。
3)イトヒキベラ・ニシキベラ
 イトヒキベラは、水深のやゝ深いところを群遊する。ニシキベラは、岩礁やサンゴ類の間を泳ぎまわり、ともにその色彩が美しい。
4)ホンソメワケベラ
 他の魚の体表に付着する寄生虫をついばむ。今回の観察では、クロホシイシモチに対する Cleaning motion が観察された。
5)クマノミ
 サンゴイソギンチャクと共生関係にある。観察されたサンゴイソギンチャクのすべてにクマノミがみられた。
(3)石サンゴ類の種類とその分布
 石サンゴ類は、年間平均海水温が18℃以下では生育できないといわれている。竹ケ島付近の海域水温は、前述したように最高26.4℃・最低15.8℃・平均20.6℃で、温度条件はサンゴの生息に充分である。しかし、サンゴの餌その他の条件との関係で、種類は多いとはいえないし、また角サンゴ類 Antipatharia も見られなかった。石サンゴ類は、一口にいえば、イソギンチャクに似たポリープと共肉をもちそれから石灰質を分秘して強固な骨格をつくり、海底に着生する大きな動物群である。種の同定をする場合、生時の状態では肉をこうむり、多彩な色を呈し、美麗ではあるが区別はつけ難い。すなわち、表面の肉質部をとり除いた石灰質骨格は、生時におけるポリーブの特性を反映しているので、同定は骨格の構造によらなければならない。そのため、石サンゴ類 Scleractinia の種を調べるために潜水採取した標本は、和歌山県の財団法人海中公園センターで同定していただいた。この結果は、つぎの表に示すとおり、l9属26種である。
   竹ケ島海中公園海域の石サンゴ類目録
1 カワラサンゴ Podabacia elegans (Van et Horst)
2 キクカサンゴ Evhinophyllia aspera (Ellis et Solander)
3 ハマサンゴ Porites tenuis Verrill
4 チヂミノウサンゴ Coeloria rustica (Dana)
5 ナガレサンゴ Leptoria phrygia (Ellis et Solander)
6 ウミバラ Pectinia lactuca (Pallas)
7 ハシラスリバチサンゴ Turbinaria Peltata (Esper)
8 タバネサンゴ Caulastrea tumida Matthai
9 キクメイシ Favia speciosa (Dana)
10 トゲキクメイシ Cyphastrea microphthalma (Lamarck)
11 ムカシサンゴ Sfylocoeniella armata (Ehrenberg)
12 オオトゲサンゴ Acanthastrea hemprichi (Ehrenberg)
13 オオトゲキクメイシ A. echinata (Dana)
14 カノコキクメイシ Favites abdi ta (Ellis et Solander)
15 ハナガタサンゴ Lobophyllia robusta Yabe et Sugiyama
16 シコロサンゴ Pavona decussata Dana
17 イボサンゴ Hydonophora exesa (Pallas)
18 コカメノコキクメイシ Goniastrea pectinata (Ehrenberg)
19 ルリサンゴ Leptastrea purpurea (Dana)
20 エンタクミドリイシ Acropora tumida (Verrill)
21 ハイミドリイシ A. surculosa (Dana)
22 エダミドリイシ A. squarrosa (Hemprick et Ehrenberg)
23 ホソエダミドリイシ A. prostrata (Dana)
24 クダバナミドリイシ A. syringodes (Brock)
25 カラマツミドリイシ A. spicifera (Dana)
26 種名不明 A. SP.

  


 この調査海域の石サンゴ類の種類数は、すでに報告されている紀州沿岸の33属59種、和歌山県田辺湾の24属52種、同県串本町錆浦の25種40種、宇和海・喟南海域の30属58種 大分県蒲江湾の24属49種、宮崎県島野浦島の16属25種、同県青島の25属35種、天草沿岸の25属45種などの記録とくらべると、すくないほうである。このことは海象条件を別にすれば、竹ケ島の調査海域が他にくらべて狭いことと、とくに内湾に局限されているためである。しかし、石サンゴ類の分布について、約600m×300mの範囲を、調査方法にのべたような精度の高い方法で調べたことは、石サンゴの分布様式を知るうえで重要なてがかりを得ることができた。この調査結果から、竹ケ島西側海域における石サンゴ類の水平分布を第9図のようにつくることができた。

 種の組成は、写真と分布図からわかるように、エダミドリイシ Acropora squarrosa (H. et E) が湾奥の浅所に多く、とくに岩礁上だけではなく、砂底上に破損して散在した死群体の上にも、新しく枝状に群体が生育し、その分布密度を高めている。このエダミドリイシは、竹ケ島漁港の防波堤の外側では、死群体をともないながら生育しており、最湾奥における分布の様式を示している。ビシャゴ岩の北方および東方竹ケ島との間には、イシサンゴ類は多いが、エダミドリイシは少数しか見られない。葛島西端より北方へのばした線より西側では、死群体をごくまれに見出すことができるだけで、イシサンゴ類はほとんど生育していない。
 和歌山県錆浦では、クシハダミドリイシ Acropora pectinata (Brook)が被度からして量的に主要素となっているのに対し、田辺湾ではクシハダミドリイシをほとんど見出せず、また甲浦以南室戸岬にいたる海岸で、イシサンゴ類が生育する所にはクシハダミドリイシをよく見出すことができるのに対し、この海域ではエダミドリイシが量的な主要素となっており、クシハダミドリイシを見つけることができなかった。このことは、竹ケ島西側の入江が内湾のイシサンゴ類による種構成の特徴をよくあらわしていることがわかる。
 現在、日本沿岸の内湾は、埋立てや汚染によって消滅あるいは自然破壊がすすむなかで、この海域の内湾性イシサンゴ類の生育地は非常に貴重な存在である。和歌山県田辺湾のように、土産物用としてイシサンゴ類の採捕がすすみ、これを止めるには生業権の補償の必要さえ生ずるような事態のなかで、竹ケ島西側の海域が海中公園に指定され、この海域が永久に保護される状態にあることは、自然保護の立場からして非常に価値あることである。
 (4)その他の観察動物
 以上海藻・魚類・サンゴ類についての調査結果を記述した。しかし、今回は、海域の総合観察を実施したので、これ以外の動物で造礁サンゴや海底の砂上あるいは岩上に生息する動物類の観察名をも記載することにした。※印のついたものは、その観察数が多かったことを意味する。なお○印のついたものは、海中公園指定外の外海と接するやゝ潮流の速い海域に見られたものである。また、種名の明らかでないものは除外した。
I 海綿動物
1 尋常海綿綱
 ※厶ラサキカイメン
 ※クロイソカイメン
  ザラカイメン
  ナミイソカイメン
 ※ダイダイイソカイメン
II 腔腸動物
1 花虫綱
 ○ センナリスナギンチャク
 ○ キイロスナギンチャク
 ○ スナイソギンチャク
 ※サンゴイソギンチャク
 ※タテジマイソギンチャク
  ウスアカイソギンチャク
  ウミキノコ
  エビノウトサカ
 ○ キバナトサカ
 ○※オオトゲトサカ
 ○※イソバナ
 ○ トゲナシヤナギ
 ○※オオフトヤギ
 ○ ウミエラ
 ○ オオイソバナ
 2 鉢虫綱
  イラモ
  アカクラゲ
  ミズクラゲ
 3 ヒドロ虫綱
  ハネウミヒドラ
 ○ オオギウミヒドフ
   シロガヤ
 ○ ウミヒノキ
III 環形動物
 1 多毛綱
  ※ケヤリ厶シ
   ヒトエカンザシ
  ※イバラカンザシ
IV 軟体動物
   アメフラシ
   ニシキウミウシ
V 触手動物
 1 ホウキムシ綱
 ※ホウキムシ
 2 コケムシ綱
  チゴケムシ
VI 棘皮動物
 1 ウミユリ綱
 ○※ニッポンウミシダ
 ○ ハナウミシダ
 ○ オオウミシダ
 2 ヒトデ綱
 ※アカヒトデ
  オオアカヒトデ
  モミジガイ
  イトマキヒトデ
 3 クモヒトデ綱
  ニホンクモヒトデ
 4 ウニ綱
 ※厶ラサキウニ
 ※ガンガゼ
 ○ イイジマフクロウニ
   ナガウニ
   タコノマクラ
   ラッパウニ
   シラヒゲウニ
   オカメブンブク
 5 ナマコ綱
   マナマコ
   トラフナマコ
VII 原索動物
 1 尾索綱
   マボヤ
5 おわりに
 以上、海中生物調査の結果について、その大要を記述した。海中に生息する生物を、しかもできるだけ採取せずに調査し考察することは、至難なことである。しかし、はじめに述べたように、今回の調査は県内におけるこの方面の専門の方々の全面的な協力、さらに、京都大学布施博士の卒先的海中観察ならびに調査考察によってこの報告書ができた次第である。すなわち、竹ケ島海域の海洋的見地からは水試の殿谷次郎次長、海藻類の調査考察は中久喜昭技師、魚類は小島博技師に、そしてサンゴ類については京大布施慎一郎博士および小島技師、サンゴ類以外の海洋動物については、NHKの岩田唯男氏らの調査観察資料をもととした。なお、岩田氏撮映による100枚以上のサンゴ類を始めとする海洋動物のカラースライドと16mmカラー映画は、視聴覚資料としてこの報告書以外に作成されている。
この報告書ならびにスライドや映画が、この海域の自然保護や今後の学問的研究資料に利用されることを念じてやまない。


徳島県立図書館