阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第20号
宍喰町の昆虫

博物班 吉田正隆(徳島農林事務所)

 昭和48年度阿波学会総合学術調査の調査員として宍喰町における昆虫相を調査する機会を得たのでその結果を報告する。
 はじめに、当地域の昆虫については、さきに行なわれた徳島県博物同好会の調査による「第3回調査報告1965年★県南地方調査報告書」において平井・河野・木内の報告がすでになされているとこるである。いまさら浅学な筆者が再びその全容について述べるまでもなく、また昆虫全般にわたって調査することも報告することについても至難の業である。
 今回の報告については、筆者が特に興味をもっている甲虫(鞘翅目)Coleoptera を主体とした。
  ヒゲブトオサムシ科 Paussidae
○ Eustra japonica Bates エグリゴミムシ
 本種は、本州南西半と四国・九州に棲息し西南日本には広く分布するものと思われる。四国内においては低山地に比較的普通に見られる種であり、本科に属するものは各種とも南方系のものと考えられている。宍喰町内においても鈴が峯や奥地の広葉樹林が残っている地域の落葉下や石下から相当数得られた。
  オサムシ科 Carabidae
○ Epaphiopsis sp. チビゴミムシの一種
 本属に属するチビゴミムシについては四国内において2種が知られており徳島県では剣山から東西祖谷にかけて2種とも棲息することが確認され、先年本調査の行なわれた徳島市の中津峯(標高650m)からも採集したことがあるが、その他の地域からは知られていない。此の度の調査では塩深で8頭を得ることができた。筆者は先年の採集例から本種は600m程度の山地にも棲息することを確認しているが此の度標高わずか60mのところで採集されたことは新知見である。現在知られている2種とは多少とも差異があるようなので専門の先生に同定依頼中である。
○ Archicolliuris bimaculata Redtenbacher フタモンクビナガゴミムシ
 lex. 4 - VIII - 1973 久保
 本種はかつて徳島市鮎喰川や勝浦川の付近に点灯された灯火に飛来したものが確認されているがあまり多くはない。今回のものは、宍喰中学校の灯火に飛来したものを同校の藤川君により採集されたものである。
○ Desera geniculata Andrewes オオアオホソゴミムシ
 1ex. 3 - VIII - 1973 甲の浦大橋
 体長12mm程度脚の黄色と体面の鮮緑色が相まって非常に美しい種である。本種の分布は本州・九州とされているが先年高知県から採集されたと聞く。四国からの発表については今回がはじめてと思う。夜間灯火に飛来したものを採集したものである。本種も南方系要素をもったゴミムシと察せられる。
  コガネムシ科  Scarabaeidae
○ Rhyparus azumai Nakane セスジカクマグソコガネ
 1ex. 2 - VIII - 1973 久保
 宍喰町久保の宍喰中学校2階の灯火に飛来したものを採集した。本種は本州以南に分布し、九州の屋久島まで分布するとされているが、徳島県内における分布資料としては珍らしいと思われる。
○ Anomala albopilosa albopilosa Hope アオドウガネ
 1ex. 2 - VIII - 1973 竹が島
○ Anomala viridana viridana Kolbe ヤマトアオドウガネ
 4exx. 2 - VIII - 1973 竹が島
 このアオドウガネは2種とも南方系のものとされておりヤマトアオドウガネは緑色の光沢が強く美しい中型のコガネムシである。
  コメツキムシ科  Elateridae
 本科はついては特記すべきこともないようであるが筆者の採集した6種について幸いにも愛知教育大学の大平仁夫先生により同定していただくことができたので報告する。
○ Agrypnus (Agrypnus) binodulus binodulus (Motschulsky 1860) サビキコリ
 1ex. 2 - VIII - 1973 大谷
○ Pseudelater carbunculus (Lewis 1879)
 1ex. 6 - V - 1973 佐喜浜(高知県)
○ Melanotus (Spheniscosomus) cete Candeze 1860 アカアシオオクシコメツキ
 1ex. 5 - V - 1973 鈴が峯 ヒメクロコメツキ
○ Melanotus (Kensakulus) erythropygus Candeze 1873 コガタクシコメツキ
 1ex. 5 - V - 1973 鈴が峯
○ Quasimus (Quasimus) japoicus Kishii 1959 ニホンマメコメツキ
 1ex. 4 - VIII - 1973 塩深
 本種と同種と思われるものを1頭8月4日に藤谷でまた9月24日に1頭中谷で採集。
○ Quasimus sp. マメコメツキの一種
 1ex. 4 - VIII - 1973 藤谷
 大平先生からの私信によれば新種かもしれないとのことである。
  ナガシンクイムシ科 Bostrychidae
○ Heterobastrychus hamatipennis Lesne オオナガシンクイ
 1ex. 4 - VIII - 1973 宍喰橋
本種も南方系種で本州から東南アジアまで広く分布するが本県における記録は珍らしいと思われる。
  テントウダマシ科 Endomychidae
○ Ectomychus musculus Gorham クロモンケブカテントウダマシ
 1ex. 2 - VIII - 1973 大谷
○ Ectomychus basalis Gorham カタベニケブカテントウダマシ
 2exx. 2 - VIII - 1973 石
 2exx. 24 - VIII - l973 中谷
 本科2種とも比較的珍らしい種であり、特に後者は、以前筆者が高越山(麻植郡山川町)と三好郡西祖谷山村白井谷で各1頭を得た程度であるが、此の度の調査では8月と9月ともに枯木についた菌類に付着していたものを2頭ずつ同条件下で得ることができた。
  ゴミムシダマシ科 Tenebrionidae
○ Leiochrinus satzumae Lewis テントウゴミムシダマシ
 1ex. 2 - VIII - 1973 大谷
剣山や東祖谷から得られた記録があるが比較的稀種である。
  カミキリムシ科 Cerambycidae
○ Eurypoda batesi Gahan ベーツヒラタカミキリ
 2exx. 2〜3 - VIII - 1973 竹が島
 本種は南方系のカミキリムシの一種とされている。本州西南部・四国・九州からら西南支那に至るまで広く分布しているが日本本土からは時として採集される程度で珍らしい種であるが近年その採集例はよく聞くようになった。本県では昭和34年に眉山(徳島市)山頂の水銀灯に飛来したものを確認した以外採集例を知らない。当時も眉山に棲息するかどうか非常に興味深く話題になったが徳島市内には棲息するとは考えられない。しかし本県では浅川(海部郡)で採集されたとのことを同好者から聞いていたのでその棲息確認を今回の調査目的の一題としていたところである。幸いにも竹が島内の水銀灯に飛来したものが採集に同行した富島・木内各先生により発見されたのでその周辺に棲息するものと思われる結果を得た。
 以上、今回の調査で特筆に値するもの数種について述べたが他に Panelus pavullus Waterhouse マメダルマコガネや otibazo sp. オチバゾウムシの一種が鈴が峯山頂近くの落葉下から非常に多く採集できた。ともに2〜3mmの小さな甲虫であるが特異な型をした珍らしい種である。
 おわりに、海岸線の整備による海岸性昆虫棲息地の減少や自然林を伐採し植林化したため昆虫の棲息地は極減してしまっているが、いまだに残っている人工のないわずかな地域には、いろいろな種が見られ今回の調査では甲虫類だけでも数百種類も確認された。そのうえに本州以南に広く分布するが本県では未だに棲息の認められなかった Nannophya pygmae Rambur ハツチヨウトンボの棲息が確認され平井先生の手により採集されており、また久尾から奥地ではムカシトンボの幼虫も採集されるなどまだまだ分布上・分類学上貴重な昆虫が多く見られるとともに従来から云われている四国における昆虫相というももは北方系と南方系の要素をもった両系統のものが採集される地域であるとされているが、宍喰町(特に海岸地帯)においては南方系(東洋区系)要素をもった昆虫が多く見られ県南の特色を生かしているように思えた。
 今回の調査ならびに報告にあたり、宍喰中学校の木内和美教諭・同学生藤川孝喜君・愛知教育大学大平仁夫先生に大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。


徳島県立図書館