阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第20号
宍喰町の植物相

博物同好会班 阿部近一

はじめに
 徳島県の延々百数十kmに及ぶ海岸線の植物分布というか、植生を概観すると、蒲生田岬を境として、大きく二つに分けることができる。
 蒲生田岬以北では 紀伊水道の懐の中にあって、吉野川や那賀川から吐出す土砂の影響を受け、鳴門市の里浦から徳島市の津田に至る海岸や小松島市の和田島から阿南市の北の脇に至る海岸にみるように、沙浜海岸が多い。
 これに反し蒲生田岬以南では、外洋に面し、絶えず黒潮に洗われるため、由岐町一帯から日和佐町の千羽海崖、さらには牟岐町の水落から古牟岐を経て、宍喰町水床湾の七不思議にみられるように、断崖が海に迫る岩山海岸の多いのが、その特徴といえる。
 気候的にみても、県南が亜熱帯植物の分布限界線といわれるC16°の等温線に、すっぽり包まれているのに対し、県北では、わずかにそれがかすめる程度で、雨量なども、県北が年間1,500〜2,000mmに達するか、達しないのに対し、県南では、2,500〜3,000mmに及び、真に高温多湿の地帯といえる。
 こうした環境条件は、その植物分布や植生に大きな影響を及ぼし、県北の海岸線が、暖地植物や砂浜海岸に適した植物の多いのに対し、県南では、更に熱帯や亜熱帯植物を多く加え、海岸植物でも、岩壁性植物の多いのが、その特徴といえる。
 宍喰町は本県の最南端にあり、県南を代表して多くの暖亜熱帯植物を分布し、本県の植物を知るためには、どうしても見逃すことのできない重要な地域となっている。先年県博物同好会では、宍喰町を含む海南、海部三町の自然総合学術調査を行い、昭和40年12月その報告書を公にしている。したがってこの報告書では、それらとの重複を避けたいが、また反面宍喰町のまとまった記録として、一部その重複も止むを得ない。また冷谷を始め石一帯など、道路事情の悪い所では、脚を入れ得なかった所もあり、まだまだ総まとめとしては不備な点もないではない。
1.宍喰町の植生概要
1  貧弱な砂浜海岸植物
 宍喰町の砂浜海岸は極めて局所的で、やや砂浜らしい砂浜というのは、宍喰川から吐出す土砂によってつくられた、現在防潮堤のつくられている湾内松原沿いの細長い砂浜である。かっては、この一帯にハマヒルガオ、ハマエンドウ、ナミキソウ ツルナ、ハマゴウなど、若干砂浜性の植物群落もみられたが、今日では防潮堤の築造によって、その姿は全く見るべくもない。
 那佐にはゴロゴロ石による岩礫海岸が見られるが、こうした地域では、イワダイゲキなど、特異な塩性植物がみられて珍らしい。また防潮堤を隔ててその内側にある湿地では、夏季ハマボウが黄色い花を咲かして人目を誘い、ダンチクが其処彼処に叢生して葉音を鳴らせ、その穂波に南国情緒をあおったのも、次第に過去の思出となりつつある。
 さらに正梶一帯など、宍喰川の吐出口にある沼沢地帯では、アシやシオクグなどが一面に群生し、かつては一部にシバナの生育もみられたが、港の整備や埋立てによって既にその姿を消している。また沿海の池辺では、ヒトモトススキ(一名シシキリ)の族生もみられる。
2  特徴的なウバメガシ樹林


 那佐半島の南面や水床湾の島々、竹が島などの海岸では、いずれも荒波の浸蝕を受けた断崖が海に迫っている。こうした海辺の岩上や岩壁では、ハマヒサカキ、ウバメガシ、マルバシャリンバイトベラ、カンコノキ、タイミンタチバナなどの小灌木がよく点生する外、シオギク、アゼトウナ、ハマボッス、ハマナデシコ、ツワブキ、キキョウラン、オニヤブソテツ、ヒトツバ、タマシダなどの草本が群生し、所謂磯浜海岸の植物群落を展開することが少くない。
 またその後方岩上などでは、クロマツが風致に富んだ姿を現わし、ウバメガシが群生して地面を蔽う姿もよくみられる。ウバメガシは、元来好塩性の植物ではなく県内でも至る所、内陸の露岩地や河岸の岩壁に生育し、木沢村などでは、大繁茂することも少くない。唯耐乾性が強く、貧栄養にもよく耐えるので、他の植物が生育し難い所でも、好んでよく生育する傾向がある。
 一般に海岸地帯は、風波によって絶えず表土が洗われ、特に県南では、強い太陽に照らされて乾燥度も高い。即ち県南のウバメガシ林は、それ自身の特性と海岸の特殊な環境が結びついて形成せられた、特異な樹林ということができる。そしてそれは、県南というより、四国の太平洋岸における特徴的な樹林の一つともなっている。尚このウバメガシ林は、至る所純林状を呈するとともに、トベラ、ヒメユヅリハ、カクレミノ、タイミンタチバナ、ヤマモモ、ヤブツバキなどと混成した樹林を形成することも少くない。また那佐の岩礫海岸では、かつてウバメガシによる、巾30mに至る自然防潮林をみたが、防潮堤の築造によって、今日ではその姿が見られなくなった。
3  内陸に発達するシイ林
 宍喰町といわず、県南では、古い姿の樹林即ち原生林を、どこにも見ることができぬ。それだけこの地帯は、古くから開発と資源の利用がなされてきたということにもなる。


 県南のシイ、カシを中心とした照葉樹は、家具建築資材は勿論、薪炭材としても極めて効率の高い燃料資源で、県南は那佐湾を積出港として、阪神市場の重要な供給地であった様でもある。したがって、この地方のこりき林業は有名で、薪炭材として、その伐採の回転率を高めるため、択伐という特殊な経営方式がとられた。しかし戦後の燃料態勢の変革は、その林業経営にも大きな変革を来し、スギ、ヒノキなどの植林へと、その転換が迫られるに至った。
 では、そうした林地の古い姿は、果して如何なるものであったろうか。今やその古い林相は知るべくもないが、ただ町内社寺の古い社叢に、その片鱗をうかがうことができる。と同時に、祖先の絶えざる努力によって、今日まで護り伝えられた尊い自然の遺産に、深い感銘を感ぜざるを得ない。
◎ 八坂〜八幡神社の群落組成


 高木層 スダジイ、コバンモチ、タブノキ、ツゲモチ
 亜高木層 タブノキ、スダジイ、ヤマビワ、ヤマモモ、サカキ、タイミンタチバナ
 低木層 サカキ、オンツツジ、ハゼノキ、タイミンタチバナ、ミサオノキ、スダジイ、ヤブツバキ、ジュズネノキ
 草本層 ヒトツバ、ベニシダ、ササクサ、コシダ、キッコウハグマ
◎ 竹が島八幡社叢の組成
 高木層 スダジイ、コバンモチ、タブノキ、ヤマモモ
 亜高木層 コバンモチ、スダジイ、ヤブツバキ、タイミンタチバナ、サカキ、ハゼノキ
 低木層 カクレミノ、タブノキ、ヤマモモ、スダジイ、タイミンタチバナ、ヤブツバキ、コバンモチ、モッコク、クチナシ、ヤブニッケイ、センリョウ、ヒサカキ、シラタマカズラ、ハマクサギ
 草本層 ベニシダ、タイミンタチバナ、シラタマカズラ、センリョウ、ヤマモモ、スダジイ、ヤブツバキ、コバンモチ、ネズミモチ、モッコク、ヒサカキ、ヒメユズリハ、ヒメハシゴシダ、ササクサ、ムベ
 こうした資料から考えると、内陸の丘陵台地や低山では、その多くがシイ林でおおわれていたようである。さらにその内容を細かく検討すると、その上層部が、シイを優占種とするタブノキ、クスノキ、コバンモチ、ヤマモガシ、ヤマモモなどで中層がカゴノキ、タイミンタチバナ、カクレミノ、ミミズバイ、クロバイ、カンザブロウノキ、ヤブツバキ、サカキ、ヤマビワ、イスノキ、マツラニッケイなどでまた下層がルリミノキ、アリドウシ、センリョウ、イズセンリョウ、クチナシ、シャシャンポ、ヒサカキなどの常緑照葉樹で、広く蔽われていたものと考えられる。しかし今日では、その多くがアカマツ林に代り、さらにスギ、ヒノキなどの人工林に置き代えられて、山の自然にも、時代の推移がそのままうかがわれる。
4  溪側に残るカシ林


 宍喰町は、大きく分けると、猪の峠を境として、宍喰川と牛が石馬が石以北の野根川との二つの流域に分けることができる。この地域は、高温多湿の気候的特徴をそのまま反映する地帯で、その多くは、宅地や田畑の耕地と化する外、スギなどの植林に置き代えられる所が少くない。したがって自然域の見るべきものは全くなく、わずかに溪側の一部に、アラカシ、ウラジロガシ、ツクバネガシなどのカシ林が成立するに過ぎない。今塩深におけるその組成をみると、
 高木層 アラカシ、ヤマビワ、スギ、アカメガシワ、タブ
 亜高木層 ホソバタブ、ヤブニッケイ、ウラジロガシ、ヤブツバキ、タラヨウ
 低木層 タブ、イヌビワ、リンボク、ナンテン、ヤブツバキ、イボタノキ、イズセンリョウ、ムラサキシキブ、ミミズバイ
 草本層 コバノカナワラビ、イワヒトデ、ハナミョウガ、ツルコウジ、クリハラン、ミヤマノコギリシダ、ビナンカズラ、マメヅタ、シロダモ
 以上の通りで、その残存林や二次林も、極めて貧弱なものとなっている。しかしこの地帯が、シイ林やアカマツ林の発達する乾性地と異り、湿潤な地帯であるだけに、気息奄奄とはいいながらも、クサマルハチ、シマシロヤマシダ、オオカグマ、アミシダ、スジヒトツバ、タキミシダ、キクシノブ、ヒロハアツイタ、カツモウイノデ、ナチシダなど、南方系の多くのシダ類が温存せられ、宍喰町の珍稀な植物の自然的宝庫ともなっている。
5  暖温帯から冷温帯への推移帯


 宍喰川上流の大谷や野根川上流の東谷、石方面では、暖地性の常緑広葉樹に加えるに、冷温帯の落葉広葉樹の混生が目立つ。ことに西が峯や貧田丸では、その高度を増すにつれて、次第にその数や種類が多くなっている。しかしこの地域が南方に位することや、山の高度が低いことから、暖温帯種(暖地植物)に加えるに冷温帯種がわずかに混交する、所謂推移帯の域を脱することはない。
 したがって奧地では、一般に暖地性樹種に加えるに、シラキ、アブラチャン、クロモジ、イロハカエデ、オオモミジ、ウリカエデ、イタヤカエデ ヤマグルマ、ホンシャクナゲ、ホウノキ、クマシデ、アカシデ、イヌシデ、アズサ、ケヤマハンノキ、ウリノキ、ツリバナ、マユミなどを交えた樹林が各所にみられる。しかしまた山腹の露岩地や溪側の岩壁では、ヒノキやツガの外、県内でも分布の稀なアスナロが自生するなど、わずかに冷温帯の針葉樹林もみられる。
6  低湿地の遺留植物
 宍喰川の流域や那佐などの低平野部では、開田以来の昔、そこがどんな状態で、どんな植物がみられたであろうか。今日では、その状況を詳にする何物もないが、しかしこの地帯が、広い低湿原であったことは想像に難くない。またそれは、海部川流域の、海部町の野江や吉田、或は海南町の多良や四方原などとも、関連性をもつ低湿原地帯であったかも知れぬ、と考えることは、現在の小流や水田に生育する植物が、それを如実に物語っている。
 こうした湿原でも、水をたたえた水辺では、マコモやガマを始め、ナガエミクリカンガレイ、ミズガヤツリ、イヌホタルイ、ホタルイ、タコノアシ、オモダカなどの挺水植物が至る所に群生し、そこには、スズメウリやゴキズルなどの蔓植物が、一面にからみついていたようである。また低平な湿地では、ヒメミソハギ、ミズネコノオ、ミズワラビ、クロホシクサ、ニッポンイヌノヒゲ、ミミカキグサ、ヒメキカシグサなど、多くの小草本が、季節により、地域によって、そこを埋めていたことであろう。


 これらは、いづれも開田前に広く生育したものの中、その多くが絶滅したなかにあって、幸田圃の隅や、或は耕作の間をくぐって、今日まで生き伸びた幸運児というか、たくましい生命力によるものである。
 こうした水田遺留植物の中には、県内でも極めて分布の少いものや、また本町だけしか生育しない珍稀なものも少くない。しかしこれらも、次第に埋立が進み、日毎に宅地化せられる現状では、余命いくばくもないことを想像すると、誠に惜しい。
2.宍喰町の特記すべき植物
1  南方系植物の多産
 竹が島入囗の人家には、ハマユウが大繁茂している。ハマユウは、琉球から九州南部、四国の室戸岬を経て紀州南部、さらには伊豆に至る一帯に自生する。ハマユウ線(Crinum Line)として、亜熱帯植物の分布限界を示す指標植物とせられるのは、このためである。したがって、ハマユウがこのように大繁茂していることは、本町が如何に亜熱帯植物の生育に好適しているかを、表徴するものといえる。戦後本町がパイナップルの栽培に成功したのも、こうした恵まれた地理的、気候的条件によるもので、県南でも、特に熱、亜熱帯植物の多いのは、本町の一特色といえる。
Mitrastemon yamamotoi Makino. ヤッコソウ


 ヤッコソウは、シイの根に寄生する1年生の無葉緑植物で、明治44年牧野博士によって命名せられたものである。熱帯植物で、世界には現在4種が知られ、本県はその北限に当っている。なかでも鈴が峯は、その頂上一帯に毎年多数発生し、現在県の天然記念物に指定せられ、日本でも屈指の豊産地として高く評価せられている。
Firmiana Simplex W. F. Wight. アオギリ
 アオギリは、庭園や街路樹として知られ、琉球、台湾から中国、印支に分布し、日本では、下田海岸に自生するものが、天然記念物に指定せられている。自生は極めて少なく、本県では那佐半島の峯筋に群生し、ヤマビワ、コバンモチ、ヤマモモ タイミンタチバナ、サカキ、ヤブツバキなどとともに、美事な樹林をつくっている。
Paliurus ramosissimus Poir. ハマナツメ
 南方系植物で、起源が古く、化石などとしてもよく発見せられる。自生は少く、本県では、那佐海岸の防潮堤内側にわずかに余命をつなぎ、その保護が望まれる。
hex goshiensis Hayata ツゲモチ
 ツゲモチは、モチの一種で、本町八幡神社の森と阿南市の海山八幡に確認せられて稀。
Fcus wighiana Wall. アコウ
 竹が島に自生し、宍喰港附近のものは、消滅。
Helicia cochinchinensis Lour. ヤマモガシ
 妙見神社の森の外各地。
Elaeocarpus japonicus Sieb. et zucc. コバンモチ
 鈴が峯、八坂神社の森の外各地。
Psychotoria serpens Linn. シラタマガズラ
 気根を出し樹木や岩上にまつわる蔓植物。竹が島に多く、県内では稀。
Dysophylla verticillata Benth. ミズネコノオ
 宍喰町水田、県下唯一産地。
Wedelia chinensis Merr. クマノギク
 昭和17年北村博士は本町のものを報告。那佐の外牟岐町古牟岐にもわずかに自生。
Senecio scandens Buch - Ham. タイキンギク
 竹が島の外阿南市蒲生田以南に分布、稀。
Lysimachia sikokiana Miq. モロコシソウ
 那佐半島の外牟岐町に稀産。


Habenaria dentata Schltr. ダイサギソウ
 宍喰町と牟岐町に稀産。
Burmannia championii Thw. ヒナノシャクジョウ
 東谷並大谷の林内、上勝町以南に稀。
Burmannia cryptopetala Makino. シロシャクジョウ
 宍喰町と海南町に稀産。
Randia cochinchinensis Merrill. ミサオノキ
 八幡神社の森、阿南市以南稀。
Psilotus nudum Griseb. マツバラン
 僧都谷、鈴が峯。
Pteris oshimensis Hieron. ハチジョウシダモドキ
 竹が島。
Humata repens Diels. キクシノブ
 馳谷、県内では牟岐町のみ。
Nephrolepis auriculata Trimen. タマシダ
 竹が島海岸、外各地。
Cyathea hancockii Copel. クサマルハチ
 出久保谷、県下唯一産地。
Ctenitis subglandulosa Ching. カツモウイノデ
 塩深、県下唯一産地。
Thelypteris cystopteroides Ching. ヒメハシゴシダ
 竹が島、那佐半島、鈴が峯登り囗。
Thelypteris anglariloba Ching. チュウレイハシゴシダ
 日比宇谷、県下唯一産地。
Pictyocline griffithii Moore. アミシダ
 中谷、藤が谷、日比宇谷、冷谷。
Diplazium doederleinii Makino. シマシロヤマシダ
 地の内谷、外県内では海南町のみ。
Woodwardia japonica Smith. オオカグマ
 中谷、県内唯一産地。


Cheiropleuria bicuspis Pr. スジヒトツバ
 落合、杭瀬、出久保谷、外。
Autrophyllum obovatum Bak. タキミシダ
 藤谷、出久保谷、県内稀。
2  宍喰町ゆかりの植物
Heterotropa aspera F. Maekawa. var. sisicuy F. Maekawa. シシクイカンアオイ
 シシクイカンアオイは、昭和46年6月前川文夫博士によって、がくの内面の横うねが極端に少いことから、ミヤコアオイの変種として命名せられた。しかしミヤコアオイの南限種か、トサノアオイからミヤコアオイヘの進化の途中相をあらわすものかは、今後に問題が残されている。宍喰町広岡川筋のほか、海部町櫛川にもこれに類似するものが産する。
Aster ageratoides Turcz. subsp. yoshinaganus Kitamura シコクシロギク


 昭和12年北村博士は、吉永虎馬氏が本町久尾で採集したものに対して、以上のように新らしく命名発表せられた。今日では、那賀川の上流筋や石立山などにも、その産地が知られている。
Chrysanthemum awaensis Kitamura アワギク
 昭和39年北村博士は、宍喰町の海岸や日和佐町大浜の標本をもとに、シオギクとコギクか何かの雑種として命名せられた。その後四国の各地でも、これに似たものが発見せられ、C. morifolium X C. shiwogiku であることが報告せられている。
Halophila euphlebia Makino オオウミヒルモ
 大正元年(1912)牧野博士によって、宍喰町水床湾の標本をもとに、以上のように新しい植物として報告せられた。しかし今日では、宍喰町の生育の有無は明らかでなく、阿南市椿泊湾や鳴門市日出海岸などで新産地が知られている。また学名も H. ovalis Hook. fil. のシノニムとして取扱われている。
Oheronia makinoi Masamune オオバヨウラクラン
 昭和29年(1954)本田正次博士は、本町鈴が峯産のものを O. japonica form. rubriflora Honda ベニバナヨウラクランとして発表せられた。しかし今日では、種として上記のように改められている。県内唯一の産地。
Lecanorchis trachycaula Ohwi. アワムヨウラン
 昭和40年大井次三郎博士によって、本町産の標本をもとに上記のように命名されたもので、極めて稀。また、L, Kiusiana Tuyama ウスギムヨウランも本町鈴が峯で始めて発見せられ、ともに四国では珍らしい種類とせられている。
3  その他の珍稀な植物
Gastrodia nipponica Toyama. ハルザキヤツシロラン
 鈴が峯、阿南市以南の林内に稀。
Ruhus croceacanthus L■veill■. オオバライチゴ
 東谷、藤谷、県内本町のみ。
Carpesium hosokawae Kitamura. バンジンガンクビソウ
 大谷、久尾林内、県内稀。
Campanumoea maximowiczii Honda ツルギキョウ
 塩深、久尾、県内海南町、相生町稀。
Ophiorrhiza japonica Blume. サツマイナモリ
 冷谷外、県内では海南町。
Rhododendron tosaense Makino. フジツツジ
 池が谷、冷谷、藤谷、塩深外、県内稀。
Carex nachiana Ohwi. キシュウナキリスゲ
 宍喰町宍喰山麓、県内本町のみ。
Triglochin maritimum Linn. シバナ
 北海道海岸など北地性。本町のものは、太平洋岸の南限に当っていたが、港の改修によって絶滅。
  以上


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