阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第19号
脇町の読書調査について

読書調査班 猪井達雄

<はしがき>
 みんなに本を(Books for All)”の標語が世界中にさけばれている国際図書年の1972年、読書に関する世論調査を西阿の文化の中心地である脇町で実施いたしましたことは、まことに意義深いものがあろうかと存じます。
 蜂須賀公入国とともに阿波九城の一である脇城がおかれ筆頭家老の稲田氏を城代として兵500(一説には300)を配し、一国一城になってからも脇町猪尻には稲田役所が設けられ爾来西阿の文化の中心地であったことはみなさんもよくご存じのところであります。
 現在、図書館では稲田家御家中筋目帳、その重臣の三宅民助という人が書かれました貴重な日記なども蔵しておりますし、各旧家におかれましても、文化遺産としての古文書なども脇町は、たくさん蔵している方で、これらも本年度中に調査をすすめることになっており、みなさまがたのご協力をお願いする次第であります。
 図書館としましては、できれば脇町全体(4,600世帯、人口1万9,000余)の方々と本調査を通じて、対話をいたしたかったわけでありますが、今回は中学校に在学中のご家庭のみを対象として、全体調査でなく、一部調査にいたしました。したがって、この結果も中学校に在学中のご家庭の方がたのご意見の集計でありまして、たとえば老人1人のご家庭とか、すでに高校や大学に進学をされているご家庭、新婚間もないご家庭などがはいっていないということをご了承のうえみていただきたいと思います。
 約1,030世帯という、世帯も、中学に2人以上在学しております家庭は厳密にいうとさしひかなければならないのですが、そのままにしておきました。
 しかし、大体の傾向を知るための世論調査でありますので、あしからずご了承願いたいと思います。
 本年は、日本ではじめて図書館白書(日本図書館協会)が出されました。それによりますと、1,000人当たり蔵書冊数につきましても、経済大国といわれる日本が、デンマーク、チェコスロバキア、イギリス、アメリカ、西ドイツなどより、はるかに低く、デンマーク3,390冊に対し261冊というわけで、非常に低く、県立図書館市町村立図書館、児童図書館、移動図書館、学校大学図書館、盲人図書館などいろいろな実態と問題点があげられ、残念ながら、経済成長の度合いとは、にてもにつかない貧弱さであります。
 現在、地方自治体は総合開発計画のプランとして、図書館建設を!!という組み込みがありますが、まだまだ小町村には、公民館図書室さえもないところもあります。本調査のご意見の中にも、郡や町単位で図書館を建ててもらいたい。あまりにも県立図書館とはかけはなれているという声もでております。どうか国際図書年のこの調査が有意義でありますよう結果をみてまいりたいと思っております。本調査の結果を集計中、日中国交が回復し、田中総理に毛沢東から楚辞集注という図書が贈呈されたことが伝えられ、まさに、国際図書年にふさわしいニュースではなかろうかと喜んでおります。総理も大いに読書をしたいと語ったそうであります。脇町でも読書の振興に力をいれられておりますが、今後一層のご発展をお願し調査項目順に結果をご報告いたします。
<調査表の回収および回収率>
 調査区は、西から江原、脇町、岩倉の順に1、2、3と設定いたしました。
 いわゆる江原中学校区と東分校区が1、脇町中学校区と大谷分校区が2、岩倉中学校区と川原柴分校区が3、というわけで歴史的にも地理的にもこういった分け方が良いと思いまして、このようにしたわけであります。
 テンニースが、1887年に共同社会(ゲマインシャフト)と利益社会(ゲゼルシャフト)という説を出されていますが、この回収率を見てみますと、77.9%とたいへんよい率で脇町は共同社会的であるということがいえます。
なかでも1と3の江原、岩倉は80%以上で2の脇町区とくらべて共同意識が強く、それに反し脇町区は利益社会的要素が強いのではないかと思われます。過去3か年にわたっていたしました調査にもテンニースの法則が適用でき、おもしろい現象なのでご紹介いたしますとともに調査回収にご協力いただきました各位に厚くこの席上より御礼申しあげます。

 


<調査結果の概要>
1.地域の就学状況
 脇町は西阿における教育文化の中心地でもあり、脇高の歴史は今も西阿の人々にかたりつがれでおります。この調査は調査世帯の読書についてを調査する背景としてのもので、これで教育が高いとか低いとか即断できませんが、高校以上の進学が高いということがわかります。つぎに百分比のみを掲げます。
 ◇就学状況百分比


2.情報(知識)を得る手段
 社会学の書物をあけると会話の時代というのがあり古代アテネの社会では、会話によって政治が行なわれ、いわゆる対話がはなやかなりし時代のことが書かれています。
 マクルーハンは、この対話からはじまって社会は、手書きの文字の時代になり、つぎに活字の時代になり、つぎに電信の時代にはいると、われわれに情報の伝達方法を四つに区分して教えてくれているのであります。
 対話の不足による家庭の不和、めんどうがって手紙を書かずにすます青年、本を読まない、テレビばかりみている……といったことは、ちまたでよく聞かされますが、情報をいちばんうまく使えた人は、徳川家康の重臣 本多作左衛門で、陣中から妻に送った「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬肥やせ」の書簡だそうで、いつまでも若くありたい人は、文章を書き、本を読めと、ある医学者は教えております。少し余談になりましたが、こういった意味合いから情報社会のみなさんが、どんなに情報知識を得られているかというのが本問の答えであります。
 そこで活字媒体と電気媒体を五つの区分にし、1、2、3の順にチェックしてもらいました。
 テレビ 50.2%
 新聞 45.6%
 書籍 1.8%
 雑誌 1.6%
 ラジオ 0.8%
 計 100.0%
というのが1位にランクされたものであります。
 第1位、第2位、第3位にランクされたものを合計しますと、
 テレビ 37.5%
 新聞 34.0%
 雑誌 11.7%
 ラジオ 12.6%
 書籍 4.2%
 計 100.0%
の順になり、活字媒体と電気媒体は、だいたいフィフティ.フィフティの割り合いになります。いかにテレビが発達しても、それを活字によってたしかめたい意欲は人々にあり、この調査からもわかります。
3.県立図書館の利用状況
 県立図書館は利用者のみなさんのために「図書館ニュース」というのを出し、参考閲覧室と貸出閲覧室とを昨年から新しくもうけ、ほとんど図書を開架にして本を手にとって見えるようにいたしました。そのほか「利用案内」「やまなみ」という印刷物、ラジオ、テレビによるPR、巡回図書館車による県下各配本所への配本、読書会、読書振興大会、パレードなどいろいろインフォーメーションに努めておりますが、なかなか思うようにはまいりません。
 この調査質問は、みなさんと県立図書館とのかかわり合いをみたわけでありますが、22.7%の人々が利用経験があり、77.3%の人々が利用したことがないと出ております。
 図書の借用 8.1%
 巡回図書の利用 6.1%
 閲覧 2.8%
 参考奉仕 1.3%(電話0.9、文書0.4)
 読書グループ 1.3%
 読書会 0.7%
 その他 2.4%
 計 22.7%
となっております。


4.文化調度品の所有状況
 「衣食たって礼節を知る」のたとえのごとく戦後、エンゲル係数が統計によくつかわれましたが、本調査では、文化調度品17品目をあげて、所有しているものを答えてもらうことにしました。
 冷蔵庫 97.1%
 自分の家 90.1%
と90%をこえ
 テレビ 81.9%
 ラジオ 81.5%
と80%をこえ
 電話 65.5%
 乗用車 50.1%
とたいへん文化度は高く、図書と関係する
 本立 75.0%
 本箱 69.5%
 書架 28.0%
 書籍保管庫 7.4%
なども充実しております。
 総理府が昭和42年にカラーテレビに関する世論調査をしましたが、
カラーテレビ47.9%は42年当時の東京都の12%の4倍にもあたるもので、文化度の成長と当町の文化水準の高さを示す一指標にもなろうかと思われます。
その際の表は5年以前のもので、参考までにかかげ、本調査と比べてみたいと思います。

 この状況からも高度な成長のあとがみられ、文化町村にふさわしく、図書もかなりキチンと整理されているのでないかと想像されます。
5.文化調度品購入の意向
 これにつきましても第4問にかかげた17品目をあげたのでありますが、803人の中から558人の方が記入され、ほしいものの順にならべますと、
 カラーテレビ 91人
 ステレオ 80
 乗用車 70
 自分の家 66
 ルームクーラー 61
 電話 48
 別荘 40
 ピアノ 30
 書籍保管庫 20
 書架 17
の順になっており、以下それぞれほしいものを記されています。
6.最近の読書の状況
 最近3か月間に何を読んだかという調査ですが、
 週刊紙 26.9%
 雑誌 26.8%
 書籍 18.0%
 読んでいない 28.3%
という結果が出ています。手軽な週刊紙がよく読まれたり、固定的に送ってこられる雑誌が読まれたりするのは、あたりまえのことのようですが、書籍も18.0%の人に読まれていることは、ほめるべきものではないが、本が手に入るような環境にないということが起因しているということができないかと思われます。
 書名、誌名の中には、宗教に関するもの、農林業、養蚕業に関するものも記入されており、その範囲は多岐にわたっておりますが、恍惚の人、日本列島改造論、新平家物語といったもの、主婦の友、家の光、文芸春秋といったものもみられ、マスコミの関係が大きく支配しているように考えられます。
7.読書の動機
 読書をするのにはどんな動機があるかを調べましたが、
  書店・売店でみて 23.3%
  新聞・書評をみて 17.2%
  新聞広告をみて 15.8%
  テレビをみて 7.0%
  雑誌広告をみて 6.5%
  人にすすめられて 5.9%
  図書館・公民館から 4.4%
  カタログをみて 3.9%
  寄贈されて 3.3%
  ラジオを聞いて 1.7%
  ポスターをみて 1.2%
  映画をみて 0.5%
  ダイレクトメール 0.4%
  その他 8.9%
という状況で、本を手に取ってたしかめてからというのが一番多いようで、残念ながら図書館・公民館でというのは第7位になっております。
8.本を読む目的
 6の項目の中で、農林業に関する本を読まれたことをあげましたが、職業上の必要から本を読むという人が一番多く、ついで教養、娯楽、趣味、こどものためというようになっており、健全な読書目的を示しているように思われます。
  1 職業上必要から 20.7%
  2 教養のため 19.1%
  3 娯楽のため 17.5%
  4 趣味のため 16.5%
  5 こどものため 12.1%
  6 なんとなく 11.5%
  7 その他 2.6%
   計 100.0%
 読売新聞の調査では、男の人は仕事のため、女の人は日常生活のためというのが1位をランクしております。
9.本の入手先
 あなたは読みたい本をどこから買いますかというのに対して、自分で買うというのが58.4%、ついで友人から借りる12.1%、家にある7.3%、職場の文庫から5.3%、図書館・公民館から借りるというのが2.3%、移動図書館車からが1.1%ということになっており、やはり身近というか手軽といおうか、読みたいという本があれば金を出して買うというのが本町でもおよそ60%をしめており、図書館は遠いし公民館には本はそう多くは求められないし、買ってしまえというのが実状ではないでしょうか。ちなみに図書館で買う本の単位は1冊約2,000円ですが、県民経済の向上から1,000円程度のものであれば自分で求めるという傾向が強いと受けとれます。
10 蔵書と年間購入図書

 家庭の蔵書と年間購入図書を記入してもらいましたが、柱状度数分布図にしますと上記図のようになりL字型分布を示し、読売新聞の調査では蔵書は平均50冊ぐらいになっていますところをみますと、まあまあというところでしょう。
 図書館白書にも示すように日本は世界の中でも低いが、各家庭においても低いことがいえます。
 この図表が逆L字型になるかせめて単峰型にでもならないかぎり、まだまだというところでしょう。
11.希望の購入図書
 希望購入図書の意向を聞いてみましたが、
  文学関係 13.4%
  歴史地理関係 11.5%
  政治経済関係 10.3%
で、15項目のうち10%をこすものは上記三つであり、その他は、各分野に数字が散らばっています。図書館の図書冊数の統計に分類別冊数をいくらあげても、さほど意味がないといわれたことをある講師から聞きましたが、いろいろな面の本を読みたいという意向がうかがえます。
12.読書グループ加入状況
 加入2.1%ということで、非常にさみしい数字で14人がチェックしたにとどまっています。
 町関係者、みなさんに今後のご努力をお願いしたいところであります。
13.感想希望意見の要約
 この欄には114件(14.2%)のご意見ご要望が記入されていました。
「巡回車をふやせ」
「郡にも図書館を建てよ」
「町に図書館を建てよ」
ということから
「図書館で親切にされたこと、図書購入についての希望」「テレビをみて子供が読書をしない」「主婦は多忙で読書時間がない」「意見を書くにしてもあまりにも脇町は県立図書館から離れすぎている」といったものなどがありました。
貴重なご意見、ご要望として今後に生かしたいと思っております。
<むすび>
 この調査を集計して考えられることは、“みんなに本を”という標語が、あまりにもわれわれに遠いところに置かれているということがわかりました。
 西阿の文化町をほこる脇町における本結果の集計として、各位の努力にもかかわらず決してほこれる世論の結果ではなかったということであります。
 県立図書館も大いに反省する良い資料となりましたし、また脇町にとってもよい資料になろうかと思います。
 過去3か年間、木頭村、美郷村、西祖谷山村と県南、県中央部、県西部の三か村の山村の調査をしましたが、それと比較しても脇町はテンニースのいわれる利益社会には近づきつつあるが、共同社会的な要素をもち、文化調度品の面では他の三村よりもめぐまれているものの、読書傾向としては大差はないということであります。なぜならば、それは余りにも図書館と遠すぎるからだといみじくも住民の方々が本調査の中でのべられている通りではなかろうかと思われます。
 どうか脇町に図書館建設が促進され、そして“みんなに本を”という標語が町民自身のものとなるよう祈念して本年度の脇町における本調査の結果報告を終わらせていただきたいと思います。


読書に関する世論調査表
(昭和47年8月1日現在)
  徳島県立図書館
調査区番号(  )調査区名(  )世帯番号(  )世帯主氏名(  )男女別(男・女)○印を入れる 年令(満  才)職業(  )なるべく具体的に
家業(  )世帯員数 男(  )名.女(  )名.計(  )名

〈お願い〉県立図書館では,読書に関する世論調査を行なっています。この調査は、いろんな面から読書について調査し、その結果は、今後の図書館運営や公民館の読書活動の改善などに役立てるもので、個々の調査表記入事項については秘密を守り、統計上以外の目的に使用いたしませんので、どうか趣旨をご理解のうえ、つぎの問いにお答えを記入してください。(世帯主がご不在の場合は世帯員の方が、また家族ご相談のうえ、記入くださっても結構です。)

 

問1 問2 問3 問4 問5 問6 問7 問8 問9 問10 問11 問12 問13


徳島県立図書館