阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第19号
地域社会と青年 −青年から見た郷土の生活環境と職業生活−

教育社会学班 池田秀男・村上弘子

I.研究の意図
 現代の地域社会の変化は、一口でいうと工業開発をテコとする農村的社会の「都市化」の進展であるといえよう。この進展の過程で農業と工業とが競合関係に立たされたが、両者の間における技術水準や組織化の程度や生産性の差異は種々の格差をもたらした。その結果として工業の発達した大都市圏は農村地域の特に若年労働力を吸引し、一方で大都市圏における人口の「過密化」と他方で農村地域にかける「過疎化」という地域問題を生み出した。ところが最近この傾向は速度を鈍化したばかりでなく、ーたん流出した青年が自己の出身地およびその周辺地域に還流するいわゆるUターン現象も見られるようになった。
 脇町およびその周辺地域は農業を主体とする独特の気風をもつ伝統的な在来型の町であるが、この町でもここ数年の間に種々の変化をうけている。この変化は1960年代の日本の経済社会に生じた変化と結びついており、最近ようやく僅かではあるが人口の安定化ないし増大の傾向が見られるようになった。
 この調査研究は、こうした今日の地域社会の変化を前提として、本県の中西部に位置する脇町地域に在住する青年の意識と行動を現在の時点で明らかにしようとしたものてある。青年は地域の未来を決定する原動力である。これは言うまでもない自明のことである。しかしその青年は、よきにつけ悪しきにつけ、社会変化の波をもろに受ける。これは、青年が社会的に境界人的存在であると同時に、心理的に最も敏感な感受性をもつ存在だからであろう。
 県内の比較的安定した平和で、かつ緑と光と水に恵まれた脇町地域の青年は今、何を考え、何を望み、何を求めて行動しようとしているのか。また青年の心に映った脇町とはどんなところであり、どんな将来性をもち、どうしたらよいところか。さらに、彼らは毎日どんな生活を送っているのか。
 これらの諸問題の解明は、地域青年のあり方および将来の地域開発のあり方を考える上で多くの示唆を与えるであろう。この調査研究は、このような意図のもとに、脇町地域という特定地域における青年をケースとしてとりあげ、郷土の生活環境と職業生活と自己観察という3つの次元から地域社会の青年に接近しようとするものである。
II.調査の対象と方法
 まずこの調査対象地域として脇町を選んだのは、この調査がもともと昭和47年度の阿波学会による「脇町及びその周辺」の総合学術調査の一環として計画されたことによる。したがってこの調査報告書も、そうした同地域の総合学術調査報告書の一部として書かれており、調査対象地域としての脇町の諸特性についての説明は本稿では省略することにした。
 この調査対象はこの脇町に現在在住し、かつ現在脇町で職業に従事している勤労青年に限定した。これは、脇町を単位とする地域社会における青年の生活実態や意識を問題にするさい、彼らは当該地域社会のなかに既に組み入れられており、その担い手としての意味をもっているので、地域社会のなかでの青年の実態や期待を明らかにする調査対象者として最適だと考えたからである。しかしこの調査では脇町在住・在職の全勤労青年を調査対象とすることは、財政的および労力的な制約からできなかった。すなわち、この調査の対象として選んだのは、脇町所在の3つの中学校を卒業して、高校や大学への進学に関係なく、現時点で脇町在住・在職の青年(15歳から25歳までの男女)である。
 しかし、現在のところ、このような条件をみたす地域青年の動態についての資料は皆無てあり、この調査をすすめる上で調査対象者のリスティングの作業は文字通り困難をきわめた。この壁をつき破ってようやく現在のような形で調査結果を報告できるに至ったのは、脇町ご当局および脇町教育委員会(佐藤武夫教育長)の特別のお取り計らいのもとに脇町中学校(蔭山紀男校長)、江原中学校(藤井芳清校長)および岩倉中学校(伊藤一義校長)のご協力に負うところが大きい。すなわち、第一段階として3校で上述の条件をみたす卒業者のリスティングのための調査を依頼し、これに対して第二段階として3校の在籍生徒を通して当該卒業者に、「青年の地域生活に関する意見調査」という調査票を配布、記入してもらって回収するという手続きをとったのである。後段の調査は昭和47年11月1日から15日にかけて実施した。
 このようにして抽出された調査対象者は合計612名であった。これは3中学校の過去10年間の卒業者中、現在脇町に在住・在職している全数をカバーしているものと見てよい。調査結果によると、このなかには若干の高校在学生が含まれており、これをこの報告書に限って除外して取り扱うと、有効回答者は285名であった。したがって有効回答率は46.6%である。この数字は、上述のような関係当局のご協力にもかかわらず、この種の皆悉調査がいかに困難であるかを物語っているように思える。
 調査結果の分析に入るにさき立って、この調査に回答を寄せられた3中学校の卒業者ならびに関係機関のご協力に対して心からお礼を申し述べる次第である。さらに阿波学会事務局関係者の献身的なお力添えに対しても感謝の意を表したい。ささやかな調査であるけれども、この調査研究はこれら多くの方々のご協力がなければ実現されなかったであろう。
III.調査結果の分析
1.回答者の属性
 まずこの調査への回答者の社会的諸属性から述べよう。この調査対象は脇町に土着する青年全体を含み、その年齢分布は表1のように15歳から25歳までである。しかし過半数は20歳から23蔵までの間の青年によって占められている。男女別の割合は、男子が47.0%、女子が53.0%となっている。親との続柄では、表2に示すように、全体の55.8%まで長男・長女であり、これに対して次男・次女は全体の17.7%である。これらの分布を見ると、今日の一世帯あたりの子どもの数を考えに入れた場合でも、明らかに長子が地域に土着する傾向の強いことを示すものであろう。また既婚・独身の別では全体の86.7%が「独身」であり、他の13.3%は既婚または婚姻決定者である。

 回答者を学歴別に見ると、表3のようである。これによると、中卒者は全体の36.1%、高卒者は42.8%、そして19.7%は高等教育の卒業者である。この学歴構成は脇町地区における人材集積の高さの一端を示すものである。
 以下の調査結果の分析は、このような属性をもつ調査対象者のよせた回答にもとづくものである。
2.青年の見た地域社会
 最初に地域青年の見た脇町について、(1)生活環境(2)社会的風土(3)町の生活水準と文化度(4)永住意志(5)町の将来性と青年の要望、という5つの観点から調査対象者の回答にもとづいて、そのプロフィールを索描しよう。
 (1)生活環境
最近数年の間の地方の生活はめまぐるしく変っている。産業構造の変化による農業労働力の就業移動や農地の潰廃、モータリゼーションに伴う交通公害や工場・会社の進出による生活環境の変化など、これまで静かだった脇町地域も他の町村と同様、いま急激な変化のインパクトにさらされつつある。こうした変化を地域の青年はどう受けとめているか。これが最初の問題である。
 「5〜6年前に比べて脇町の生活環境は全体としてどのようにかわった」と見られているか。まず、こうした観点から脇町の最近の変化に対する青年の評価を聞いてみた。その結果、表4に見られるように、現在までのところ「悪くなった」という者よりも、「よくなった」という者の方がはるかに多い。すなわち、「悪くなった」という者は全体の12.3%であるが、67.7%は最近の変化を「よくなった」と歓迎している。

 

 では彼らは何を「よくなった」と考え、何を「悪くなった」と見ているのだろうか。こうした変化のメリットとデメリットの理由や内容を明らかにするために、われわれはさきの質問項目に対して「よくなった」と答えた者(メリット群)と「悪くなった」と答えた者(デメリット群)と「どちらともいえない」と答えた者(意見保留群)の3つに全回答者をグルーピングして、それぞれのグループの評価内容を明らかにする手順をとった。その結果が表5に示してある。これによると、「よくなった」というメリット群では、「町が全体として発展してきたと感じる者が多く(30.6%)、「町に会社や工場ができた」(26.9%)ことを評価している。それと同時に生活面でも変化を「便利になった」と受けとめる者が多い。これに対してデメリット主張群では、変化によって「騒音や交通事故が多くなった」という者が74.3%もあり、変化をマイナスに評価する者の意見の最大多数がこれに集中しているのは象徴的である。しかし「悪くなった」という者のなかにも「全体として発展してきた」という者も若干含まれている。
 意見保留群では、予想されることだが、意見を保留した理由に対しても意見を保留したり、答えなかった者が35.0%もあった。しかしその28.1%は「騒音や交通事故が多くなった」と答え、他方22.8%は「生活が便利になった」とか「全体として発展してきた」とか答えている。このグループの特徴は意見が不明確かつ分散していることである。

 このように変りつつある脇町は「住む場所」としてはどのように見られているか。今日大都市は働く場所としてはよいが、住む場所として嫌だというような考え方も出されている。他方では職住接近ということも主張されている。脇町に職場をもつ青年は住む場所としてはどういう意見をもっているだろうか。表6に示すように、12.3%は「非常に住みよい」と答え、さらに41.1%は「かなり住みよい」ところと答えている。これに対して「住みにくい」という者は全体の15.1%であり、生活の場所として脇町を積極的に支持する者の方がはるかに多い。しかし全体の3割以上の青年が「どちらともいえない」と自分の意見を保留している。これは自分の生まれ育った郷士で、かつ現在生産活動と生活の両方を営んでいる地域社会への反応として問題をはらんでいるように思われる。

 (2)社会的風土
 これまで見てきたのは生活の場所としての脇町に対する青年の意見である。ここに住み生活している人間の関係はどうか。これが次の問題である。
 とかく土着率の高い伝統的な町は人間関係が親密である反面、「わずらわしさ」が附随する風土である。脇町に住む青年の人格的な接触度と人間関係は次のようである。
 表7は、青年が現在この町に「親しく話したり、気軽にものを頼んだりできる人」がどのくらいあるかという面から、青年を中心に地域の人格的接触の密度を調査した結果である。これを見ると、人格的に接触する人が「いる」者と「いない」者に反応が二分されており、コミュニケーション可能な人格をもつ者の方がやや多い程度である。脇町のような地域社会においても、約4割の青年はかなり「孤独」であり、彼らの間のコミュニケーションの稀薄さが見られるのである。

 ところで、こうしたパーソナル・コンタクトの密度は地域の青年団話動やサークル活動への組織化の率と関係があり、一般に地域に多くの人格的接触をもつ青年ほど自発的集団活動への参加率も高くなっている。このことは逆にいうと、孤立した青年は地域の組織にも参加していないということである。組織化されていないから、人格的接触がないのか、その逆が真なのかどうかという問題は、鶏が先か卵が先かの論と同じで、ここでは論じる必要はなく、問題はこの実態から何を読みとるかでなければならない。
 つぎに、地域の人間関係について見ると表9のようである。これによると、多くの青年は「どちらともいえない」(37.2%)と答えているが、分布はやや「わずらわしい」という意見に傾いている。すなわち、「わずらわしい」という者は全体の33.4%であるが、「わずらわしくない」という者は29.2%となっているのである。この調査結果とさきの人格的接触の密度とを合せ考えるならば、こうした地域の人間関係の「わずらわしさ」が青年の接触を疎にしている面があるかもしれない。ついでながら、後に見るように、地域における人間関係は青年の職場生活でも問題にされている。

 さて、次にはこうした人間関係や人格的接触を内に包む脇町の社会的風土について検討を加えよう。
 表10によると、青年の約半数は脇町を「保守的」なところだと認知しており、「革新的」なところだと答えた者は100人中5人にみたない。しかし全体の46.3%は「保守・革新のどちらともいえない」と答えている。地域社会の保守性や曖昧性―これが、この地域の青年を取り囲む社会的風土である。
 (3)町の生活水準と文化度
 今度は視点をかえて、この町の生活水準と文化施設の充実度に対する青年の評定について見てみよう。
 かりに徳島県全体の生活水準を1.「上の上」2.「上の下」3.「中の上」4.「中の下」5.「下」という5段階にわけて、脇町の生活水準のランキングを求めた結果、表11のような分布が得られた。これによると、過半数(52.3%)の青年は、脇町の生活水準は県内の「中の上」に位置していると考えている。つぎに多いのは「中の下」(29.5%)という者で、これと「中の上」という者とを合せると、全体の81.8%)は県内水準の中位にあると答えていることになる。

 

 しかし、この町の文化、教養、娯楽の施設については、「ととのっていない」という意見が多く、全体の約7割(69.8%)を占めている。逆に「ととのっている」という者は全体でも15.1%であった。
 ここで特にこれらの施設がおくれているという理由としてあげられたのは、次のような意見である。例えば、町内に「町の人が自由に使える図書館がない」とか、「町内に本屋も少なく、徳島まで出かけて図書館で借りるか、自分で購入しなければ本も読めない」とかいう意見が、地域青年の約2割の者から出されている。次に1割強の者は「青年ばかりでなく、老人も子供もくつろいだり、安全に遊ぶことのできる公園がない」と述べ、「ボーリング場やゴルフ場はあるが、遊ぶのに金がかかる」という回答であった。さらに「遊び場や公園ができると、交通事故も減るのではないか」という意見や、「町民プール」「町民グランド」「健全な映画館」や「老人ホーム」などの設置に至るまで多様な意見が寄せられた。
 (4)永住意志
 以上は、この町の青年が採点した脇町の「民度」と「文化度」である。ところで、これまで見てきた諸条件をもつこの町に対する青年の愛着性はどうであろうか。これを永住期間の長さ、あるいは町への定着意志の面から尋ねた結果が表13である。「できるだけ長く」(42.5%)「いつまでも」(29.1%)住みたいという者が最も多く、全体の71.6%に及ぶ。しかし6.0%は「今すぐにでもどこかへかわりたい」と答え、さらに20.7%は「できることならどこかへかわりたい」と答えている。

 青年は地域の未来の担い手であり、彼らがどれだけ地域に根をおろしてその発展に取り組んでいるか、あるいはどれだけ地域に距離をとろうとしているかは地域社会にとって重要な意味をもっている。「かわりたい」という青年は約2割5分で、「永住」の意志をもつ者は7割強である。彼らの地域への愛着性や定着性は何と関係があるのか。この2割5分と7割強の青年の間に、もし地域社会に対する見方の差異があるなら、そうした差異は青年の態度と地域社会観との間にある関連性の一端を説明するであろう。表14によると、移動志向をもつ者の過半数は地域に親密な人格的接触関係を欠如しているが、定住志向の者では過半数あるいは多数が地域で親密な人格的関係をもっている。この傾向は、地域への定着性がその地域の人との人格的接触関係の密度と関係することを示している。

 これと同じ傾向は、地域社会の人間関係の束縛性についての認知と定着性との間にも見られる。すなわち、地域の人間関係を「わずらわしい」と感じる度合が高いほど、そこから距離をとろうとする傾向がある。移動への志向性は社会束縛性からの解放への志向性を秘めているのかもしれない。

 (5)町の将来性と青年の要望
 この章の結びとして、脇町の将来性と町に対する青年の要望事項について述べよう。
 表16に見られるように、多くの青年(56.8%)は将来「かなりよくなる」と見込んで「道路の整備」(75.4%)で、ついで「公民館、図書館、文化会館などの充実」(48.8%)、「遊び場、公園、運動場の建設」(47.7%)、「商店街、スーパーマーケットなどの充実」(43.2%)、「上下水道の整備」(36.1%)などがあげおり、さらに7.7%は「非常によくなる」と見ている。合計64.5%は町の明るい将来を予想しているが、これに対して15.1%は悲観的な見方をもっている。

 青年は脇町の将来に特に何を期待しているか。図1は青年の各要望事項ごとに、その支持率を図示したものである。この図から観察されるように、最も多いのは

られている。
 これらの結果から判断する限り、脇町の将来計画として当面多くの青年が望んでいるのは、農業・工業あるいは観光の開発よりも、地域社会の生活に密着した面の整備と充実だといえよう。
 3.青年の見た職業生活
 ここでは地域青年の現在の職業生活およびその将来の展望について、(1)職業選択、(2)職業規模・賃金、(3)職業に対する満足度と定着度、(4)職業の展望と問題点、という4つの観点から検討を加えよう。
 (1)職業選択
 まず現在の職業選択の理由から見る。表17に見られるように、脇町地域内の現職を選んだ理由として最も多いのは「自分に向いているから」という者で、これが地域青年の24.2%の現職選択の理由となっている。これについで多いのは「職場が家の近くだから」という21.4%である。「将来性があると思ったから」という者も全体の13.3%いる。これらの適性、勤労場所の近接性および企業の条件によって、現職を「積極的」に選んだ者は、合計すると全体の58.9%に及ぶのである。これに対して、周囲の「人にすすめられたから」というものは、合計27.4%である。

 (2)職業規模・賃金
 上述の職業選択の理由は当然、現在の地域青年の職業構成や職場の状況と関係がある。表18は、脇町地域の青年が従事している職業を分布させたものである。これによると、一番多いのは「工員または生産工程従事者」(22.5%)である。その他の職業部門にはこれほど集中性の高いものはなく、一般公務員(12.3%)、一般技術系職員(12.3%)、一般事務系職員(11.6%)、自営業(13.0%)、などにそれぞれ全体の1割強のものが従事している。これら5つの職業カテゴリーに地域青年の71.7%が含まれている計算である。この中で自営業者の13.0%以外は、すべていわゆるサラリーマンである。これと同時に注目されるのは、この地域の青年の職業として農業従事者が僅か3.2%にすぎないことである。これらは脇町地域における青年の「プロレタリア化」と脱農現象を示すものであろう。これらの青年の事業所はどんなところか。勤労事業所の規模別に青年の分布を見ると、29人以下の小規模事業所が最も多く36.9%を占め、30〜99人規模が14.4%、100〜499人が8.4%となっており、500人未満の中小規模事業所に全体の59.7%が従事している。500人以上の大規模事業所にも19.6%が勤めている。これらの分布から見ると、脇町地域の青年の職場は小規模事業所への集中性が高く、中規模への就職者が少ないのが特徴である。

 つぎに勤労所得を月収(税込み)額で見ると、過半数の青年は3万円から5万円くらいの月収を得ており、5万円以上の者も18.6%いる。これに対して3万円未満は全体で19.3%、つまり5人のうち1人の月収額となっている。

 (3)現職に対する満足度と定着度
 地域の青年は以上見てきたような現在の職業についてどう見ているのであろうか。
 まず現在の職業に対する満足度について見ると、最も多いのは「どの職業でもこんなものだろう」という者で、全体の39.3%を占めている。このいわば現職適応群に対して、満足群は「非常に満足している」という者(11.6%)と「他の職業よりはよい」という者(28.4%)を合せると、全体の40.0%を含んでいる。これに比して不満群および不適応群は16.8%である。これらの結果は、青年の現職に対する積極的な評価と満足の高さを示すものであろう。

 

 満足度の高さは現職への定着度の高さを予想させる。この定着度について、現職継続意志の面から見ると、最も多くの28.4%は「定年まで」続けたいと答えているが、当分の間」つとめたら変りたいという者が21.8%、「結婚まで」という者が14.4%ある。「早くやめたい」という者は8.1%であるが、意見を保留している者が23.9%である。これらの反応と上述の現職満足度とを合せて考えるなら、現代の地域青年のなかには「非常に満足」し、「他の職業よりはよい」と思っていても、その職業に「ずっと」定着しようと思わぬ者がかなりあることがわかる。

 

 この関連で、これまで彼らがどれだけの転職を経て現在の職業にたどりついたかは興味深い。表23によると、66.3%の青年は一度も転職していない。この数字は現在の青年の定着率としてかなり高いといえる。しかしこのすべてが意志的に定着しているわけではない。このことは現職継続意志の分布とこれとの比較から推測されるところである。
 (4)職業の展望と問題点
 地域青年の職業の将来の見通しはどうであり、また現在の職場にはどんな問題があるか。最後にこれらの問題を検討するにあたって、まず「現在の職場のふんいき」から見ていきたい。
 表24は「現在の職場のふんいきについてどう思うか」を尋ねた反応結果である。これによると、現在の職場は「生き生き」(13.3%)と「活気がある」(55.8%)という者が全体の約7割を占め、「活気がない」(23.5%)とか「沈滞している」(3.9%)とかいう者をはるかに上回っている。

 

 このような相対的に活気のある現在の職場の将来性はどのように受けとめられているか。これがここでの中心問題である。現在の職業の将来は「非常に明るい」という者は、全地域勤労青年の14.0%であるが、「自分の努力しだいでどうにかなる」という者が全体の38.9%である。これらを合せると、全体の過半数(52.9%)は明るい見通しを持って働いているといえよう。これに対して、「全然見通しがたたない」(5.6%)とか、「努力しても行きつく先は決まっている」(10.2%)とかいう者が全体の15.8%含まれている。これらの結果によると、総じて地域青年の職業の見通しは明るいと認知されている。
 しかし、約4人に1人は将来の見通しについて明暗「どちらともいえない」と意見を保留している。この意見保留群やさきの見通しの暗いという青年の認知は、彼らの職場生活の何からきているのであろうか。
 表26は10の選択肢を与えて「現在の職業生活で特に青年が改善の必要性」を強調する事項をチェックしてもらった結果の分布である。

 これによると現在の脇町地域の職場にどんな問題があり、何が欠けているかが一目瞭然である。青年が今改善すべきだという要望事項の筆頭は「労働時間」である。これを問題点としてあげた者は実に全体の35.8%にも及んでいる。次に多いのは「上役や同僚との人間関係」(29.1%)である。三番目に多いのは「賃金」への改善の要求(27.4%)である。これは「昇給昇進の制度」の改善への要求と関係があるが、この改善への要求者11.6%と「賃金」の改善への要求者とを合せると、全体の39.0%もの多くが職場の賃全体系のインセンティブ・システムの改善を求めていることになり、これが脇町地域青年の最大の問題ということになる。
 「労働時間」と「人間関係」と「賃金体係」の3事項のうちのいずれかを問題点として指摘しない青年は一人もいなかった。これらの条件の改善は現職に対する満足度や定着性を高め、かつ将来への明るい展望を与える上で重要だということである。このことについては今後さらに分析を深める必要があるが、ここでは問題点の指摘にとどめる。
 これら以外に「作業の技術や設備」(12.6%)や「福利厚生施設」(14.4%)と「技能習得の機会」(15.1%)があげられている。これら3つのなかでは、最後のものが青年の将来の展望と最も密接な結びつきをもっている。
4.青年の価値志向と活動状況
 いま人間の生き方として表27のような8つの価値追求の路線を類型化すると、地域青年の最も多くは「自分の趣味にあった生活」や「なによりも家庭の幸福」を追求したいと答えている。それぞれ全体の32.6%と28.8%がこうした生き方を支持しているのである。つぎに多いのは「その日その日を平凡に暮らしたい」というもので11.2%いる。

 趣味的生活、マイホーム主義」平凡な暮しは地域青年のあげる上位3項目であり、これらへの反応は合計すると全体の72.6%を占めている。これら以外の経済的あるいは社会的野心の達成に自己の人生をかけようとする者は、いずれも5%にみたない。
 (2)活動状況
 このような価値を求めて生きる青年は現実に毎日の生活をどのように送っているのか。勤労青年の生活の中心はまず毎日の仕事への取り組み方に見られるであろう。
 表28によると、多くの者は「かなりはりきっている」と答えている。これと「おおいにはりきってやっている」者とを合せると、約6割の者が毎日の仕事に精出して生きているということになる。これに対して「仕方なくやっている」(4.9%)とか、「ほどほどにしている」(8.8%)とかいう者は、いずれも1割にみたない。しかし約4人に1人は、あいまいな気持で仕事に取り組んでいる。

 仕事と対照的な青年の活動は余暇のすごし方ということになろう。表29は普通の日の仕事がおわった後の余暇の利用法を6項目にまとめたものである。一番多いのは「テレビ・ラジオなどを楽しむ」ことで、これに全体の43.7%が含まれている。つぎに多いのは「のんびり休養している」という者(14.9%)である。これは「とりたてていうほどのことは何もやっていない」という者19.0%と意味の上では似た性格があろう。このように考えると、テレビや「のんびり」している者は全体で77.6%の多くに達する。「勉強やけいこごと」(11.3%)や「スポーツ」(5.3%)などに余暇を費やしている者が比較的少ないのは、この地域にこれらの青年の要求をみたす場が乏しいということだろうか。

 余暇の積極的活用の一つは学習活動である。地域青年はどのように勉強しているか。表30に示すように、「ときどきしている」者は38.2%いるが、「毎日している」者は15.1%であり、これよりも「全然しない」者(17.5%)や「あまりしない」者(28.8%)の方が多い。

 

 青年のもう1つの余暇活動の仕方は青年団活動やサークル活動への参加である。表31はそうした活動への参加の程度を示している。「よく参加している」という者はわずか6.3%にすぎず、ほとんどの者は未参加である。これは地域青年団の組織化の低さを表わすものであり、今後に問題を残す。この調査結果は、これらの問題を検討する上で参考に供されることを期待したい。(文責.池田)


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