阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第17号
高越山について

真鍋佳資

 高越山は高さ1123m、平野に直面しているためか殊更に高く見える。山頂に高越神社があり天日鷲命を祀る。少し下ると高越寺がある。古義真言宗の名刹役の行者の開基、蔵王権現を本尊とする。延暦20年弘法大師28才の時登山し修業した記録がる。唐画極彩色の涅槃図は国宝に指定されている。登山順路は山川駅から頂上まで8km、道幅は広いが急峻なので所々休憩小屋がある。中の郷という庵の前に池があり、万代の池という。東に200mの小路を行くと「のぞき岩」の行場がある。船窪公園は高越寺から3km美馬郡穴吹町と山川町との境の屋根を走る。登り坂もほとんどなく楽しい山道である。つつじ咲く頃は、面積10haミツバツツジの天然林で大きいつつじは1本で6畳くらいある。私もこの山によく登り、昆虫を採集したので、それを発表させていただきます。

 高越山周辺の蝶について
 蝶は形や飛びかう姿が美しく、愛らしい形容として「蝶よ花よとかわいがり」という言葉がある程である。高越山周辺には8科、約60種が生息しているが、その大部分は植物をたべるので、作物の害虫と目せられるものもある。ミカンを栽培すれば、アゲハの類がふえると思われるが、情操の乾いた今日、その防除よりも保護を心がけたいものである。以下、科ごとに記載すれば次の通りである。

  アゲハチョウ科
1 ウスバシロチョウ
 永河時代の遺物といわれるこの蝶は、北海道では平地に、南に進むに従って高地に住む。
 高越山の麓奥ノ井はよい採集地であるが、九州には採集記録がない。
2 アゲハ 3 キアゲハ 4 クロアゲハ 5 ナガサキアゲハ 6 オナガアゲハ 7 モンキアゲハ 8 カラスアゲハ等姿は美しいが、どれもミカンの害虫である。 9 アオスジアゲハ 10 ジャコウアゲハの10種

  シロチョウ科
1 モンキチョウ(マメの害虫) 2 キチョウ 3 ツマグロキチョウ 4 モンシロチョウ(ダイコン、キャベツの害虫)5 ツマキチョウの5種

  マダラチョウ科
 アサギマダラは日本本土に土着する1属1種の蝶で、羽のみならず、胴体にも水玉もようが入って美しい。

  テングチョウ科
 テングチョウはアメリカの第3紀層中から化石として発見されている、「生ける化石」である。この蝶はエノキを食樹とする。

  ジヤノメチョウ科
 この科のものは、イネ、タケ、シバ等イネ科の植物の害虫であるが、高越山周辺に棲息するものとしては、1 ヒメウラナミジャノメ 2 ウラナミジャノメ 3 ジャノメチョウ 4 ヒメジャノメ 5 コジャノメ 6 ヒカゲチョウ 7 クロヒカゲ 8 ヒメキマダラヒカゲ 9 キマダラモドキ 10 キマダラヒカゲ 11 クロコノマチョウの11種でてる。

  タテハチョウ科
 この科の蝶は食樹がそれぞれ違うので(  )内に示す。 1 コムラサキ(ヤナギ、ポプラ) 2 ゴマダラチョウ(エノキ、ニレ) 3 オオムラサキは日本産の蝶を代表する国蝶として世評に上り、小鳥ほどもある形の巨大さ、輝きを発する紫の鱗光の美しさは壮観で、現在も50円切手の図柄に使用されている(エノキ)。奥ノ井はよい採集地である。 4 スミナガシ(アワブキ、ハハソ) 5 イシガケチョウ(イヌビワ、イタビ、イチジク) 6 イチモンジチョウ(スイカズラ、ヒョウタンボク) 7 コミスジ(マメ科樹木) 8 ホシミスジ(バラ科植物) 9 サカハチチョウ(イラクサ) 10 キタテハ(カナムグラ) 11 アカタテハ(イラクサ科、ニレ科、アサ科植物) 12 ヒオドシチョウ(エノキ) 13 ルリタテハ(シオデ、オニユリ、サルトリイバラ) 14 ウラギンヒョウモン(スミレ) 15 ツマグロヒョウモン(スミレ)

  シジミチョウ科
1 ミドリシジミ(ハンノキ) 2 トラフシジミ(ウツギ) 3 ムラサキシジミ(クヌギ、コナラ、カシ) 4 ゴイシシジミはわが国に産する唯一の食虫性の蝶で、幼虫時代にはタケノアブラムシを食べて成育し、成虫となってもその分泌物をなめている珍らしい生態をもつ。 5 ベニシジミ(ギシギシ、スイバ、ダイコン) 6 ウラギンシジミ(マメ科植物) 7 ヤマトシジミ(カタバミ) 8 ルリシジミ(マメ科植物)

 セセリチョウ科
1 ミヤマセセリ(バラ科植物) 2 ダイミヨウセセリ(ヤマノイモ) 3 アオバセセリ(アワブキ等) 4 ギンイチモンジセセリ(ススキ) 5 ホソバセセリ(ススキ) 6 ヒメキマダラセセリ(チヂミザサ) 7 チャバネセセリ(ススキ) 8 イチモンジセセリ(イネ科植物)以上蝶類では7科60種ほどの採種が可能であります。

 カミキリムシ類
 この類は色や形が美しく標本箱に並べてあかずに眺められるものである。しかし樹木の幹の中に入り、形成層や木部を食害するので、害虫として駆除の対象となる。主要な栽培樹木と食害カミキリを調査すれば次の通りである。
(保育社日本昆虫図鑑による)
イチジク ウスバカミキリ、キボシカミキリ、シロスジカミキリ、トラカミキリ、ゴマダラカミキリ
ウメ ホタルカミキリ、ヤツメカミキリ
カシ キマダラカミキリ、ヤマカミキリ、ウスイロトラカミキリ、カタシロゴマフカミキリ、ナガゴマフカミキリ
キリ ウスバカミキリ、ヤマカミキリ、シロスジカミキリ
クワ ヤマカミキリ、トラフカミキリ、ゴマダラカミキリ、ヒシカミキリ オオシロカミキリ、サビカミキリ
クヌギ ホソカミキリ、キマダラカミキリ、ヤマカミキリ、シロスジカミキリ
クルミ ルリホシカミキリ、クワカミキリ、ヨスジトラカミキリ、ゴマフカミキリ、チャゴマフカミキリ、リンゴカミキリ、ヒメナガサビカミキリ、シラホシカミキリ、キモンカミキリ、ニセリンゴカミキリ(11種)
サクラ トゲウスバカミキリ、タテジマハナカミキリ、ウスイロトラカミキリ、ヨスジトラカミキリ、キスジトラカミキリ、コブヤハズカミキリ、リンゴカミキリ、チャゴマフカミキリ
スギ ノコギリカミキリ、スギカミキリ、ヒメスギカミキリ、スギノアカネトラカミキリ
タケ タケトラカミキリ、ベニカミキリ、ハイイロヤハズカミキリ
ヒノキ ノコギリカミキリ、スギカミキリ、ヒメスギカミキリ、トゲヒゲトラカミキリ
ブドウ アカネカミキリ、ブドウトラカミキリ、エグリトラカミキリ
マツ オオヨスジハナカミキリ、シラフヒゲナガカミキリ、ビロウドカミキリ、ヒゲナガカミキリ、マツノマダラカミキリ、ノコギリカミキリ、ホソカミキリ、オオクロカミキリ、クロカミキリ、ブチヒゲハナカミキリ、ツヤケシハナカミキリ、アカハナカミキリ(12種)
リンゴ ウスバカミキリ、ヤマカミキリ、トラフカミキリ、クワカミキリ、ルリカミキリ
ヤナギ ウスバカミキリ、オオアオカミキリ、ルリホシカミキリ、キマダラカミキリ、イタヤカミキリ、シロスジカミキリ、クワカミキリ
 1つの作物について多くは12種類ものカミキリムシが食害の目を光らせているのであって、学問の進展に伴い、これらの食害昆虫はもっと明かるみに出されるであろう。
 和田賢治氏は高越山のカミキリ類採集目録を発表せられているが、100種類の棲息が明らかにされている。列記すれば次の通り。
 1 ノコギリカミキリ
 2 ニセノコギリカミキリ
 3 コバネカミキリ
 4 ホソカミキリ
 5 フタスジカタビロハナカミキリ
 6 クビアカドウガネハナカミキリ
 7 カラカネハナカミキリ
 8 キバネニセハムシハナカミキリ
 9 チャイロヒメコブハナカミキリ
 10 ニセヨコモンヒメハナカミキリ
 11 セスジヒメハナカミキリ
 12 ヤマトヒメハナカミキリ
 13 ナガバヒメハナカミキリ
 14 キベリクロヒメハナカミキリ
 15 オオヒメハナカミキリ
 16 チャイロヒメハナカミキリ
 17 フタオビノミハナカミキリ
 18 アカハナカミキリ
 19 ツヤケシハナカミキリ
 20 マルガタハナカミキリ
 21 ニンフホソハナカミキリ
 22 ニョウホウホソハナカミキリ
 23 タテジマハナカミキリ
 24 ヨスジハナカミキリ
 25 ハネビハナカミキリ
 26 ヤツボシハナカミキリ
 27 フタスジハナカミキリ
 28 ミヤマホソハナカミキリ
 29 ハコネホソハナカミキリ
 30 ホソハナカミキリ
 31 クロカミキリ
 32 アオスジカミキリ
 33 ヤマカミキリ
 34 トビイロカミキリ
 35 ヨツボシカミキリ
 36 アメイロカミキリ
 37 カエデヒゲナガコバネカミキリ
 38 クスベニカミキリ
 39 ミドリカミキリ
 40 オオアオカミキリ
 41 スギカミキリ
 42 ヒメスギカミキリ
 43 シロオビカミキリ
 44 トラフカミキリ
 45 ニイジマトラカミキリ
 46 ウスイロトラカミキリ
 47 シラケトラカミキリ
 48 キスジトラカミキリ
 49 タケトラカミキリ
 50 トゲヒゲトラカミキリ
 51 キイロトラカミキリ
 52 カンボウトラカミキリ
 53 シロトラカミキリ
 54 ベニカミキリ
 55 ヘリグロベニカミキリ
 56 ホタルカミキリ
 57 ゴマフカミキリ
 58 ナガゴマフカミキリ
 59 タテスジゴマフカミキリ
 60 ヒシカミキリ
 61 キクスイモドキカミキリ
 62 コブスジサビカミキリ
 63 ドウボソカミキリ
 64 ハイイロヤハズカミキリ
 65 トガリシロオビサビカミキリ
 66 シロオビサビカミキリ
 67 アトジロサビカミキリ
 68 エゾサビカミキリ
 69 アトモンサビカミキリ
 70 ワモンサビカミキリ
 71 ナカジロサビカミキリ
 72 クワサビカミキリ
 73 ゴマダラカミキリ
 74 イタヤカミキリ
 75 ヤハズカミキリ
 76 ヒゲナガカミキリ
 77 ヒメヒゲナガカミキリ
 78 ビロウドカミキリ
 79 ニセビロウドカミキリ
 80 シロスジカミキリ
 81 イボタサビカミキリ
 82 ホソヒゲケブカカミキリ
 83 ヒトオビアラゲカミキリ
 84 クモノスモンサビカミキリ
 85 オオシロカミキリ
 86 スジマダラモモブトカミキリ
 87 ムネモンヤツボシカミキリ
 88 ハンノキカミキリ
 89 ラミーカミキリ
 90 ハンノオオルリカミキリ
 91 ヤツメカミキリ
 92 シラホシカミキリ
 93 イッシキキモンカミキリ
 94 ヘリグロリンゴカミキリ
 95 ホソリンゴカミキリ
 96 ヒメリンゴカミキリ
 97 リンゴカミキリ
 98 ホソキリンゴカミキリ
 99 ニセリンゴカミキリ
 100 ヨツキボシカミキリ
 101 キクスイカミキリ
 102 Bacchisa fortunei japonica (Gahan)
 103 Chlorophorus japonicus (Chevrolat)
 104 Chlorophorus diadema Kurotora Hayashi
 105 Chlorophorus diminutus (Bates)

 イッシキキモンカミキリ
  Glenea centroguttata Fairmaire
 本種は台湾ではクワの木から多数採れるが、我が国では非常に珍しく四国、近畿から数例の採集記録があるに過ぎない。本県でも採集記録5例のうち、2例まで高越山で採れているのは珍しいことである。


 オニツノクロツヤムシ
 Cylindrocaulus Patalis Lewio
 高越山頂上附近の朽木の中にいるこの虫は1名オニヒラタクワガタ、ツノクロツヤムシ、オニクロツヤムシ、オニナガクワガタといって同じ虫に5つもの名がついている。本州にはあまり記録がなく四国では剣山、石槌山、九州には祖母山などが知られている。珍しい虫が高越山に多産である。


 トサヒラズゲンセイ
 Horia Tosana K■no
 光沢のある美しいこの虫の幼虫はクマバチに寄生する。原色日本昆虫図鑑(上)1955増補改訂版、第67図版のトサヒラズゲンセイは徳島県川島町の産で当時川田中学教諭の武内恵行氏が中根猛彦先生に送ったものである。分布は四国、九州、沖縄であるが、珍しい虫である。


  クワガタムシ科
 昔の冑の装飾に用いた鍬形はこの虫のつのから来たと思われる。飼育に成功すればカブトムシのように販路が開けると思う。ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタ、オニクワガタ、アカアシクワガタ、コクワガタ、スジクワガタ、ヒラタクワガタ、ルリクワガタ、チビクワガタ、ネブトクワガタ等が棲息する。

  コガネムシ科
 ゴホンダイコク、ツノコガネ、カドマルエンマコガネ、コブマルエンマコガネ、クロマルエンマコガネ、マルエンマコガネ、マエカドエンマコガネ、センチコガネ、オオセンチコガネ、マグソコガネなどが棲息していたが、牛馬獣類の減少したこの頃では見つけるのがむずかしくなった。
 ドウガネブイブイ、アオドウガネ、ヒメコガネ、サクラコガネ、コガネムシ オオスジコガネ、スジコガネ、キンスジコガネ、ヒメスジコガネ、セマダラコガネ、マメコガネ、チャイロコガネ、ヒメカンショコガネ、オオクロコガネ、クロコガネ、ナガチャコガネ、カブトムシ、コカブトムシ、ヒゲコガネ、シロスジコガネ、オオコフキコガネ、コフキコガネ、ビロウドコガネ、ヒゲナガビロウドコガネ、コヒゲシマビロウドコガネ、ススイロビロウドコガネ、ハイイロビロウドコガネ、ツチチャイロコガネ、ヒメハナムグリ、アシナガコガネ、ヒラタハナムグリ、オオトラフコガネ、アオカナブン、カナブン、クロカナブン、シラホシハナムグリ、シロテンハナムグリ、アカマダラコガネ、ハナムグリ、アオハナムグリ、クロハナムグリ、オオヒメハナムグリ、コアオハナムグリなど多数の虫が採集できるが、樹木や作物の害をするものも少なくない。

  ハムシ科
 この科の昆虫はすべて害虫といってよい。作物との関係を示せば次の通りである。

 イ ネ―イネネクイハムシ、イネクビホソハムシ、フタスジヒメハムシ
 ク コ―トホシクビホソハムシ
 イ モ―キイロクビナガハムシ
 ヤナギ―ドロノキハムシ、ヤナギルリハムシ、ヤナギハムシ、カミナリハムシ、ヨツボシサルハムシ、コカミナリハムシ、キバラヒメハムシ、タテジマサルハムシ、トホシハムシ
 ブドウ―アカガネサルハムシ、ドウガネサルハムシ、サルハムシ
 ハッカ―ハッカハムシ、ヤナギハムシ
 リンゴ―リンゴコフキハムシ
 マ メ―キバネサルハムシ、フタスジヒメハムシ
 ウ リ―ウリハムシ、クロウリハムシ、アトホシハムシ
 野 菜―ウリハムシ、ウリハムシモドキ、ヒメカメノコハムシ、フタスジヒメハムシ キスジノミハムシ
 ク ワ―クワハムシ



 ここでは昆虫と作物との関係を主としてのべて来たが、この文は昆虫といっても限られた範囲内に止まっている。鳴く虫については他日にゆずりたい。


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