阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第16号
木頭村の読書調査について

読書調査班 猪井達雄

 <はしがき>
 昭和44年度読書に関する世論調査実施要領(別添)により、読書に関する世論調査表を用い、木頭村全域の世帯主を対象に本調査をすすめました。
 昭和40年の国勢調査結果によりますと、徳島県の人口は、吉野川流域の北方と、海岸線の南方の平地部の「つ」の字型の細長いベルト平野に集中し、そのベルト平野には、西から池田町、鴨島町、鳴門市、徳島市、小松島市、阿南市 牟岐町といった7つの拠点が人口集中地区となっており、その他の地区は人口流出が多く、ことに山間部では過疎という現象がみられます。ところが山間部でも木頭村のみは、人口5.3%増(注、電源開発工事の関係)で人口が増加いたしており、特異な状況であります。木頭村林業構造改善基礎調査報告書(九州大学林政学教室:昭和40.2)によりますと、転入者は、高知県その他から多く入り、転出者は京阪神その他に出ますが、転入転出のバランスが古く徳川時代からとれていたようです。そして転出者も、村へかなりかえってくるということが研究されています。電源開発のみならず、木頭林業を中心とした村の産業による人口の動きもみのがせないものがあります。その結果、高知県からの文化、京阪神からの文化の影響というものもかなりうけているものとみえ、村の中心部は、都市的な娯楽的施設もかなりあり、麻植郡などの山間部とは、ずいぶん違った印象をうけるものがあります。その他いろいろございますが、これらの背景をもとに調査結果をみてまいりたいと思います。

 <調査表の回収および回収率>
 調査区は、8地区にくぎり川下から1 2 3 …8 というようにジグザグ型に川上の方へ8調査区を設定いたしました。テンニースは、1887年、共同社会(ゲマインシャフト)と利益社会(ゲゼルシャフト)という説を発表されましたが川下の都市的要素の強いところから川上の農村的要素の強いところへと調査区を一連に設定したのであります。果たせるかな、調査票の回収率において、その結果が、よくあらわれました。
 つぎのとおり、助、出原(50〜60%)などにくらべて、折宇、北川(80〜84%)などの回収率がたいへん高くなっている事。共同社会は親密な共存、利益社会は観念的、世間的ということで、このような調査にも、農村牧歌的な共同社会の方が努力的で、都市的利益社会は非協力的であるということが単的にあらわれているのであります。
調査表の回収および回収率

調査区略図


 <調査結果の概要>
1 地域の就学状況
 就学状況はつぎのとおりで、山間地域としてはかなり高校教育がすすんでいるということができるでしょう。

2 情報(知識)を得る手段
 マクルーハンは、時代を区分するのに古代から現代までを順次会話(対話)書簡(手書き)印刷(活字)電気(電信、電話、ラジオ、テレビなど)の四つの時代区分にわけていますが、これら原始→現代にいたる四つの情報源を現代人は何に求めているかを、しらべるためこの調査項目をもうけました。情報化社会ということをよくいわれますが、新全国総合開発計画の構想の中の情報ネットワークに関する説明資料によりますと「情報時代を迎えてあらゆる経営においてシステムの改革がのぞまれている。現代もっとも革新的なシステムは企業である。……とのべ、ライン・スタッフ組織では技術革新に対応できないとされ、プログラムチームと MIS(マネージメント・インフォーメーション・システム)を中心としたシステムが考えられ、部課長制の廃止までも考えている。こういった現代、果たして各家庭の情報知識はどこから? とらえているかをみたわけであります。調査結果は
 情報を得る手段として第1位としたものは
  新 聞 49%
  テレビ 44.2%
  ラジオ 3.1%
  書 籍 2.8%
  雑 誌 0.9%
   計 100.0%
で、連記式にして
 第1位、第2位、第3位としたものの100分比を合計しますと、
  テレビ 98.2%
  新 聞 90.3%
  雑 誌 55.4%
  ラジオ 31.2%
  書 籍 24.9%
   計 300.0%
 となりました。この結果をみますと、電気媒体のテレビなどは、最有力といわれながらも、活字による印刷媒体もみのがせず、過半数以上の比率をしめしており、絶対的といえる媒体は、出現していないということがいえるのではないでしょうか。
3 県立図書館の利用状況
 この地域から県立図書館へくるには半日がかりでないとこれません。県の中心部へきて用をすませるには、1泊しないと用がすませないと思われるほどで市内別に荘をもつ人も多いようです。その結果、利用状況も34.81%で低く、その内訳は巡回図書の利用14.32%が最も多く、図書館での閲覧は4.94%にしかすぎず。
 別図パイグラフのような状況であります。
4 文化調度品の所有状況
 昭和44年2月総理府カラーテレビに関する世論調査によりますと、

となっており、本調査の数字と比べますと
 <本調査>は 76.9 84.8 62.4 22.2 30.2 8.5 2.1 0.9 になります。

 以上の調査と本調査とでは、若干調査時点がずれていますが、比較すると資料としては、おもしろく電話、乗用車などについては山間部なるが故の必要性を思わせ、全体的にみての文化水準は高いということがわかります。
 このほか
  テレビ 87.5%
  電気洗濯機 86.9%
  ラジオ 74.6%
  本 立 49.1%
  本箱 41.2%
  ステレオ 22.2%
  書 架 18.4%
  オルガン 9.9%
  書籍保管庫 3.8%
  ピアノ 1.7%
を所有しており、テレビ熱は高くというよりも家庭必需品になっていることがわかり、まだまだ、本は机の上や、部屋の隅につまれているのが多いといえましょう。
5 文化調度品購入の意向
 <4>で文化調度品の所有状況をしらべましたが、購入の意向はつぎのとおりで、情報社会にふさわしく、カラーテレビ・電話が多く、山間部のため、足としての乗用車購入希望が電話購入希望と同数を示しています。購入を一番先にしたいもの、持ちたいものを世帯数の多い順に並べますと、

 (文化調度品購入の意向)
  1 カラーテレビ 61件
  2 電 話 52件
  3 乗用車 52
  4 冷蔵庫 34
  5 別 荘 25
  6 自 家 24
  7 ステレオ 23
  8 ルームクーラー 21
  9 ピアノ 6
  10 オルガン 5
  11 書 架 5
  12 電気洗濯機 5
  13 書籍保管庫 4
  14 ラジオ 3
  14 テレビ 2
  16 本 箱 2
  17 本 立 1
  計 325
 の順となります。
6 最近の読書状況
 週刊誌、雑誌、書籍の3項目にわけて記入してもらいましたが、
  雑 誌 38.3%(407件項目ごと100分比)
  週刊誌 35.9%( 〃 )
  書 籍 28.3%( 〃 )
  よんでいない 39.1%( 〃 )
 の結果で、書籍がいちばん少ない状況です。
7 読書の動機
 読書の動機は、
  1 書店など 21.8%
  2 書 評 20.3%
  3 広告(新聞)15.3%
  4 テレビ 6.6%
  5 広告(雑誌)5.7%
  6 カタログ 4.8%
  7 人のすすめ 3.9%
  8 図書館公民館 3.6%
  9 寄 購 3.3%
  10 ラジオ 2.1%
  11 映 画 1.2%
  12 その他 11.4%
   334件 100.0%
 で、書店で現物を手にしてからというのが一番多く、ついで書評・新聞広告・テレビ・雑誌の広告となっています。ポスターや、ダイレクトメールも項目としてとりあげましたが、○印をつけたものは1件もみえませんでした。
8 本を読む日的
 本を読む目的は、
  1 職業上 23.34%
  2 教 養 22.02%
  3 趣 味 17.05%
  4 娯 楽 14.90%
  5 なんとなく 9.44%
  6 こどもの教育 9.11%
  7 その他 4.14%
   604件 100.0%
 で、職業上の必要からというのが最高で、案外、こどもの教育のためなどが少なく、教養、趣味、娯楽といったものが多かったのがめだちます。
9 本の入手先
 県民所得の向上というか、豊かな生活が反映して、自分で購入というのも61.4%で圧倒的に多く、図書館公民館から借りるのは4.5%、図書館車からのをあわせても(4.5%+5.3%=)9.8%とおよそ1割で、貸し本屋からというのは、わずかに0.9%という少数をしめし、読書はいろいろな方法でしていることがうかがわれるわけであります。
  1 自分で購入 61.4%
  2 友人から借る 10.3%
  3 家にある 6.7%
  4 図書館車 5.3%
  5 図書館・公民館から 4.5%
  6 学校から 3.3%
  7 職場文庫から 3.1%
  8 貸し本屋から 0.9%
  9 その他 4.5%
10 蔵書と年間購入図書
 蔵書と年間購入図書
 家庭の蔵書<193件>
  0〜99冊 107件(55.5%)
  100〜199〃 41件
  200〜299〃 23件
  300〜399〃 9件
  400冊以上 13件
 年間購入冊数<199件>
  0〜19冊 122件(61.3%)
  20〜39〃 61件
  40〜59〃 8件
  60〜99〃 5件
  100冊以上 3件
 100冊以上の蔵書が55.5%をしめ、20冊にみたない年間購入が61.3%をしめています。書店経営指標によりますと図書の人口1人当たり売りあげは、県下で2,126円四国2,131円全国3,081円有効人口(読書可能人口)1人当たり3,512円四国3,418円全国4,762円と考えあわせますと、全般にひくいということがわかります。
11 希望の購入図書
 希望の購入図書は、15項目について調査をすすめましたが、10%以上のものが
  政治経済法律社会関係 14.6%
  歴史地理伝記 11.7%
  スポーツ娯楽関係 10.3%
   677件 10%以上
の3項目で、他の項目は9%以下で、多方面にわたって購入してもらいたいという希望を示しています。
 項目別 %
 1  4.7%
 2  11.7%
 3  14.6%
 4  7.8%
 5  3.7%
 6  9.7%
 7  5.5%
 8  8.4%
 9  6.8%
 10  3.0%
 11  1.9%
 12  1.2%
 13  4.0%
 14  10.3%
 15  6.7%
  計100.0%
12読書グループ所属状況
 この項目はつぎのとおりの結果となっています。
 読書グループ所属状況
  所属している 1.2%
  〃 していない 60.3%
  記入なし 38.5%
13 感想・希望・意見の要約
 この欄は、末尾に記入欄をもうけて、記入してもらったわけでありますが、結果として34件、つぎのような意見があり、私たちの参考にしたいと考えております。
  1 移動図書館車、巡回文庫の充実 9件
  2 図書館広報・巡回広報の不足 6〃
  3 へき地配本所をもっとつくれ 4〃
  4 村に図書館をつくれ 3〃
  5 むづかしくて読書のことがわからない 3〃
  6 重読書の本を充実せよ 2〃
  7 図書館でたのしいつどいをせよ 1〃
    小学校へ配本をせよ 1〃
    娯楽の本をふやせ 1〃
    遠方だから図書館にいけない 1〃
    本を読む気がない 1〃
    読書振興をせよ 1〃
    専門誌を配本せよ 1〃
     計 34件

<む す び>
 以上、読書調校結果の概要にふれましたが、図書に対する、住民の声は、多面にわたり等13項目にもでていますように、大きいものがあります。図書館広報の不足をなげくもの、配本所をつくれという声、(4)にもありますように『村に図書館をつくれ』という声もあります。この調査をきっかけとして、私たちも大いに読書活動に力をいれたいと思いますが、村長さんはじめ各位によって村に立派な図書館ができますことを念願し、報告を終わりたいと思います。

 昭和44年度読書に関する世論調査実施要領
 本年度阿波学会の総合学術調査が木頭村およびその周辺地域を対象にして実施されるので、それに呼応して木頭村の教育文化を背景とした読書生活の実態や世論を知り、山村における県立図書館活動を今後どのように展開してゆくか等の問題点を究明するため本調査を企画した。
 この調査は、全体調査の方法をとり、木頭村全域にわたって行なうもので読書実態や、世論の拡がりや頻度を全体にわたって観察し、その結果は阿波学会での発表に用い、今後の県立図書館活動の資料として活用する。
1 目 的
 この調査は、木頭村の教育文化を背景とした読書生活の実態や世論を分析して読書に対する興味の傾向および欲求をとらえ、その要求をもとに今後の山村における県立図書 館活動を展開するために実施する。
2 調査地域と対象
 木頭村全域(参考:調査区20、世帯数824、昭40国調)の世帯主を対象して行なう。
3 調査方法および期日
 (1)調査表は別添様式のものを用い、調査区ごとに中学生の手により各世帯に配布し、世帯主の記入したものを回収する。
 (2)調査時点は昭和44年8月1日現在とする。
 (3)調査表は8月(中)にとりまとめ審査し集計のうえ、結果表を作成する。

 読書に関する世論調査表
 (昭和44年8月1日現在)
 徳島県立図書館調査区番号(  )調査区名(  )世帯第号(  )世帯主民名(  )
男女別(男・女)○印を入れる 年令(満  才)職業(  )なるべく具体的に、
家業(  ) 世帯員数男(  )名、女(  )名、計(  )名

<お願い> 県立図書館では、読書に関する世論調査を行なっています。この調査はいろんな面から読書について調査し、その結果は、今後の図書館運営や公民館の読書活動の改善などに役立てるもので、個々の調査表記入事項については秘密を守り、統計上以外の目的に使用いたしませんので、どうか趣旨をご理解のうえ、つぎの問いにお答えを記入してください(世帯主がご不在の場合は世帯員の方が、また家族ご相談のうえ、記入くださっても結構です)

問1 現在、あなたのご子弟で就学中の方がありますか。また、すでに卒業されている方 や、中退された方がありますか。ありましたら、誇当の項目の数字を○でかこんでください。
 就学中(1小学校 2中学校 3高校 4高専 5短大 6大学)
 卒 業(7小学校 8中学校 9高校 10高専 11短大 12大学)
 中途退学(13小学校 14中学校 15高校 16高専 17短大 18大学)
問2 人間は、社会生活を営むうえにいろいろ新しい情報(知識)が必要ですが、あなた は、その情報(知識)を得られる手段としてつぎのどれによっておられるか、該当のものの頭に○印をつけ、その○の中に、あなたが利用されている順に1、2、3のように番号をいれてください。
 新聞 雑誌 書籍 テレビ ラジオ
問3 県立図書館は、みなさんに情報(知識)を提供するセンターとしての役割りを果たしていますが、あなたまたはご家族のかたの利用状況について、該当のものの数字を○印でかこんでください。
 1 図書の閲覧
 2 図書の借用
 3 図書館へ電話で照会(口頭を含む)
 4 図書館へ文書で照会
 5 巡回図書(移動図書館車)の利用
 6 読書会に参加
 7 読書グループに所属
 8 その他(  )
 9 利用したことがない
問4 あなたのご家庭で持っているものの項目の数字を○でかこんでください。
 1 冷蔵庫
 2 自分の家
 3 電話
 4 ステレオ
 5 乗用車
 6 電気洗濯機
 7 ラジオ
 8 カラーテレビ
 9 テレビ
 10 ルームクーラー
 11 ピアノ
 12 オルガン
 13 別荘(他市町村に)
 14 本立
 15 本箱
 16 書架(何段式かになっているもの)
 17 書籍保管庫(何段式かになっているもの)
問5 あなたは、問4の項目のうち、一番さきに購入したい、または持ちたいと思うもの一つをつぎに記入してください。
 No.(   ) 名 称(   )
問6 あなたは、最近3か月間に本を読みましたか。該当の項目の数字を○印でかこみ、読んでいる方は書名等を下欄に記入してください。
 1 週刊誌  2 雑誌  3 書籍  4 読んでいない

問7 あなたが本を読む動機となったのは、つぎのどれですか。該当の数字を○印でかこんでください。
 1 新聞の広告をみて
 2 雑誌の広告をみて
 3 新聞雑誌の書評をみて
 4 書店、駅の売店などで実物をみて
 5 ポスターをみて
 6 ダイレクトメールで
 7 カタログを見て
 8 図書館、公民館 読書グループなどから
 9 テレビをみて
 10 ラジオをきいて
 11 映画を見て
 12 人にすすめられて
 13 寄贈されて
 14 その他(   )
問8 あなたが本を読む場合、おもにどんな目的で読みますか。つぎの該当する項目の番号を○印でかこんでください。
 1 職業上の必要から
 2 趣味のため
 3 教養のため
 4 娯楽のため
 5 こどもの教育のため
 6 なんとなく
 7 その他(   )
問9 あなたが読みたい本は、おもにどこから入手されますか。該当する項目の番号を○印でかこんでください。
 1 自分で買う
 2 図書館、公民館で借る
 3 移動図書館車を利用する
 4 学校から借る
 5 職場の文庫から借る
 6 友人から借る
 7 貸し本屋から借る
 8 家にある
 9 その他(   )
問10 あなたのお家の蔵書冊数は、およそ何冊ですか。また過去1年間で何冊ぐらい書籍を購入しましたか。つぎに記入してください。
 家庭蔵書冊数(  )冊  年間購入冊数(  )冊
 (注)該当のない項目については、なしと記入してください。
問11 図書館の蔵書を充実するうえにおいて、みなさんのご希望を参考にしたいと思いますので、あなたが興味をおもちの本、または購入希望の本がありましたら、つぎの該当する項目の番号を○印でかこんでください。
 1 哲学、倫理、宗教関係
 2 歴史、伝記、地理関係
 3 政活、経済、法律、社会関係
 4 教育関係
 5 自然科学(物理、化学、生物)関係
 6 保健衛生、健康関係
 7 工業、工学(土木、建築、機械、電気)
 8 家事、家庭、育児関係
 9 農林、水産関係
 10 商業、商店経営関係
 11 交通、通信関係
 12 音楽、演劇関係
 13 スポ−ツ娯楽関係
 14 文学、古典、小説、詩歌関係
 15 郷土に関するもの
問12 あなたは、読書グループに所属していますか。
 1 いる  2 いない(その理由   )
問13 県立図書館についてお気づきの点、感想、希望をつぎに記入してください。

集計表 調査表の回収および回収率

問1 問2 問3 問4 問5 問6 問7 問8 問9 問10 問11 問12 問13


徳島県立図書館