阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第15号
眉山・城山の地質

石原侑・岩崎正夫・小川棋文・大橋博・加治敦次・塩田次男・浜口太郎・坂東ハルエ・前田治夫・真鍋憲昭

目次
まえがき
眉山・城山の鉱物
眉山・城山の岩石
地質構造
変成岩学習のための巡検・採集について
付−徳島城庭園(千秋閣)の庭石−

まえがき
 徳島市は吉野川・園瀬川・勝浦川の沖積平野に発達した町で、この平野をつくるやわらかい地層(沖積層と洪積層)の下には、かたい岩盤があって、眉山・城山等の山地をつくる地層と同じものである。
 これらの徳島市の基盤をつくる、かたい岩層は、結晶片岩と呼ばれる変成岩で、これと同じ型の岩層が、四国から紀伊半島、天竜川をへて、関東山地まで延びていて、この種の岩石の分布している地域を関東山地の三波川の名前をとって、三波川帯という。
 日本列島が形成される長い歴史のある時期に、地下深所で、比較的高い圧力と低い温度でつくられたものだといわれている。
 眉山の地質の研究史は古く、明治20年(1887年)小藤文治郎が、眉山の大滝山産として「藍閃石」「紅レン石の新産地」を発表している。三波川という名もかれの命名による。
 大滝山の紅レン石は、ドイツの有名なクランツの標本にとり入れられ、藍閃石などと共に、毎年のように、地質関係の研究者や学生が訪れて、採集の対象となっている。
 眉山・城山の総括的な研究は、1955年以降、岩崎(徳島大)によってなされている。
 今回の調査では、上記岩崎のものに若干新しいデーターをつけ加えた。
調査には、表記著者の他に、徳島大学の三牧千鶴子・金丸富美雄・大川義明の3氏に協力をいただいた。

眉山・城山の鉱物
 眉山・城山の岩石に含まれる鉱物は、一般に小さく、肉眼では見えないものもある。これは変成作用で結晶が成長するときの温度が低かったためと考えられている。
 ―眉山・城山産鉱物リスト―
1.エヂリン aegirine NaFe (SiO3) 2
 単斜晶系、粒状、黄〜緑色、輝石の一種
2.陽起石 actinolite Ca2 (Mg,Fe) 5 (OH) 2Si8O22
 単斜晶系、柱状、緑色、角閃石の一種
3.曹長石 albite NaAlSi3O8
 単斜晶系、短柱状、白色
4.鉄礬ザクロ石 almandine Fe3Al2Si3O12
 等軸晶系、粒状、赤・緑・黄
5.燐灰石 apatite Ca5 (PO4) 3 (F,Cl) 
 六方晶系、柱状、白色
6.バロアサイト barroisite CaNaMg3FeAl2Si7O22 (OH) 2
 単斜晶系、柱状、暗緑色、アルカリ角閃石の一種
7.ブラウン 鉱 braunite Mn2O3
 正方晶系、粒状、黒
8.方解石 calcite CaCO3
 六方晶系、菱面体、白
9.黄銅鉱 chalcopyrite CuFeS2
 正方晶系、塊状、黄金色
10.緑泥石 chlorite Mg5Al2Si3O10 (OH) 8 ただし三波川帯産
 単斜晶系、板状、緑色
11.緑レン石 epidote Ca2Al2FeSi3O12 (OH) 
 単斜晶系、柱状、黄〜緑色
12.藍閃石 glaucophane Na2Mg3Al2Si8O22 (OH) 2
 単斜晶系、柱状、濃紺色、アルカリ角閃石の一種
13.藍閃石質陽起石 glaucophanic actinolite CaNaMg4AlSi8O22 (OH) 2
 単斜晶系、柱状、暗緑色、角閃石の一種
14.セキボク graphite C
 六方晶系、板状、黒
15.赤鉄鉱 hematite Fe2O3
 六方晶系、板状、黒
16.菱苦土鉱 magnesite MgCO3
 六方晶紀、菱面体、白
17.マグネショーリーベカイト magnesioriebeckite Na2Mg3Fe2Si8O22 (OH) 2
 単斜晶系、柱状、濃紺色、アルカリ角閃石の一種
18.磁鉄鉱 magnetite Fe3O4
 等軸晶系、8面体、黒
19.微斜長石 microcline (K,Na) AlSi3O8
 三斜晶系、塊状、白色
20.白雲母 muscovite KAl3Si3O10 (OH) 2
 単斜晶系、板状、白色
21.紅簾石 piedmontite Ca2AlFeMnSi3O12 (OH) 
 単斜晶系、柱状、赤色
22.パンペリー石 pumpellyite Ca4Al5MgSi6O23 (OH) 32H2O
 単斜晶系、柱状、淡緑色
23.黄鉄鉱 pyrite FeS2
 等軸晶系、立方体、黄金色
24.石英 quartz SiO2
 六方晶系、塊状、白色
25.バラ輝石 rhodonite (Mn,Fe,Ca) SiO3
 三斜晶系、板状、赤・桃・黄色
26.金紅石 rutile TiO2
 正方晶系、柱状、黄〜赤褐色
27.蛇紋石 serpentine (antigorite) Mg3Si2O5 (OH) 4
 斜方晶系、板状〜センイ状、緑色
28.マンガンザクロ石 Spessartite Mn3Al2Si3O12
 等軸晶系、粒状、赤〜黄褐色
29.スチルプノメレイン Stilpnomelane (Fe,Mg) 12 (Al,Fe) 17Si32O9410H2O
 単斜晶系、板状、茶褐色
30.滑石 talc Mg3Si4O10 (OH) 2
 単斜晶系、板状、白色
31.チタン石 titanite (sphene) CaTiSiO5
 単斜晶系、くさび形、褐・黄・緑・赤・黒
32.電気石 tourmaline Ca5 (Al,Fe) 27 (Si,B) 27O86 (OH) 4
 六方晶形、柱状、黒
33.ベスブ石 vesuvianite Ca2A12 (OH,F) Si2O7
 正方晶系、短柱状、赤・緑色

眉山・城山の岩石
 三波川帯の結晶片岩は、この岩石が変成作用をうける前の、もとの岩石(原岩)の種類で分類する。たとえば、泥岩が変成作用をうけると泥質片岩になる。片岩というのは、三波川帯の岩石は、ほとんどのものが、よく片理が発達しているからであるが、これは、変成作用が進行していくときに、温度・圧力の変化のほかに、偏圧(ストレス)がはたらいたために、角閃石などの細長い鉱物や緑泥石・白雲母・セキボクなどの平べったい鉱物が平面上に並んだために、その方向に割れ易い性質(片理)をつくったものである。
A.泥質片岩 Pelitic schist……原岩は泥岩
 セキボクを含み、黒色であるからセキボク片岩とか黒色片岩とか呼ばれたことがある。
 構成鉱物:セキボク・白雲母、石英、曹長石その他
 ※点紋帯のものでは、曹長石やザクロ石の結晶が肉眼で見える。
B.砂質片岩 Psammitic schist……原岩は砂岩
 構成鉱物:石英・白雲母・曹長石その他
C.石英片岩 Quartz schist……原岩はチャートまたは、SiO2 に富む岩石
 構成鉱物:砂質片岩と同じ、
 紅簾石を含むものは、紅簾片岩
 アルカリ角閃石を含むものは、
  アルカリ角閃石・石英片岩
 などと呼ぶ。
D.塩基性片岩 Basic schist……原岩は、塩基性の火山岩(よう岩・火山灰)であるが、もとの鉱物は残っていない。
 構成鉱物:角閃石(陽起石または藍閃石)・緑泥石・緑レン石・曹長石・石英・白雲母
 点紋帯のものは、曹長石の点紋が肉眼で見える。
 緑色片岩・緑泥片岩などと呼ばれたことがある。
E.蛇紋岩 Serpentinite
 超塩基性岩で、滑石を主成分とするものは、滑石片岩
 蛇紋石を主成分とするものは蛇紋岩
 ※点紋帯・無点紋帯の区別
 地質図で、眉山の中央と北側、および城山が点紋帯になっている。この地域の岩石は、一般に曹長石が大きく結晶して、その白い点紋が肉眼で見ることができるので点紋帯と呼ばれている。無点紋帯の岩石は、曹長石も他の結晶も小さい。このことから、変成作用のときの温度が、点紋帯の方が無点紋帯より高かったと推定されている。

地質構造
 徳島県の三波川帯のなかで、高越山と眉山は、塩基性片岩の多いことと、とくにその中でも藍閃片岩の豊富なことで特徴的である。
 この藍閃片岩を含む塩基性片岩は、眉山・城山の主体を占め、城山の北端―大滝山―西部公園を結ぶ線を軸にした向斜構造をつくっている。
 この塩基性片岩の上位に、石英片岩・紅簾片岩を数枚?含む泥質片岩層があって、向斜軸の部分に分布している。
 この向斜軸は、ゆるく東に傾斜し、したがって、西の西部公園では、上述の泥質片岩層は、地質図では、うき上って消滅してしまう。
 藍閃片岩は、向斜軸の北側(諏訪神社付近)では少なく、南側に多い。
 眉山の南側は、単斜構造で北傾斜の地層が東西に延び、したがって、南へくるにしたがい下位の地層があらわれる。(地質図―断面図参照)
 津田山および眉山の南方の山地の地層は、ゆるく波うちながら南へ傾斜しているので、法花―津田山の北側を通る背斜軸が考えられるが、沖積平野が蔽っていて、はっきりしない。
 無点紋帯では、塩基性片岩の量が、点紋帯に比べて少なくなり、パンペリー石を含む塩基性片岩があらわれてくる。

変成岩の学習のための巡検・採集について
眉山は日本の地質学誕生の初めから研究され、くわしく調査され、変成岩の勉強には大変よい所である。
 1.眉山は、無点紋帯から点紋帯まで分布するので、南北のルートを切ると、一通りの岩石を見ることができる。
 無点紋帯と点紋帯の岩石に含まれる鉱物の大きさの比較、例えば、石英片岩中の白雲母や石英の大きさ、曹長石の点紋の有無など比べると変成作用の程度(変成度)の学習になる。
 このようなコースとしては、二軒屋から眉山へ登るドライブウエーがよい。
 2.また、各種の結晶片岩とそれに含まれる鉱物の採集ができる。
 各種の塩基性片岩(アルカリ角閃石、陽起石、バロアサイト、パンぺリー石等を含むもの)、泥質片岩・紅簾片岩・アルカリ角閃石やザクロ石を含む石英片岩など。(地質図や眉山・城山のルートマップ参照)
 このうち、バロアサイトを多く含む岩石は点紋帯の塩基性片岩で、無点紋帯に近いものに含まれる。
 また、パンぺリー石は、無点紋帯の岩石にだけ産出する鉱物で、したがって、津田山や眉山南麓の淡緑色の塩基性片岩に含まれる。
 3.結晶片岩に特有な微褶曲や鉱物の配列や分化脈は、眉山の南面や北面の石切場やドライブウェーの露頭で必ず観察され、結晶片岩がつくられたときの状況を想像させる。
 眉山の巡検コースや採集については、以上のような観点から、目的に応じて、各種の展開が考えられるが、これらの目的に応じたくわしい案内書の刊行が望まれる。

 

眉山・城山・津田山地質図

城山のルートにそう岩石露頭分布図

眉山東北部のルートに沿う路線地帯図

付―徳島城庭園(千秋閣)の庭石―
 庭園の庭石は大別して、次の3種類に分けられ、かなり同じような岩石がまとまって配置されている。
 1.砂岩
 2.カコウ岩とそれに伴う岩石
 3.結晶片岩

1.砂岩
写真1.穴は風食によるもので、砂岩に多い級化構造をもつものがある。
鳴門海岸の和泉層群の岩石かまたは海部の四万十帯のものかである。

2.カコウ岩その他
写真2.エライ殿様が踏み割ったという有名な石は、結晶片岩に属する塩基性片岩であるが、橋の下の池に敷つめた砂は香川県の海岸からとり寄せたカコウ岩の風化した砂である。
カコウ岩は有色鉱物が少なく、風化のとき、石英や一部長石が粘土化されずに砂として残り、白砂になる。徳島には、カコウ岩がないので、このような砂はない。
写真4.カコウ岩のなかに貫入した半カコウ岩(白い部分)とさらにそのあとで貫入した■岩(黒い部分)の重複岩脈。
写真5.有色鉱物が多くて黒いカクセン岩(カクセン石と斜長石が主成分)のなかに大小の白いパッチが見える。これは、カクセン岩のなかにカコウ岩質の液がしみこんで、白い斜長石の班点や粗粒のカコウ岩をつくったものと解釈されている。(カコウ岩化作用)
写真6.黒い部分のカクセン岩の中にカコウ岩質物質がしみこんでゆく過程を示す。
カクセン岩はブロックもに分けられカコウ岩質物質の滲透とともに、斜長石や石英が成長して、白い、より酸性の岩石に変っていく。(カコウ岩化作用)

3.結晶片岩
 徳島の岩石で、もっとも多い。
写真7、磁鉄鉱をもつ塩基性片岩で、1mm位の多面体の磁鉄鉄が散ばっている。肉色のザクロ石の層もある。特に、これらの層が曲りくねっている(微褶曲)ことに注意。
写真8、珪質な泥質片岩中に石英の分化脈が発達している。

千秋閣庭園略図


徳島県立図書館