阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第15号
徳島市の魚類分布 −水質との関連において−

博物学班(淡水魚)
藤田光、細川昭雄、中瀬宏孝

 この調査は徳島市総合学術調査団に淡水魚班として参加し、昭和43年7月23日より8月11日にかけて行なったものである。
 徳島市内を流れる主要な川は吉野川、鮎喰川、園瀬川、勝浦川および今切川であるが、今切川は日数の関係で今回は割愛した。また鮎喰川は昭和40年、園瀬川は41年、勝浦川は42年にそれぞれおよその調査を終わっているので、今回行なったのは吉野川の第十堰下より川口まで、園瀬川および勝浦川の未調査部分であるが、この報告には既調査分のうち徳島市に属する部分も加えて徳島市の魚類分布としてまとめた。
 さて徳島市の川はその半ば以上が汽水域に属するうえ、人口密集地帯や、工場の多い地帯を含むため、日々汚染が進行しつつある。それゆえ魚類棲息の面から見ると塩分と汚染状況の二つが重要な因子となる。この二つの因子と照合しながら現時点における魚類の分布状態を明らかにするのが本調査の目的である。

1.塩分について
 各河川について1〜3km間隔に採水地点を定め、中層の水を採取し分析に供した。mohr 法により塩素量を求めクヌーセンの式 S=0.030+1.8050×cl(clは塩素濃度%‰)により塩分量に換算した。(Table1.および Fig1.参照)
 このデータによれば吉野川では第十堰下まで、鮎喰川では不動橋附近まで、園瀬川では園瀬橋まで、勝浦川では論田小学校附近まで海水の影響を受けていることがわかる。
 次に各河川の等塩分点を結んでみるとFig2.の等塩分線図が得られる。この等塩分線は略々等高線に沿って走っている。ただ2ケ所この原則に従わないところがある。これについては後に述べる。

註)※徳島県立徳島農業高等学校;徳島市鮎喰町二丁目
(a)吉野川の汽水域
 河口より約12km上流の第十堰を境として下流は汽水域になっている。ここより下、吉野川橋附近まではウグイ、アユ、マハゼ、フナが主に棲息する。堰の上はオイカワ、カワムツが主要魚種であるのと明瞭な対照を示している。吉野川橋附近より下へはウグイ、マハゼ、ハゼ科の他の魚種、ボラ、スズキなどが多くなる。河口附近ではイソギンポ科の数種カレイ科、ヒラメ科の海産魚、海産性のハゼ科のものが多く見られる。
(b)鮎喰川の汽水域
 鮎喰川は春日町附近で吉野川に合流する。海水の影響はほぼ不動橋附近にまで及んでいる。この汽水域での主な魚種はフナ、ウグイ、アユ、マハゼを主とするハゼ科の魚である。また少し淡水域へ入るとオイカワ、カワムツも少なくない。
 水量が少なく満潮時は岸まで水に満たされるが干潮になると多くの洲が現われて流れはとぎれとぎれになることもある。魚の種類は豊富である。ここで採集した魚は次のようなものである。
 アユ科 アユ
 ドジョウ科 シマドジョウ、ドジョウ
 コイ科 ウグイ、カワムツ、オイカワ、カマツカ、イトモロコ、フナ、コイ
 ナマズ科 ナマズ
 ウナギ科 ウナギ
 メダカ科 メダカ
 サヨリ科 クルメサヨリ
 トウゴロイワシ科 トウゴロイワシ
 ボラ科 ボラ
 スズキ科 スズキ
 シマイサギ科 シマイサギ、コトヒキ幼魚
 カワアナゴ科 カワアナゴ、ドンコ
 ヒイラギ科 ヒイラギ
 アジ科 カイワリ
 ハゼ科 ヨシノボリ、ウキゴリ、チチブ
 マフグ科 クサフグ幼魚
 コチ科 ネズミゴチ
 ハゼ科 マハゼ
(c)園瀬川および新町川の汽水域
 園瀬川は津田橋附近で新町川と合して間もなく海に入る。河口より約5km園瀬橋までが園瀬川の汽水域に属する。新町川は全域が汽水であるが汚染が甚だしく極めて特殊な状況にある。それゆえ新町川は汚染の問題と共に後に述べることにする。
 園瀬川の汽水域はフナおよびハゼ科の魚が主である。河口附近にはウグイ、マハゼ、クロダイ幼魚などの外種々の稚魚も集まる。河床は有機物に富み沼になっており大量のシジミが棲息するが、悪臭をもっていて食用にはむかない。
 Fig2.に見られるように津田橋の上手附近に塩分濃度の高い水域があってその下流よりも塩分が多い。これは満潮時、海水が御座船入江や大西入江に逆流し、干潮時はこの水が津田橋上手の広い部分へ押出す。これには時間がかかるため干満の周期と位相がずれることになり常時このあたりに濃厚海水が停滞するのであろうと思われる。十年位前までは古くから両入江に沿って入浜塩田が作られていて、その海水がこの附近から引き入れられていたのは、以上のような事情がよく理解されていたものと解せられる。
(d)勝浦川の汽水域
 河口より約3km論田小学校附近までが汽水域である。
傾斜が比較的急であるから流れも早い。Tahle1.およびFig2.で明らかなように河口より1km位は北岸の塩濃度が南岸に比べて著しく低い。これは勝浦川がこの附近で南から東に強く湾曲しているため、流れの比較的早いのと相まって河水が北岸に突当って海へ出で、海水が河口で右廻りに廻りこんでいると思われる。これは採水点10 と11 の中間、与茂田港附近においてさえフナを採集したことからも裏付けられる。このようにして淡水と海水が攬伴混合し、河水により有機物や栄養塩類が供給されるのでプランクトンの繁殖が著しく、したがって南岸の篭から打樋川出口附近にかけておびただしい稚魚が群集している。いわば天然の稚魚養殖場の感がある。
 棲息魚種は吉野川とほとんど変わらない。勝浦川橋附近はハゼ科の魚種が豊富である。稀種の発見される可能性がある。

2.汚染の現状と魚種
人口や工場あるいは大規模の養豚、養鶏の増加と共に河水も次第に汚染が進んでゆくので、一応汚染の目安として溶存酵素、アンモニア性窒素、過マンガン酸カリウム消費量の三つを測定した。採水位置は塩分測定と同様Fig1.のとおりである。(Table1.参照)
(a)溶存酸素について
 吉野川、園瀬川の淡水域、勝浦川全域(飯谷附近および河口附近を除く)は何れも飽和状態であるが、ただ吉野川の東黒田附近がやや低いのはこの辺が感潮区域の頂点になっており水がやや停滞する傾向があるからであろう。また日浦橋上手には採石場がありここから流出する泥土によって河水が汚濁し、汚濁はほぼ飯谷橋附近にまで及んでいるようである。
 新町川は溶存酸素が非常に少ないのが著るしい特徴である。新町川の汚染については徳島県衛生研究所をはじめ県、市当局の調査が行なわれているので、ここでは深く触れない。
(b)アンモニア性窒素量について
 吉野川および勝浦川はほとんど汚染がないと考がえてよいようである。また園瀬川の法花大橋より上流の水も極めて清潔である。鮎喰川は水量が少なくしばしば干上るが不動橋より上流は清潔である。
 新町川は汚染がひどいがアンモニアの含量はさほど高くない。また第十堰の直上の水がアンモニア含量では新町川に匹敵するのは、ここが徳島市の上水道の水源地であることを考え合わせて問題を含んでいると思われる。
(c)過マンガン酸カリウム消費量について
 一般に下流ほど消費量が多いのはプランクトンや微生物が多くなるからであろう。新町川が43ppm前後にものぼるのは汚染によるものと思われる。
 一般的に徳島市の河水は市の中心部を除いては現在のところ極めて清潔である。したがって棲息魚類の数も種類も想像以上に多い。我々はこの水を汚染から護り、魚類の棲息還境を破壊しないよう勉めなければならない。

徳島市内産魚類目録
1)ヤツメウナギ科 Petromyzonidae
 スナヤツメ Entosphenus reissneri (DYBOWSKI)
  小松島市田浦町の勝浦川より取水した用水路で採集
2)アユ科 Plecoglossidae
 アユ Plecoglossus altivelis TEMM & SCHL
  各河川とも遡上する。
3)シラウオ科 Salangidae
 シラウオ Salangichtys microdon BLEEKER
  吉野川川口附近でカマス稚魚にまじって多くの稚魚を採集
4)テソ科 Synodontidae
 オキエソ Trachinocephalus myops (FORSTER)
  吉野川、川口附近で採集
5)コイ科―タナゴ亜科 Cyprinidae-Acheilognathinae
 ヤリタナゴ Acheilognatus lanceolata (TEMM & SCHL)
  徳島市内の用水、池に多数棲息する。
 コイ科―カマツカ亜科 Cyprinidae-Gobioninae
 ムギツク Pungtungia heyzi HERZENSTEIN
  園瀬川、勝浦川の淡水域で採集、鮎喰川、吉野川には棲息しない。本県での報告はこれが最初である。
 モツゴ Pseudorasbora parva (TEMM & SCHL)
  鮎喰川の淡水域でカワムツの幼魚に混じって採集される。
 カマツカ Pseudogobio esocinus (TEMM & SCHL)
  各河川とも淡水域で至るところ棲息
 ニゴイ Hemibarbus barbus (TEMM & SCHL)
  吉野川、勝浦川で採集
 タモロコ Gnathopogonelon gatus (TEMM & SCHL)
  徳島市渋野町、多々羅川流域の用水で採集
 イトモロコ Gnathopogon gracilis (TEMM & SCHL)
  調査各河川ともかなり大量に棲息する
 デメモロコ Gnathopogon japonicus (SAUVAGE)
  吉野川においてイトモロコにまじって少数棲息する。本種は過去に一度吉野川での採集記録があるが、その後確認されていなかった。今回は2個体を得た。尚今後継続調査したい。
 コイ科 ウグイ亜科 Cyprinidae-Leuciscinae
 ウグイ Tribolodon hakonensis hakonensis (GUNTHER)
  各河川とも多数棲息する。汽水域のものは次のマルタウグイ(T. taczanows-kii)である
 マルタウグイ Tribolodon taczanowskii (STEINDACHNER)
  吉野川をはじめ各河川の汽水域で採集
 カワムツ Zacco temmincki (TEMM & SCHL)
  各河川淡水域の普通種である。
 オイカワ Zacco platypus (TEMM & SCHL)
  前種同様淡水域に普通の種類である。
 コイ科―コイ亜科 Cyprinida-Cyprininae
 コイ Cyprinus carpio LINNAEUS
  淡水域に広く分布するが数は少ない。
 フナ Carassius sp.
  キンブナ、ギンブナ、ゲンゴロウブナが混棲する様子であるが区別が困難である。
6)ドジョウ科 Cobitidae
 ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus (CANTOR)
  市内いたるところの用水、池に産する。
 シマドジョウ Cobitis biae biae JORDAN & SNYDER
  河床の砂の部分に普通に産する。
7)ナマズ科 Siluridae
 ナマズ Parasilusasotus (LINNAEUS)
  市内いたるところの淡水中に産する。
8)ギギ科 Bagridae
 ハゲギギ Pelteobagrus nudiceps (SAUVAGE)
  各河川とも比較的上流に産する。幼魚は汽水域近くまで下っている。
9)ウナギ科 Anguillidae
 ウナギ Anguillajaponica TEMM & SCHL
  市内いたるところに棲息する。稚魚(シラスウナギ)は主として吉野川、勝浦川に遡上する。
10)メダカ科 Cyprinodontidae
 メダカ Oryzias latipes (TEMM & SCHL)
  極めて普通の種類である。
11)ヨウジウオ科 Syngnathidae
 ヨウジウオ Syngnathus schlegeli KAUP
  吉野川河口附近南岸の舟だまりで採集 稀産
12)サヨリ科 Hemiramphidae
 クルメサヨリ Hemiramphus kurumeus (JORDAN & STARKS)
  鮎喰川春日町附近で採集、比較的稀産徳島市で発見の記録はない。
13)トウゴロイワシ科 Atherinidae
 トウゴロイワシ Atherina bleekerii GUNTHER
  鮎喰川春日町附近で採集、初秋多数遡河する。
14)ボラ科 Mugilidae
 ボラ Mugil cephalus LINNAEUS
  各河川とも汽水域に多産する。
15)タイワンドジョウ科 Channidae
 カムルテー Channa argus (CANTOR)
  飯尾川に特に多い。
16)スズキ科 Serranidae
 スズキ Lateolabrax japonicus (CUVIER & VALENCIENNES)
  各河川とも汽水域および海岸に多産。
17)アジ科 Carangidae
 コバンアジ Trachinothus bailloni (LACEPEDE)
  吉野川河口附近でヒイラギに混って採集、数は少ない。
18)ヒイラギ科 Leiognathidae
 ヒイラギ Leiognathus equulus (FORSKAL)
  汽水域に多産する、特に8月河口附近に稚魚が密集する。
19)マツダイ科 Labotidae
 マツダイ Labotes surinamensis (BLOCH)
  吉野川及勝浦川河口附近で幼魚を採集
20)シマイサギ科 Theraponidae
 シマイサギ Therapon oxyrhynchus TEMM, & SCHL
  鮎喰川春日町附近にて採集
 コトヒキ Therapon sp.
  初秋鮎喰川春日町附近に幼魚が群集する。徳島公園お堀りにも群集するのがみられる。
21)タイ科 Sparidae
 クロダイ Mylio macrocephalus (BASILEWSKY)
  海岸岩礁に棲息、幼魚は吉野川、勝浦川、園瀬川の汽水域に遡上する。
22)キス科 Sillaginidae
 キス Sillago sihama (FORSKAL)
  各河川、川口附近で採集
 アオギス Sillago sp.
  吉野川、川口附近でキスにまじって採集
23)ツバメコノシロ科 Polynemidae
 ツバメコノシロ Polydactylus plebeius (BROUSSONET)
  吉野川、川口より小松海岸にかけて採集
24)マフゲ科 Tetraodontidae
 クサフグ Fugu niphobles (JORDAN & SNYDAR)
  海岸に産するが稚魚は汽水域に遡上する。
25)カジカ科 Cottidae
 カジカ Cottus hilgendorfi (STEINDACHNER & DODERLEIN)
  鮎喰川徳島本線鉄橋附近で採集、他の河川および他の地点での棲息状況は、目下不明である。
26)コチ科 Platycephalide
 ネズミゴチ Platycephalus sp.
  沿岸砂地より汽水域にわたり分布する。
27)ハゼ科 Gobiidae
 トビハゼ Periophthalmus cantonensis (OSBECK)
  吉野川橋附近の洲または岸附近の泥底部に棲息する。勝浦川川口附近で群遊するのもみられる。
 マハゼ Acanthogobius flavimanus (TEMM & SCHL)
  各河川とも極めて普通の種類である。
 ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus (RUTTER)
  鮎喰川淡水域で採集
 ヨシノボリ Rhinogobius brunneus (TEMM & SCHL)
  各河川共淡水域で多数採集体色は河川毎の変異が大きい。
 ウキゴリ Chaenogobius urotaenia (HILGENDORF)
  各河川とも淡水域の下部に多産する。
 ウロハゼ Glossogobius giuris brunnes (TEMM & SCHL)
  吉野川橋附近で採集ゴクラクハゼに似ているが汽水域に広く産出する。
 ビリンゴ Chaenogocius castanea O'SHAUGHNESSY
  勝浦川の勝浦川橋附近で採集。多少同定に疑問があるので再調査したい。
 シマハゼ Tridentiger trigoncephalus (GILL)
  吉野川川口北岸附近で多く採集
 ミミズハゼ Luciogobius guttatus (GILL)
  園瀬川法花大橋下の石の下より採集。稀産種
 ボウズハゼ Sicyopterus japonicus (TANAKA)
  鮎喰川、勝浦川の淡水域より採集数は少ない。
 アシシロハゼ Aboma lactipes (HILGENDORF)
  吉野川附近で採集
 クツワハゼ Gobius ornatus campbelli (JORDAN & SNYDER)
  吉野川川口近くで採集
 カワアナゴ Eleotris oxycephala oxycephala (TEMM & SCHL)
  鮎喰川淡水域で採集
 ドンコ Mogurnda obscura TEMM & SCHL
  各河川とも淡水域に多産する。
28)カレイ科 Pleuronectidae
  属不明の幼魚一種を吉野川河口附近で採集
29)ヒラメ科 Bothidae
  属不明の幼魚一種を吉野川河口附近で採集
30)イソギンポ科 Blenniidae
  属不明の二種を採集(吉野川河口附近)


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