阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第14号
住民の地域意識に関する調査 −主として 、教育意識の場合−

教育社会学班 平木正直

1.調査目的
 この調査は,徳島市に隣接している。小松島市の住民が,小松島市の発展について,どんな意識をもっているかについて,その実態と要因を科学的に明らかにし,とくに小松島市住民の地域意識に焦点をあてることを目的として実施したものである。

2.調査項目
(1)教育意識に関するもの
A こどものしつけに関するもの。
B こどもの将来の進学や職業に関するもの。
C こどもの勉強に関するもの。
D 中学校への進学(地元の中学校へいくか,徳島市内の中学校へいくか)
E 徳島市内の中学校へ進学することについての態度。
(2)ローカルな行動類型に関するもの
 ここでは,地域に特徴的な行動類型とか,地域に制約された行動,あるいは地域社会の連帯性に関係する行動などに注目した項目に分けられる。
A 行動空間(買いものや休日に遊びにいく場所の拡がり)
B 地域的な行事や催しものに関するもの(氏神祭,港まつり,金長大明神のお祭りへの参加)
C 地域内諸集団への参加(青年団,部落会,婦人会などの参加の実態)
D マス・メディアへの接触(中央紙・地方紙の購読,ローカル放送番組の視聴状況)
(3)態度の認知的側面に関するもの
A 県民性、市民性の自覚の有無
B 地域特性の自覚(文化、経済、社会関係の面で自分が住む地域社会はどんな特徴をもって考えているか)
C 範囲の自覚(いかなる範囲を、自分が属する地域社会として意識しているか)
D 伝統的なものの価値変化に関する認知
(4)地域への関心を分析するもの
関心の地域範囲(市―県―国という広がりにおいて、主にどの範囲に関心が向いているか)
(5)態度の情緒的側面に関するもの
A 地域社会へ愛着
B 永住の意志
C 地域への連帯(住民運動への参加)

3.調査期日
昭和42年7月25日〜28日の3日間。

4.調査対象
 小松島中学校区にある6つの小学校6年生の子をもつ家庭全部を対象とする。すなわち,小松島小学校89人,南小松島小学校130人,北小松島小学校77人 千代小学校101人,児安小学校52人,芝田小学校46人,合計495人(すべて,昭和42年7月18日現在)を対象とする。しかしながら,不在の家(3回訪問しても)や,調査予備のものなどを取除くと,有効対象数は405となった。その内訳を示すと,
 小松島小 81人,南小松島小 108人,北小松島小 51人,千代小 80人,児安小 43人,芝田小 42人,合計 405人
の如くになる。

5.調査方法
 専攻科学生および教育社会学受講学生(いずれも徳島大学教育学部)のうち調査に関心をもつ学生とともに,各戸を訪問して(不在の場合は,3回までたずねる),面接調査を実施する。

6.調査結果の分析
 今回の報告では,都合により,教育意識に関するもののみにとどめたい。なお,各小学校区などの比較はさけて,主として全体集計のみによることにしたことをおことわりしておく。
 まず,調査対象についての基本的分析をあげてみると,つぎの通りである。(1)性別
男(110) 女(290) 無答(5)
(2)年齢別
25才以下(16) 26〜35才(86) 36〜45才(206) 46〜55才(47)
56才以上(47) 無答(3)
(3)学歴別
小学校・新制中学校卒(234) 旧制中学・新制高校卒(136)
旧制高専・短大卒以上(22) 無答(13)
(4)世帯主との続柄
世帯主(103) 世帯主の妻(230) 世帯主の親(25) 世帯主の子(22)
世帯主の子の妻(10)世帯主の子の夫(3) 雇傭人(0) その他(6)
無答(6)
(5)本人の職業
農林漁業(55) 事務(35) 販売(33) 技能工(23) サービス業(23)
運輸通信業(3) 保安職(0) 建設業(3) その他(無職・主婦など)(191) 無答(16)
 さて,次に教育意識について検討してみよう。「こどものしつけや指導の面で一番苦労されていること」の問いでは,無答(37.6%)を除いて,応答率の高いものから順位をつけてみると,下記の通りである。
 1.学校での勉強や成績(24.4%)
 2.家での勉強のこと(14.6%)
 3.服装やことばづかい,礼儀作法(8.1%)
 4.進学のこと(3.7%)
 5.テレビやラジオ番組のこと(2.7%)
 6.友人関係のこと(2.2%)
 7.兄弟関係のこと(2.0%)
 8.家での手伝いのこと(1.5%)
 9.学校での学級会やクラフ活動(1.0%),将来の職業のこと(1.0%)
 11.こづかいや金銭のこと(0.7%)
 12.遊びのこと
以上のごとく,現代の世相を反映して,学校や家での勉強の問題が,1,2位を示しているのは,注目に値する。すなわち,約40%のものが,勉強のことで苦労しているということが伺われて,さすがにと,うなづかされる。本来の家庭教育の問題である,礼儀作法,テレビやラジオ,人間関係,こづかい,遊びなどの問題は,たいして苦労されていないように見受けられる。
 「こどもをどこまで進学させるか」の問題では,「高校まで(48.1%)」,「大学(短大)まで(44.0%)」,「中学校まで(4.7%)」,「その他(0.7%)」という順番に応答している。さすがに,農村地域にくらべて,「大学まで」というのが,「高校まで」というのと,伯中して,4割強もあるのは,特筆してよろしい。かつて農村地域,山村地域で,これと同じ項目で調査したものと,比較して,徳島市に近接している地域だということを裏書している。「中学校だけ」というのは,1割にも足らないということは,進学熱の盛んな市だと聞かされていただけのことはあると,感心させられた次第である。
 「こどもの勉強は誰が指導しているか」については,常識通り,「お母さん」が1位(22.7%)で,以下「その他(塾)(18.5%)」,「兄や姉(10.3%)」,「お父さん(10.1%)」,「家庭教師(1.5%)」と続いている。とにかく,塾や家庭教師に2割の人が世話になっていることは,注目すべきであろう。面接調査の余話として,徳島大学付属中学校への進学の専門の塾(少数精鋭主義らしい)の存在がしられたし,これ位の成績(小学校6年女子)なら,付中へ入学できるでしょうか,とわざわざ小生のもとに質問にこられた熱心な母親もあったことを,強調しておきたい。
 このたびの教育意識の調査項目のひとつの中核になっている「中学校はどこへいかせるか」の問題に移りたい。この項目を取りあげたのは,かねがね小松島市では,中学校に入学するとき,地元の公立中学校に行かないで,徳島大学付属中学校や,徳島市内の公立中学校(徳島中学校,富田中学校など)に,進学する人がかなりの数にのぼっている,と聞かされていたからである。はたして,調査結果はそれを裏づけているだろうか。調査結果をあげると,比率の上では,「小松島中学校(84.7%),「徳大付中(9.4%)」,「その他(2.5%)」「徳島市内の中学校(2.0%)」の順位になっている。約1割近くの人が付中へ進学を希望していることが分る。交通が便利であるため,地域性にこだわらない付中へいくのはいいとしても,成績上位のものが多く抜けることについては地元の中学校を健全に育成するためには,マイナスの要因として働いていることはいなめない事実である。付中へ進学できなかった人が,徳島市内の中学校へ越境入学するにいたっては,まったく教育のひずみのあらわれとしか受けとれない。徳島市内の高校への進学を夢みる父兄にとって,一足先に徳島市の中学技へ入っていることは,受験の雰囲気になれさせようという親心は分らぬわけではないが,やはり問題だといわざるを得ない。
 最後に,「市外の中学校へいくことについて」の考えをただしてみたところ次のような結果になっている。すなわち,「よいことだと思う」が21.0%,「わるいことだと思う」が24.9%,「仕方がないことだと思う」が29.1%,「仕方がないことだと思う」が20.7%,「わからない」が20.7%の結果を示している。4つの選択肢がそれぞれ仲良く並んでいるわけである。さすがに「よいことだと思う」は,順位としては,トップにならないで,3位になっているとはいうものの,たしかに少しでも徳島市内のいい高校へ進学したいという親の願いのあらわれであろう。地元に2つの高校をもっている小松島市としては,教育という立場からは,地元高校の育成の問題とからんで,大きな教育問題といって過言ではなかろう。
(付記)
 この他の項目については,別の所で一部発表したし,またの機会に検討させて頂くことについては重ねておわびを申しのべたい。


徳島県立図書館