阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第14号
小松島市の植物

博物班(植物) 阿部近一

1.植生概要
 小松島市は紀伊水道に面し,和田鼻と根井鼻によって小松島港を囲み,後を取巻く低山との間に金磯新田や坂野大林新田・立江新田などを展開している。気候は極めて温暖で,年間平均気温は15°〜16℃で,植物の生育には好適しているが,その大部分は広大な水田地帯となり,低山地はほとんど果樹園などに開拓せられているので,自然の植生は全く見られない。しかし水田地帯には縦横に流れる小流や水溝があり水生植物が多い。
(1)海岸地帯の植物
 和田島や横須金磯の海岸には防風林として発達した松原があり,その外側の砂浜にはハマエンドウ・ハマヒルガオ・ハマニガナ・ハマアザミ・ハマボウフウ・コウボウシバ・ハマツメクサ・ハマウド・ハマゼリ・ハマスゲ・ケカモノハシ・ハマウド・ハマゼリ・ハマスゲ・ケカモノハシ・マルバアカザ・オカヒジキ・ツルナ・ビロウドテンツキ・ハタガヤ・タチニワヤナギ・ギョウギシバ・ハマゴウ・ハイメドハギなどの耐塩性植物が多く,根井鼻など最前線の傾斜地や崖地あるいは岩礁の露出している所にはクロマツ・ウバメガシ・マサキ・トベラ・ヒサカキ・ヤブツバキなどの木本の外ツワブキ・オニヤブソテツ・ヒトツバ・カジイチゴ・フジナデシコ・アゼトウナ・ハマボツス・ビロウドタツナミ・オノマンネングサなどの草本が見られ和田鼻の一角にダンチクの叢生するのは珍しい。
(2)内陸山地山足の植物
 内陸の山地や山足にはクロマツやアカマツ林がよく発達し,シイ・カシの類やタブ・カゴノキ・シロダモ・ヤブニツケイなどのクス類の外ヤブツバキ・ネズミモチ・ヤマモモ・カンコノキ・ミミズバイ・モチノキ・クロガネモチ・カクレミノ・ヒメユヅリハ・ホルトノキ・マサキ・ゴンズイ・マルバアオダモ・イヌビワ・ヒサカキ・モチツツジ・シャシャンポ・カマツカ・ヤダケ・ネザサなどの木本やススキ・シロヨメナ・リュウノウギク・ヤマカモジグサ・ヤマジソ・アキカラマツ・アキノキリンソウ・アキノタムラソウ・キンミズヒキ・ミズヒキグサ・ツリガネニンジン・キジムシロ・イシカグマ・ホシダ・ヌリトラノオ・シシラン・コバノカナワラビ・ウラジロ・コシダなどの草本が多い。
(3)水流・水溝・池・湿地の植物
 小流沿いにはカワヤナギ・アカメヤナギ・ジャヤナギなどがわずかに見られる外マコモ・ヨシ・オギなどの群生が目立ち,また滞水域では浮水植物のホテイアオイが水面を一面に蔽い,小流中にはヒメコウホネ・ミクリ・セキショウモ・ササバモの沈水葉が流れのままにその葉をゆるがせている。その外カモノハシ・アゼガヤ・クサヨシ・サヤヌカグサ・ヒロハノドジョウツナギ・ミノゴメ・チゴザサ・ヤマイ・ヒデリコ・カサスゲ・ヒメクグ・スカシタゴボウ・ハンゲショウ・ヌマトラノオ・シロバナ・ハクラタデ・スイラン・タウコギ・ヤノネグサ・クサネム・ミソハギ・アイバソウ・ミズユキノシタ・アゼムシロ・ホシクサ類・ヒメオトギリなどの水辺湿地植物が多く,金磯附近では埋立地跡にウラギクがわずかに余命をつないでいる。また挺水性のカンガレイ・クログワイ・ウキヤガラ・ミクリ・コウホネ・コガマ・ショウブなどや浮葉性や浮游性のヒシ・ヒメビシ・ヒメコウホネ・テンジソウ・ヒルムシロ・ウキクサ・アオウキクサ・アカウキクサ・サンショウモ・ドチカガミの外沈水性のミズオオバコ・クロモ・マツモ・ホザキノフサモ・エビモ・ヒロハノエビモ・カワツルモ・ヤナギモ・ウリカワ・トリゲモなども多い。
(4)帰化植物
 帰化植物は外来植物で栽培種の逸出したものもあるが,人畜や事物に附着して知らず知らずのうちに移入せられて野生化したものが少くない。したがって港湾の船着場がその渡来源となる場合が多く,本県の帰化植物なども戦前戦後を通じて小松島を基点とするものが少くない。それらは一時その基点附近で仮着し,その気候風土に適合するとコマツヨイグサやオオオナモミ・コニシキソウ・ホソバチチコグサモドキのように,次第にあるいは急激にその分布を拡げるものがあり,またカキネガラシ・マツバゼリ・シナガワハギのように,いつのまにか消滅してしまうものも少くない。
 今日の小松島港附近はほとんとがコンクリートで埋められ,また道路の舗装などで植物の生育条件はいちじるしくはばまれている。したがってすでに消滅したものもあるが,それらを含めその帰化状況を挙げると,ィヌカミツレ・ホウキギク・オオホウキギク・アメリカセンダングサ・コセンダングサ・アレチノギク・ヒメムカシヨモギ・オオアレチノギク・チチコグサモドキ・ホソバチチコグサモドキ・オオオナモミ・オオイヌノフグリ・タチイヌノフグリ・マツバゼリ・コマツヨイグサ・アレチマツヨイグサ・コニシキソウ・ウマゴヤシ・コメツブウマゴヤシ・シナガワハギ・シロツメクサ・マメグンパイナズナ・カキネガラシ・ハタザオガラシ・ツルノゲイトウ・ハリビユ・ホソアオゲイトウ・イヌビユ・ホナガイヌビユ・ケアリタソウ・アレチギシギシ・ヒメスイバ・ヒメコバンソウ・コメヒシバ・ナギナタガヤ・ホソムギ・ネズミムギ・イヌムギ・ドクムギ・スズメガヤ・イヌホウズキ・マルバアサガオ・クルマバザクロソウ・ニワゼキショウ・オニノゲシなどその数は多い。
 また,海岸地帯ではダンドホロギク・ベニバナホロギク・ケナシヒメムカシヨモギ・コマツヨイグサ・ナギナタガヤ・アレチマツヨイグサなどの外タチフタバムグラなどのものすごい繁殖があり,金磯の水門口や田浦町山麓のショウジョウ池・日開野の菖蒲池などにはホテイアオイが大繁茂して所ならぬ異色の様相を呈している。

 2.特記すべき植物
(1)Ficus wightiana Wall. アコウ
 小松島金磯弁天の海に面した裏山に自生し,古くから唐木あるいは榕の木として知られている。榕の木はガジュマルのことで,疎球・台湾に自生し日本内地にはないが,それに似て気根を下すのでよく誤称せられる。
 明治29年7月東京帝大の白井光太郎博士は,四国地方植物採集の途次剣山を案内した人足の話によってこれを調査し,「阿波小松島の唐木」という一項を設けて四国各地の分布と比較しその最北限に当ることを報告している(植物学雑誌 第11巻P. 163, 1897)
 昭和28年1月北限植物として県の天然記念物に指定せられている。当時は数本自生し,その生育もよかったが,その後何らの管理が行なわれず,遊人の荒らすに任しているので,すでに枯死したものもあり,今日ではわずか4株が気息えんえんとしているのは惜しい。
(2)Prunus zippeliana Mig. バクチノキ
 恩山寺の山門近くにあり,昭和29年1月恩山寺のビランジュとして県指定の天然記念物になっている。ビランジュは仏教徒がインドの毘蘭樹に当てたもので,もとより同一物ではない。常緑のサクラの仲間で秋花を開く。暖地にまれに自生し,県内では牟岐町・日和佐町・阿南市・徳島市城山・石井町童学寺峠・山川町船戸・穴吹町などに見られ,県南のものは葉の裏に毛のあるものが多い。
(3)Liquidambar formosana Hance フウ
 立江町櫛渕八幡神社にあり,昭和29年1月県の天然記念物に指定せられている。マンサク科のもので漢名楓をそのまま和名としている。中国や台湾に原産し,県内には徳島市不動町に植栽せられる外珍しく紅葉が美しい。これに似て葉がカエデ状に分裂するアメリカフウは立江小学校にあり,また最近徳島本町や昭和町などに街路樹として多く植えられている。
(4)Myrica rubura Sieb. et Zucc. ヤマモモ
 昭和41年県の木に指定せられた常緑の喬木で,県内には県南地方の外吉野川筋の低山地に広く分布する。実に風味があり,樹皮は染料や薬用とせられる外根に根瘤菌がついて肥料木として山地を肥やすので,藩政時代には御帳付木の一つとしてその伐採が禁止せられた。県内では果樹として早くからこれを栽培していたが,立江町櫛渕一帯はその歴史が古く,紅玉や阿波錦などの改良品種を産み,天保年間には住吉兼五郎・喜田辰吉氏などによって接木が行なわれるようになり,阿南市山口などとともに有名なその栽培地となっている。
(5)Pinus thunbergii Parlat. クロマツ
 クロマツは潮風に強いので海岸地帯に多く,その環境によって樹姿樹形にいろいろの生態型をつくる。したがって砂浜のものは,風によってその根が洗われ根上りとなる殊態がある。坂野町のものはかつて国指定の天然記念物となっていたが,戦後一時指定解除となり,昭和34年6月以来再び県の指定を受けている。
 また横須の松原や坂野・和田島一帯のクロマツは,同じ海岸地帯の海南町大里や香川県津田のものとは異った生態型をつくり,いずれも直幹性のものが多い。その高さは20米を越すものがあり,生態型というよりはむしろ形質的な特性とも考えられ,今後用材向として大いに利用すべきではなかろうか。ここにアワクロマツ(阿波黒松)forma elatior と名付けたい。
(6)Symplocos theophrastaefolia Sieb. et Zucc. カンザブロウノキ
 ハイノキ科の小高木で暖亜熱に分布し,県南にまれに見られるが,恩山寺山の林中にわずかに生育する。
(7)Elaeocarpus sylvestris var. ellipticus Hara ホルトノキ
 ホルトノキ科の常緑高木で,県南に生え阿南市大谷の社叢には多く,県の天然記念物に指定せられている。金磯の弁天山に見られる。
(8)Arundo donax Linn. ダンチク
 大形の多年草で,暖地の海岸砂丘に生えてよく暖国気分を象徴する。蒲生田岬以南に多いがそれより北には少なく,和田鼻の突端一帯に生育するのは珍しい。

南国情緒のダンチク

(9)Miscanthus sacchariflorus Benth. オギ
 水辺に生える大形の多年生草本で,ススキに似て芒がなく,白色長毛の果穂が美しいので,古来よく和歌などの詩材とせられる。市内の水湿地に多い。

詩情をそそるオギ

(10)Nuphar subintegerrimum Makino ヒメコウホネ
 コウホネに似て挺水葉がなく水面にその葉を拡げ流水中では水中葉のみとなっている。県内では他にその産地が知られず,中田南部日開野の小流中や山麓のショウジョウ池・あるいは天神池などに極めて多く,細長い花茎を立てて夏黄色の花を水面に開く。

ヒメコウホネ

(11)Sparganium stoloniferum Hamilt. ミクリ
 挺水性の水生植物で,地中に蔔枝を出して繁殖するので多数群生することが多く,流水中では細長い水中葉を流れになびかせることが多い。夏数十種の花茎を立てて花を開き,いが栗状の実をつける。菖蒲池やショウジョウ池等に多い。
(12)Eichhornia crassipes Solms ホテイアオイ
 熱帯アメリカ原産の浮水植物で,大正年間観賞用として移入せられたものが,金磯附近で逸出し,今日では市内各地の滞水地帯で大緊茂している。また鴨島町江川に移されたものは飯尾川などにも拡がっているが,冬季の低温に弱いので繁殖地はやや限られている。膨れた葉柄に丸い光沢のある葉,晩夏から初秋にかけて咲く淡紫色の花は美しく,その群生するさまはたしかに異色の情景といえる。

水面を独占するホテイアオイ

(13)Oenothera lacinata Hill コマツヨイグサ
 北米原産の帰化植物で,戦後小松島に侵入し,今日では和田鼻から徳島市小神子・川内・鳴門市岡崎など各地に拡がって大繁茂している。茎は地上を這い花は小さい。またこの仲間のアレチマツヨイグサは草丈1.5mに達し,戦後侵入して県内各地の河岸や荒廃地に拡がり,山深く剣山夫婦池にも及んでいる。
(14)Emilia sonchifolia DC. ウスベニニガナ
 暖地から亜熱帯に分布する一年草で,花は淡紅色で美しい。県内では海南町大里の外阿南市山口や勝浦町生比奈・小松島市山口などの密柑園一帯にのみわずかに生育するのは珍らしい。
(15)Liparis nervosa Lindl. コクラン
 山地林内に生える蘭科の一種で,偽球は地上性で円柱形となる。大谷の山足林中に生え,極めて大形でユウコクランかと見違えられる。
(16)Lepisorus uchiyamae H. lto コウラボシ
 山足などにまれに生育するシダで,ノキシノブに似て葉がうすく,櫛渕の八幡神社などに見られて珍らしい。


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