阿波学会研究紀要

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第三回郷土研究発表会  
阿部地方の民家 日本建築学会徳島支所 酒巻芳保
〔研究テーマ〕   阿部地方の民家

〔研究者と所属〕 酒巻芳保  日本建築学会徳島支所

〔発表者〕     酒巻芳保

〔要 旨〕

 陸の孤島といわれる阿部地方は、海女と「いたぐき」で有名な漁村である。

 漁村としての阿部地方の民家構成は、狭い露路と密集した家々、極めて小型な間取りと、漁村独特の特色をもっており、一般農村民家や山村等で見られない発達過程が見受けられる。しかも小さな間取りとした理由には

一、 海岸で強風の時が多いので低くて丈夫な平家が多い。

二、 舟での窮屈な生活になれている

三、 虚栄を張らない質朴な気風

 等種々な理由から余り大きな家を●らないばかりでなく、納屋とか蔵等の附属建物を余り持っていない家が多いのも漁村の特色であり、又屋根裏とか家の隅等一寸した空間もよく利用され、整頓されているのも他の地方では余り見られない点である。屋根には古網が張られて強風から保護され、屋敷の周りには石垣を築いて防潮壁としてある。

佐津間沿之氏宅

阿部地方の最も一般的な平面をもつものである。前面横に「オモテ」「ザシキ」「ニワ」と並び、反対側に「オク」「ナイショ」と完全な田の字型平面であるが、各部屋の広さが非常に狭いことに気がつく。

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井上ユキノ氏宅

阿部に於ける最小型平面の一例であるが、上村伊平氏宅や祖谷地方に多く見られる併列型に対して竪型式の平面である。即ち「オク」と「ドマ」の二室から出来て居り、Fナイショ」としての板の間は、使用上の不便から後に改造したものであることは明暸である。

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上村伊平氏宅

井上ユキノ氏宅の堅型式平面に対して、横型式即ち併列型の最小平面である。元は「オモテ」と「カマバ」の併列型であったが、家族の増加と使用上の不便から「カマバ」を「ナイショ」にし、「カマバ」を下家として増築した完全な併列型で祖谷地方等によく見られる平面型である。

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 以上阿部に於て大体最も特徴的な民家三例を挙げたが、これを見ても明瞭なように非常に狭い平面型の民家で構成されている地方であり、魚村民家の特色が伝統的な形式の上に色濃く残されているように思われる。


 



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